映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「真昼のプリニウス」 池澤夏樹

2017年03月26日 | 本(その他)
人があるから、世界がある

真昼のプリニウス (中公文庫)
池澤 夏樹
中央公論社


* * * * * * * * * *

私はここまで来た。
この山に、この身に、この心に、何が起こるかを見に来た―。
浅間山頂の景観のなかに、待望のその時は近づきつつある。
古代ローマの博物学者プリニウスのように、噴火で生命を失うことがあるとしても、
世界の存在そのものを見極めるために火口に佇む女性火山学者。
誠実に世界と向きあう人間の意識の変容を追って、
新しい小説の可能性を示す名作。


* * * * * * * * * *

プリニウス・・・古代ローマの博物学者ですね。
ヤマザキマリさん&とり・みきさんのコミックで「プリニウス」というのがあって、
未読なのですが、なんとなく名前だけは気になっていました。
そんなおかしなつながりで読んだ本作。
もちろんストーリー中にプリニウスその人は出てきませんが、
でもそのプリニウスになぞらえた行動を
主人公である火山学者・頼子がとってしまうのです・・・。
しかも結末はなし!
「こ、ここで終わりですかい!!」と、
思わず著者に恨み言を言ってしまいたくなりますが。


本作中に、江戸時代に浅間山の大噴火を
かなり間近で体験した女性が綴ったという手記があります。
凄くリアルな描写で、私はすっかり怖くなってしまったのですが、
これを読んだ頼子もその文章に感じ入ってしまう。
それ以前に彼女は、
口から出た言葉やあるいは文章に書いた言葉が、
どうしても相手に正しく伝わらないことにいらだちを覚えていたのです。
それは受け取り側のせいばかりではなく、
自分の表現に問題があるのだろうかと・・・。
そこで、彼女は、その書き手の女性を自分の胸中において、問いかける。
―――どのようにして、体験と執筆の間にあるはずの隙間を埋めて、
こんなにも生き生きとした文章をかけたのか、と。


それに対する答え。

「書かれた言葉、話された物語は手で扱うことができます。
怖い体験そのものはただ一方的に受取るだけで、
お山が静まるのを震えながら待っているほか人にはできることがありません。
しかし、それをあとになってから言葉にすれば、
それは目の前にあって、掌に乗せることもできます。
とてもとても恐ろしかったけれども、
そこに書かれた以上には恐ろしくなかった、そういうことが言えると思います。」


つまり、書くことで山に勝ったのだと頼子は思う。
まさしく、物語るというのはそういうことなんだろうなあ・・・と、思った次第。


それから、易を見る男性が言うことも興味深いのです。

「あっちに世界があって、こっちに人がいて、
この人と世界の間で何か付き合いというか交渉というか、それが起こるのではない。
…人があるから、世界があると、こうは考えられんかな? 
人の目が向く先に景色が生じ、草木が生え、お日さんが光る。」


科学者である頼子の中で少しずつ何かが変わっていきます。
で、問題のラストですが、私はそこで火山の噴火があったりはしないと思うのです。
おそらく頼子にだけ意味のある何かが起こる。
あるはずのない花があるとか、いるはずのない鳥が飛んでくるとか・・・。
それは多分頼子のこれまでの人生の何かと関連し、連想を働かせる何か。
そして多分、壮伍との新たな関係に踏み出す・・・。
あまりにも少女趣味かな?
まあ、だからこそ、著者はそこまで書かなかったんですよ、
きっと。

「真昼のプリニウス」池澤夏樹 中央公論社
満足度★★★.5
図書館蔵書にて

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さよなら人類

2017年03月25日 | 映画(さ行)
お元気そうで、何より



* * * * * * * * * *

スウェーデンのロイ・アンダーソン監督による
「散歩する惑星」「愛おしき隣人」に続く3部作の完結編とのこと。
う~む、そう言われてもどれも見ていませんが、
でもこれだけ見ても全然支障ないと思います。


曰く、不条理コメディ。
主には、面白グッズを売り歩く冴えないセールスマンの二人の様子を描きます。
断片的にその他の人々のシーンも。
1シーン1カット。
カメラは固定されて、クローズアップも何もなし。
薄灰色の暗い画面の連続。
登場人物たちも皆無表情。
これを最後まで眠らずに見る自信がないなあ・・・などと思っていたら、
暗い画面から妙なおかしみが漂い始めます。



こんな暗い顔をして笑い袋を取り出されても、
買う気になるわけがない。
フラメンコ教師のセクハラまがいの指導に、
美青年は必死に堪えていたけれど耐えられなくなったらしい。

酒場では突然ミュージカルのシーンのようになるし、
カフェには、突如18世紀スウェーデン国王率いる騎馬隊が乗り込んでくる、
なんと乗馬のままで入ってくるのにはビックリ!

そして、終盤には衝撃の残虐シーンがあります。
(結局これは夢のシーンだったようですが)
いや、でもこれは人類が実際に行った歴史でもある・・・。



結局、何度も繰り返される電話のシーンが心に残ります。

「元気そうで、何よりよ・・・」

ろくに感情も込めず、人々は皆この言葉を繰り返すのですが、
つまりはこれが本作のテーマなのかもしれません。
生きにくいことばかりが多いこの世の中だけれど、
とにかく生きて、元気でいられるのなら、それでOKじゃないか・・・。



さよなら、人類 [DVD]
ホルガー・アンダーソン,ニルス・ウェストブロム
TCエンタテインメント


「さよなら人類」
2014年/スウェーデン、ノルウェー、フランス、ドイツ/100分
監督・脚本:ロイ・アンダーソン
出演:ホルガー・アンダーソン、ニルス・ウエストブロム

シニカル度★★★★★
満足度★★★.5
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世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方

2017年03月24日 | 映画(さ行)
ちびっこギャングのバイタリティ!



* * * * * * * * * *

ドイツの中央部、平凡で、何もかもが“平均的”な村と認定されたボラースドルフ。
そこへ消費者調査会社が新製品のモニター調査にやってきます。
商品調査に夢中になった大人たちは老人を邪魔者扱いし、
老人ホームに入れてしまいました。
村の子どもたちはまずい青汁フレークを食べさせられたり、
大好きなおじいちゃん、おばあちゃんがホームに入れられてしまったりするのが不満。
おじいちゃん、おばあちゃんをとりもどすには
村を“平凡”でなくすればいいのだと考えた子どもたちは、
「ハナグマ・ギャング団」を結成。
ハナグマのクアッチと共に、幾つかの奇抜なアイデアを実行しようとします。





無邪気で元気を通り越して破天荒な子どもたちの様子が、
あまりにも可愛らしくて、つい微笑んでしまいます。
・・・が、それだけの作品だったかも。
もちろん、過度な消費社会や老人をないがしろにする社会への
警鐘を込めた皮肉の意味もありますが・・・。
でもイチゴミルクのプールで泳ぎたいとはぜんぜん思わないしな。



しかしつい感じたのは、近年の日本の子どもたちに、
こんなふうなちびっこギャング的バイタリティが見られないなあ・・・ということ。
みな、ミニサイズの大人みたいだ。



まあそれにしても、この元気でユニークな発想に満ちた老人たち。
彼らに育てられた息子・娘(つまり本作の子どもたちのパパ・ママ世代)も
実はかなりユニークなはず。
だからこそ、こんなにやんちゃな子どもたちができる。
とすれば、実はこの村が最も「平均的」というのがそもそもの読み間違いなのではあるまいか。
人口や職種、年収の度合いという単なる数字のデータだけで
「平均」を決めてはいけない。
そこにある「風土」のようなものを考慮しなくては・・・。
などというつまらぬ感想でお茶を濁して
・・・おしまい。



「世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方」
2014年/ドイツ/83分
監督:ファイト・ヘルマー
出演:ノラ・ボーネル、ジャスティン・ウィルケ、シャーロット・ルービッヒ
子どもの元気度★★★★★
満足度★★.5
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絵本「レッドタートル ある島の物語」

2017年03月23日 | 本(その他)
島が語る物語

レッドタートル ある島の物語
池澤 夏樹
岩波書店


* * * * * * * * * *

どこから来たのか どこへ行くのか いのちは?
嵐の中、海に放りだされた男が小さな無人島に打ち上げられた。
必死に島から脱出しようと試みるが、
見えない力によって何度も島に引き戻される。
絶望的な状況におかれた男の前に、ある日、一人の女が現れた――。
詩情あふれるマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督初の長編アニメーションを絵本化。
池澤夏樹の言葉で物語る。


* * * * * * * * * *

先日、「児童文学の条件―子どもの本を書く時、作家は何を考えるか―」という
池澤夏樹さんの講座を拝聴する機会があり、
そのときにこの絵本を購入し、サインをしていただきました!
・・・というかこの日のために、
これまで読んだことのなかった池澤夏樹さんを読み漁っていたのです、実は。


(頂いたサイン)


で、私はスタジオジブリによるこのアニメーションはもちろん見ていますが、
こんな形で池澤夏樹さんも関わっていたということを、この日はじめて知った次第!!
「ある島の物語」という副題を考えたのは池澤氏だそうです。
またアニメの中のどのシーンをこの本に入れるのかということも検討したのだと
おっしゃっていました。


さて、このアニメにはセリフも解説のナレーションもないのです。
それでこの絵本では島が物語を語るという形になっています。
そのため、この本は実際のアニメよりも親切。
映画を見ただけではよくわからなかった部分が、
ちょっとだけ分かるようにできているのです。
といっても、これも解釈の一つにすぎないのかもしれませんけれど。


(アニメの画面に合わせて、変則的にタテ開きとなっています。)


例えば、はじめの方で男は筏を作って何度も島を脱出しようとします。
けれど、何ものかによって筏を壊されて失敗。
そのときに男はウミガメを見かけたものだから、
ウミガメが筏を壊したのだと思って怒るわけです。
けれど、この本によれば、実は男を島から出さなかったのは
島の意志であるように描かれているのです。


なるほど~、色々な考え方ができるんですね。
アニメを見た人でもこれは一読の価値があります。
でもやっぱりこれはあくまでもアニメの補助。
この本を見たらアニメを見なくていいということにはなりません。
ぜひ、アニメの方も御覧ください。


考えてみたら、南の島で起こる不思議。
これは池澤夏樹さん向きのストーリーなのでした。


→ アニメ「レッドタートル ある島の物語」

「レッドタートル ある島の物語」原作マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット
構成・文 池澤夏樹  岩波書店
満足度★★★.5
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コールドマウンテン

2017年03月22日 | 映画(か行)
南北戦争を生き抜く



* * * * * * * * * *

公開時に一度見たきりだったものを再視聴してみました。
そうそう、ジュード・ロウ目当てで見たのでしたが、
やっぱりいいんだなあ、これが。


南北戦争末期、コールドマウンテンの田舎町で
インマン(ジュード・ロウ)とエイダ(ニコール・キッドマン)は出会いますが、
すぐにお互い心惹かれます。
けれど、多くの言葉をかわす間もなく、インマンは徴兵され、前線に駆り出されてしまいます。
別れの熱い口づけを交わしたきりで・・・。

戦乱の最中、手紙もロクには届きません。
しかしかろうじて届いたエイダからの手紙に
インマンは郷愁の念にかられてしまうのです。
脱走兵は死罪という危険を犯し、
インマンは隊を抜け出して苦難に満ちた長い旅をはじめます。
脱走兵を狩る義勇軍に捕まったり、助けを装うものに騙されたり・・・
まさに命がけの旅。
ほんの一度口づけを交わしただけで、今はもう待っていてくれるとは限らないのだけれど・・・
インマンにとってエイダが故郷であり、故郷はエイダである。
そしてまたそんな中でも、インマンの力になってくれる人もいる、というところがやっぱり、いい。

私はふと、村上春樹のストーリーを思い出してしまいました。
失われた妻を求めて、死に物狂いで奮闘する話・・・。
結局は同じことなのかもしれない。
村上春樹はもっと心の中の葛藤を中心に描いているのだけれど・・・。


さて一方、エイダは牧師の娘で、いわゆるお嬢様です。
彼女もまた一身にインマンの帰りを待ち続けていました。
けれど父が亡くなり、他に身よりもなく生活に困窮していきます。
フランス語を話し、ピアノを弾き、刺繍をするけれども、
生活のために役立つことは何もできない。
そんなところへ、風変わりな同居人ルビー(レニー・ゼルウィガー)がやってきます。
ルビーは生活力旺盛な田舎娘ですが、
彼女に教えられてエイダは牧畜のことや農作物のことを身につけていくのです。
「私は女中じゃないから、自分のことは自分でしてね。」
と念を押すルビー。
女二人が農場を立て直していくところが、力強くなんとも頼もしい。


さて、そんなことでよれよれになったインマンが
ようやくコールドマウンテンに辿り着くのですが・・・。
そこからまたひと波乱。
なかなか惹きつけられるストーリーなのでした。


本作中でもずいぶん多くの人が命を失っていきます。
それは戦争の前線の人々ばかりではなく、
同じ南部の中でも脱走兵を匿ったことを咎められて処刑されてしまったり(つまりはリンチです)、
一般の人々もずいぶん悲惨な目にあった戦争なのでした。
けれども、生き残った人々は、生きることを諦めず、また前進を始める。
チョッピリ切なくまた、嬉しくもあるラストに癒やされるのでした・・・。

コールドマウンテン [DVD]
アンソニー・ミンゲラ
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント


「コールドマウンテン」
2003年/アメリカ/155分
監督:アンソニー・ミンゲラ
原作:チャールズ・フレイジャー
出演:ジュード・ロウ、ニコール・キッドマン、レニー・ゼルウィガー、ドナルド・サザーランド、ナタリー・ポートマン
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