HARRY’S ROCK AND ROLL VILLAGE

お気に入り音楽の紹介と戯言

ANOTHER KICK IN THE BALLS

2012-03-03 12:59:22 | ROCK

つまり、君はショーでも観に行こうと思ったというわけだ
広大な密室に繰り広げられる混沌の中で
ぬくぬくとしたスリルを味わうためにね

どうしたんだい?
いやにまごついているじゃないか
君が期待したものと、余りに違うというのかい?

ほとんどロジャー・ウォータースのワンマンバンドと化しつつあったピンク・フロイドが
79年にリリースした2枚組アルバム「THE WALL」は、恐ろしいアルバムだと今でも思う。

抑圧的な学校教育、戦争で父を失ったという家庭環境、成功した事実から生まれる新たな強迫観念。
自分たちを支えてくれているはずのファンやコンサートを観にくる観客への不審感。
こういった様々な要素が、アルバム2枚にぶちまけられているのだから、何度も気楽に
再生して楽しめるものではない。

「狂気」のような派手な構成でもなく、「炎」のように過剰にウェットな気分を満たしてくれもしない。
「ザ・ウォール」に収録された曲を個別の楽曲単位で抜き出すと、魅力的なメロディーを持っている曲が
それほど多くないことにも気付く。しかしながら、「ザ・ウォール」はとても魅力的だ。
単純でお気楽な人間でないなら、誰もが一度や二度は考えたことがある、自身の疎外感を
表現したアルバムなのだから。

「狂気」「炎」と続いた豪華な箱入りのコレクターズ・エディションの最後を締めくくった「ザ・ウォール」は
CD6枚、DVD1枚、更に例によって様々なおまけが収録されている。
オリジナル・アルバムとライブ盤は既発盤の、2011年リマスター。目玉は2枚のCDに収録された
ロジャーのデモと、ピンク・フロイドとしてのデモだろう。過去にブートレグで、どれほどのデモ音源を
聴くことができたかを把握していないが、ほぼ全曲に近いデモ(例えそれが断片の寄せ集めだとしても)を
聴くことができたのは、大きな喜びである。

DVDは「ザ・ウォール」をめぐる50分強のドキュメンタリーを日本語字幕付きで見ることができ、
当時のロジャーの傲慢ぶりを振り返るメンバーや、過去のエゴを冷静に分析し歴史の事実として淡々と
捉えるロジャーの発言が興味深い。80年のアールズコートでのライブの模様をほんの少しだけ
見ることができるのだが、当然ながらブートレグで出回った映像より鮮明で綺麗な映像である。
断片の寄せ集めではあるが、これらを見ると徐々にステージ上に壁が出来、最後に崩れるというコンサートの
全長版の発表を期待せずにはいらない。

ミュージシャンの仕事は過酷だ。マス・セールスを挙げることに越したことはない。一人でも多くのもとに
自分の音楽が届くことを望まないミュージシャンなんていないだろうし、そうでないなら、その仕事を
している意味がわからない。しかしながら多くの人が受け取るということは、そこにミュージシャンが望んだ
ものとは違う解釈を加える人が出てくるのも避けられない事実だ。ファンと共に共有する物のズレを
良しとしないのは、ミュージシャンのエゴかもしれないが、それを表明するのも表現の一つである。
それを好意的に受け取れるか否かは、その後の活動にもよるだろうが、自身の生い立ちから79年当時の
現状までを絡めて、全てに「イエス」と答えなかったロジャー・ウォータースとピンク・フロイドの
アーティスト・パワーを充分に感じるアルバムだと改めて感じた。

ミュージシャンの仕事は過酷だ。過去のヒット曲や観客が求めるメロディーや歌詞を、期待通りに再現
しなくてはならない。2時間のコンサートの全てがそれに割り当てられることはないとしても、大半の時間は
それに費やされる。そして、ロジャーは今も「ザ・ウォール」を再現し続けている。

ああ、僕は今とても酔っ払っている。

今の僕には麻痺した状態が、とても心地良いのです。
あの、おかしな野郎が築いた、あの壁に心ごとぶつかっていくのが
容易いことでないのは、わかっているけれど・・・。


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2 コメント

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Unknown (TK)
2012-03-05 08:12:03
何回正面から聴こうとしても壁に跳ね返される自分(苦笑)
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Unknown (ハリー)
2012-03-05 21:35:12
TKさん

私も壁に跳ね返されてばかりです。

壁の上を狙ってゴールを決められたら良いのですが
そんなテクニックもなく・・・。(笑)
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