神話や聖書から数々の作品を描いた幻想画家ギュスターヴ・モロー展を
「パナソニック汐留美術館」へ見に行った。
今回は「宿命の女たち(ファム・ファタル)」がテーマ。
男性を破滅へと導く女性たちから、神話の世界へと引き込まれる絵画展だった。
「出現」 1876年
実際にはあり得ないこの状況は
モローがサロメに見たファム・ファタルを魅惑的に描いている。
しかし母はヘロデ王の弟アンティパスと結婚したことをヨハネに咎められる。
アンティパス王はサロメが踊ってくれるなら望むものを与えると言うが
母はヨハネを消すためサロメに「ヨハネの首を」と言うように焚きつける。
オスカー・ワイルドの創作でその印象が強く残ってサロメが語られている。
「デリラ」
旧約聖書に登場するするデリラ。
神殿を怪力で破壊できるサムソンを裏切り、陥れるデリラ。
ポーズはリラックスしているがこれから起こる運命が
サムソンを悲劇へと導くような気配。
「セイレーンと詩人」
ギリシャ神話に登場するセイレーンは水のある所に棲む怪物。
女性に姿を変え、美しい歌声で航行する船を沈没させ
人を死に至らしめる。
絵はセイレーンの罠にかかり死した詩人が描かれている。
「エウロペの誘惑」 1868年
ギリシャ神話に出るエウロペはフェニキアの王女。
古代ローマの詩人オウィディウスの詩集「変身物語」から着想したこの絵は
彼女への思いを遂げようと
妻ヘラに悟られぬよう牡牛に変身したゼウスと見つめ合っている。
このエウロペ(Europe)がヨーロッパの語源と言われている。
「一角獣」1885年
貞節の象徴である一角獣は伝説上の幻獣。
純潔な乙女にだけおとなしくなると伝えられる。
豪奢な衣装、白い肌、純潔を表す百合の花。
宮廷的な雰囲気がただよう1枚で
未完の作品だが、楽園を思わせる抒情性にあふれている。
「妖精とグリフォン」 1876年頃
座る妖精を守るように囲む青い羽のグリフォン。
頭は鷲、体はライオン、そして羽を持つ恐ろしい獣と言われるが
モローは椅子の背にラピスラズリ、羽も青で仕上げ
妖精の白い肌が際立って幻想的でさえある。
モローの内面世界に生きる女性たちは
処女性と残忍な魔性を秘めたミステリアスな存在として描かれている。
神話や聖書の中に生きる男女の多面性を
絵筆で作り上げた夢幻の世界だった。