東京芸術劇場で昨日、千秋楽を終えた「星の王子さま」を
私は宇野亞喜良さんの舞台美術観覧ツアーがあった9月18日(火)に見てきた。
寺山修司の「星の王子さま」を金守珍さんが演出したこの舞台、
メルヘンとアングラを蒸留酒で混ぜたような寺山スピリッツに満ちていた。
あるホテルにやって来たオーマイパパ(男装をした父親)と娘の点子。
そのホテルは人工の星々がきらめく元売春宿だった。
女主人ウワバミは
星の王子様を愛し、顕微鏡で空を見上げては「見えないものを見る」ことに没頭し、
醜いものを見ない、と現実から目をそむけている。
点子は「見えるものを見ない」と反論するが
ウワバミは、紙クズが星に見えるか、紙クズに見えるかと強制的に
点子を「見えないものを見る」ように迫る。
いっぽうオーマイパパはホテル内で行き合わせた修理工に
実は夫を殺し、男装をして逃げていることを暴かれてしまう。
虚構を装ってもその裏は醜くもある、という現実。
寺山修司は「見えるものを見る」という現実、あるいはその残酷さを
メルヘンの中に込めたのだろうか。
このホテルには不思議ないくつもの星が住んでいた。
召使いのヒツジ星
尾ひれをなびかせる人魚星
黒色すみれのメロディ星
そして妖しく大胆な五大星。
まさに劇場が寺山星にきらめいた。
星の王子様と薔薇の少女の人形は
やはりロマンチック。浮遊し、一瞬の幻想のように星の彼方へ消えていく。
楽しみにしていた宇野亞喜良さんの舞台美術は
濃いピンクを基調として、おとぎの国のようでいてアンニュイ。
インモラルなこの物語をより効果的に見せ、異空間へと誘われた。
渋谷ヒカリエの11階。シアターオーブで幕を開けた「オペラ座の怪人」は
怪人のクリスティ―ンへの狂おしい愛が
オペラ座をめぐって悲しい結末を迎えるドラマ。
フランスの作家ガストン・ルルーの小説「オペラ座の怪人」を舞台化したものだが
ルルーは、実際にオペラ座で過去に起きたシャンデリアの部分落下や
幽霊話などに想を得て執筆したという。
アンドリュー・ロイド=ウェバー版は映画を見て音楽もすっかり馴染んでいたが
先に初演されたこのケン・ヒル版を元に
ロイド=ウェバー版が上演されたのだという。
場内に入ると舞台は真紅のカーテン。その真上に2つの髑髏。
天井には大きなシャンデリアが。
オペラ座の怪人といえばマスクとシャンデリア。
ミステリアスなドラマが始まった。
パリ・オペラ座には幽霊が住んでおり、次々と奇怪な事件が起こると囁かれていた。
地下に住む怪人は
5番のボックス席確保と、
無名の歌手クリスティーンを起用にするようにという要求を劇場に突きつける。
「音楽の天使」としてクリスティーンに美声を授ける怪人だったが
怪人などいない、いないと歌った役者を殺し
クリスティーンを愛するラウルに嫉妬し
またプリマドンナを演じたカルロッタにシャンデリアを落としたりと
人々に恐怖を与える。
事件中に気を失ったクリスティーンを
自分の住処である地下の湖にゴンドラに乗せて連れ去る怪人。
半ば強引に結婚を迫るが
クリスティーンを探して追ってきた劇場の人々に囲まれ
追い詰められた怪人はナイフを取り出し…。
天使の声を持つ怪人が、マスクの下に隠した苦悩と、
クリスティーンへの叶わぬ愛の果てにたどり着いた悲しい運命。
怪人を演じたジョン・オーウェン=ジョーンズさんの歌声は
時に囁き、嘆き、高らかに歌い、心を揺さぶる。
マダム・ジリーの個性、ペルシャ人の歌も忘れがたい。
そして気に入ったのは
机から怪人の手だけが出て白い羽ペンでさらさらとメモを書くシーンは
怪人の不穏な気配を感じさせ印象に残った。
高い高いところから
私の名が聞こえる
甘くささやく君の声が
再び私を導く――
(墓地でクリスティーンに怪人が歌う「高い高いところから」より)