日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

超絶技巧 真葛香山展 日本橋三越本店

2016-02-29 | アート・文化

明治時代、「真葛焼」と呼ばれた陶器が世界から絶賛を浴び、
国内外の博覧会で数々の名誉に輝いた超絶技巧のやきものがあった。
その陶磁器師こそ「真葛香山」(本名:宮川香山)(1842~1916)。

今年は初代真葛香山の没後100年にあたり日本橋三越でその作品展があったので見に行った。

京都で代々焼き物を作陶してきた宮川家に生まれた香山は
京都の真葛ヶ原に生まれ、幼い時より父、長造に陶器や磁器の製法を学んだ。
明治4年(1871)、香山により窯を横浜へ移し、世界を牽引する名窯として隆盛をきわめたが
三代目の宮川葛之輔が宮川香山を襲名したのち
1945年の横浜大空襲で工房とともに香山も被災死し、
四代目の智之助の復興もならず、70年間「マクズウェア」として世界に愛された真葛焼は終焉した。

真葛香山という名は、窯が真葛ヶ原にあったことから「真葛」を
そして華頂の宮から「香山」の号を賜ったことに由来するという。

今回の作品は吉兆庵美術館の収集品から鑑賞できるもので
明治の衝撃を今に伝えてくれる。




初代真葛香山
真葛窯変釉蟹彫刻壺花活
   
褐色の器にはりついたワタリガニが横から見るともう一匹隠れているという驚くべき技法。
今にも動き出しそうだが、その生き生きとした表情と技術は超人的といえる。


古清水意真葛窯水差

清水焼の技法を取り入れ、茎と葉の部分が透かしになっており
爛漫と咲く菊の繊細さがさらに全面が透かしのように思わせる水差し。


乾山黒釉意梅之画香炉

黒釉に雪が積もった梅の風景。潔く、しかも優しい冬の香炉。

紫釉盛絵芙蓉二波大花瓶

「一生中之傑作」と伊東陶山をいわしめた花瓶。
波は動き、くだけて流れるその波間たわむれる白い芙蓉の花。

元禄人形置物
  
着物など、ゆるやかな曲線を作るのが難しい技術とされているが
陶器とは思えないやわらかさ。
徳川綱吉の「生類憐れみの令」の時代を表現している作品。

二代目真葛香山
青磁釉睡連ニ翡翠灰器

睡蓮の葉に蕾が置かれ、それを見る鳥の鮮やかさ。

色絵金彩舟形鳳凰盛花器

天に飛翔するような見事な姿。絵巻物を見る思いがした。


三代目真葛香山
白磁極彩色鳳凰置物

すべての羽根のすじが彫られたようなこの立体感。
鳳凰はもちろん架空の鳥だが、この世のものではない優美な姿、格調の高さに息を呑む。

黄釉色染付鳩之画花瓶

器の丸みに遊ぶ鳩が薄黄色の色に淡く描かれている。
いつまでも見ていたかった美しい黄色。

人間の技はここまで出来るのかと畏敬の念を抱かずにいられない作品たち。
大切に保存されてきた貴重な作品から明治の美と技を見ることが出来た。

現在、サントリー美術館でも「没後100年 宮川香山」展を4月17日(日)まで開催している。


白梅 大石内蔵助の平安と翳りのイメージとなって

2016-02-25 | Flower

芥川龍之介の小説『或日の大石内蔵助』に描かれる白梅は
内蔵助の穏やかな心情と、いいようのない寂しさに香る花として描かれている。



物語の冒頭はこうして始まる。

      立てきった障子にはうららかな日の光がさして、嵯峨たる老木の梅の影が、何間かの明るみを、
      右の端から左の端まで画のごとく鮮やかに領している。元浅野内匠頭家来、当時細川家にお預
      かり中の大石内蔵助良雄は、その障子を後ろにして、端然と膝を重ねたまま、さっきから書見
      に余念がない。

雪の討ち入りを果たし、細川家で公儀のご沙汰を待つある日、
内蔵助の心は良心の後ろめたさもなく、
行きつくところまで来た静かな気持ちでいた。
読書をする彼の後ろに梅はまるで絵画のように
大石の平安さとともにそのシルエットを浮かびあがらせている。

しかしその平安な気持ちは、細川家の家臣、堀内伝右衛門と赤穂の義士たちの
話から次第に苦々しいものになっていく。

町で流行り出した討ち入りの真似、心変わりをして脱落した赤穂の仲間への非難、
そして吉良を欺くために遊蕩した大石の見事さへの称賛…。

ここに至るまでの行動が内蔵助の胸によみがえって来る。
脱落した仲間の気持ちはわかり過ぎるほど自然なものであった。

      何故我々を忠義の士とするためには、彼等を人畜生としなければならないのであろう。我々と
      彼等との差は、存外大きなものではない。

遊蕩の時でも討ち入りの忘却の向こうで
三味線の音色、伽羅の匂い、花見の宴にゆらめく明かりとともに
こころを遊ばせたこともあった自分が
忠義のために苦しんだとされる後ろめたさと不快さが広がってくるのだ。


まだ話が続いている中、内蔵助はひとり座をはずし縁側にたたずむ。
やりきれない気持ちで見上げたそこに咲く白い梅。

      冴え返る心の底へしみ透って来る寂しさは、この言いようのない寂しさは、いったいどこから
      来るのであろう。――内蔵助は、青空に象嵌したような、堅く冷たい花を仰ぎながら、いつま
      でもじっとたたずんでいた。

冒頭のうららかに咲く梅と、ラストの寂しさに冷たく映る梅。
大石内蔵助のこころの平安と翳りに梅を重ねあわせた芥川龍之介の短編だが
今はまさに梅の盛り。
ほのかにただよう梅の香りにこの作品を思い出した。


ラナンキュラス シレンテ

2016-02-17 | Flower

白とグリーンのまだら模様のシレンテはラナンキュラスの仲間だが
小さな花びらが沢山重なり合った大輪咲き。(右側の花)
グリーンを組み合わせて。


使用した花材
シレンテ、チューリップ(スーパーパロット)、スイートピー、コルダータ、
フェイジョア、スキミア、青文字。


チョコレートの箱は宇野亜喜良さんのイラスト

2016-02-14 | 宇野亜喜良



銀座の「しぇりークラブ」から発売されているシェリーチョコレート「Bota de Rosa」。
宇野亜喜良さんのイラストが可愛い箱に
ミルクチョコレート(ペドロ・ヒメネス酒)
ホワイトチョコレート(マンサニージャ酒)
ビターチョコレート(オロロソ酒)の3種がセットになっている。
シェリーの香りと薔薇の少女を楽しむバレンタインデー。


銀座ミキモトのウィンドーディスプレイ

2016-02-13 | まち歩き

銀座2丁目にある真珠の「ミキモト」で見たディスプレイでは
繊細なペーパークラフトとプロジェクトマッピングを融合した
「Precious Moments」をテーマに飾っている。


館の外には街灯や馬車があり、窓には2組のカップルの物語がシルエットで動き、
花嫁がブーケトスをしている様子や、皆がダンスを踊っている様子が映される。
そして雪が降り、空には華やかな花火が上がる演出。

このディスプレイは英国のディビー&クリスティンマグワイヤーの2人によるもので
幻想的で夢のある冬の夜が演出されている。



 


松竹梅展 根津美術館

2016-02-10 | アート・文化

~新年を寿ぐ吉祥のデザイン~と題した「松竹梅」展を見に行った。
吉祥はめでたい兆し。
古来より寿ぎの意匠として松を神の依代(よりしろ)とし、
威厳に満ちた姿に聖なるものを、
竹は凛として伸びていく驚異的な姿に不思議な霊性が宿っていると信じられてきた。
そして寒さの中で木を彩る梅にはいのちの再生として喜びの象徴とされてきた。

それぞれが古来より意匠として作られた工芸品の展示。
美と技の吉祥文様を見ることが出来た。


チラシは「小松引図」で、小松引きは正月初めの子(ね)の日に野に出かけ、
小松を引き抜いて長寿を願う平安時代の遊び。
空白の中に父親と幼子をシンプルに描いた冷泉為恭(れいぜいためたか)の絵。

「松鶴図屏風」6曲1双 桃山時代 
雪を被った松の下に端麗な鶴が立ち、祝意を込めた冬の風景。
遠くは霞のようにぼやけ控えめな色調が格調の高さを感じさせる。


染付色絵松竹梅文皿 江戸時代
円形の皿に松竹梅の円を重ねた鍋島の皿。
まわりを毘沙門亀甲で描き、さらにめでたさを加えた器。


展示室2では「華麗なる能装束」展を開催。
「白地青海波扇文縫箔」江戸時代
能は江戸時代に大名の公式行事となったため能装束が発達したという。
金箔で青海波を描いた白地に刺繍された扇面が散った雅な装束。
10点の展示だったが、どの装束もためいきが出るほど見事なものだった。


展示室5は「百椿図」を展示。
新春恒例の百椿図展で、2巻の巻物にとりどりに描かれた椿の数々。
江戸時代に椿の園芸ブームが起こり、その時誕生した百椿図。
その品種も多いが、椿を飾る当時のあしらいが興味深かった。
花器はもちろん、高台、籠、和紙や扇の上に、また文に添え、鼓にあしらい、といったふうに。



季節の移りとともに人が自然を共にし、そこから生まれた様々なデザイン。
畏敬の念で描かれたもの、
あるいは美しきものを愛でて描かれたものなど
その時代を語る作品に触れることが出来た展示会だった。


櫻草 泉鏡花

2016-02-05 | 泉鏡花

橋口五葉がアールデコ調のデザインで描いた表紙は泉鏡花の『櫻草』。
鏡花が30代から40代にかけて執筆した小品集で
エッセイと短編を収めて大正2年(1913年)に発行された。



幼い時に母の墓参りに父と行った思い出の「夫人堂」から始まり、
鏡花文学に欠かせない水にまつわる描写や、
旅に赴いた折りの風景の語りは空想世界へと誘われるように心地よい。

そして巷の人間を個性豊かに描く「廓そだち」「人参」「銭湯」や
今でも営業を続けている金沢と荒川区の老舗菓子店が登場する
「あんころ餅」と「松の葉」など、
その人間模様はユーモラスであり、今も変わらない感情をとらえる鏡花の視線は
さりげない日常をみつめている。

女房の恐怖心と得体の知れない子供二人が不気味な「鰻」、
また、柳田國男の「遠野物語」に触れながら
鏡花が知る地方の怪談を紹介する「遠野の奇聞」や
日本画家・鰭崎英朋と古書店をめぐったエピソードも
「昔の浮世絵と今の美人画」で描いている。

そして「畫の裡(えのうち)」は鏡花の幻想的な異界にのみこまれる作品で
短いながらも、めくるめく展開で一瞬まぼろしを見たような錯覚に。

この『櫻草』は28篇の作品が収められているが
スペースの都合なのか不思議なことに5篇が目次に載っていない。

古書店で購入した古い本なのであまりきれいではなかったが
何度もページをめくったりしながら
本がさらに傷むのではないかと思いながら読み終えた。
中島敦も絶賛した泉鏡花の世界。
その夢幻の果てにたどりつくのはいつなのか。