チャック・ベリーのカバーはごまんとある。単体でカバー集を編めそうな気もしたのだが、それよりも
今回の「カバーソング100選」に格好良いバージョンを選ぶことが先決だ。
掲載写真はザ・バンドが73年に発表した「MOONDOG MATINEE」。このアルバムが出された背景には
長い休息期間後にニュー・アルバムを出そうとしたが、過去作に匹敵する曲を生み出すまでに至らず、
それなら新曲を作る軋轢に耐えるより、昔から親しんだ曲を楽しく且つ新しい解釈を加えて演奏しようと
いう事情があった。ロビー・ロバートスンと他のメンバーの間の緊張を、なるべく当たり障りの少ないように
緩和するという意味でも最善の策だったと言える。
なんだか意地悪な物言いになったが、素直に自分達のルーツに立ち戻ったとか、カナダ人(レヴォンを除く)
として憧れたアメリカを再現したとか、そういうロマンティックな思い入れが入り込むのを、
邪魔するものではない。
それでは、このアルバムに収録されたカバーの数々がオリジナル超えたか?、という問いには
私は「そうでもない。」と答えてしまうだろう。『第三の男』のカバーは、オリジナルの美しさを超えている
とはとても言い難いし。それでもリチャードが歌う、アルバム収録曲中では最も有名であろう『THE GREAT
PRETENDER』やリックの歌う『A CHANGE IS GONNNA COME』は好きなカバーだ。
そしてチャック・ベリー・カバーが『PROMISED LAND』だ。ボーカルはレヴォン・ヘルム。ここで聴くことが
できるレヴォンのドラムスが最高で、正確なリズム・キープよりも生き生きした揺れこそ気持ちよさの根幹、
すべてのドラムにヒットする強さも一定でないのが、また生々しく気持ち良い。シンコペーションの妙という
やつだろうか、ロックというフィールドの中ではこんな歌心のあるドラムを叩く人は、他に思い浮かばない。
ベン・キースのスティール・ペダルもワウを踏んだギターのような効果を出していて面白い。
これ以外にチャック・ベリーのカバーで好きなのが、ジミ・ヘンドリックスの『JOHNNY B. GOODE』。この時の
録音は映像でも見ることが出来る。何を隠そう、私はウッドストックやモンタレーではなく、バークレーでの『JOHNNY
B. GOODE』を見て度肝を抜かれ、真剣にジミを聴くようになったのだ。強烈なギターにばかりスポットが
当たりがちだが適当に歌っているようで、味のある抑揚のある歌唱も聴き逃せない。
そして、MC5の『BACK IN THE U.S.A.』。この勢い溢れる痩せた狼の遠吠えのような演奏に何も感じなければ
まあ、それまでなのだが。当時のアメリカの反体制の象徴のようなMC5がアメリカ賛歌を歌ったのは、
これも自身のルーツに忠実で尚且つ、アメリカで生きるということを必然として受け入れていたということなのだろう。
歌詞中、オリジナルでは「我が家があるセント・ルイスに帰る」とあるところを「チャック・ベリーのホームである
セント・ルイスに帰るのさ」と歌うところに愛がある。
というわけで、チャック・ベリーのカバーは今回のカバー・ソング100選の中で3曲選ぶことにした。
そして、最後に大事な事を記しておかねば。
ザ・バンドの曲やアルバムには好きなものが多いが、バンドがキャリアを重ねるに連れてロビーの発言には、
個人的に相いれないものを感じることが多い。しかしながら、ザ・バンドの曲のカバーの中で、ザ・バンド特有の
グルーヴを超えるカバーには辿り着けなかった。
ザ・バンドは自らの楽曲で、他者の解釈では真似の出来ない、他者には掬いきれない魅力を十二分に
表現していた。これは間違いのない事実である。
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