ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

08/03/22 スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」!

2008-03-23 23:59:41 | 観劇

前回のスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」の感想はこちら
今回、私が観た公演の主な配役は以下の通り。
小碓命後にヤマトタケル/大碓命(ダブルキャスト):段治郎で
タケヒコ(ダブルキャスト):右近で
ヘタルベ(ダブルキャスト):猿紫で
兄橘姫/みやず姫:笑也 倭姫/帝の使者:笑三郎
弟橘姫:春猿 老大臣/尾張の国造の妻:寿猿
ヤイラム/伊吹山の山神:猿弥 皇后/伊吹山の姥神:門之助
帝(ダブルキャスト):猿弥で

3年ぶりに「ヤマトタケル」が演舞場に帰ってきた。ダブルキャスト制はタケルとタケヒコの2役からヘタルベと帝もそうなって4役へ。これからもこういうのが面白いと思う。右近主演の公演も観なくてはと思ったが、今月は記録映画「歌舞伎役者 十三代目片岡仁左衛門」6本全部を観ることを優先してしまった。演舞場で2ヶ月やってくれれば3月と4月で両方観ることができたんじゃないかと勝手なことを書いてみる(^^ゞ
3年前の公演は初演からはかなり削り込んだバージョンだったが、今回は元の脚本に戻したという。前回も一回、今回も一回だけの観劇だからどこがどう違うかについてはあまりわからなかったが、最後にタケルが伊吹山の山神の化身の白猪に噛まれた傷が悪化して死の床についている場面が大きく違っていることには気がついた。父帝の夢の場面、鱗模様の下着に鳥のデザインが入った上着で寝込んでいる場面など、前回とは違うように思えた(記憶がいい加減かもしれませんが)。
ミュージカルの「レ・ミゼラブル」が短縮バージョンになって、各場面から少しずつ台詞がカットされてしまい、ストーリーは通るのだが私には深い味わいがなくなったように思えた。今回の上演で猿之助が元のバージョンに戻して欲しいと強く要望したというのも、梅原猛とともにじっくり練り上げた脚本へのこだわりと、それを強く主張できるくらいに気力体力が回復されたためだと思った。

梅原哲学が前回よりも丁寧にきちんと伝わってきたと思う。大和朝廷の支配が全国に及ぶということは、熊襲や蝦夷といった土着の勢力をつぶしながら、それぞれの文化圏に住む人々の誇りもつぶしながらのことだったということが明確に伝わってきた。
段治郎の小碓命は、素直でおっとりとしていて思慮深くない王子という造詣がいい。兄の大碓命と違って父の後妻の皇后の陰謀にも気づかないし、気づいても認めたくないという現実逃避の姿勢も垣間見える。海神への貢物として入水して死んだ弟姫を悼みながらも、すぐに気に入ったみやず姫を后に迎えるというあたりも、育ちのいい王子の脳天気さも納得できてしまうキャラになっていた。はずみで兄を殺してしまったことを父である帝に許されたい、命令に従って成果を上げたことを誉められたい一心で戦っている。叔母の倭姫をはじめ、出会う女たちが放っておけない魅力のある男というのも美味しい人物設定だ。そういう女たちの助けや支えで戦っていく中で、敵からも新しい視点を得て少しずつ成長していくという物語に思えた。

右近のタケヒコは安心して観ていられたし、大抜擢の猿紫のヘタルベが初々しい美少年なのもよい。この二人に支えられてのタケルの長征だ。ふと気がつくと場面によって衣裳が変わっていってもタケヒコには蝶のデザイン、ヘタルベには蝙蝠のデザインが使われていたりして、鳥のデザインのタケルとともに空を飛ぶ生き物というイメージでデザインされたんじゃないかなぁと思い当たる。

猿弥の帝も貫禄があってよい。帝と皇后、伊吹山の山神と姥神という敵対関係の両方の夫婦を同じく門之助とコンビを組んでいるのが面白い配役だと思った。猿弥はヤイラムも入れて3役の大活躍。動きもいいし台詞回しもいい。澤潟屋の貴重な存在だ。

女形の3人もそれぞれ魅力炸裂だった。笑也は容姿も台詞回しもスーパー歌舞伎の立女形にふさわしい。ここまできりっとした女の役は純歌舞伎には少ない。兄姫の落ち着いて気丈な女、みやず姫のおきゃんな娘の両方が際立っていた。
笑三郎の倭姫は甥の小碓命を女としても憎からず思っていたのだろうとその大人の女の可愛さが濃厚に漂っていていい。
春猿の弟姫は、姉の夫を愛してしまい、その姉よりも強い愛を死を持って示したことで気高く死んでいくという、魔性的な愛の激しさを秘めた可愛い女ということでよりバージョンアップ。玉三郎の指導で「夜叉ヶ池」で主演をつとめてさらに大きくなっている。

最後にタケルの墳墓の塚がくずれて白鳥になって飛び立つ宙乗りの場面の音楽が謡いになっていることが、今回特に新鮮に思えた。「天駆ける心、それが私だ」という台詞の具現化した衣裳といい、翼をはためかせての宙乗りといい、この場面は魅惑的で幸福感に酔いしれることができる。しあわせだなぁ。
段治郎のタケルは前回よりもさらに主役としての自信にあふれ、それなのにクセがない素直なニンが好ましい。やっぱり贔屓度高いなぁと自覚(^^ゞ

写真はこの公演の公式サイトよりチラシの画像。

終演後は、玲小姐さん、かつらぎさんと充実したおしゃべりタイム。観劇後に語り合える友がいる幸せもかみしめる。