ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/08/13 八月納涼歌舞伎③「たのきゅう」その意気やよし!

2006-08-26 23:58:14 | 観劇
八月納涼歌舞伎の第一部後半の新作「たのきゅう」。大阪の小劇場で活躍しているわかぎゑふが初めて歌舞伎に書き下ろすという話題作で、彼女の作品自体初見になるので楽しみにしていた。

わかぎゑふは家族に連れられて子どもの時から歌舞伎に馴染み、高校生時代から三津五郎(当時は八十助)の追っかけだったという。夜行バスで東京の歌舞伎座までしょっちゅう観にきて、せっせとファンレターを送った。それを面白い手紙をくれる子だと三津五郎は思っていたらしい。自分も芝居を始め、紹介されて楽屋にも顔を出すようになったのだという。三津五郎も彼女の芝居を極力観てきたということで強い信頼関係で結ばれているようだ。ずっと歌舞伎を書いて欲しいと頼んできていたのが急遽実現。民話から落語になっていた「田能久」をもとにした音楽を若手がつくっていてそれを三津五郎が舞踊劇に仕立てようと思いつき、脚本を彼女に依頼。三津五郎が初の座頭をつとめる八月納涼歌舞伎の目玉となったのだ。

まずは噂のポスターに驚く。たのきゅう姿の三津五郎の顔のアップと化けた扮装の写真が何通りか載っているのだが、ウインクときたもんだ(ピントが甘いけれど写真を見てください)!まいりましたm(_ _)m

あらすじは以下の通り。
徳島の田能村に住み、芝居の一座の花形役者・久兵衛(三津五郎)は「たのきゅう」と呼ばれ、一座はとんとん踊りが人気を博している。旅先から病気の母の見舞いの知らせに夜のうちにけんきゅう(巳之助)だけを連れて村に向かう。山越えの際、人々がおそれる年老いたおろち(染五郎)がひと飲みにしようとやってくる。おろちは名前を尋ねらるので「たのきゅう」と答えると「たぬき」と勝手に聞き違える。
「たぬき」であれば化けてみせれば飲み込まないでやると言われ、たのきゅうは芝居の衣装を使って次々に「化けて」みせる。腹鼓も所望されるがに太鼓を叩かせてとんとん踊りを見せて切り抜ける。明日も化けて見せるように言い、その約束としてお互いの苦手を教えあおうという。おろちは煙草のヤニだといい、たのきゅうは金と言う。
助かって村に着いたたのきゅうは母を見舞い、元気になった母や追いついてきた一座の仲間、村人たちに頼んで煙管のヤニを集めておろちを退治する。おろちはのたうち回りながらもたのきゅうを絞め殺そうとする。一寸法師役のぽんきゅう(小吉)が小道具の針の剣を渡しおろちの眉間に突き立てると最後の力を振り絞って小判をふらして逃げていく。
その金を一座が芝居小屋を立てろということで神がくれたのだと得心し、舞台は総踊りになって幕。劇中で初舞台の小吉と名題昇進の三津右衛門の口上も入り、まさにメデタシメデタシの舞台。

若い女性脚本家の歌舞伎デビュー作品としてこういうお伽話はぴったりだった。三津五郎の魅力が活かされる本当にほのぼのした話。舞踊劇というだけに「化けて」みせるところもおかしみたっぷりの舞踊仕立てとなっている。
染五郎の老いたおろちがまたユーモラス。たのきゅうの女子に化けた姿に「萌え~」と身をよじらせたり、たのきゅうの扮装は鬘も羽子板絵のようなつくり、衣装も前半分になっているのを「狸は頭に木の葉を乗せて化けるというが木の葉が欠けていたのじゃろう」とこれも勝手に納得してくれる。そしてふたりでさりげなく下ネタ炸裂させたりもしているのだが、染五郎がそれにうなづくとこちらも勝手に納得してしまうところもあって可笑しいのなんの。いつもの二枚目がここまで喜劇味を出すから魅力的で、どちらかというと地味な三津五郎と補完しあって相乗効果が出ていて感心した。ふたりの掛け合いの他愛のない楽しさが楽しめた。

金井勇一郎の舞台装置も変わったものだった。盆の上に円錐の切ったような形の大きな台地になっていてその周りに小さい芝居小屋、おろちの住む山や母親の住む家がミニチュアで配置され、盆を回して場面を切り替える。台地の上で踊ったり、おろちが本性をあらわしてのプラスチックの薄板を切って伸ばしたような蛇体をうねらせたり、最後に歌舞伎座のミニチュアが出てきたりした。面白いことは面白かったのだが、ちょっと短期間で練り上げずに用意したような感じもしてしまった。

猿之助、勘三郎と続けてきた新しい歌舞伎の取り組みが大きな流れになってきていることを今月も感じた。歌舞伎というところは座頭がそういう意欲を持っているかどうかで大きな変化が生み出せるのだということがよくわかる。三津五郎も歌舞伎座で初めての座頭をつとめたのだと思うが、その意気やよし!と応援したくなった。しかし若い女性に新企画を任せたということであらためて三津五郎という人を見直したということも書いておこう。

八月納涼歌舞伎①「吉原狐」の感想はこちら
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