日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

「海神別荘」 7月歌舞伎座

2009-07-25 | 泉鏡花

           

坂東玉三郎の美女、市川海老蔵の公子による「海神別荘」
天野喜孝の美術で海底の宮殿・琅�釦殿(ろうかんでん)は珊瑚の宮殿である。
多くの財宝と引きかえに父は娘の美女を波に沈めた。                   

海底の魔界に輿入れした美女は、黒騎士団に護られて水中を進んでゆく。7gatukabukihiru

  <私の身体はさかさまに落ちて落ちて沈んでいるのでしょうか>

白いコスチューム姿の玉三郎は水中でまばゆいばかりに美しい。
水が揺らぐハープの音色、揺れる光。
すべてが水の中でゆらめいている幻想に誘われる忘れがたい場面である。

宮殿に着いた美女は公子が支配する魔界に慣れることが出来ず人間の未練を残している。
自分が無事であることを故郷に知らせたいと公子に願い出るが公子はそれを認めない。
泉鏡花は、ここで公子の台詞を借りて「己の存在の意味」を持たせている。
自分が在る、それが存在する意義であると。

蛇身となった美女は故郷に落 胆して海底に戻るが、悲しみの極地の果て、
公子の高潔な精神に自分が殺められる幸福にたどりつく。
この作品は鏡花の美しい言葉が随所にちりばめられていながら
清冽な魔界と邪悪な人間界の対峙がくっきりと描かれている。

公子の純粋さ、高潔さを美女が理解したことによって二人は心が一つになり結ばれる。
剣を手に玉三郎と海老蔵が向かい合う姿は気品に満ち、
別世界に存在する清らなる鏡花のふたりである。

海老蔵は姿が美しい。しかし好青年ふうな言い方が一本調子に聞こえてしまう海神であった。
水の揺らぎに響くことを思えば納得できる表現ともいえるかも知れないが。
玉三郎は自分の存在の不安におののくような心の内部を繊細に演じる。
幻想世界に生ける財産ともいえる存在であり、完成された演技を水の魔界で見ることが出来た。


グラメリア

2009-07-21 | Flower

Gurameria
グラジオラスの花1輪を分け、ワイヤーで花びらを重ねて
大きな1輪にすることをグラメリアという。
薔薇はローズメリア、百合はリリメリアという。

写真は全開のグラジオラスを8輪使用した大きめのコサージュ。
下部はカーブをつけてレモンリーフの葉が胸の中央にくるように作成。                                

グラジオラスはアヤメ科 南アフリカ原産


虹の彼方に

2009-07-19 | まち歩き

にわか雨が止み、晴れた空に虹が架かった。
太陽が空気に含まれる水分に当たりプリズムの作用を果たして作られる虹。
大空のアーチは見上げた人の胸にひととき七色の詩情を描いた。

     

    虹の向こう そこはいつも青空
   そこではどんな夢もかなう 
   星に願いをかけ 
   目を覚ますと雲がずっと下に
   そこでは心配ごとは
     ドロップのように溶けてしまう    
                                               「オズの魔法使い」より抜粋 Over the rainbow

  Yuyake         


虹が消えたあと黄金色の美しい夕焼け空になった。
様々に変化する雲は、鷲が翼を広げたようなすがたを形づくり
大空に壮大なドラマを展開していた。


フィリカ

2009-07-16 | Flower

Phylica
全体をうぶ毛で被われているような花

Phlica(フィリカ)

決して目立つ花ではないが華麗さとは別の生息地で

熱い空気に花開いている姿が浮かぶ。

南アフリカ原産 開花期7月~10月

花言葉◆明るさ


「天守物語」 坂東玉三郎

2009-07-12 | 泉鏡花

        ここはどこの細道じゃ 細道じゃ                                                                                                    女童(めのわらわ)の歌が茜の空に流れる。歌舞伎座が泉鏡花の魔界に転じる瞬間である。
鏡花が描く愛は試練を超えなければ得ることはできない。
玉三郎は極限の美と哀しみを、市川海老蔵はひとすじの純粋さを演じる。

Tensyu_k 播州姫路・白鷺城の天守閣には美しい魔性の富姫が住む。
猪苗代から妹の亀姫が鞠つきをするために天を駆けて会いに来た。
 姉妹の絆は花びらがこぼれるように美しい。
亀姫の土産は猪苗代城主の首であった。
亀姫へのお礼に富姫は姫路城主が大切にしている白鷹を亀姫に贈る。

そこへ白鷹がいなくなった咎によって若き鷹匠・姫川図書之助が
天守閣を見届ける命を受けてやってきた。
富姫は図書之助の言葉から潔さと清らかな心を見てとり図書之助を帰してあげる。
その帰り、大入道に雪洞(ぼんぼり)の灯りを消された図書之助は、火を乞いに再び戻ってくる。
天守閣へ来た証として富姫は姫路城主の兜を与えるが、この兜のために賊と疑われ
三度天守閣へ戻ることになった。
図書之助の勇ましさ、清々しさに心惹かれた富姫は彼をかくまう。                                      

しかし追手に異界の象徴である獅子の目を射抜かれ、
二人は視力を失ってしまった。愛する人の姿を見ることができない。
<千歳百歳(ちとせももとせ)にただ一度、たった一度の恋だのに>
二人の悲しみは深い。
しかし名工・桃六によって獅子の目は回復し二人は再び光を取り戻した。
幾多の試練は終わり至高の愛によって結ばれる。

魔界と人間界が夢幻的に交錯し、鏡花が示す美と醜は定めがたい心情の綾から生まれるものであることを
玉三郎が気高く演じる。幻想に棲む天守の貴女(きじょ)はひとときの夢を与えてくれる。


サン=ブレーズ=デ=サンプル礼拝堂

2009-07-11 | Jean Cocteau

1959年7月、ジャン・コクトーはミィ・ラ・フォレのサン=ブレーズ=デ=サンプル礼拝堂の装飾を手がけた。
近くにフォンテーヌブローの森が広がる静かなこの町のバイイ館を1947年冬に購入し、
コクトーが没するまで17年間住んだ。
市長から「この町に住んだ証に」と請われ、
コクトーも町に対する感謝としてこのハンセン病療養所付属礼拝堂の仕事に着手した。


Saintblaisetobira 


Saintblaiseneko


礼拝堂の正面扉。外から差し込む光が薬草のシルエットを浮き上がらせる

 

右の写真は子供用に低くしつらえられている。
ネコはそんな子供をみあげるように描かれた。





礼拝堂の庭にはハーブが植えられている。ハンセン病患者のために使う薬草であった。
コクトーはその薬草で内部を埋めた。
シンプルでくっきり描かれた線は天井まで伸び、かつて病に苦しんだ患者たちへの祈りや平和を祈るかのようである。 

Saintblaisemeisyou Saintblaisemado

 

 

小さな窓のステンドグラスや壁にはキンポウゲ、アルニカ、クロッカス、ミントの葉、アポリネールのイヌサフランなどが描かれている







Jeresteavecvous_2
   Je reste avec vous Saintbraisecocteau

 「私はあなたたちと共にいる」

人との絆を大切にしたコクトーの言葉が祭壇正面の床に記されている



「あの礼拝堂は、こうあって欲しいと夢見ていた通りになりました。
そして皆さんが愛情をもって仕事に当たってくれました」    (コクトー)


RUE Jean Coteau (ジャン・コクトー通り)

2009-07-05 | Jean Cocteau

 

Rue_jean_cocteau_2
フランスのセーヌ・エ・オワーズ県にあるMILLY-LA-FORET(ミィ・ラ・フォレ)に
ジャン・コクトー通りがある。
コクトーが住んでいた家から、サン・ブレーズ礼拝堂へと続く道である。
写真はかなり前のものなので、今はもうこの壁もなく建て替えられていることだろう。
「ジャン・コクトー通り」 はフランスに数ヶ所存在し、
作家のコレット通りとつながっている道もある。
M_cocteau

 


 今日はコクトーが誕生した日であり、2009年の今年は彼が生まれてからちょうど120年に当たる。
詩の女神に愛されたコクトーは神秘の迷路を軽やかに縦横無尽に行き来した。

                       L'anniversaire qui est bon dans le ciel!


アスチルベ

2009-07-04 | Flower

Asutirube
小さな花が密集して泡のようにふわふわ見えることから「泡盛草」とも呼ばれる。

季節は確実にめぐり、それぞれの場所であらゆる草花が夏を迎えようとしている。

花言葉◆自由、恋の訪れ
他に使用した花◆あじさい(白)、時計草、ステルンクーゲル


セピアの梔子

2009-07-01 | Flower

Sepiakutinasi
強い芳香を放って咲く梔子(くちなし)は開花から2~3日で茶褐色に枯れてしまう。
華やかな白を誇って咲いただけに痛々しさを感じるが
枯れる1輪ずつの残り香は一瞬で去った栄光の開花を最後まで誇っているかのようだ。

ガーデニアという名の響きも、静かな夕暮れにひときわ白く咲くこの花にふさわしい。
                          

1955年のイギリス映画 「旅情」 でキャサリン・へップバーンが演じたジェインが
失意のうちにベニスを去る時、レナートが思い出の花、くちなしを渡そうと
列車を追いかけてプラットホームを走る感動的なラストシーンがある。

花言葉◆私は幸せ 喜びを運ぶ
他に使用した花◆あじさい(ドライ)