ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

05/04/01 勘三郎襲名披露公演連続アップ④4月歌舞伎座夜の部

2005-05-02 02:02:55 | 観劇
長文になってしまったので、何回かにわけて読んでいただいてもいいと思います。
『毛抜(けぬき)』
歌舞伎十八番の一つだが長らく上演が絶えていたのを明治42年に二代目左團次が復活し、昭和38年に十一代目團十郎が新脚本、新演出で初演し、現團十郎がそれを受け継いで家の芸にしているという。
小野小町の子孫の小野家での騒動という設定。当主小野春道(友右衛門)の館で悪い家老玄蕃(團蔵)と良い家老民部(権十郎)が対立している。勅使・桜町中将清房(海老蔵)が来て、旱魃が続くので雨乞い儀式を行うために小町の和歌の短冊を借り受けにきたとのこと。春道は息子春風(高麗蔵)に持ってくるように命じるが、すぐに持ってこないので民部が弟秀太郎(勘太郎)に持ってこさせるが結局中身は空だった。責めを負って切腹しようとする民部をとめて、詮議を命じて勅使のもてなしにたつ。そこへ小野家の息女錦の前の許婚文屋豊秀の家臣で主人公の粂寺弾正(團十郎)が登場。姫の病気で輿入れが延期になっているが、病気見舞いにやってきたのだ。玄蕃は姫の病気は業病なので婚約破棄と言い出すが、弾正は姫と対面の上で判断すると言う。錦の前(亀寿)が登場するが、薄衣を頭に被っている。玄蕃がそれをはぎとると髪の毛がドロドロの音とともに逆立つ。驚きながらも思案を始める弾正。春道・春風との対面を待つことにする。
その間のもてなしに、まず煙草盆を持って秀太郎がやってきて、その美しさに弾正は馬の稽古をつけてやるとベタベタと迫るがふりきられる。手持ち無沙汰に最近の若者と同様、顔のムダ毛を抜くため毛抜を使って床に置くと不思議や毛抜がぴょんぴょんはね踊るのでいぶかしがる。次に腰元巻絹(時蔵)がお茶を持ってやってきて、そなたも食べたいと迫るが「びびびのび~」と逃げられる。その後手にした銀の煙管は手を離してみても何も起こらず。思いついて小柄を抜いて置いてみるとはね踊る。
そうこうしているところへ、小原万兵衛(市蔵)という男が春風に会いにやってきて、以前奉公していた妹小磯が春風のお手つきになり帰されてきて難産の末に死んだという。その妹を帰せと言って無理難題をいう男に弾正は望みをかなえてやるとその場で書いた書状を渡す。友人である閻魔大王に小磯を娑婆へ戻すように書いてあり、万兵衛にそれを持って地獄へ行って来いと言う。逃げ出した万兵衛を手裏剣で討ち、偽者だと見破っていたことを明かす。本物の万兵衛は文屋の所領にいて小磯が殺されたこと、一緒に春風からの短冊も盗まれたことを聞いていたのだった。偽の万兵衛の懐からは短冊を取り出してみせ、姫の病も治してみせるという。
姫の頭に流行の櫛笄が差されていたのを外すと髪は逆立たなくなり、天井を槍で一突きすると磁石を手にした曲者が落ちてくる。櫛笄は鉄でできていたので磁石によって髪が逆立っていたのだと突き止められたのだ。その曲者にこの陰謀の張本人をききだそうとすると、玄蕃が曲者を斬ってしまってシラを切る。無事に輿入れがすすめられることになったので、春道は婿引出として家宝の名刀を弾正に預けるが、弾正は主人からの祝儀だとしてその刀で玄蕃を斬り、意気揚々と花道を引き上げる。
スーパーヒーローの役の人物がここまで美形の男女にじゃれつくとはびっくり。英雄色を好み、その上に両刀使いときている。この時代、いかに衆道が盛んだったかよくわかった。若衆歌舞伎も禁止になるわけだ。團十郎は『源氏物語』の帝と『お染の七役』で土手のお六のダンナ役しか観たことがなかったが、この役で初めて團十郎に強い魅力を感じた。時代物はいけますねえ。昼の部の押戻しもよかったけど、この役は力強さだけでなく愛嬌があってよい。初めて舞台写真を買ってしまった。勘太郎の若衆姿の美しいこと!これはその道の人にはさぞ美味しそうに見えるだろうと思ってしまった。一方、時蔵の腰元も年増女の色気がたっぷりでこれも美味しそう。「これはこれは面目次第もござりませぬ~」を繰り返しても可愛いからなにやってもゆるしちゃうという気分にさせる。また團蔵の悪家老の憎憎しさがいいから、弾正のヒーローぶりも目立つのだと思う。海老蔵の公家の黒い正装姿が美しかった~。初演の『源氏物語』の光源氏もこうだったんだろうな~と想像できた。明石以降の下がり眉メイクしか見ていないからなあ。

『口上』
七之助復帰第一日目の口上をききたくて幕見に並んだのだ。どんな口上かと待ちに待つと名乗りをしただけでものすごい拍手。お帰り~という温かい拍手。「父の襲名のこの場にたててありがたい」とか短かったがお辞儀の仕方など謙虚な態度で好感がもてた。続く兄勘太郎が「兄弟揃って精進していきたい」とかフォローする内容で口上。いい兄弟だなあと感心。個性のかなり違う子息たちだが中村屋はこれから勘三郎ともども面白くなるぞ~と期待が膨らむ。口上の間の後ろの襖絵は特別に日本画家の先生に描いていただいたとも勘太郎が紹介していた。時蔵が真女形の装束でなかったのが意外。初日らしく富十郎が緋毛氈の上に赤いカンニングペーパーを置いて熱弁をふるっていたのが可愛らしかった(20日に観た時はもちろんもうなかったけど)。左團次は「口上の爆弾男」の異名があるらしく、この襲名でも4種類の日替わりパターンがあるという噂だった。「先代は本当に嫌な爺だったが...」「私は実はホモでございまして...」の話を3月4月できいた。團十郎の口上の中で市川家と中村屋の関わりも少し勉強になったし、なかなか満足できた「口上」だった。
  
『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』
初演は明治21年というから江戸時代の作品ではない。三世河竹新七が講釈をもとに書いた世話狂言で縁切り物の代表のような作品。初代吉右衛門の当たり役ということで今の吉右衛門も持ち役にしているが、まずは勘三郎でと今月の演目の中で一番楽しみにしていた。
「序幕 吉原仲之町見染の場」←ここがまず見せ場
舞台が開幕前に本当に真暗になったのでワクワク。照明が一気に高い明度でつくとパァーっと明るく吉原仲之町、満開の桜の前。このメリハリがたまらない。花道から下野佐野の絹商人次郎左衛門と下男の治六が吉原見物に登場。カモにしようと近寄ってきた男の餌食になるところを引手茶屋亭主・立花屋長兵衛に助けられ、その助言に従って出直すことになり、花魁道中だけ見て定宿に引き揚げることにした。兵庫屋の傾城七越、九重の道中の後、人気絶頂の八ッ橋の道中が通りかかり、気がつかなかった次郎左衛門が八ッ橋にぶつかり、見上げてびっくり。花道近くまで来て振り返り、有名な「八ッ橋の笑み」を見せると次郎左衛門はもう放心状態、治六に声をかけられても「宿へ帰るのが嫌になった」と気もそぞろ。
「二幕目 立花屋、浪宅」
見染から半年、その間次郎左衛門は江戸に来るたびに八ッ橋の許へ通いつめている。田舎者で顔があばただらけということはあるが、「紀文以来のお客様」と大評判。八ッ橋は侍だった父の死後、中間だった権八(芦燕)に親判を頼んで勤めに出たのだが、その権八が八ッ橋を金づるにしている。次郎左衛門が八ッ橋を身請けするという噂に再度次郎左衛門に金の無心を頼みに立花屋にくるが、もういい加減にとあしらわれ、根にもった権八が八ッ橋の間夫に言いつけにいく。そこに次郎左衛門が絹商人仲間を誘ってやってきる。八ッ橋もやってきて仲のいい様子を見せて羨ましがる彼らに得意気になる。繁山栄之丞(仁左衛門)は勤めに出る前から八ッ橋と起請を交わした仲でずっと面倒をみてもらっているのだ。栄之丞は権八にあることないことたきつけられて腹を立て八ッ橋に談判に
行くことにする。
「三幕目 兵庫屋」
次郎左衛門たちは遣手部屋で座敷の支度が整うのを待っていると七越、九重が挨拶にきて馴染みぶりをみせている。そこで栄之丞たちの姿が次郎左衛門の目に入り、気にはなるが追いかけられない。廻し部屋で八ッ橋は栄之丞をもてなすが、身請話を勝手にすすめたので起請を返せと迫られる。権八も入ってきて事情がわかった八ッ橋はいろいろ言い逃れるが、疑いを晴らすためには次郎左衛門への愛想づかしをしなければならない事態に追い込まれる。次郎左衛門たちは八ッ橋部屋で先に杯を傾けていると遅れていた治六もやってきて相方の初菊(七之助)が引き合わされ、そこに八ッ橋が浮かない顔でやってくる。そして気分が悪いと言い出し、気遣いをする次郎左衛門に八ッ橋はいよいよ愛想づかしを始める。身請けは嫌だと言い出し、もう来てくれるなと言う。話がすすんでもう身請け話が公表される直前まできての愛想づかしに次郎左衛門も周囲もびっくりする。
立花屋のおきつ(秀太郎)は今になってそんな話は通らないといい、九重たちも仲をとりもとうと声をかける。治六は態度を豹変させた八ッ橋に腹をたててくってかかるが、次郎左衛門は「すっこんでいろ」という。皆から言われれば言われるほど八ッ橋はますます意固地になって「ええい、もう嫌じゃわいなあ」と声を荒げる。次郎左衛門は自分が田舎者の上に二目とみられぬ顔のためふられても仕方がないがそれなら何故初手から言ってくれなかったかと恨み言をいう。その時座敷を覗く栄之丞に気づき、八ッ橋に問い詰める。八ッ橋は栄之丞の名前まで明かして間夫ゆえの愛想づかしだと言い切って座敷を出て行く。しらけてしまった商人仲間は悪態をつくので治六は旦那を力づけてくれと頼むが座敷を変えると出て行ってしまう。残された次郎左衛門はおきつや九重にいったん国に帰ると告げる。九重が「また来てくれないと気がかりでありんすよ」と声をかけて気遣う姿が八ッ橋と対照的。
「大詰 立花屋二階」
愛想づかしから四ヶ月、皆その後の次郎左衛門を気にかけていたが、立花屋に一人やってきた次郎左衛門に見世の者たちはほっとして喜ぶ。申し訳が立たないと気がすすまないのに呼ばれた八ッ橋もなんとかやってきて恨む様子のない次郎左衛門の言葉に皆安堵したところ、次郎左衛門は八ッ橋と二人にしてほしいと頼む。ふたりになり次郎左衛門は八ッ橋に杯を渡しなみなみと酒を注ぐ。こんなに飲めないという八ッ橋の手を押さえて「この世の別れだ、飲んでくりゃれ」と言う。全てを察した八ッ橋が逃げようとすると着物の裾を踏みつけてとどめ、恨みを全て吐露し、よろついて逃げ足の遅い八ッ橋を掛け軸の箱に隠し持ってきた家宝の妖刀籠釣瓶で一刀のもとに斬り捨て、明りをもってきた下女(小山三)も斬ってしまう。「籠釣瓶はよく切れるなあ」とつぶやきながら籠釣瓶に見入って、幕。

とにかく八ッ橋の玉三郎の美しさといったらない。次郎左衛門の魂を奪うような「八ッ橋の笑み」ももうこちらも溜息が出てしまう。間夫の仁左衛門もこれは女は誰でも惚れてしまうようないい男。八ッ橋は気が優しいが3月の鰯売りのお姫様と違って優柔不断な女だと思った。それで人柄のよい次郎左衛門も憎からず思うし、腐れ縁の栄之丞も捨てられない。そこで起請を返せとまで詰め寄られたので付き合いの浅い次郎左衛門に愛想づかしをして楽になりたかったのだろう。次郎左衛門の顔も見られずに逃げるように去る八ッ橋にそう感じた。同じ傾城でも玉三郎はその性格の違いまでくっきりと演じ分けていたと思う。
勘三郎は不機嫌な八ッ橋への気遣い、愛想づかしをきかされての驚き、絶望、怒りなどの表情がすごかった。涙がにじみ、鼻水もすごいし、汗もすごい。もう感極まったところで「おいらん、そりゃああんまり袖なかろうぜ...」の有名な台詞に入っていく。その後自分のコンプレックスである容姿が抜群にいい栄之丞が間夫でそのために縁切りをされたことを知ったのだからもう地獄に落とされたような思いだったろう。そこで殺意が芽ばえたのではないか。ただしその殺意は彼本人だけで芽ばえたのではなく、妖刀籠釣瓶を持ってしまったことからきているというワンクッションおいた設定になっているようだ。このお話には前段があって籠釣瓶の由来などをきくとそういうことらしい。そういう設定ではあるが、八ッ橋を斬ったのはただ恨みを晴らすということだけではないと思う。自分も死罪になることを覚悟の上で、八ッ橋を殺して自分のものにしたかったのだと思いたい。八ッ橋もあの世では次郎左衛門を許してくれるような気がするのは私だけだろうか。
また、世話物で初めて段四郎を見たが主思いの治六の切ない思いが伝わってきた。富十郎・秀太郎の立花屋夫婦もいい。また地味だけれど優しさがにじみでていた九重の魁春が秀逸だと思った。七之助の初菊も可愛いし治六を必死でとめるところなどなかなかよかった。
暗い話ではあったが、見応えは十分でいろいろ考えながら帰宅したらそれはそれで楽しいものになった。私って変かしら。
  
写真は、勘三郎襲名のポスター。歌舞伎座の前にも大きな看板で出ていた。