日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

高幡不動尊の紫陽花

2018-06-26 | Flower

自生する山あじさいが見たくて東京都日野市にある高幡不動尊へ出かけた。
先週の21日。雨の翌日だったので紫陽花生き生きとした姿。
斜面に沿って少しずつ上へと歩いて2時間半の散歩だった。


左は「ダンスパーティ」 右は「アナベル(ピンク)」
 


「土佐神楽」



高幡不動尊はあじさいの名前を詳しく書いてあるが
歩いていると私には判然としない種類も多かった。



茂る緑に青のあじさいが幻めいた風景。



階段や坂をゆっくりと。右のあじさいはひときわ濃い青。まるで星が集まったような。
 


小さな手毬のような白のあじさいと、可憐な額あじさい。
 


西洋あじさいも淡い色合いが多く。
 


成長すると白になる前のあじさい。ライム色がきれいだった。




ゆっくり歩いてめぐりあった様々な青の紫陽花。
今が盛りと咲いていたり、もう色も褪せて消えるような青だったり。
雨に濡れた紫陽花は
たわんでいても、量感ある集まり、あるいはひっそりとした1本であっても
いっそう魅力的に咲いていた。


アールデコの美 東京都庭園美術館

2018-06-21 | 近代建築

港区白金台に建つアールデコ様式の館は「旧朝香宮邸」で
朝香宮初代当主である鳩彦王(やすひこおう)が1933年(昭和8)に建てられた宮家。



パリで1925年に開催された「アールデコ博覧会」の影響を受け鳩彦王は
フランスの装飾美術家のアンリ・ラパンを起用して、
ここ白金台にアールデコの館が出現した。

1947年、朝香宮家が皇室を離脱した後は
吉田茂首相の公邸として使用され、その後迎賓館の代わりとなり、
1983年(昭和58)に庭園美術館として一般公開した。

正面玄関のガラスレリーフ
玄関を入るとこの女神像のレリーフが目に入る。ルネ・ラリック作。



大広間に隣接する次室に立つ有名な香水塔。
上の照明部分に香水を施し、その熱で香りがただよったという。
元々は水が流れる仕組みだったとか。



大客室の天井を飾る見事なシャンデリア。ルネ・ラリック作。



大客室と大食堂を仕切る扉のエッチングガラス。マックス・アングラン作。



大食堂



大食堂の照明はザクロとパイナップルのデザイン。ルネ・ラリック作。



家族の住まいになる2階へと続く階段
アールデコの幾何学模様と植物の模様。
 


階段を昇った2階広間に立つ照明
タワーのような立派なこの照明はとても印象的。



殿下居間の壁
壁紙は2014年に復原された。柱の鋳物にも花がデザインされている。



姫宮居間に置かれた椅子
背のべっ甲部分の薔薇はマリー・ローランサン作。



ベランダ
市松模様の床がモダン。庭を見下ろせる開放的な場所。



旧朝香宮邸のベランダ側



皇族離脱後、国の重要な役目を果たしてきた旧朝香宮邸。
宮家の当時の様子はフイルムで見ることが出来た。
時を経ても、アールデコ時代の栄華の面影は変わらずに今もたたずんでいる。

くちなし 物言わぬ花

2018-06-11 | Flower




雨に濡れたくちなしの花。
純白の花びらはまぶしいほどで香りも甘い。
くちなしの語源は諸説あるが
実が熟しても開かないことから「口無し」といわれる。

又、中国では花の香りを重んじ、くちなしは七香のひとつに数えられる。
七香とは
梅、菊、百合、水仙、木犀、梔子(くちなし)、茉莉花(ジャスミン)。

夏になるとどこからともなくただよう香りに気がつくと
足を止めたくなるくちなしの花。


没後50年 藤田嗣治 本のしごと展 目黒区美術館

2018-06-08 | 絵画

目黒区美術館で開催の「本のしごと」展を見てきた。
藤田が1913年(大正2)に渡仏したフランスでは挿絵本の隆盛を極めていた時代だった。
パリ画壇で評価を得て、エコール・ド・パリの代表的画家として活躍した藤田嗣治。

今回はパリと日本で発表した挿絵本など約100冊近い「本のしごと」とその中の挿絵、
そして葉書や絵画、オブジェ、陶器などを展示していた。

澤鑒治(さわけんじ)宛の葉書 1905年6月26日

筆まめだった藤田らしく絵も入れて。


藤田が初めて手掛けた挿絵本『詩数篇』より 1919年

詩の作者はフランス文学者で社会科学者の小牧近江で
鹿島茂著『パリでひとりぼっち』ではパリに留学中の日常が描かれている。


『モンパルナスの芸術家たち』1929年

モンパルナスの人々混じって藤田自身が中央に。
作者はジョルジュ・ミシェル。
日本版は『もんぱるの』と題されて1932年(昭和7)に発行された。


『モンパルナスの夜と憂愁』1929年

作者はルシアン・アレシー。序文も藤田が担当。


『イメージとのたたかい』の表紙見返しに描いたペン画。

作者は劇作家のジャン・ジロドゥー。
藤田とジロドゥーのイメージが美しく重なり、このレイアウトは秀逸とされた作品で
藤田もこの本に愛着を持っていたという。


『魅せられたる河』より 1951年

作者はルネ・エロン・ド・ヴィルフォス
藤田の65歳の誕生日を祝して発行されたという。


ランス大聖堂に藤田が眠ってから50年。
「本のしごと」だけでも膨大な作品を見ることが出来た展覧会だったが
彼が没して50年経った現在も、
こうして日本とフランスの文化を伝えてくれる。
それはともにパリの香りと日本の抒情性に彩られている。

短編集 「咲けよ、美しきばら」 H・E・ベイツ

2018-06-05 | book

イギリスの作家 H・E・ベイツ(ハーバート・アーネスト・ベイツ)という作家がいたことを
この本を手にして初めて知った。
ベイツは1926年に「二人の姉妹」で文壇にデビューし、
その後、戦争小説のシリーズで世界的に知られる作家になったという。

10の短編小説「咲けよ、美しきばら」は
まるで絵画の風景のようにイギリスの田舎に生きる人々を抒情的に描いている。

そしてベイツの目を通して登場する女性たちは
優しく優雅な存在として、
又、どの物語にも人間が持つ素直な感情があり
人間への愛情と理解をもってベイツが描いたイギリスの人々である。

全編の中から印象に残った作品を。

「クリスマス・ソング」
 楽器店で働くクララに、かすかな記憶でクリスマス・ソングが何の曲か
 聞きにきた青年とクララとのわずかな時間に生まれた暖かい心の交流。

「軽騎兵少佐」
 ホテルに宿泊する夫婦が見かける礼儀正しい少佐は、
 後からくる妻を日々待ちわびるがその妻は夫婦の思う期待とは違って…。
 
「水仙色の空」
 主人公を不思議な勘で察知する女性コーラ。
 彼女と農場を持ち、結婚を夢みた青年は
 コーラがふたりのために他の男性からお金の工面をしたことに嫉妬し、殺人を犯してしまう。
 年月を経てコーラを訪ねるが、応対したのはコーラの娘だった。
 彼女に自分の名前も名乗れない主人公。
 幸せを求めながらも狂ってしまった運命の皮肉。
 
「田舎の社交界」
 社交パーティに訪れた友人の姪。霜におおわれたような白さの彼女がその夜を
 楽しむ姿に、新鮮な感動で胸を躍らせる中年紳士のクレヴァリング。
 
「風に舞うもみ殻」
 誰からも愛される妹と畑で働く孤独な姉。妹を訪ねてきた青年に
 自分でも説明のつかない冷淡な態度をしてしまう姉の哀しさ。
 
「咲けよ、美しきばら」
 ボーイフレンドの母親に引き止められて朝方まで帰らない娘を心配し、
 夜露に濡れるばらの茂みに身を隠して帰りを待つ父親の心理。
 
「テルマ」
 ホテルで働くテルマ。森に行くのが好きな彼女は
 顔なじみの男ファーネスと過ごした森の一日が忘れられず、
 数々の男と同じように森で過ごすが、最初の感動を取り戻すことは出来なかった。
 ひとり森で若き日を回想するテルマ。
 それが元で病に倒れた彼女の孤独。

ベイツの読みやすい物語の進行とともに
目に浮かぶような風景と、花の描写が多いことが特徴としてあげられる。 

そして、ここに描かれているのは様々な女性の姿であり
永遠に変わらない人間の感情を再認識させられる物語でもある。
善良で、時には愚かで、
そして悲しく、また愛すべき人間の不滅の姿でもある。

  1967年(昭和42) 音羽書房  (訳) 大津栄一郎