今年の6月に鈴木清順監督の映画『オペレッタ狸御殿』も、実はこの舞台を観るための予習だった。残念ながら映画はあまり面白くはなかったのだが。しかし先月の松竹座の劇評が『演劇界』1月号にあって、なかなかの舞台のようで期待は高まっていた。
映画『オペレッタ狸御殿』の感想はこちら
今回の舞台は...面白かったのだ!
物語は「昔、昔、ずっ~と昔の狸と人間のおとぎ話」なのだが、まず話の作り方がうまくて退屈しない。話の筋は以下の通り。
人間界のお家騒動で相馬家の若殿・織部(右近)が闇討ちされて死にかけたところを狸御殿のきぬた姫(藤山直美)が助けて惚れる。狸世界から記憶を消されて帰された織部を人間界にまで姫は追っていくのを奴雅楽平(猿弥)がついていく。相馬家では織部の母・卯月の方(藤間紫)に金毛九尾の狐がとりついてその一派が人間界を魔界に変えようという陰謀がすすめられていた。きぬた姫は金毛九尾によって正体を見破られるが、織部を助けて陰謀を打ち砕くべく稲荷大明神の使いの白狐(笑也)の力を借りにいくが、断られる。
姫が織部、雅楽平と長屋に身を隠しているところに、父(小島秀哉)や家老(小島慶四郎)、乳母(大塚嶺子)たちが姫をたずねあててきて連れ帰ろうとするが、織部とともにいたいと父たちを帰してしまう。そしてついに金毛九尾との対決。そこに白狐があらわれて霊剣を授けて卯月の方にとりついた金毛九尾を除霊させ、元の母に戻す。織部はきぬた姫にいつまでもそばにいてほしいと言うが、姫は織部と守役の娘九重(春猿)の仲を結んで、雅楽平とともに狸御殿に帰っていく。
澤潟屋一門によるスーパー歌舞伎と藤山寛美・直美父娘の人情喜劇がうまく融合されている。両者の共通性=「大袈裟」な演技がうまい具合に相乗効果を上げているなと感心した。プログラムによると直美はもともと猿之助の大ファンで、今回の企画も彼女から一緒にやりたいと依頼したのだという。猿之助も藤山寛美のお客様を大切にする舞台に感動していたということで、ここに新しいジャンルの舞台を誕生させるという意気込みだ。
随所に歌舞伎のパロディが効果的に組み込まれていた。10月歌舞伎座で観た「加賀美山」の草履打ちとスーパー歌舞伎の「オグリ」→11月の「児雷也」で観たばかりの引車の場面など、思い出して比べては笑ってしまうのだった。それなりにきちんと演じているから嬉しいというのもある。
さらに満月祭などのショーのシーンも宝塚の日本舞踊ショーの群舞のようにカラフルで楽しい。若衆姿にキラキラをいっぱいつけたしたきぬた姫の婿候補たちなんてすごい迫力だった。狐の女方軍団と狸の女優軍団の対決シーンも笑えた。ここまで人間でないものが登場するおとぎ話にしてしまうと女方と女優が同時に舞台にいても違和感がまったくない。
脚本はちゃんとそれぞれの役者にあわせたアテ書きになっているのだろうから、笑いをとる場面も無理がない。さらにそれをアドリブ的に進化させているのだろう、噂にきいていた直美のツッコミ台詞もさらに過激になっていた。大阪の新喜劇のノリのツッコミを受ける澤潟屋の一門の反応もそれぞれに楽しかった。
一番感心したのは金毛九尾の藤間紫が同じ獣のよしみで直美にくだけた調子で話をする場面。「アンタ、なかなか面白い子だね」というような実に軽い感じで話をすすめる。そして一転、自分の野望を話してガツンと決めるというこのメリハリ!ぶっかえりの見得がこんなに似合う女優は他にはいない。まさに立女方の演技ができる女優だ(昨年の『西太后』での見得に感動したものだ)。そしてまた一転可愛い声でくしゃみをしてみせるというこの自在さに観ているこちらも嬉しくなる。
藤山直美の舞台は2回目だが、これは代表作になるだろうという予感が確信に変わる。三枚目で人情喜劇を演る女優なんてなかなかいないのだから、是非これを人気シリーズにしてほしい。狸の愛嬌あるイメージとぴったりだ。(追記:それにしても父寛美そっくりのしぐさを随所に盛り込んでくれる。猿弥に「寛美みたい」って言われてた。寛美の丁稚姿が目に焼きついているので嬉しくて仕方がない私。)
右近も直美と組むと十分二枚目だった。デュエットはちょっとご愛嬌のレベルだったが、笑いをとる台詞もまあ頑張っていたといえよう。
笑也が野郎言葉で美しい白狐を演るのがもうたまらなくおかしかった。厚化粧とツッコマレて「日清製粉てんぷら粉」!と返してフーっと粉を吹くところはもう仰天モノ。7月『十二夜』の松緑同様、これではじけてくれたのではないかなあ。
猿弥も三枚目で大活躍。猿弥と組むと直美も可愛いもの。直美・猿弥の連れ立っての宙乗りもとても可愛くてよかった。ここも「再岩藤」のパロディのミニ傘が可愛くて可笑しい。直美・右近・猿弥の三角関係路線で続編続けられると思った。
今日は3階B席の右サイド席だったのに双眼鏡を忘れてきてしまい、肉眼だけで遠い席で観たのだが、そういう見方でも十分楽しめる舞台だった(表情まで細かく見たいご贔屓がいないというのもあるけれど)。でもケチらずに3階A席くらいで正面から観ればよかった。チケット代のメリハリもつけすぎたかもしれない。もう一回くらい正面から観たいなと思わせてくれる舞台だった。
写真は、松竹のHPより今回公演のチラシの写真。
追記:幕間に並んでいたトイレの行列で私の母の世代とおぼしき女性数人が宮城千賀子の主演の映画『歌う狸御殿』を昔観たのよ~って盛り上がっていた。どうりで3階席、そういうお客さんが多いなあと納得。
追記その2:随所にスーパー歌舞伎がチラホラする。新三国志キーワードの「夢見る力」が2回も台詞中に登場したし、聞きなれた音楽も流れたりする。上手い、うますぎる~。プログラムの中で藤間紫がスーパー歌舞伎で喜劇がやりたかったというくだりがあったが、まさにそういうテイストだ。スーパー歌舞伎ファンは必見である。
映画『オペレッタ狸御殿』の感想はこちら
今回の舞台は...面白かったのだ!
物語は「昔、昔、ずっ~と昔の狸と人間のおとぎ話」なのだが、まず話の作り方がうまくて退屈しない。話の筋は以下の通り。
人間界のお家騒動で相馬家の若殿・織部(右近)が闇討ちされて死にかけたところを狸御殿のきぬた姫(藤山直美)が助けて惚れる。狸世界から記憶を消されて帰された織部を人間界にまで姫は追っていくのを奴雅楽平(猿弥)がついていく。相馬家では織部の母・卯月の方(藤間紫)に金毛九尾の狐がとりついてその一派が人間界を魔界に変えようという陰謀がすすめられていた。きぬた姫は金毛九尾によって正体を見破られるが、織部を助けて陰謀を打ち砕くべく稲荷大明神の使いの白狐(笑也)の力を借りにいくが、断られる。
姫が織部、雅楽平と長屋に身を隠しているところに、父(小島秀哉)や家老(小島慶四郎)、乳母(大塚嶺子)たちが姫をたずねあててきて連れ帰ろうとするが、織部とともにいたいと父たちを帰してしまう。そしてついに金毛九尾との対決。そこに白狐があらわれて霊剣を授けて卯月の方にとりついた金毛九尾を除霊させ、元の母に戻す。織部はきぬた姫にいつまでもそばにいてほしいと言うが、姫は織部と守役の娘九重(春猿)の仲を結んで、雅楽平とともに狸御殿に帰っていく。
澤潟屋一門によるスーパー歌舞伎と藤山寛美・直美父娘の人情喜劇がうまく融合されている。両者の共通性=「大袈裟」な演技がうまい具合に相乗効果を上げているなと感心した。プログラムによると直美はもともと猿之助の大ファンで、今回の企画も彼女から一緒にやりたいと依頼したのだという。猿之助も藤山寛美のお客様を大切にする舞台に感動していたということで、ここに新しいジャンルの舞台を誕生させるという意気込みだ。
随所に歌舞伎のパロディが効果的に組み込まれていた。10月歌舞伎座で観た「加賀美山」の草履打ちとスーパー歌舞伎の「オグリ」→11月の「児雷也」で観たばかりの引車の場面など、思い出して比べては笑ってしまうのだった。それなりにきちんと演じているから嬉しいというのもある。
さらに満月祭などのショーのシーンも宝塚の日本舞踊ショーの群舞のようにカラフルで楽しい。若衆姿にキラキラをいっぱいつけたしたきぬた姫の婿候補たちなんてすごい迫力だった。狐の女方軍団と狸の女優軍団の対決シーンも笑えた。ここまで人間でないものが登場するおとぎ話にしてしまうと女方と女優が同時に舞台にいても違和感がまったくない。
脚本はちゃんとそれぞれの役者にあわせたアテ書きになっているのだろうから、笑いをとる場面も無理がない。さらにそれをアドリブ的に進化させているのだろう、噂にきいていた直美のツッコミ台詞もさらに過激になっていた。大阪の新喜劇のノリのツッコミを受ける澤潟屋の一門の反応もそれぞれに楽しかった。
一番感心したのは金毛九尾の藤間紫が同じ獣のよしみで直美にくだけた調子で話をする場面。「アンタ、なかなか面白い子だね」というような実に軽い感じで話をすすめる。そして一転、自分の野望を話してガツンと決めるというこのメリハリ!ぶっかえりの見得がこんなに似合う女優は他にはいない。まさに立女方の演技ができる女優だ(昨年の『西太后』での見得に感動したものだ)。そしてまた一転可愛い声でくしゃみをしてみせるというこの自在さに観ているこちらも嬉しくなる。
藤山直美の舞台は2回目だが、これは代表作になるだろうという予感が確信に変わる。三枚目で人情喜劇を演る女優なんてなかなかいないのだから、是非これを人気シリーズにしてほしい。狸の愛嬌あるイメージとぴったりだ。(追記:それにしても父寛美そっくりのしぐさを随所に盛り込んでくれる。猿弥に「寛美みたい」って言われてた。寛美の丁稚姿が目に焼きついているので嬉しくて仕方がない私。)
右近も直美と組むと十分二枚目だった。デュエットはちょっとご愛嬌のレベルだったが、笑いをとる台詞もまあ頑張っていたといえよう。
笑也が野郎言葉で美しい白狐を演るのがもうたまらなくおかしかった。厚化粧とツッコマレて「日清製粉てんぷら粉」!と返してフーっと粉を吹くところはもう仰天モノ。7月『十二夜』の松緑同様、これではじけてくれたのではないかなあ。
猿弥も三枚目で大活躍。猿弥と組むと直美も可愛いもの。直美・猿弥の連れ立っての宙乗りもとても可愛くてよかった。ここも「再岩藤」のパロディのミニ傘が可愛くて可笑しい。直美・右近・猿弥の三角関係路線で続編続けられると思った。
今日は3階B席の右サイド席だったのに双眼鏡を忘れてきてしまい、肉眼だけで遠い席で観たのだが、そういう見方でも十分楽しめる舞台だった(表情まで細かく見たいご贔屓がいないというのもあるけれど)。でもケチらずに3階A席くらいで正面から観ればよかった。チケット代のメリハリもつけすぎたかもしれない。もう一回くらい正面から観たいなと思わせてくれる舞台だった。
写真は、松竹のHPより今回公演のチラシの写真。
追記:幕間に並んでいたトイレの行列で私の母の世代とおぼしき女性数人が宮城千賀子の主演の映画『歌う狸御殿』を昔観たのよ~って盛り上がっていた。どうりで3階席、そういうお客さんが多いなあと納得。
追記その2:随所にスーパー歌舞伎がチラホラする。新三国志キーワードの「夢見る力」が2回も台詞中に登場したし、聞きなれた音楽も流れたりする。上手い、うますぎる~。プログラムの中で藤間紫がスーパー歌舞伎で喜劇がやりたかったというくだりがあったが、まさにそういうテイストだ。スーパー歌舞伎ファンは必見である。
★HineMosNotariさま
力作のTB返しありがとうございます。猿之助さんがいないと若手だけではスーパー歌舞伎やらせてもらえないのよね、やっぱり。昨年の『新・三国志Ⅲ』を観ておけばよかったと悔いております。
でもスーパー喜劇を12月新橋演舞場の定番にしてもらえると澤潟屋応援団としては嬉しいですよね。
★「高田馬場じゃない方の文夫、らびゅッ☆」の寅ぐら様
関連はあるにはあるにしても謎のチッチキチーのTBだと思ったら、本元と間違われたのですね。本元の記事のTB返しも無事届きました。ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
+TB and コメント ありがとうございます
ぴかちゅうさん
ついに今年はノートPCを開けたまま 年越ししてしまいました~。
でも、ギリギリセーフで「狸御殿」の感想をアップできましたので、TBさせていただきました。
どうぞ 今年もよろしくお願いしますm(__)m
TB、コメントありがとうございましたm(_ _)m
ラサール石井の演出で「燃えよ剣」観ました。まあそんなにはずしてないと思いました。直美ちゃんと勘三郎を観に2月演舞場「ヨイショの神様」3階B席とりました。メリハリつけてるなあ。3月国立の澤潟屋「小栗判官」通しも行きますよ~。 一日通すか2日に分けるかが悩みどころなんですけどね(^^ゞ
「浅草パラダイス」はシリーズだけに悲喜こもごもでしたヨ。やはり作品は脚本と演出家あっての物。としみじみ感じたもんです。
直美ちゃんがいくらガンバッテもね…。残念ながら…。
2月はぴかちゅうさんの感想で楽しみます!ラサール石井の演出で、私的に大コケした作品があったので、もういいや~状態。
「りゅーとぴあマクベス」は、う~むチケット料金が…と逡巡。
スーパー喜劇でも宣伝(笑)してた、3月の「小栗判官」は行きますっ。
全面的にご紹介いただきまして恐縮です。
>児雷也がパッチワークなら、こっちは直美さんにスーパー歌舞伎の刺繍をほどこしたみたいだ...というご指摘、「言いえて妙!」です。
2月演舞場の『ヨイショ!の神様』絶対行きます。いつものメンバーももちろんですが、勘三郎の姉弟の共演も楽しみだし、火野正平、小池栄子も舞台で観てみたい。直美・勘三郎・柄本明の「浅草パラダイスシリーズ」を観ていないのが悔やまれます。でもこれからは歌舞伎会のランクアップのためにも安い席でもいいから毎年2月は観ることでしょう(^^ゞ
澤潟屋と言えば『りゅーとぴあマクベス』観ます。能楽堂に初めて足を踏み入れます。演出の栗田さん、元猿之助一門にいた方なんですよ、だから歌舞伎の型を踏まえた演出がうまいです。主要キャストを男女の俳優の逆転で演じた『ハムレット』がホント面白かったですから。是非おすすめします。
★「月いよいよあきらかなり」のparu様
>もう一回行こうかな?と考えていたり♪
って私もなんですけど、もう無理かなあ。TVでやってくれないかしら。NHKや~い。
★「花がいっぱい」のharumichin様
>3階にいたのだが、かなり立ち見もでていた。人気なのですね。
私も3階B席でした。昔映画で「狸御殿」シリーズを観た人たちも見たくなるだろうし、満足してもらえる舞台になっていたと思います。鈴木清順の映画だとシルバーの映画代1000円でも「金返せ~」になるかも?!
★真聖さま
私も寛美さん、大好きだったです。あの丁稚姿が焼きついてます。これは直美さんの代表作になると思います。是非毎年同じ12月とかで「狸御殿」シリーズをやってほしいです。
>某ファンサイト(○しさん)でカキコなさっている「ぴか」さん...残念ながら私ではないです。
でもどんどん遊びにきてくださいね。
体重で堕ちるんじゃないかと(笑)
二人とも体型がそっくりで可愛かったですね。
で、話は変わるんですが、私が毎日お邪魔している某ファンサイト(○しさん)でカキコなさっている「ぴか」さんってもしかしてぴかちゅうさんですか???
私は、11日は、歌舞伎座&渋谷DUOに行ってました。
これからが12月活動本格化?です。
私もTBさせていただきま~す