ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/03/05 PARCO歌舞伎『決闘!高田馬場』ああ面白かった!

2006-03-06 00:26:34 | 観劇
全席12000円という強気のお値段にもかかわらずすぐに完売となったPARCO歌舞伎!『決闘!高田馬場』。平日夜が先に完売となり初日直後の日曜日の夜の部の最後列しかとれなかったが、とれただけでよかったという状況。
三谷幸喜の作・演出による舞台で、1997年にやはりPARCO劇場の三谷作品に出演した市川染五郎に歌舞伎を書こうと約束したことから実現したことらしい。大河ドラマ『新撰組!』の他には三谷幸喜の作品はあまり馴染みがなく、今ヒット中の映画『有頂天ホテル』の販促のための2夜連続での映画のTV放映『みんなの家』『ラヂオの時間』で練習しておいた。

開演直前に走りこみ、まず囃子方が舞台奥の壇上の黒い布の奥にいるのを確認。それがいきなり♪「パパパ、パパパ、パパパ、パパパ、パルコ歌舞伎、けんざん(見参)!」♪でエエ~ッと驚く。♪「歌舞伎座、国立なんのその、コクーン歌舞伎を斜に見て....パパパ、パパパ、パパパ、パパパ、パルコ歌舞伎、見参!」♪とか長唄さんたちが鳴り物入りで歌うんですよ、ヤラレマシタ。

PARCO劇場って市村正親のひとり芝居とかで来たことがあるけれど、とにかく舞台が小さい小さい。盆回しはできるようになっていてその上でパネル状の長屋の壁が黒衣さんたちが表裏を入れ替えたりする場面転換はうまい。
なんで人気が出そうな舞台をわざわざPARCO劇場でやるのかなって疑問に思っていたけれど、三谷幸喜が演出だけじゃなくて脚本もつくるわけだから慣れている大きさの舞台じゃないとうまくイメージできないんじゃないかなって勝手に思いあたった。後で買ったパンフレットによると1ヶ月の稽古期間の半ばで台本が半分しかできてなかったらしい。確かに役者を想定してあて書きをするタイプらしいから初めて一緒に仕事する役者の方の役は書きにくかったんだろう。稽古でキャラをつかみながら書きすすめたらしい。以下、お話のあらすじを。

登場した主人公の中山安兵衛(染五郎)は情けない男になっていた。2年くらい前から酒に溺れている。その男は長屋の人たち(勘太郎、高麗蔵、宗之助、萬次郎、橘太郎)に愛され支えられていた。そこにたずねてきた同じ道場で昔ライバルだった小野寺右京(亀治郎)はこの状況を理解しかねた。次にたずねてきたのは伯父(松本錦吾)。そこで長屋の人たちがなぜ安兵衛にそこまで恩義を感じているのかということがひとりひとりのドラマとして語られる。こういうところに三谷作品らしさが滲む。その伯父は実は自分が決闘を申し込まれており、死後を頼むという手紙を残して帰ってしまう。その手紙を読んだがグズグズしている安兵衛を右京が酒に溺れた原因が自分にあることを言い当てて立ち直りを迫る。さらに長屋連中の応援で立派に“高田馬場の決闘”に駆けつけるまでを描いた人間ドラマ。

『封印切』の忠兵衛でもそう思ったが染五郎は情けない男がよくハマル。今回も実に八の字眉がよく似合う。敵方との二役を冒頭から披露しなよなよした変なキャラで笑わせる。亀治郎は雰囲気を読めないマイペースの濃いキャラがこちらも実によくハマル。ひとりで目をむいたとっても誇張したクサイ芝居をしてくれてそれが実に可笑しな雰囲気をかもし出す。安兵衛が先々婿入りする堀部家の娘役も歌舞伎の常にはない押しの強いキャラだし、伯父の決闘相手は気弱でビクビクしているしと三役の早変わり。スーパー歌舞伎のパロディみたいだ。
大工役の勘太郎も安兵衛に婿入りをせまる堀部弥兵衛の爺役との二役。最後の死ぬ場面では横顔が勘三郎そっくりで感心した。高麗蔵の博打好きの男とその女房の宗之助も普段の役では見たことのないはじけっぷりが気に入った。
一番歌舞伎らしさを体現していたのが萬次郎のお梅婆さん。声も表情もしぐさも世話物の下町の婆さんそのもの。錦吾も他がみなおかしなキャラ設定の中でひとりまともな人物として存在してバランスをとっていた。
勘太郎の弟・七之助は出演していないのに彼がオカマっぽく演じたらと思うとそっくりなメイクと身体つきと動きで敵方キャラをつとめたのは澤村伊助かな?(→訂正:とおりすがりさんから坂東翔太さんだと教えていただきました。感謝m(_ _)m)

最後の高田馬場に向かう場面の転換では薄手のカーテンが右に左に行きかって、これって最近の野田秀樹の『贋作・罪と罰』のパロディかも。とにかく、すごいスピード感。
みんなの応援・犠牲によりもうすぐ高田馬場に到着!のところで終わり。
(ちょっと追記:安兵衛を裏切った又八って『ジーザス・クライスト・スーパースター』のユダのようだと思ってしまった。愛すればこそ憎しみが生まれ、最後はやはり愛情を確認しながら死んでいくのだ。)
ああ面白かった。でも後をひかない。こういう軽さが三谷幸喜ワールドだね。これもまあ歌舞伎といっていいでしょう。歌舞伎は本来、融通無碍のエンタメのはずだから。
写真は公演のHPより、チラシの画像。
追記:今回のプログラム、縦に開く綴じ方でとても読みにくいのが難点。いろいろあったせいもあるが、最後のブレヒト幕の説明までたどり着くのに何日もかかってしまった。アップしてからすぐご指摘をいただいたことに感謝m(_ _)m不織布の巾着袋が付いてくるのも面白いけれど結局場所ふさぎなんだよな~。