日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

ひとりぼっちのあなたに 宇野亜喜良展

2012-01-31 | 宇野亜喜良

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渋谷の裏通り。ハリスギャラリーで
「寺山修司と宇野亜喜良のコラボレーションによる作品展」が開かれていた。

自分の前から流れていった時間。
あの頃見た覚えがある宇野さんの絵がポスターや
「フォアレディース」に描かれたイラストの原画を前に、
寺山修司との仕事で多くの感動にふるえた少女たちがいたことを思い出した。

退廃とメランコリック、そして少しばかりセンチメンタルな宇野さんのイラストは、
70年代から変わらずに今も胸をときめかせる。

寺山修司は月よりも遠くへ行ってしまった。
でも、寺山の亡き後も宇野さんは彼の作品に装丁をしている。
今も寺山が生きているかのように。



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「ひとりぼっちのあなたに」

ふたりが出会った最初の作品。
新書館フォアレディースの第1号。

タイトルにひかれ購入し、家に帰って一気に読んだ。
寺山の新しいことばに詩ごころを刺激され
物憂げなイラストはまだ知らなかった時代を見た思いがした。



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「ひとりぼっちのあなたに」より。
このページの原画も展示されていた。
ポスター、チラシ、チケットなど当時のデザインは
二度と同じものが現れない自由さがある。
60~70年代の、ある熱をおびていたひとつの時代があった。


丸い葉と丸い実

2012-01-21 | Flower


 
ユーカリとペッパーベリーで生けてみた。
丸いユーカリの葉は短く使うとかわいらしい表情で
ボリュームも好きなように調節できる。
このペッパーベリーは半ドライ。

外はとても寒い。
あるかなきかの雨音。


ジャン・コクトー新美術館カタログ (サヴァリン・ワンダーマン・コレクション)

2012-01-17 | Jean Cocteau

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南フランスにあるマントン市のモンレオン通りに
新しく「ジャン・コクトー美術館」が昨年2011年11月6日にオープンした。

コクトーのコレクターとしても有名なサヴァリン・ワンダーマン氏が
マントン市にコレクションを寄贈したことにより
建築家Rudy Ricoiottiのデザインで竣工から3年を経てついに完成した。

マントンはコクトーにとって故郷ともいえる地であり
彼が多くの芸術を生んだ思い出の地でもある。
1996年、要塞を改造した「ジャン・コクトー美術館」がすでに存在するが
第2の美術館としてワンダーマン氏コレクションの美術館がマントンに完成したことは
詩人への最大のオマージュともいえる。


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367ページにもわたるこのカタログは
文化事業の歴史をそのコンセプトから完成までを豊富な写真で掲載し
又300点を超える未公開コレクションがていねいな解説とともに紹介されている。

2005年に日本でもワンダーマン氏の「ジャン・コクトー展」が開催されたが
一枚のデッサンに魅せられてコレクションを始め、美術館を建てるまでに至ったコクトーへの情熱は
一時代を生きた詩人の証として、コクトーの新たな発見へと導いてくれる。

フランス SNOECK社 2011年11月24日発行


入館案内
MUS�・E JEAN COCTEAU COLLECTION S�・VERIN WUNDERMAN
2,quai Monl�・on - 06500 Menton
T�・l .  04 89 81 52 50

月・水曜日~日曜日 10:00~18:00
【火曜日・祝日(1/1,5/1,11/1,12/25)は休館】
7・8月の金曜日 10:00~22:00
入館料 6ユーロ

http://www.youtube.com/watch?v=bLU3almrdJ4


冬、brilliant な時

2012-01-16 | 

 
     青いソフトに

青いソフト帽に降る雪は

過ぎしその手か、ささやきか、

酒か、薄荷か、いつのまに

消ゆる涙か、なつかしや。

            北原白秋





     雪くる前

わが君とわかれて歩めば

あらはるとなく

消ゆるとなく

ふりつむ我が手の雪を

ああ 君は掻く

            室生犀星


     天上に宴ありとや雪やまず   上村占魚
     雪片の高きより地に殺到す   山口誓子


雪が見慣れた風景を変える。天からの使者は美しいが儚い。
心に深くしみてくる雪は詩人・歌人の心象風景として描かれてきた。
それは感傷や思い出であったり、自然への讃歌であったり。


泉鏡花記念館 金沢 尾張町

2012-01-10 | 泉鏡花

念願の泉鏡花記念館へ行ってから一ヶ月が経とうとしている。
みぞれや雪、冬の雨は冷たかったけれど、天候の変化は金沢をけぶるような情景に姿を
変えていた。

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記念館の表門と玄関

展示室には多くの初版本が並ぶ。黒い壁に鏡花本の装丁美が際立ち、貴重な初版本のほとんどを知ることができる。
そして鏡花を育てた金沢と鏡花のかかわりや創作活動の紹介など。
こじんまりとした記念館だが、気持ちを静かにして鏡花に触れることができる現代の異空間である。




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久保市乙剣宮(くぼいちおつつるぎぐう)

「久保市さん」と呼ばれる記念館のすぐ近くにある神社。鏡花は子供時代にここで遊んでいた。
明治9年(1878)、現在の宝泉寺近くから移築された。明治25年の大火で類焼したが、これを機に向きを西に変えて現在に姿をとどめている。

   あそびなかまの暮ごとに集ひしは、
   筋むかひなる 懸社乙剣の宮の境内なる
   御影石の鳥居のなかなり。
        「照葉狂言」より

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久保市乙剣宮の鳥居脇にある鏡花の句碑。鏑木清方筆で「泉鏡花出生の地」と刻まれている。
句は

      うつくしや鶯明けの明星に




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神社の左へ行くと「暗がり坂」がある。
カーブのある階段はひっそりとして日が落ちる頃には物の怪を感じる場所だったという。
鏡花はこの階段を何度行き来したことだろう。

   心得ないものが見れば、坂とは言はず
   穴のような崕(がけ)」

と鏡花は述べているが、この界隈は細い路地が迷路のように筋を引き、道の向こうがまるで未知の場所であるかのように謎めいているところでもある。
鏡花のほの暗い幻想は、幼い記憶にこの坂で感じた神秘があったと思わせる坂である。


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滝の白糸像

「義血侠血」に登場する水芸の主人公は、ここ浅野川のほとりで卯辰山を背に今も川の流れを聞いている。








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浅野川にかかる「梅の橋」

 河は長く流れて向山の松風静に
 渡る処、天神橋の欄干に凭れて

と「義血侠血」に描かれた浅野川は鏡花の作品に多く登場する。
後方は卯辰山、天神橋はこの梅の橋の一つ上流側にある。



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       鏡花のみち

梅の橋と天神橋の間が鏡花のみちになっている。滝の白糸碑はこの二つの橋の中間に建つ。





金沢に今も息づく泉鏡花の原風景。それは悲しい女たちが巷の灯りに涙をかくし、橋のこちらとあちらに異境を生んだ浅野川の流れであった。

「鏡花水月」と恩師の尾崎紅葉に示したところ、「泉鏡花」と名づけられた彼にとって水の存在は大きな意味を持つ。浅野川を歩き、橋を渡ってひととき鏡花に会ってきた。