八月納涼歌舞伎の第三部は「南総里見八犬伝」。子どもの頃に少年少女版の本を読んだのとNHKの人形劇が懐かしい。♪仁義礼智忠親孝悌、いざとなったら玉を出せっ、力があふれる不思議な玉を~♪のフレーズを思い出す。
舞台では澤潟屋での上演も観ていないのでこの間ずっと再演を待っていたのだが、今回は歌舞伎座での上演となり時間も短いし、どんなものかと思っていた。そうしたら「発端 房州富山山中より 大詰 馬加館対牛楼まで五幕十一場」となっていて澤潟屋版と比べるとダイジェスト版らしいなとわかった。
あらすじは長いので書かないが、配役は以下の通り。
犬山道節/網干左母二郎 三津五郎
伏姫/山下定包 扇雀
浜路/犬村角太郎 孝太郎
犬塚信乃 染五郎
犬川荘助 高麗蔵
犬江親兵衛 松也
荘官大塚蟇六 源左衞門
滸我成氏 錦吾
簸上宮六/馬加大記 亀蔵
金碗大輔 秀調
犬飼現八 信二郎
犬田小文吾 弥十郎
犬坂毛野 福助
こういうダイジェスト版ではストーリーを楽しむというよりも八犬士などの主要キャストの見せ所を楽しめばいいと思ったので、そのあたりを中心に書くことにする。
人形劇で登場の度に「さもしい浪人、網干左母二郎」と紹介されていたが、三津五郎の左母二郎、実にカッコイイ!「八犬伝」からは円塚山の大きな石の前で足を組んだところの写真に絞って一枚買ったくらいだ(後は写真入の筋書で我慢)。初役でつとめる犬山道節との早替わりも嬉しくなる。六法を踏んでの花道の引っ込みも初めて観たが、小ぶりでも動きが美しいので満足度が高い。昨年の弁慶の代役もさぞ立派だったんだろうなと想像する。座頭として立派な存在感を示していたと思う。
染五郎犬塚信乃も正統派の二枚目で水際立って美しい。孝太郎の浜路とはコンビの相性もいい。澤潟屋の時の上演で信乃をつとめた信二郎の犬飼現八は実に線も太く立派。このふたりの芳流閣の立廻りも観ていて嬉しい(単にミーハー)。
弥十郎の犬田小文吾が舟に落ちて流れてきた二人を救うのだが、がっしりした弥十郎を加えて三人が揃うと実にバランスがよくてうっとりする。
ただひとり女装の福助の犬坂毛野は女田楽の朝毛野になりきっている時と他の犬士の前で男に戻る時の演じ分けがクッキリしていて私には好ましい。男声で外股歩きすると客席にも大うけだった。好きだな~こういうの。山下定包の邸で京蔵としのぶと共に白拍子の装束で踊る場面も美しく大ご馳走。「島の千歳」の時の狩衣をこの場面で着ていたのではないかと思う(紫色の狩衣姿が気に入って写真を買ったのでよく覚えていたのだ)。
高麗蔵はPARCO歌舞伎で立役の方がいいと思ったので、今回の額蔵実は犬川荘助もなかなかよかった。
孝太郎の犬村角太郎と松也の犬江親兵衛はほとんど見せ場がないが、勢揃いのみの登場ということもあるようなので今回はちゃんと台詞付。途中のだんまりや最後の全員揃うところも実に8人の個性の違いがきちんと出て◎。松也の安西景連の亡霊役も背が高く堂々としていた。納涼歌舞伎に初参加とのことだが、こういう若手の座組の中にもどんどん出てくれるようになるだろうなと思った。まずは浅草歌舞伎あたりかな。
亀蔵も二役を脇役として独特の個性的な存在感で演じてくれる。出てくるだけで期待感が高まるのもこの人ならでは。浜路に横恋慕する簸上宮六の下卑た感じと主人を裏切って山下定包をかついで栄達を図ろうとする馬加大記という敵役の二役だ。
最後に扇雀の二役こそサプライズキャストだった。冒頭の毅然とした伏姫と最後の国崩しの悪役・山下定包だ。女方でない扇雀は二枚目しか観たことがなかったが、こんな役もちゃんとできるんだなあと感心した。
秀調、源左衞門、芝喜松、錦吾などの名脇役も揃って芝居の見ごたえ十分。タテ師は三津之助ということだったが芳流閣の立廻りは梯子を使った立ち回りが面白かった。がんどう返しという装置も弁天小僧以来3回目だったが歌舞伎の醍醐味を感じさせてくれた。
最後は山下定包を八犬士が追い詰めながらも決着はつけずに場を改めてと誓い合っての「絵面の引っ張りの見得」で幕になるが、こういう錦絵のような終わり方に快感を感じるようになってしまった私。「昔なら変だよ~」と思っただろうけれど、そういうお約束だとわかれば割り切って「綺麗~」と満足して打ち出されてくればいいのだとわかってもう慣れてしまった。
初めての「八犬伝」だったし、なかなかよかったと思う。しかしやはり短時間で11場もあるという場面転換の多い舞台だったのでじっくり観るという感じはなかった。一度じっくりとスーパー歌舞伎的に澤潟屋の若手の八犬士を観てみたい気持ちがさらに強まった。
写真は今月のチラシの画像を松竹のウェブサイトより。
八月納涼歌舞伎①「吉原狐」の感想はこちら
八月納涼歌舞伎②「慶安太平記」「近江のお兼」の感想はこちら
八月納涼歌舞伎③「たのきゅう」の感想はこちら
舞台では澤潟屋での上演も観ていないのでこの間ずっと再演を待っていたのだが、今回は歌舞伎座での上演となり時間も短いし、どんなものかと思っていた。そうしたら「発端 房州富山山中より 大詰 馬加館対牛楼まで五幕十一場」となっていて澤潟屋版と比べるとダイジェスト版らしいなとわかった。
あらすじは長いので書かないが、配役は以下の通り。
犬山道節/網干左母二郎 三津五郎
伏姫/山下定包 扇雀
浜路/犬村角太郎 孝太郎
犬塚信乃 染五郎
犬川荘助 高麗蔵
犬江親兵衛 松也
荘官大塚蟇六 源左衞門
滸我成氏 錦吾
簸上宮六/馬加大記 亀蔵
金碗大輔 秀調
犬飼現八 信二郎
犬田小文吾 弥十郎
犬坂毛野 福助
こういうダイジェスト版ではストーリーを楽しむというよりも八犬士などの主要キャストの見せ所を楽しめばいいと思ったので、そのあたりを中心に書くことにする。
人形劇で登場の度に「さもしい浪人、網干左母二郎」と紹介されていたが、三津五郎の左母二郎、実にカッコイイ!「八犬伝」からは円塚山の大きな石の前で足を組んだところの写真に絞って一枚買ったくらいだ(後は写真入の筋書で我慢)。初役でつとめる犬山道節との早替わりも嬉しくなる。六法を踏んでの花道の引っ込みも初めて観たが、小ぶりでも動きが美しいので満足度が高い。昨年の弁慶の代役もさぞ立派だったんだろうなと想像する。座頭として立派な存在感を示していたと思う。
染五郎犬塚信乃も正統派の二枚目で水際立って美しい。孝太郎の浜路とはコンビの相性もいい。澤潟屋の時の上演で信乃をつとめた信二郎の犬飼現八は実に線も太く立派。このふたりの芳流閣の立廻りも観ていて嬉しい(単にミーハー)。
弥十郎の犬田小文吾が舟に落ちて流れてきた二人を救うのだが、がっしりした弥十郎を加えて三人が揃うと実にバランスがよくてうっとりする。
ただひとり女装の福助の犬坂毛野は女田楽の朝毛野になりきっている時と他の犬士の前で男に戻る時の演じ分けがクッキリしていて私には好ましい。男声で外股歩きすると客席にも大うけだった。好きだな~こういうの。山下定包の邸で京蔵としのぶと共に白拍子の装束で踊る場面も美しく大ご馳走。「島の千歳」の時の狩衣をこの場面で着ていたのではないかと思う(紫色の狩衣姿が気に入って写真を買ったのでよく覚えていたのだ)。
高麗蔵はPARCO歌舞伎で立役の方がいいと思ったので、今回の額蔵実は犬川荘助もなかなかよかった。
孝太郎の犬村角太郎と松也の犬江親兵衛はほとんど見せ場がないが、勢揃いのみの登場ということもあるようなので今回はちゃんと台詞付。途中のだんまりや最後の全員揃うところも実に8人の個性の違いがきちんと出て◎。松也の安西景連の亡霊役も背が高く堂々としていた。納涼歌舞伎に初参加とのことだが、こういう若手の座組の中にもどんどん出てくれるようになるだろうなと思った。まずは浅草歌舞伎あたりかな。
亀蔵も二役を脇役として独特の個性的な存在感で演じてくれる。出てくるだけで期待感が高まるのもこの人ならでは。浜路に横恋慕する簸上宮六の下卑た感じと主人を裏切って山下定包をかついで栄達を図ろうとする馬加大記という敵役の二役だ。
最後に扇雀の二役こそサプライズキャストだった。冒頭の毅然とした伏姫と最後の国崩しの悪役・山下定包だ。女方でない扇雀は二枚目しか観たことがなかったが、こんな役もちゃんとできるんだなあと感心した。
秀調、源左衞門、芝喜松、錦吾などの名脇役も揃って芝居の見ごたえ十分。タテ師は三津之助ということだったが芳流閣の立廻りは梯子を使った立ち回りが面白かった。がんどう返しという装置も弁天小僧以来3回目だったが歌舞伎の醍醐味を感じさせてくれた。
最後は山下定包を八犬士が追い詰めながらも決着はつけずに場を改めてと誓い合っての「絵面の引っ張りの見得」で幕になるが、こういう錦絵のような終わり方に快感を感じるようになってしまった私。「昔なら変だよ~」と思っただろうけれど、そういうお約束だとわかれば割り切って「綺麗~」と満足して打ち出されてくればいいのだとわかってもう慣れてしまった。
初めての「八犬伝」だったし、なかなかよかったと思う。しかしやはり短時間で11場もあるという場面転換の多い舞台だったのでじっくり観るという感じはなかった。一度じっくりとスーパー歌舞伎的に澤潟屋の若手の八犬士を観てみたい気持ちがさらに強まった。
写真は今月のチラシの画像を松竹のウェブサイトより。
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