2006年のNODA・MAP公演「ロープ」のプログラムに掲載された対談で、勘三郎のNODA・MAP公演出演が約束され、ずっと楽しみにしていた。その予定よりは1年半遅れとなったが今回のNODA・MAP番外公演「表に出ろいっ!」でようやく実現!
さらに「ザ・キャラクター」につながる物語という前評判も聞き、これは観なくてはなるまいと、先行予約にエントリーしたが抽選にはずれ、一般予約でなんとかGET。先行予約で遠征を決めていたかずりんさんの観劇日にあわせてとれたので、観劇前に玲小姐さんと池袋でランチ会。
その後、観劇組は東京芸術劇場へ。写真は入口の柱に巻きついたポスター。「当日券あります」は、公の劇場として当日券枠をしっかりつくるという方針と推測。
2006年のNODA・MAP公演「ロープ」のプログラムに掲載された対談で、勘三郎のNODA・MAP公演出演が約束され、ずっと楽しみにしていた。その予定よりは1年半遅れとなったが今回のNODA・MAP番外公演「表に出ろいっ!」でようやく実現!
さらに「ザ・キャラクター」につながる物語という前評判も聞き、これは観なくてはなるまいと、先行予約にエントリーしたが抽選にはずれ、一般予約でなんとかGET。先行予約で遠征を決めていたかずりんさんの観劇日にあわせてとれたので、観劇前に玲小姐さんと池袋でランチ会。
その後、観劇組は東京芸術劇場へ。写真は入口の柱に巻きついたポスター。「当日券あります」は、公の劇場として当日券枠をしっかりつくるという方針と推測。
初めて小ホールに入って着席してみて、なんと小さい劇場かと感心。新国立劇場の小ホールより狭いと思う。
そこで繰り広げられる1時間20分の3人芝居は・・・・・。
【表に出ろいっ!】
作・演出:野田秀樹 美術:堀尾幸雄
以下、宣伝文句から概要を引用。
アミューズメントパークを偏愛する父役の中村勘三郎、アイドル系を偏愛する母役の野田秀樹、さらにファーストフードを偏愛する娘役(ダブルキャスト)の太田緑ロランス、黒木華。そんな3つの偏愛が混在する、鎖でつなぎ合わないと成立しないほど、バラバラな家庭の物語。
勘三郎は能楽師という設定で冒頭にそれらしい稽古風景があるのだが、舞台装置は家の壁から床からカラフルな色の縞模様。衣装もカラフルで侘びさび文化の能楽を最初からパロっている。
勘三郎のディズニーランド好きは有名で世界のそれを制覇しているらしい。だからそれも踏まえた当て書きの設定。野田秀樹のおばちゃん役というのはその高い声もスレンダーな身体を生かしてぴったりで出てくるだけで可笑しくて喜劇的。その母だけが最初からアイドルグループ「ジャパニーズ」のコンサートに出かけることをかなり前から家族に伝えていて、夫に食事を提供するという役割を果たしたら出かけようとする。
それを夫が急に仕事が入ったからと留守番を強要。そこでいがみあいが始まると娘が入ってきて、ファーストフード「クック」の景品付きメニューGETのための友達と順番を決めての行列のために出かけるという(そういえば私も大晦日に「ウェンディーズ」最終日で行列したっけ)。そこで留守番を誰がするかを強要しあうバトルが始まる。
留守番が必要な理由は、飼い犬のシベリアンハスキー(?)のピナ・バウシェが出産しそうだから。激しい激しい理性も吹き飛ぶようなバトルとなるのだが、こんな理由だったら、かかりつけの獣医さんにでも頼み込んで預けて3人で出かけてしまえばいいのにと私などは思ってしまう。その違和感は抱きつつ、愛犬家というのは感覚が違うのかもしれないと割り切ることにする。
ダブルキャストの娘役は黒木華さんだった(「ザ・キャラクター」のアンサンブルで初舞台とのこと。小柄な夫婦の娘のわりには大柄だったが、素朴で素直な若い学生さんという感じがして好感がもてる。
父の外出理由は仕事ではなく東京ディスティニーランドのパレードの内容が変わる最終日を観に行くというものだったことがバレる。3人はそれぞれの「偏愛」への思いを熱く語り、他の「偏愛」をこきおろし、自分の方がどれだけ素晴らしいかを主張し、抜け駆け阻止のためのバトルが過熱していく。途中で突然一人に味方して攻撃対象を残り一人に絞ったりするご都合主義作戦もありというように戦況はうねって変化する。
勘三郎は変な鬘を振り回して歌舞伎の毛振りもどきまで見せるし、野田秀樹は細身のキックで勘三郎を階段で転ばせる。口喧嘩だけでなくヒートアップした親子の喧嘩は身体をはったドタバタ劇そのもの。犬のために用意した鎖で相手を外に出さないために縛り付けあうという極限の行動までいきつく。
お気楽なドタバタ劇は、人間やそのグループや国家などがそれぞれのこだわりを主張して争う人間社会に重なって見える。お互いを牽制しあって滅亡への道をたどっていく。それを風刺しているように思える。
ところが娘の「クック」行列は嘘で、実は通っている書道教室の家元の予言「世界の終りの日」を弟子たちみんなで迎えるために教室に行くのだという告白から喜劇は一変。
井上ひさしが、面白い作劇の要素として指摘した「言葉遊び」と「○○実ハ××」という技術がここでも大活躍なのだが、今回の「実ハ××」はここで「ザ・キャラクター」につながるかと実にゾッとした。
娘は先に世界に絶望し、家元の教えに従って渡された「人魚の粉」を飲んで新しい世界に生まれ変わるという希望にすがっている。両親は毒だと言って必死に止めるが、娘は聞こうともせず、その「信仰」と両親の「ハマっているもの」がどう違うかと詰め寄る。
おいおい、明らかに違うだろうと私は言いたいが、この両親は言い返せない。「ハマっているもの」は心を癒やし元気にするものであって、絶望を救ってもらうために何もかも捨ててすがりつくものじゃないんだよ。そうか、言い返せないほど、投げ捨ててハマってるってこと?それはハマるというには度を越しているだろう。
粉を飲んで倒れた娘に両親は嘆き悲しむが、それは死んだフリだった。世界は終わらずにその信仰の嘘は暴かれたが、親子3人に渇き死に、飢え死にの危機が迫る。
この期に及ぶと、この危機的状況から助けてくれるなら娘の信じる神にもすがりたい、犬のおっぱいでも渇きを癒やしたいと、父のあがきは見苦しいこと限りない。
人間の愚かさ浅ましさをブラックコメディにして見せつける。
しかしながら、扉は開き、この家に外の光が差し込む。「希望の光」か?泥棒か??
泥棒でもいい、助けて~!!という幕切れ。
野田秀樹の人間社会への危機感のメッセージがここまで笑いにくるまれながら提示されるのは嬉しい衝撃だった。
さらに、犬ではあれ子どもが生まれるということへの希望、どんなきっかけでも危機的状況を抜け出せるということがあるという希望。生きていく中で希望というものを捨てないことが大事ということを感じ取った。(深読みしすぎかもしれないが)。
野田秀樹は奥が深いなぁとつくづく感心。先日見た大竹しのぶのドキュメンタリー番組で二人の関係についても語られていたが、この二人の別離は正解。野田秀樹、今の結婚生活と子どもを持ったことがよりよい作品に結実していると思う。これからもしっかり観ていこうと決意している。
そうそう、ピナ・バウシェという名前は昨年亡くなった有名なダンサーさんの名前。なんでこの名前?と考えたが、おそらく犬の鳴き声「バウバウ」からのパロディだろうと推測。亡くなっているからまぁいいけれど、失礼ぎりぎりのラインじゃない?野田さん(笑)。