パピとママ映画のblog

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欲望のバージニア ★★★.5

2013年09月16日 | アクション映画ーヤ行
シャイア・ラブーフ、トム・ハーディ、ジェシカ・チャステインら豪華キャストが共演し、アメリカ禁酒法時代に実際にあった復讐劇を映画化。1931年、バージニア州。密造酒ビジネスで名を馳せたボンディランド3兄弟の次男フォレストは、シカゴから来た女性マギーに心を奪われ、三男ジャックは牧師の娘バーサに恋をしたことから、兄弟の力関係に変化が起こり始める。一方、新しく着任した特別補佐官レイクスは高額の賄賂を要求するが、兄弟はこれを拒否。するとレイクスは、脅迫や暴力によって兄弟の愛する女性や仲間たちに危害を加えていく。その他のキャストにジェイソン・クラーク、ミア・ワシコウスカ、ゲイリー・オールドマン、ガイ・ピアースら。監督は「ザ・ロード」のジョン・ヒルコート。

<感想>オーストラリア生まれのジョン・ヒルコート監督の作品では、「ザ・ロード」(10)を観た。ヴィゴ・モーテンセン主演で映画化した、終末を迎えた人類の物語だったが、中々ヒューマンたっちでシリアスな映画でした。今作では、脚本と音楽はやはりオーストラリア生まれで、作曲家であり作家、脚本家、俳優と多彩な面を持つニック・ケイヴが担当している。
映画の舞台は題名にもある通り、アメリカ東部の州バージニアである。時代は禁酒法時代。禁酒法時代を描いた映画は、シカゴが舞台のケヴィン・コスナー主演の「アンタッチャブル」(87)が有名だが、バージニアというのが新鮮だ。この映画でのバージニアアはひどく田舎のように描かれているが、アメリカ合衆国の首都ワシントンの一部はバージニア州に含まれている。ちなみにバージニア州の州都はリッチモンドである。

映画は実際にあった話で、3人の兄弟を中心に展開していく。三人の職業はブートレッガー(密造酒製造者)である。この呼び名は、密造酒を入れたスキットルをブーツに隠したことから出てきたらしい。映画の中でも明かされる。
三人の兄弟の長男ハワード・ボンデュラントは、「俺たちは死なない」という信念を持ち、野獣のごとき怪力の持ち主だ。次男のフォレストも同様である。末っ子のジャックは二人の兄ほどの力はないが、友人のクリケットと新しい蒸留酒を開発し、そろそろ自分でも商売を始めようとしている。長男ハワードにはジェイソン・クラークが、次男のフォレストにはトム・ハーディ、末っ子ジャックにはシャイア・ラブーフと、三兄弟を演じている。

野望は大きいが小心もののジャックは、堅物の牧師の娘(ミア・ワシコウスカ)に一目惚れしているが、まったく相手にされない。もう一人都会からやってきた、ジェシカ・チャステインが三兄弟の店を手伝うことに。そして、次男のフォレストに恋をしてしまう。

バージニア州でもフランクリンなどという田舎はともかく、都会では狂犬と恐れられているフロイド・バーナーが顔を利かせていた。フロイドには、ゲイリー・オールドマンが扮して、中々渋い演技を見せている。

そんなところに新任の取締り官レイクスがやってくる。彼は兄弟に高額の賄賂を要求するが、次男のフォレストはそれをつっぱねる。そのことがレイクスの残忍な人格に火をつけることになるわけ。実在の人物をモデルとしたこのレイクスは、映画ではおめかしの潔癖症で、サディストのゲイとして脚色されている。
このレイクスを演じているのがガイ・ピアースで、彼の好演がこの映画を盛り上げている。「俺様は偉いんだ。カッペどもめが」と、これがあのガイ・ピアースかといった役作りを見せて熱演。ところが、足の悪い無垢なクリケットがレイクスにレイプ・殺害されてしまう。若い青年クリケットを演じているのは「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」でゴズリングの息子ジェイソンを演じたデイン・デハーン。

禁酒運動は、きつい労働の気晴らしでアル中になる夫たちに音を上げた妻たちが、牧師とともに組織化し、それは女性の権利獲得運動にまで発展し、この禁酒運動が行き過ぎた結果、1920~33年まで、禁酒法が法制化されたのである。
禁酒法は善意から出た運動が極端化するアメリカの傾向の典型だが、一方では貧しい南部の密造産業を活性化させた。その割り前を支払わない業者は、見せしめにリンチを受ける。この映画では、熱したタールをかけられ皮膚呼吸を奪われ殺された男が、その死体に羽毛をまぶされボンデュラント兄弟のポーチに放置される。

むろん黒人に対しては差別的で、映画の中でもその片鱗は描かれる。ところが自由黒人たちもまたフランクリン群へ逃れてきた歴史がある。映画の中で教会の儀式で、水に素足を浸して拭う「洗足式」という儀式が描かれている。調べてみると、この宗派では全身を水に浸す「浸礼」が罪の浄化法で、これは奴隷制廃止を徹底する北部の流儀から見れば欺瞞なのだ。ジャックが好きな牧師の娘に、汚れた足を洗われるのを拒むのは、それだけ彼が罪を犯したのを恐れているからだと思う。

クライマックスで、レイクスを殺しに行く長男ハワードと次男のフォレスト。拳銃で撃たれるフォレスト、そこへ遅れてやってきたジャック。激戦の末にクリケットの仇を撃つジャックだが、彼もレイクスに足を撃たれていた。最後は、いくら「俺たちは死なない」が口癖だったとはいえ、三兄弟が幸せに暮らしている風景が映し出されるのには驚いた。もう完全にフォレストは死んだと思っていたから。
禁酒法時代の密造ウィスキーは、極端な反権力と貧困、このダブルバインドから滴り落ちたエキスなのだろう。
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