ジャン・コクトーの映画による遺言劇であり、コクトーの自身の影絵ともいえる「オルフェの遺言」は
見えるものの向こう側にある不可視の世界を自由に飛翔する詩人の姿を描いた作品。
前作「オルフェ」のラストシーンから物語は始まる。
次の出演者のクレジットシーンに流れるフルートのバックミュージックは
グルック作曲オペラ「オルフェとエウリディーチェ」から「精霊の踊り」を使用している。
詩人は時空を越えて存在する。
15世紀の衣装で詩人は化学教授と会うため、教授の生涯に順を違えて登場する。
老教授にピストルで撃たれて詩人は現代で生きることができた。
黒い馬を追ってジプシーの岩間で炎から現れたセジェストの写真。
破られたその写真を詩人が海へ投げると海中から忽然とセジェストが蘇る。
そして彼とともに詩人の遍歴の旅が始まった。
ハイビスカスを描こうとしてもそれは詩人の自画像となり、踏みにじった花も元の形に再生される。
次にたどり着いた所。
そこは前作「オルフェ」の死の王女と運転手ウルトビーズが審問する裁判の場。
彼らは「オルフェ」で、オルフェを黄泉の国から現世へ戻した罪で人を裁くという重罪を負わされていたのだ。
この二人は死を擬人化している。
ここで詩人は映画論、詩人論を語り、老教授、セジェストの証言で死刑ならぬ
「生きる刑」を宣告される。
その後も遍歴は続いていく。
貴婦人の館を通り、ヴィルフランシュの港を過ぎて知恵と戦いの女神がいる広間にたどり着く。
詩人がハイビスカスの花を捧げるが気に入らない女神は詩人に槍を投げた。
倒れた詩人は横たわりながらも煙とともに蘇り、ひとすじの道をさまよう。
さまよいながらすれ違ったのはアンチゴーヌを伴って放浪する悲劇の王オイディプスであった。
詩人はアルプスの街道に出た。
不審に思った警察官が取り調べをしている間にセジェストが現れ
「この地球はあなたの祖国ではない」と詩人に告げ、二人は石垣の中に消えていった。
映像の中に使われるハイビスカスの花は詩人自身として使われている。
花が詩人の手に渡り、そして消える時、さらにフイルムの逆回転の技法は
異空間への神秘性を感じ、今見ても斬新である。
この作品は1959年9月、南フランスの地中海に面したボー・ド・プロヴァンスで撮影された。
出演者はジャン・マレー、ピカソ夫妻、ユル・ブリンナー、シャルル・アズナブール、
セルジュ・リファールなど。
下の写真は撮影の合い間、ルイ15世紀風のコクトーとセジェストを演じたエドゥアール・デルミ