生と死を合わせ鏡のように描いた奥に人間の普遍的感情がただようシュペルヴィエルの短編集。
それは時に切なく、そして時に哀しく滑稽に。
大西洋の海に浮かぶ町に一人で住む「海に住む少女」
町が浮かんでは波の下に沈む。
父の強い思いが蜃気楼のように少女を出現させては波間に消していく。
なす術のない少女の孤独。
強い思いがゆえに意味を失った習慣を続ける青年を描いた「牛乳のお椀」
競馬の騎手がやがて馬になってしまう「競馬の続き」
美しい音色のような声を持つ少女が
普通の声に戻った時の涙は寂しい胸のしずくだった「バイオリンの声の少女」
人の強い思いはもうひとつの不条理な世界を生む。
「セーヌ河の名なし娘」は、セーヌで溺死した少女が死んだ後に
悪意によって水底に引き止める者たちから逃れ
本当の安らぎの死へと向う過程が描かれている。
そして影になった死者たちが集う天上で、ひとつの箱から得られた力が
希望を感じさせる「空のふたり」。
「飼葉桶を囲む牛とロバ」は、イエスの誕生に立ち会った牛が
自分の角で周囲の者を傷つけるのではないかと負い目を感じている。
旅立つイエスたちとの切ない別れ。
その夜、牛の犠牲的精神は祈りとなり、天空に座す星となった。
冒頭、インクも吸い取り紙も乾かず、
葉も砂糖も水をしたたらせることから起こる大洪水を描いた寓意が
壮大なこの世の始まりへと引きつけていく「ノアの箱舟」
詩人ならではのファンタジーを織り込みながら、心の中にある思いは国や時代が変わろうと
不変であることをシュペルヴィエルはまるで童話を書くように描いている。
人間とは哀しい生きもの。
それでもそこにすがりながら幸せを探していくのだ。
2009年 光文社発行 訳 永田千奈
あけましておめでとうございます
気持ちも新たに
一年の無事と平和を願う2014年。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
使用した材料◆注連縄、藁細工の亀、蛇の目松