ピナコテーカ・トレヴィルシリーズの第3集「カルロ・クリヴェッリ画集」
ピナコテーカ・トレヴィルシリーズは第1巻~10巻まで
前期と後期に分かれ、それぞれ5冊ずつ刊行された。
発売されてすぐの1995年秋、青山ブックセンターの棚に5冊並んでいたのを見た時のことは
昨日のように鮮明な記憶で残っている。
表紙の「マグダラのマリア」を見た瞬間に惹きつけられたこの第3集。
マグダラのマリア
謎を秘めているかのような神秘的なまなざしの「マグダラのマリア」。
強調された豊かな髪のうねりが官能的でさえある。
マグラダのマリアはイエス復活の際、足に香油を塗った女性の聖人。
右手に香油の壺を持って描かれることが多い。
(左)聖母子 蝋燭のマリア カメリーノ大聖堂のために制作されたと考えられている母子像。
(中)聖母子 ピチェーノ大聖堂の多翼祭壇画の中央部分に描かれた母子像。
(右)聖ゲオルギウス トルコのシレネの湖に棲む悪なる龍を退治し、民衆をキリスト教に改宗させたといわれる聖人。
そこに光が満ちているかのように明るく、
明確な描写で教会の祭壇に描かれた聖母マリア、幼子のイエス、そして聖人たちの
濃い色彩で緻密に描かれた神の世界。
静謐な気高さがありながら不思議なモダンさを感じさせる。
クリヴェッリは1430年から1435年頃にヴェネツィアに画家の子として誕生した。
1457年に、船乗りの妻を誘惑、監禁したかどで刑を受けた彼は
その後アドリア海に面したマルケ州に移り住んだ。
彼は知られることなく埋もれた画家であったが、
それは片田舎であるマルケ州から出なかったことにより、美術研究の範囲からはずれたためと
「美術家列伝」にとりあげられなかった理由で一流と見なされなかったためであった。
受胎告知
マリアが旧約聖書のイザヤ書を読んでいると、大天使ガブリエルが現れマリアの受胎を知らせる。
マリアの設定は諸説あるが、クリヴェッリは読書の情景で描いた。
白い鳩は精霊で、神の使いの象徴として多くの「受胎告知」に描かれる。
本誌に掲載されている絵は単独の母子像も含まれるが
多くは「多翼祭壇画」の一部で、その一部はヨーロッパやアメリカの美術館に収められている。
ナポレオンの侵略や様々な混乱で板絵は1枚ずつ散ってしまった。
クリヴェッリの絵は散り散りになって美術館に展示される運命になったが、
マルケ州の教会に元のまま飾られていたら
はるか昔の時代にさかのぼって、クリヴェッリの楽園を見ることが出来るだろう。