日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

代官山 旧朝倉家住宅

2010-01-31 | 近代建築

Asakurake
大正ロマンの名残り、旧朝倉家住宅は東急東横線の代官山駅から近いヒルサイドテラス裏にあり、
関東大震災、太平洋戦争の焼失を免れ、今にその姿をとどめる。
大正6年(1917年)朝倉虎治郎によって建設され、平成16年(2004年)に国の重要文化財に指定された。

 

 

 

 

Asakurakeyouma

Asakurakewasitu

 

 

 朝倉邸のほとんどは和室であるが接客のための洋室が一室ある。(右の写真)当時は板張りで、天井は折上格天井(おりあげごうてんじょう)の意匠が凝らされた。

 









AsakurakehusumaAsakurakesyoindukuri


建設当時は、来客など正式な接待をする部屋は書院造りの意匠にするのが習わしだったという。 他に数寄屋風に造られた部屋などもあり大正建築の美が至るところに息づいている。

 

 

2階へあがった場所から庭のほうを見る。 
Wasituitame
Asakurake2kai




右は「板目」で飾った部屋で枝に百舌(もず)が止まっている絵が描かれている。

 

 

 

 

 

庭園は回遊式庭園で斜面を生かし、起伏に富んだ地形に豊かな自然がある。
 朝倉家は個人邸宅であったが、最近まで「渋谷会議所」として実際に使われていた。2006年より渋谷区が管理している。
              

朝倉家は享保・元文年間(1700年代)に渋谷に定住し、明治2年に精米業を営み発展してきた。
虎治郎は東京府議会議長、渋谷区議会議長を歴任した人であり、材木店で働いていた経験からこの邸宅を建てる際に使用する
木材を自分で選んだ。

ファッション地区としてにぎわう代官山の中心地に静かにたたずんでいるが
震災や戦争の騒音を聞いて時の流れを刻んできた旧朝倉家住宅。貴重な遺産である。


レコード 「la voix humaine」 人間の声 

2010-01-27 | Jean Cocteau

1record_voix 2recoed_voix
『la voix humaine』                                                   1929年、ジャン・コクトーがモノローグ芝居のために書いた戯曲で、ドラマを進めるのはひとりの女と相手の男性とをつなぐ電話機だけである。
当時は最新機器だった電話だが、回線は交換手によって話ができた時代。時に混線する会話。恋人との別れに動揺する女性の心は序々に悲劇へと向かう。。

5年間つきあった恋人は、電話で彼女に送った手紙を返してほしいと言ってくる。愛していた恋人は別の女性と結婚する。                                        もう過去となってしまった愛に女は悲しみをこらえて恋人への想いを吐露するが
ついに受話器のコードを首に巻いてしまう。

レコードジャケットは「レコード100選」にも選ばれた名盤。
ドニーズの声は気高く、孤独の中で自らの生を終える絶望が胸を打つ。

ソプラノ:ドニーズ・デュバル
指揮:ジョルジュ・プレートル


グラン・テカール(大胯びらき) 山川 篤 訳

2010-01-22 | book

われわれの人生地図は、その上をただ一本の大きな道が走っているだけの地図ではない。
それは広げるにつれて、新しい小路が、あとから、あとから現れるように巻かれた地図である。われわれは道を選んだつもりでいるのだが、実際は、選んでなんかいやしないのだ。(本文より) 1953年(昭和28年) 近代文庫

Grantekaru
主人公ジャックは、心に描く美の理想から自分は離れているタイプだと思っていた。
エレガンスを持ち合わせながらもジャック自身はまだ自分の位置が確立できないでいる。

下宿先の友人から紹介されたジェルメーヌは、富豪のパトロンを持つ踊子で
その美しさにジャックは恋ごころを抱く。
二人は愛し合うが、彼女は奔放でありジャックの友人ストップウェルに心変わりしてしまった。

悲しみのあまりジャックは自殺を試みるが一命をとりとめ、
目覚めた彼は自分が負った苦い思いをかみしめる。
ジェルメーヌのような女性が存在すること…、そして自分の存在価値…。

「大胯びらき」とはバレエ用語で、開脚して床につく状態をいうが
本書に登場する大胯びらきはジェルメーヌが踊るカンカンのことである。

大人へと目覚める青春の不安定期にうまく調和をとれぬもどかしさ。
そして同時におとずれる投げやりと、いい加減さに身を投じて味わう敗北感には主人公だけの悲しみがある。
それでも広げた地図の小路をどこまでも歩いてゆくのである。


le grand ecart/la voix humaine ジャン・コクトー

2010-01-21 | Jean Cocteau

コクトーの小説 『le grand ecart 大胯びらき』 と、戯曲『la voix humaine 人間の声』 の2作品が収められた洋書。
24枚のコクトーのデッサン入り。
フランス 1957年 club des editeurs発行 限定8000部の4100番台

 La_voix_cocteau                 
グリーンの布張りにピンクの絵を配し、タイトルの白い文字が鮮やかな装丁のコクトー本。
絵のページもピンクと白の工夫がありコクトーのシンプルな線がいきいきと刻まれている。

Le_grand_ecart1

 La_voix_humaineLe_grand_ecart2

 

Le_grand_ecart3

 

 

 

 

 

 


赤坂 White Sacas

2010-01-16 | まち歩き

Ice_skate
 スケートや右に左に影なげて  鈴木花蓑

赤坂サカスは期間限定でスケートリンクを解放している。
無心に滑っている楽しさは見ているほうも楽しさを共有できる。

世界の涯(はて)の涯まで硝子で出来ている。河や海はむろんの事、町も、家も、橋も、街路樹も、森も、山も水晶のように透きとおっている。

スケート靴を穿いた私はそうした風景の中心を一直線に、水平線まで貫いている硝子の舗道をやはり一直線に辷(すべ)って行く……どこまでも……どこまでも……。

     夢野久作 『怪夢』 硝子世界 より


マーガレットの可憐な白さ

2010-01-10 | Flower

Magaretto

 

 

 

 

 




北大西洋に浮かぶカナリア諸島の風に吹かれて誕生したマーガレット。
「真珠」をギリシャ語でマルガリテースといい、そこからマーガレットと呼ばれた。
 カナリア諸島は、古代ローマ時代から幸運諸島と呼ばれている。
次々と花を咲かせるがその白さは幽美でありデンマークの国花にもなっている。
幸運の島からの清楚な花の使者は明治時代に渡来した。

花言葉◆誠実、真実


夢十夜 夏目漱石

2010-01-06 | book

漱石の小品集 『夢十夜』の他に『文鳥』『永日小品』 が収められた1冊。
どの作品も淡々と綴られるが、その行間から垣間見えるのは心の明暗が浮き沈みする漱石の姿である。1986年 岩波文庫

Yumejyuya 『夢十夜』
第一夜の話に咲く真っ白な「百合」
この漢字の二文字に秘められた衝撃的な幻想はただただ美しい。

第三夜は背中の軽さが重みに変わる恐怖の夢物語であり、第六夜は名品の永久性を謎のように、
第八夜はとらえどころのない白日夢のような幻想が描かれている。

『文鳥』
鈴木三重吉に勧められて飼うことになった文鳥への細やかな観察の中に
「菫ほど小さい人」に対するいとおしさが滲む。
「淡雪の精」と感じた漱石が心なぐさめられ、過去の女性と重ねあわせた短くも、ぬくもりある文鳥との日々。

『永日小品』
漱石の意識の作品とも言えるこの小品集は日記を読んでいる感覚を起こさせる。
「元日」のバツの悪さはほほえましくもあり、「火鉢」の寒さは現代の便利性からは遠い明治の気温がある。
英国時代の郷愁に満ちた「霧」「昔」「クレイグ先生」。 
そして漱石が渇望したであろう「暖かい夢」など25篇からなるこの小品集は、どの章からも素直に湧き上がる心情が描かれている。

ペンをさらさらと走らせたような自然な語りではあるが、それは彼の秘密であり告白でもある。
漱石が心で見た日常は人間のすべてに通じる自然な感情をしみじみと描いている。


2010年がスタート

2010-01-01 | メッセージ

10syougatu

         

             

     明けましておめでとうございます



  新しい陽射しに透明な空気がながれる元日。

  今年もどうぞよろしくお願いいたします。




使用した花材◆根引き松、裏白、水引細工2点、紅白の御幣