日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

宮沢賢治が伝えること 世田谷パブリックシアター

2012-05-31 | book

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2011年3月、東日本大震災が破壊した被害は計り知れず
今もその傷跡は消えることなく続いている。

宮沢賢治の誕生は明治29年(1896年)。
甚大な被害により死者2万人にものぼった「明治三陸地震津波」があった年。
そして亡くなったのは昭和8年(1933年)。
岩手・秋田に直下型地震のあった「陸羽地震」の時であった。
東北を襲った悲劇と賢治の生と死。

この朗読会は宮沢賢治のことばを通して「鎮魂と復興への新たな思い」から主催された。
宮沢賢治が自然と一体となりことばで表した悲しみや苦しみ、
喜びを私たちがひととき舞台のイーハトーブで過ごした時間である。

朗読は木村佳乃、山本耕史、段田安則の三人。

マリンバの演奏で幕が開く。さわやかな風、葉ずれの音、水の流れだろうか。
注文の多い料理店、春と修羅、林と思想、よだかの星、稲作挿話、ポラーノの広場、
永訣の朝、雨ニモ負ケズ、そして短歌など・・。

作品によって演じわける三人の朗読は宮沢賢治の鼓動を私たちに伝える。
その声の響きは自然と人の生命感にあふれている。
賢治が岩手の自然に吹き込んだ命である。
そして霧のようにただよう悲しみと孤独。
人間がかかえる途方もないこの宿命をイーハトーブの風とともに宮沢賢治のことばが胸に迫ってくる。
それはきらめく銀河の空から聞こえる復興への静かな願いでもあるかのようだ。

舞台の背景である青いスクリーンに写しだされた宮沢賢治のことば

                      世界がぜんたい幸福にならないうちは
                      個人の幸せはあり得ない


旧横浜居留地48番館 横浜市中区

2012-05-27 | 近代建築

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時の流れが絵画のような美を生み出した壁。
塗料の剥がれも、すり減った煉瓦も歴史を刻んで
今にその姿をとどめている。

横浜港が正式に開港(安政6年/1859年)すると
山下町を中心として外国人居留地に各国の商館や住宅が増えていった。

48番館は、横浜に現存する最も古いレンガの洋風建築と判明し
「モリソン商会」として明治16年(1883年)に建てられ、大正15年まで使われていた。

イギリスの商人J.P.モリソンは日本でお茶やダイナマイトなどの取引をしていた。
この建物は事務所兼住宅として使われていた。


その後、関東大震災により建物が倒壊し、区画整理によって一階の3分の1 が失われながらも
昭和の時代には改修されて外人用住宅として使われてきた。

残された煉瓦の壁はフランス積みの工法で作られたが、現在は周囲を白いモルタルで覆い
壁を保護する形で建てられている。




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時をさかのぼり明治・大正のざわめきがこの壁の向こうにあったことに思いを馳せる。
今と変わらずに人は仕事をし、悩み、笑っていたと思える遠いむかし。




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創建時のものと思われるキーストーンが北側主入り口のアーチに設置されている。
「48 四十八番」 

奇跡的に残ってきたその価値の重要性から、平成13年(2001年)に神奈川県の重要文化財に指定された。

 

 


金環日食

2012-05-21 | 日常

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午前7時33分。

雲がかかった合間に写真を撮った。

この薄曇りのせいなのか、月が重なったからなのか、うっすらと暗くなったあたりが

非日常の風景に感じた。

同じ時刻に皆が見上げる今日の空。

観測眼鏡から感じた特別な朝。


詩集 『レオーヌ』 (洋書) ジャン・コクトー

2012-05-20 | Jean Cocteau

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詩集 『LEONE』 フランス 1945年6月 ガリマール社 限定475部の180番台

1節から120節にわたる長詩「レオーヌ」は夢に現れる女性の名で
眠る僕は夢の中でレオーヌに従い暗黒の世界をさまよう。
レオーヌはギリシャ神話や聖書の中、ブルターニュやポンペイ、
エジプトまで歩き続ける。
そしてパリではルーブル美術館に伝わる魔女・ベルフェゴールにまで変身する。
レオーヌは休まない。
コクトーの作品中の人物、実在の作家たちとも会うのだから。
レオーヌの夢を見ている僕は、別の眠る男性にもなり詩は2重の構造を含んでいる。

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この詩は1942年から1944年にかけて書かれたが時はパリ占領下。
その暗鬱とした影は叫びや嘆きとして言葉を散らしている。
読み進んでいくうちにレオーヌはミューズであることが判明する。
詩人として、また芸術に生きるコクトーにとってミューズは畏れ、加護を願う天の美神であった。
その心情が壮大な生と死のさまよいで描かれている。

この詩集はコンマを廃し「ピリオド」を残す形で仕上げられた。
各節に番号をつけたのはその一節のディテールを浮き彫りにするためだったという。

右の写真はコクトー手書きの『レオーヌ』の原稿

参考図書
「評伝ジャン・コクトー」 筑摩書房 秋山和夫訳
「ジャン・コクトー全集Ⅱ」より「レオーヌ」 東京創元社 小佐井伸二訳
「占領下日記Ⅲ」 秋山和夫訳
「Album COCTEAU」 Henri Veyrier-Tchou社


赤い薔薇 きみの名は

2012-05-12 | Flower

Exciting        エキサイティング。


一輪の中から又いくつものミニ薔薇が咲いている
エキサイティングという名の薔薇。
写真の薔薇はまだ小さいほうだが、花を積み上げたような大輪もあるようだ。

交配によって今までなかった花が次々と登場する。
そして花の原型から離れて、めずらしい品種の花はとても多くなった。
華麗に華麗にと変身をとげて・・。

元の花には楚々とした表情や影があり、吹く風に合う表情がある。
情熱的な花なのだろうけれど何故かさびしさを感じたエキサイティング。

他に使用した花
カルピディウム(サーモン色の薔薇)、利休草、てまり草、フェチダス、クレマチス


風が吹く 安永稔一

2012-05-06 | 

Kaze
風が吹く。
こちらからあちらへ
ゆっくりと。
 
 だがこの風は。
 それにこちらとは。
 またあちらとは。

  ゆっくりと
  風に流される
  匂いのない花粉。

風が吹く。
こちらからあちらへ
ゆっくりと。

 それでこちらにあるのか。
 それともあちらにあるのか。
 ぼくの生きて愛する世界は。

  ゆっくりと
  風からこぼれる
  声のない言葉。

               安永稔一(やすながとしかず) 『歌のように』 蜘蛛出版社より 


時には決断しかねる時がある。決めたほうが良い時と決めないほうが良い時と。
自分の中でバランスを保っていくのは難しい。
居心地の良い場所を求め、探し続ける人間は時にいとおしい。

今日でゴールデンウィークが終わった。
めずらしく不順な天候だったけれど5月の明るさがみなぎる休日は新緑がまぶしかった。


東京タワー 時を経て

2012-05-05 | 日常

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日本の発展を見続けてきた東京タワーは昭和33年(1958)に誕生した。
初めて展望台に行ったのは高層マンションなども見かけた頃だったが、
それでも遠くまで眺望できる高さに感動をおぼえた。
見下ろす下界で、人がそれぞれに生きている不思議を感じたものだった。





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スカイツリーが今月の22日にオープンし、50年以上の役目を終えるが
今後はFMラジオやテレ ビの放送大学の電波は送り続け、
スカイツリーの緊急時には代わって送信するのだという。

今は周囲に高層ビルが立ち並び、東京の夜景はいっそうきれいになった。
でもこの風景から東京タワーがなくなったらビル群だけになり
風景は味気ないものに変わるだろう。

都会の巨大なビル群は日本の豊かさを誇り、発展の目安でもあるけれど
時として底知れない不安を感じさせる。
東京タワーの存在は、見上げた時に時として非日常の夢を現す時がある。
携帯やカメラで今も多くの人があちこちから撮影するのは
巨大なビル群の中にその夢を感じるからかも知れない。

時を経てもなお、東京タワーはその歴史をスカイツリーの未来と平行して
東京の風景を象徴する姿であり続ける。


詩画集 『詩片』 宇野亜喜良 

2012-05-01 | 宇野亜喜良

 

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宇野亜喜良さんが堀口大学訳の
『月下の一群』の詩集から詩を抜粋し、
一篇の詩からことばのかけらを拾うように集められた詩片。
堀口大学の訳詩は宇野さんに感覚の翼をはばたかせたという。




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正方形の造りがおしゃれで右ページに詩、
左ページには宇野さんがことばからイメージされた絵が描かれている。

そして詩人の名前も
ジャン・コクトオ、マリイ・ロオランサン、ギイヨオム・アポリネエルと、
「ー 」を使わずに書かれているのがうれしい。

大切に造られたこの本を開けば、
宇野さんの絵から詩が呼び起こす夢想へと誘われる。