日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

岩谷時子作品集 愛の讃歌

2019-03-09 | 

作詞、訳詞を多く手がけ、
私たちが聞いたことがある歌詞の数々が収められた岩谷時子さんの作品集。

装幀・挿画は宇野亞喜良さん。


1000曲以上作詞したという岩谷さんは
普通の感情を歌詞に変え、メロディーに乗せて今もこころに響いてくる。

下は優しいまなざしで書かれた岩谷さんの詞「おちてこい」より


     おちてこい

  星よ おちてこい
  たくさんおちてこい
  おちた星くず かきよせて
  なかにもぐって 寝てみたい
  俺は蛍だ やさしい蛍
  おきたらお腹も 星くずだらけ
  みんな子供に くれてやろ
  泣いてる子供に くれてやろ  
              


ロマンチックさとサイケデリックがミックスした
宇野さんの素敵なイラストが詞集を飾る。 
 


寺山修司の言葉探し 神奈川近代文学館

2018-11-20 | 



今月25日まで神奈川近代文学館で開催中の
「寺山修司展」~ひとりぼっちのあなたに~ で
文学館付近のどこかにレンガに書かれ寺山の言葉が置かれてあるという
ユニークなアイディアがあり、探してみた。


(1) 大工町寺町米町仏町老母買ふ町あらずやつばめよ


(2) 書を捨てよ、町へ出よう


(3)ひとりぼっちのあなたに


(4)時には母のない子のように


(5)マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや


(6) 海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり


(7) 毛皮のマリー


(8)きらめく季節にだれがあの帆を歌ったかつかのまの僕に過ぎてゆく時よ


(9) レミング/ 世界の涯まで連れてって


(10&11) 新しき仏壇買いに行きしまま行方不明のおとうとと鳥


(12) さらば箱舟



1回目の訪問の時は明るい時間だったが(下の2枚)
2回目に行った時はすでに日が暮れかかり、暗がりの撮影で
番号順に歩いてみたものの意外と見つからず
何度も同じ所を行ったり来たりしたが楽しい言葉探しだった。

監修 三浦雅士


『動物詩集 又はオルフェさまの供揃い』 ギョーム・アポリネール

2017-01-12 | 

「ミラボー橋」の詩で有名なフランスの詩人アポリネールが
動物を獣、虫、魚、鳥の4章に分けて収めた詩集。



詩の1篇ずつに画家・ラウル・デュフィの木版画が目に楽しい。
アポリネールが絶賛したさし絵だ。
デュフィは水彩画の透明感が魅力で、装飾的でありながら
現代的な軽やかさを思わせる絵が多い。

この詩集は木版画の力強さが動物の生命力にあふれ
アポリネールの心情と呼応するように生き生きとしている。
詩はどれも数行で、動物の特徴にアポリネール自身の心情が巧みに織り込まれている。
そしてユーモアも。

        蛸
   天空めがけて墨を吐き
   愛する者の血をすすり
   美味い、美味いと舌つづみ、
   この残酷な怪物が
   僕なんだから厭になる。

        猫
   わが家に在って欲しいもの、
   解ってくれる細君と
   散らばる書冊のあいだを縫って
   踏まずに歩く猫一匹、
   命の次に大切な
   四五人ほどの友人たち。  

動物詩集は1911年にパリで限定120部で初版発行された。
その本は、世界中で作られた豪華本の中でも最上の出来と評され
コレクターの憧れの的で、たちまち稀観本の価値にあがったのだという。

本書は訳 堀口大學。求龍堂から1978年に発行されたが、
このダンボールの函入り本は私の好きなシリーズで、
1ページずつを開いていくと、
さし絵とともにゆとりあるスペースが詩の楽しみを味わえる1冊でもある。

静寂 ローデンバック

2014-06-30 | 

 
静寂 それは少し疲れた消え残る声

わが静寂の貴婦人は

いとも優しく歩を運び

鏡の内に 

その顔容(かんばせの)白百合を摘む

病の癒える兆(きざし)は見えて

遥か彼方に目をやれば

木々 行人 橋のいくつか ひと筋の川

その水面を行く 光る大きな雲の群れ

                             ローデンバック詩集「静寂」より抜粋
                             訳 村松定史
 フェルナン・クノップフの彫刻「若いイギリス女性の顔」(1891年)


詩集 『堀口大學』

2013-12-21 | 

1daigaku

 

詩人・堀口大學の詩と彼が翻訳したフランス詩が収録された本で
画家・小林ドンゲの挿絵が11枚入った詩集。

堀口の翻訳で日本にフランス詩が広く知られることになった功績は多大で
『月下の一群』は多くの人々がフランス詩に親しむきっかけともなった。
10代の頃、まだ見ぬフランスの風景や季節を想像出来たのも
『月下の一群』からだった。

そして小林ドンゲが詩に添えた絵は退廃的幽玄を漂わせ
詩と共鳴し合い、言葉の影からその輪郭を引き出すかのようだ。
カバーの函と表紙の絵は同じでタイトルは「青い蝶」



2daigaku

3daigaku

小林ドンゲは美術大学を卒業後、駒井哲郎と関野準一郎の「銅版画研究所」で銅版画を学んだ。
そのアトリエには浜田陽三、浜口知明や加納光於、野中ユリも学んでいた。
三千年に一度咲くという優曇華(うどんげ)はインドに咲き
仏教の想像上の花とされるが、実際は無花果(いちじく)の類だという。
神秘的な花の名を持つドンゲの絵も神秘の心から妖艶な線が引かれているのだと思う。

 






堀口大學 「時間の川」 より

          僕の心の飾り物

          僕の命の削り屑

          僕の手足に咲いた花

          詩(うた)という名のナルシスが

          姿うつして見とれてた

          流れる鏡 川の水

          かえらぬ時がなつかしい

          僕もいつしか老いてきた

                   涙もろさの目がうるむ

                 昭和50年(1975) ほるぷ出版 発行


ランボー 心の渇きと放浪と 

2013-11-26 | 

                            

食いたいものはあるにはあるが
土だの石が食いたいのだ。
毎朝、僕が食うものは
空気だ、岩だ、鉄、石炭だ。

踊れ、わが飢餓、、草食え、飢餓よ、
     音の牧場だ。
昼顔の
     陽気な毒でもなめろ。

砕いてもらって小石を食べろ
御堂の古い石材も
古い洪水(でみず)の玉石も
灰色の谷間にころがるパンまで食べろ!

            堀口大學 訳 (抜粋)


叩きつけるような言葉を連ねたランボーの詩。
青春期にある鬱屈した心はランボーの全身にめぐっていた。しかし又青春は揺れ動く。
ランボーは時に夢想にさそう詩もあるからだ。

この詩は「最後の塔の歌」にあるが、小林秀雄訳と趣が異なるが
堀口訳ではまるで自分を嘲笑しているようでもあり、
ある物へのやり場のない怒りのようでもある。
この詩に関しては堀口訳のほうがランボーらしさを感じた。
この後、ランボーは「太陽と番った海」に永遠を探し出す。
異質のものが一致した永遠を。


こだちの中 尾崎翠

2013-06-09 | 

                              
       こだちの中

 木だちの中

みどりはすこやかに生ひ立ち

しづかにさゝやく

やゝ愁ひたる心浸しつゝ

強き葉の呼吸よ

鐘もひゞくか

あゝ安らかに鐘もひゞくか

清くすみたる夕べの空気に

流れ入る鐘とこゝろ

木立の中

あゝ

みどりはすこやかに生ひ立つ


四月のノスタルジア 御木白日

2013-04-23 | 

                                     

      四月のノスタルジア

  美しい四月にふさわしく
  黄の花粉をけちらして
  澄明な海へと
  わたしの
  フレッシュな夢がはばたきはじめる

  敬虔な期待におののきながら
  颯爽とえがく
  大洋の海図の
  ペン先におどる
  未来の塑像(そぞう)
  純白の帆にあやつられる
  季節のうねり

  掌(たなそこ)をすべるノスタルジアはスイー
      トピーよりもあまく
  わたしは絹のようにすきとおった
  感情を手繰りながら
  人生への
  はげしい努力を反芻するでしょう

                   
           詩集『愛 限りなく』から「四月のノスタルジア」より抜粋


夜の組曲 山下正次

2013-02-04 | 


あの暗い空の

深みから浮き出た

うす青い形象文字を

見落としてはならない

それには

時間と距離の歴史が

綴られているのである

            山下正次 「夜の組曲」 プレリュードより抜粋




歌舞伎の市川団十郎さんが夭折した。
あのダイナミックな舞台は永い時間をかけて全身に修めた芸だ。
昨年の中村勘三郎さんと同じように
天国へ行ってしまうにはあまりに早い年齢なのに。
団十郎さんの染み入るような優しさと
圧倒的な舞台姿を
4月にオープンする歌舞伎座も待っていたと思う。


今日 ジャック・プレヴェール

2012-11-20 | 

                        
フランスの詩人であり映画のシナリオ作家でもあったジャック・プレヴェール(1900~1977年)の詩に
同じくフランスの詩人であったロベール・デスノスを偲んだ感動的な詩がある。

              今日

今日 ぼくは親友と散歩した その親友が死んでいたとしても
ぼくは散歩した 親友
       1936年 覚醒状態の ロベール・デスノスとともに

             (略)

ぼくは散歩した ロベール・デスノスと
そうだよ ぼくは彼と散歩した

ナチスの手にかかり、志半ばで逝ったフランスのシュルレアリスム詩人ロベール・デスノスを
偲んでプレヴェールが書いた詩。

詩の中でデスノスの声、まなざしを語り
また今もそうであるかのようにユキとの結婚式への出席を回顧している。

ロベール・デスノスという詩人を知ったのは、ヒヤシンスの花を
ランプに例えた詩があると聞いた時であった。調べたが未だにその詩に出合えてはいない。
しかし彼の詩集を読み、わずかな情報から得たその生涯に
誠実な詩人として心に深く刻み込まれた詩人になった。


蒼いねむり 和田光生

2012-06-29 | 

 

Buleimage 
     わたし……歩いています。

     わたし……泳げないんです。

     だから……歩いているんです。

     そこは……よく見る夢の海だから、

     決して、迷うことがないのです。

                 和田光生 「蒼いねむり」より抜粋


風が吹く 安永稔一

2012-05-06 | 

Kaze
風が吹く。
こちらからあちらへ
ゆっくりと。
 
 だがこの風は。
 それにこちらとは。
 またあちらとは。

  ゆっくりと
  風に流される
  匂いのない花粉。

風が吹く。
こちらからあちらへ
ゆっくりと。

 それでこちらにあるのか。
 それともあちらにあるのか。
 ぼくの生きて愛する世界は。

  ゆっくりと
  風からこぼれる
  声のない言葉。

               安永稔一(やすながとしかず) 『歌のように』 蜘蛛出版社より 


時には決断しかねる時がある。決めたほうが良い時と決めないほうが良い時と。
自分の中でバランスを保っていくのは難しい。
居心地の良い場所を求め、探し続ける人間は時にいとおしい。

今日でゴールデンウィークが終わった。
めずらしく不順な天候だったけれど5月の明るさがみなぎる休日は新緑がまぶしかった。


蝶を追う少年の話 竹内健

2012-04-17 | 

Papillon


少年の瞳だけは、疲れることなく何かを見つづけていた。

少年が見ているものとは満天に輝く星たちだった。

まるで‥‥まるで蝶々が夜空をいっぱいおおっているようだ、と少年は思った。

いや、もしかしたら、本当にあれは蝶かも知れない!

                「世界でいちばん残酷な話」 望郷の歌より

少年は校庭で弱っている黄蝶を見かけた。
蝶は墓場へと死出の旅に飛んでいく。その蝶が果てるまで追って行く少年。
蝶への切ない愛を描いた小品。


冬、brilliant な時

2012-01-16 | 

 
     青いソフトに

青いソフト帽に降る雪は

過ぎしその手か、ささやきか、

酒か、薄荷か、いつのまに

消ゆる涙か、なつかしや。

            北原白秋





     雪くる前

わが君とわかれて歩めば

あらはるとなく

消ゆるとなく

ふりつむ我が手の雪を

ああ 君は掻く

            室生犀星


     天上に宴ありとや雪やまず   上村占魚
     雪片の高きより地に殺到す   山口誓子


雪が見慣れた風景を変える。天からの使者は美しいが儚い。
心に深くしみてくる雪は詩人・歌人の心象風景として描かれてきた。
それは感傷や思い出であったり、自然への讃歌であったり。


アリアドネ 村松英子

2011-10-04 | 

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               アリアドネ

          あなたの眼は何をみていたのか

          無邪気に信託をのべながら

          憎悪にみちていたあなたの眼は


          あなたの心には何がさまよっていたのか

          美しい迷路の その奥深く

          半神半獣が棲んでいたあなたの心に


          あなたのからだには何が宿っていたのか

          凛々しい若者へのひたむきな愛か

          ディオニソスのおしえた狂操道の逸楽か


          アリアドネ アリアドネ

                     村松英子 「アリアドネ」より抜粋
 


アリアドネはギリシャ神話のクレーテー王とその妃パシファエとの間に生まれた。
ミノタウロスの犠牲としてクレタに来たテーセウスに彼女はひとめで恋をした。
彼がミノタウロスを退治するため迷宮に入る時に赤い糸玉を用いて彼を救出する。
そして一緒に結ばれる約束をする。しかしテーセウスはアリアドネを置いて他の島へ行ってしまった。
嘆くアリアドネを妻にしたのは酒神ディオニソス。(ローマ神話ではバッカス)
アリアドネの頭上に輝く冠をディオニソスが高くかかげると
空に座す星、かんむり座になったという。