手毬が、手毬が流れる、流れてくる、拾ってくれ (本文より )
幼い時に母から聞いた手毬唄をもういちど聞きたいと
母への思慕を胸に旅を続け、三浦の秋谷(あきや)にたどり着いた。
そして狂おしいほどの母への憧憬に彩られた鏡花の小説だ。
その途中に寄った茶屋で老婆から聞いた怪異な話で物語は進んでいく。
そこに泊まることになった葉越明と小次郎法師。
魔界への入り口、秋谷邸の黒門。
さながら夢魔の迷宮であり
そこに棲む菖蒲(あやめ)が悪左衛門の取り次ぎによって現れる。
丑月丑日の丑時にゆくえが知れなくなった菖蒲。
葉越の幼なじみでもあり、
最後に悲しみのうちに葉越を救う妖しの女性であった。
手毬の糸がほどけるようにゆるゆると
あるいは絡むようにぎりぎりと
迷宮から迷宮へと複雑に交錯する鏡花文学「草迷宮」。