日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

舞台 「ドリアン・グレイの肖像」

2009-08-31 | アート・文化

世田谷パブリックシアターで、山本耕史主演で上演されたオスカー・ワイルド原作による「ドリアン・グレイの肖像」

Driangray イギリスの青年貴族ドリアン・グレイは純粋さと美貌をそなえている。
画家バジルはその美しさをとどめようと心血をそそいで画布に彼を描いた。
バジルから紹介されたヘンリー卿もまたドリアンの美を讃え指輪を渡し、
ドリアンも何のためらいもなく指に通す。
すでに運命の歯車はまわり始めた。         

恋人を自殺に追いやり悪事をかさねてゆくがドリアンの美貌は変わらず青年のままである。
しかしその醜さは地下にある肖像画に少しずつ刻まれていた。
醜い自分の過去を捨てたいとヘンリー卿に指輪を返すがすでに手遅れであった。
邪悪にみちた老いた顔に変わってしまった自分の肖像画をドリアンはナイフで切り刻む。

オスカー・ワイルドといえば退廃美、悪徳の香りのイメージがあるが
舞台は鉄骨が組まれただけの無機質に近く、調度品をクラシックにしているため、そのミスマッチが
逆に見えざる恐怖が隠れているような感覚にとらわれる。
肖像画の変化はバックスクリーンに山本耕史本人の特殊メークで老いた顔が映し出される。
銀の額縁、照明、全編に流れるピアノ伴奏の効果はドラマチックでさえある。

長身の山本耕史は残酷な闇の予兆を感じさせる登場に胸を騒がせる。
ヘンリー卿はドリアンの運命を狂わせた、いわば危険な快楽主義者。 
この人物からもう少しワイルドの悪の香りを味わいたかった。

原作を変えて、恋人だったシビルの弟がドリアンに復讐を果たそうとやって来た阿片窟のシーン。
   <お前の姉さんが死んだのは15年前だろ?おれの顔を見ろよ。>
すでに冷酷になったドリアンが言う台詞は恐ろしい悪の響きである。

 


白狐あやかしの伝説 わたなべまさこ

2009-08-29 | book

江戸時代に歌舞伎で初めて上演されて知られることとなったと言われる「九尾の狐」は
もともと中国の『山海経』という書物から日本に伝来し、妖狐伝として広まった。

九尾の狐は白面金毛(びゃくめんきんもう)、九本の尾を持ち、絶世の美女に姿を変え
時の皇帝に取り入って悪事をはたらき国家転覆を図る。
その妖力は強大であり何千年も生きたといわれる。

Byakkoayakasi
「華陽夫人」天竺編
古代インド、マガタ国の屯天沙朗(じゅんてんしゃら)大王の妃、華陽夫人に
偽りのとがを図り、自分がその座について
息子の班足太子(はんそくたいし)をも誘惑して
親子を対決にまで落とし入れるが大僧正に正体を見破られ天をとび中国へ向かう。


「姐妃(だっき)」 中国編
殷の国、紂王(ちゅうおう)の妃になるが第一夫人の玉縁を落とし入れ、
すでに禁止されている刑で処すよう紂王に強要。
酒池肉林の宮廷と化し、これに嘆いた忠臣・太公望が周の国の武王に救いを求め
周軍に攻め入られて殷は陥落。
ついに正体を表した妖狐は雷鳴とどろく中を日本に向かう。


「玉藻の前(たまものまえ)」 日本編
天平七年、遣唐使船に少女として現れる。泰清という若者と夫婦として暮らすが
宮中に入り鳥羽法皇(とばほうおう)の愛姫となる。
その頃から法皇は病に臥すことが多くなった。 陰陽師・安倍泰親に物の怪であることを見破られ
祈祷に負けた妖狐は栃木県の那須野に逃げ殺生石(せっしょうせき)となって生き延びる。


そして、わたなべまさこのオリジナルを加えて妖狐物語は終わる。
「藻(みずも)よ、お前が本当に妖狐なら…姿をあらわせ! もういちどお前に会いたい」
切ないラストが描かれている。
妖艶な女に化け悪をなす妖狐を書いていくうちに、哀れにも悲しいさがを感じ
救いをもたせたかったと作者は述べている。


『恐るべき子供たち』のための60のデッサン

2009-08-28 | Jean Cocteau

『SOIXANTE DESSIN pour "LES ENFANTS TERRIBLES"』 ジャン・コクトー
 コクトーが『恐るべき子供たち』のイメージからデッサンを描いた画集。
本書は復刻版であるがオリジナルは1935年に限定100部で発売された。  2000年 フランス GRASSET社発行                  

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 Soixante3

 







コクトーの、軽さが魅力のデッサンは
外界から遮断された室内で進行する妖しいドラマに胸が騒ぐような情景をかもしだす。

求龍堂から1995年に発行された『恐るべき子供たち』にはすべてのデッサンが収められた。
グラッセ社から当時のまま復刻されたこの1冊はコクトーのデッサン集として貴重な画集といえる。 


リンデンの木

2009-08-24 | Flower

リンデンの木は別名「西洋菩提樹」とも呼ばれ、ヨーロッパでは街路樹として植えられている。また、神聖な木としても知られる。                                    リンデンはシナノキ科で、釈迦が悟りを開いたとされる菩提樹はクワ科のインド菩提樹でリンデンとは別種である。                                           シューベルトの歌曲「菩提樹」はこの木であり日本には奈良時代に渡来した。

Rinden        菩提樹の下で

     ウエスト・ジャーマニー(西ドイツ)
          イースト・ジャーマニー(東ドイツ)
          たったひとつの国、ひとつの壁
     ヤルタだった
    寒かった
    45年の三者会談
    菩提樹の下で
    アメリカ人は腕を組み
    スターリンはチャーチルの葉巻に火をつけていた
    私が取る君は譲れ
    ヨーロッパは黒海で分断      

                                  イヴ・シモン
                                      「Liaisons」 Unter den Linden より


1963年 ジャン・コクトー絵皿の会

2009-08-22 | Jean Cocteau

Ezaranokai
1963年(昭和37年)、西武から頒布会の商品とし
てジャン・コクトーの絵皿が発売された。
A~Cコースがあり63年の10月から64年の2月までの期間で届けられた。

それぞれの絵皿の裏面にはコクトーの詩句が書かれ
明快に描かれた詩人のデッサンを
リビングに届けたいという趣旨で発売されたようである。


朝 打ち上げられた
深海の藻のように
色褪せていく夢想
     ジャン・コクトー(パンフレットより)


ふたつの悲劇 ジャン・コクトー

2009-08-21 | Jean Cocteau

『Oedipe-Roi(オイディプス王)』と 『Romeo et  Juliette(ロミオとジュリエット)』のコクトー翻案による本。
「オイディプス王」は、ギリシャの三大悲劇詩人・ソポクレスによって書かれた悲劇。
そしてあまりにも有名な「ロミオとジュリエット」はシェイクスピアが1595年頃に書いた恋愛悲劇である。   
1928年 フランス プロン社発行 限定4400部の1400番台 

Oediperomeo 「オイディプス王」
オイディプスはテーバイに向かう途中スフィンクスに謎をかけられ、
それを見事に解いて市民から喝采を受け、テーバイ王となるが
市は飢饉や疫病が蔓延していた。
この災いの原因を予言者にたずねると、先王(父)を殺したのは自分であり、
母を娶って王になった事実を知る。                                                     
母イオカステーは明るみになった真実に耐えられず自害。
オイディプスも罪の深さに苦しみ両目をつぶしてテーバイから放浪の旅に出る。

「ロミオとジュリエット」
14世紀のイタリア・ヴェローナ。モンタギュー家とキャピュレット家は
永年にわたって反目しあっている名家であった。
両家のふたりは運命的な出会いをし、たちまち恋に落ちる。
神父のはからいで密かに結婚式を挙げるが、その直後、抗争で親友マキューシオを殺される事件が起こり、
ロミオは復讐のためティボルトを殺してしまう。
ジュリエットは神父に救いを求め、仮死の薬を使った策を用いるがこの計画がロミオにうまく伝わらず、
ジュリエットが死んだと聞いたロミオは修道院に横たわる彼女のそばで毒を仰いで死んでしまう。
 目覚めたジュリエットは真実を知り短剣でロミオの後を追う。                          

ジャン・コクトーによって「ロミオとジュリエット」は1924年シガール座で、
「オイディプス王」は1937年にアントワーヌ座で舞台化されている。
又、映画「オルフェの遺言」にはオイディプスが放浪の旅に出る場面があり、王の役をジャン・マレーが演じた。


月下美人

2009-08-20 | Flower

Gekkabijin
    
      
      闇となるスサノヲ赤く振り向けば 
           
               荻原久美子 「ジェラルミン ラビア」 より

月下美人は6月~10月にかけて咲く。
強い芳香を放って翌朝には花を閉じてしまうが、闇夜に開花している姿は美しく、
月の下で束の間に咲く一夜の花である。
花言葉◆儚い美、繊細


f 植物園の巣穴 梨木香歩

2009-08-18 | book

確かなものなど何もない。人はいつでもぎりぎり人の形を保っているのである。一寸揺すられれば異形の正体を現す。(本文より)

Fsyokubutuen
ここには多くの植物が繁茂する。それは湿気を含んだ空気となって陰影ある不思議な風景を作り出している。

f 郷に転任してきた園丁の佐田はある日、椋(むく)の木の巣穴に落ちてしまう。
深く落ちたそこは異界であり、異形のものたちとのゆらゆらした交流のうちに
「ふたりの千代」を探し、「過去の意識」を取り戻す道行が始まる。

話のすじは、佐田の意識や夢、体験が現実と夢想のように境界が交錯してはたゆたい、
また水のながれに身をまかせて読むように淡々としている。
しかし描かれているのは死であり、取り返さなければならない自分の過去の意識である。
坊との別れは切ない。
佐田は閉じてきた過去の意識と向き合うことによって家族のやすらぎを得ることができた。

 「f」 というアルファベット
タイトルの f は作者の意図があったか定かではないが f は「1/f(えふぶんのいち)」と言って
「揺らぎ」を意味する。人間の心理にそよ風や小川のせせらぎなどが心地よい効果を与える揺らぎであるとされる。
本書全体に漂う掴みがたい意識と道行はまた「揺らぎ」でもある。


仙台七夕まつり

2009-08-07 | まち歩き

緑あざやかな夏の仙台を彩る七夕まつりが6日から始まった(8日まで)
東北三大祭りのひとつであり、どこまでも続く吹き流しは年に一度の非日常の町に変わる。

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それぞれの企業や各店舗が工夫を凝らした吹き流しは
この日のために総力をあげて製作をしてきた。
竹の葉がついた先端には短冊がつけられ、竿の部分には吹き流しを5本1セットで飾られる。

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竹と和紙の工芸ともいえる伝統美が風にたなびく3日間である。


 





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写真左は
仙台七夕飾りの「七つ飾り」        

吹き流し、巾着、投網、屑篭、折鶴、紙の着物、短冊

 

 

 

 


アラクネが紡ぐレース

2009-08-04 | Flower

Kumonoito
   今日も記憶の糸をめぐらす
   遠いあの日の運命を
   人知れず 夕べと明日の夢をたどらせて

アラクネはギリシャ神話に登場する糸織りの名手。
自分の腕前はアテナにも負けないと大きな自信を持ち、アテナと腕を競うが
アラクネが織った神々の不貞をモチーフにした文様がアテナの怒りにふれ
トリカブトの汁を浴び蜘蛛の姿に変えられた。

蜘蛛の巣は、糸の最初の1本を枝に止め、
周囲をおおまかに張って次に縦糸、そして中心から外側へ横糸をめぐらせて作るという。



また、芥川龍之介『蜘蛛の糸』では
釈迦が地獄にいる墓陀多(かんだた)を助けようと蜘蛛の糸を下ろす。
それは運命がかかっている1本の糸であった。
芥川の流麗な文体が人間のエゴイズムを描いた名作である。

使用した花◆あじさい、クリスマスローズ


詩人の家 ジャン・コクトー

2009-08-02 | Jean Cocteau

Millylaforet
La maison du poete 詩人の家
1947年からコクトーが没する1963年まで住んだミィ・ラ・フォレの写真集。
家の全景や室内、又デッサンや映画のワンシーンの写真にコクトーが 簡単にメモを書いている。
それをドイツ語で解説した本。     1962年 チューリッヒ Arche社発行


 

Milly2photo

ミィ・ラ・フォレのこの家は、ジャン・マレーとともに探した館であったが、仕事上パリから離れるわけにはいかなかったコクトーは主に週末だけ訪れていたという。
しかし喧騒を逃れて過ごしたここはヴィクトリア様式と、エキゾティシズムとがミックスされた混沌とした魅力にあふれ、コクトーの美に対する断片をかいま見ることが出来る。