日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

けむり草を生けてみる

2016-06-28 | Flower

初夏になると霞のようにふわふわとしたけむり草が咲き出す。
咲くといっても花は小さく、その茎が少しずつ羽毛をつけて伸び、花が終わり、けむりのような姿になる。
別名はスモークツリー。




使用した花材
ダリア、菊、ピンクレースフラワー、アルストロメリア、けむり草、クレマチス、
ヒューケラ、イタリアンベリー、ユーカリ、


着物文化の一端を知る「谷崎潤一郎文学の着物を見る」展

2016-06-26 | book

女性崇拝作家といえる谷崎潤一郎の小説『細雪』をはじめとして
作品に登場する女性が装う着物を
アンティークの着物から再現した展示会を弥生美術館で見た。



展示は「細雪」から始まり、他に「痴人の愛」「春琴抄」「猫と庄造と二人のをんな」「蓼喰う虫」「秘密」などから
登場する女性の着物を再現している。

「細雪」は旧家・蒔岡家の四姉妹を描いた長編小説だが
この作品は映画や舞台で上演され
着物の華麗さも鑑賞する大きな要素となっていた。

展示は当時をほうふつとさせる着物や帯に、花々や蝶が大きく大胆に描かれ
鮮やかな色彩で仕立てられている。
そして、半衿、帯締め、帯留めなど自由な組み合わせで楽しんでいたことが伺える。
それでいて今見ると、どことなくただよう頽廃の匂い。

「細雪」の中で着物の描写はそう多くはないが
その中から華やかな生活を思わせる印象的な文がある。

    父が全盛時代に染めさせたこの一と揃いは、三人の画家に下絵を描かせた日本三景の三枚重ねで
    一番上は黒地に厳島、二枚目は紅地に松島、三枚目は白地に天の橋立が描いてあるのであった。

ここは長女の鶴子が婚礼の時に着た着物を
四女の妙子が「雪」の舞を披露するために、「天の橋立」着るという設定だが
なんとも贅沢で富裕階層の生活が垣間見える一文である。

耽美で悪魔的な女性は谷崎にとって理想の女神であり
彼を作家として突き動かす原動力であった。
そんな女性の美しさを各作品から抜粋し、谷崎文学を着物によって蘇らせた作品展だった。


写実は何を語る 高島野十郎展

2016-06-24 | 絵画

会期はとうに過ぎてしまったが目黒区美術館で「高島野十郎展」を見た。
没後40年の今年、
近年発見されたものや初公開の作品なども含め、高島野十郎の全貌を紹介する展覧会だった。



「世の画壇と全く無縁になる事が小生の研究と精進です」

この信念を貫き通して
どの美術団体にも属さず、自らの画業に打ち込んだそのストイックさ。
描かれた絵は、そこに存在するものから彼自身が発見したものを
キャンバスに乗せたかのように鋭く、また静かであった。

「けし」


けしは種類によっては毒を含む。
その魔性を秘めているかのように茎はくねり、葉はなまめかしい。
一見、普通の絵のようだが私には美しくも怖い絵に見えて仕方がない。


「からすうり」


枯れた葉に艶を帯びたからすうり。
死せるものと生けるものとのコントラストがくっきりと。


「雨 法隆寺」


数奇な運命をたどった雨の法隆寺を描いた作品。
この絵は、野十郎が所有者の恩に報いるために贈ったものだが盗難に遭い、
その4年後に所有者の家の縁の下から発見された。
修復を経たのち、今度は火災に遭って2度目の憂き目に遭うも
緊張と困難をともなった修復によって作品は今日に残ることが出来た。
雨に濡れる法隆寺の厳粛なたたずまい。


「蝋燭」


「第5章 光と闇」と題された展示室では蝋燭だけの絵が19点飾られていた。
何年か前に蝋燭の絵を初めて見た時、胸にしみるような印象だったが
炎がゆらめき、あたりをほのかに照らしている。
闇の中で光は尊く、また闇は何事かを語るように濃く淡く描かれている。
蝋燭の絵は売ることなく、恩ある人々に贈呈したという。


1890年(明治23)、酒造家に生まれた高島野十郎は東京帝国大学農学部水産学科を首席で卒業。
将来を嘱望されていたが念願とする画業の道へ進んだ。
終生独身を通し、静けさを求めて転居を繰り返しながらも
旅先で見た風景や果物などを描いた絵は
端正であり、自然に対する敬虔な思いが込められているようだった。