パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

アイアンマン 3 ★★★★★

2013年04月30日 | アクション映画ーア行
マーベル・コミックの代表作を実写化した、人気アクション・シリーズの第3弾。アメリカ政府から危険分子と見なされた上に、正体不明の敵の襲撃を受ける正義のヒーロー、アイアンマン(トニー・スターク)の姿を描く。

前2作と『アベンジャーズ』に続いて主演を務めるロバート・ダウニー・Jrが、シリーズ最大級の危機に見舞われたスタークの苦悩を見事に体現。『ガンジー』『砂と霧の家』などのベン・キングズレー、『ロックアウト』のガイ・ピアースら、実力派が脇を固める。新たに開発される各種アイアンマンにも注目。

あらすじ:スーパーヒーローで編成された部隊アベンジャーズの一員として戦い、地球と人類を滅亡の危機から救ったアイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)。だが、アメリカ政府はスーパーヒーローが国の防衛を担うことを危険視するようになり、それを契機に彼はアイアンマンの新型スーツを開発することに没頭していく。そんな中、正体不明の敵によってスターク邸が破壊され、これまでのアイアンマンが全て爆破されてしまう。何もかも失ったスタークだが、人並み外れた頭脳を武器に孤独な戦いに挑む。(作品資料より)

<感想>3年前に公開された「アイアンマン2」は、正直ストーリー的にはまとまりを欠いた続編だったけど、今回の「3」ではそのへん問題点をしっかりと修正している。今作のヒーローたちは、スタークとペッパーとローディたちの物語。2015年の5月に全米公開が決定している「アベンジャーズ2」へ向けて、最初の土台作りとなる意味でも見逃せない映画ですね。

主人公のトニー・スタークは過去の2作では、国際的な軍事企業の社長で、スーパーリッチな大富豪で、モテモテのプレイボーイという、煌びやかなセレブ人生を送っていた。多くのスーパーヒーローは自分の本当の姿を世間から隠し、その矛盾に葛藤したりもするものだけど、根っからの目立ちたがり屋であるスタークには、そんなややこしい悩みもない。その圧倒的なチャラさこそが、他のスーパーヒーロー映画にはない、トニー・スタークの最大の魅力であったと思う。

しかし、今回のスタークはちょっと様子が違う。「アベンジャーズ」のラストで起こった事件からの流れを受け、本作のストーリーは、スタークの魂が深く傷つき精神的にも憔悴しきった地点から始まる。予告編の中でちらっと出ていた不眠症もその兆候の一つ。また、彼のそんな不安定な精神状態は、当然のことながら恋人のペッパーとの関係にも次第に影を落として行くわけ。

さらに、追い討ちをかけるように、スタークの豪邸の喪失。予告編でもがっつりと描かれている通り、丘の上にそびえたつスタークの自宅が、ヘリコプターの大群に一斉攻撃され、木端微塵に破壊されてしまうという波乱の展開が待ち受けている。その自宅は重要な研究室であり、アイアンマン・アーマーの保管場所でもあるだけに、彼にとってはアイアンマンの装備を取り上げら、彼が本当の自分自身を見つけるまでの旅と思ってもいいだろう。魂の傷ついたヒーロー、そしてすべてを失った「ゼロ地点」からのリベンジ・ストーリー、今回の「アイアンマン3」では、これまでとは違う、本気モードのスタークと出会えることでしょう。

さて、今回メインの悪役を務めるのは中国人の「マンダリン」が登場。舞台も中国となる。原作マンガではこのマンダリンは中国人だったが、映画では英国のベテラン俳優、ベン・キングズレー。東洋髭の顔はビンラディンに似てもいるような、ちなみに1作目の悪役「テン・リングズ」は、小さな敵タリバンだったし。
「マンダリン」がマーベルコミックに初めて登場したのは、遡ること1964年。キャラクターの考案者はもちろんスタン・リー。当時の原作では中国で生まれ育った天才的な、科学者にしてマーシャルアーツの達人、という設定で、両手の指にはめた10個のリングから発する超人的パワーを最大の武器としていた。だが、今回の作品に登場するマンダリンは、そういった中華的なバックグラウンドは採用せず、アメリカ合衆国に異常な憎しみを抱いている極悪な「テロリスト」というオリジナルな解釈で描かれている。

この「マンダリン」なんですが、これが実は、という替え玉役の舞台俳優という設定で、本当の悪役は過去にペッパーと関わり合った新キャラクターのガイ・ピアースが演じる、ウィルス開発者のアルドリッチが登場する。
やっぱり見どころは、まったく造形の異なるパワードスーツが40体以上も登場して、一斉に空を舞うシーンだろう。道具もそろわぬ田舎でトニーはリベンジのためのパワードスーツ開発に専念する。テネシーの田舎でトニーに力を貸す少年ハリー役には「インシディアス」のタイ・シンプキンス君。

そして監督を降坂したファブローだが、トニーの運転手ホーガン役で引き続き出演。ペッパーとキリアンを監視してトニーに報告したり、キリアンの手下を単独で偵察して戦いに臨んだりと、大活躍を見せている。アイアン・パトリオットは、星条旗のカラーリングを施した光沢のあるアーマーは、勇壮さに溢れている。もちろん、トニーの友人で空軍中佐ローディ、ドン・チードルが、アーマーを身に付けて活躍。それが拉致された米大統領まで、このアーマーを着るハメになるとは。
パワードスーツが敵に捕られ、アイアンマンに装備する前のトニーが飛びかかるなど、
生身の闘いが用意されていて、肉体の限界に挑むトニーには、あり得ない過酷な試練が待ち受けています。
出来上がったトニーのスーツは、各パーツが個別に飛んできて、まるで金属が磁石に吸い付くように装着されるという驚きの進化を遂げている。クライマックスではトニーが目まぐるしい速さで、何体ものスーツを自在に着脱し、敵をなぎ倒していく。その上、ペッパーがピンチに陥った時にスーツを着るシーンもあるのだが、悪役キリアンの手で“エクストリミス”という人体強化の薬を投与され、トニーの窮地を救う強い逞しいペッパーも見れます。

そして、陸、海、空でバトルが展開されるシーンでは、穴が開いた飛行機からの落下に、アイアンマン軍団の空中戦、さらに海中に沈みながらの攻防など、過去2作にはなかった場所でのスケール感満点のバトルアクションが展開される。もちろん地上での肉弾戦もド派手さが倍増で大満足でした。
エンディングでも過去作の映像や、「マイティ・ソー/ダーク・ワールド」の予告や、トニーの心臓近くにある鉄の破片を摘出する手術も見せてくれます。お見逃しのなきよう最後までご覧ください。

アイアンマン
アイアンマン 2
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ゾンビ革命―フアン・オブ・ザ・デッドー★★★

2013年04月29日 | DVD作品ーさ行
キューバ革命に続く、新たなる革命は…ゾンビ映画だ!・・・アレハンドロ・ブルゲス監督作。異色のヒーローとゾンビの闘いを描いた、キューバ初のゾンビムービー。

ストーリー:40代のフアンは、人生の大半をキューバという国で文字通り何もせずに過ごしてきた。そんなフアンが唯一、気にかけている存在が美しく成長した娘のカミーラ。しかし当のカミーラは、父親とはできる限り距離を置きたい様子。突如として町に奇妙な出来事が起こり 始める。人々が凶暴になり互いを襲い出したのだ。当初、フアンは新たな革命が起こったのだと考える。しかし、やがてフアンとその仲間たちは、犯人が普通の人間ではなく、簡単に殺せるような相手ではないことに気づいていく。その正体は、吸血鬼でもなければ悪霊でもない。この状況を乗り切るため、フアンが考20え出した最善策は金儲けだった。キャッチコピーは“愛する人、殺します。フアン殺人代行社"。
<感想>タイトルから伺える通り、「ショーン・オブ・ザ・デッド」を参考にしてはいるが、舞台をハバナに変えただけの劣化コピーとは違います。老人や障害者にも情け容赦ないどぎついギャグと、キューバならではの社会風刺をたっぷり効かせたコメディ・ゾンビ映画の快作なのだ。

まず驚かされるのは、主人公フアンと相棒のラサロがちっとも良い人じゃないこと。フアンは染みつきランニングシャツに短パンの汚らしい格好で、妙に目つきが悪くて過去に何人か殺してても不思議じゃない。一方のラサロは、美人を見るとその場でパンツを下してオナニーするロクデナシ。近所にいたら絶対に目を合わせたくないタイプ。
ゾンビが発生するや、彼らは混乱に乗じてムカツクやつを殺したり、盗品を運ぶために老人の車いすを奪い取ったりもする。ラテン系の陽気さがある反面、生き残るためにはエゲツナイことも平気でやるどうしようもないやつらなのだ。

キューバのゾンビ映画とくれば、チープなものを想像しがちだが、そのネガティヴなイメージは早々と打ち砕かれてしまう。CGバレバレのシーンもあるにはあるものの、ワイヤーアクションっぽいものや国家の象徴と言える建物の爆破など、ゾンビのメイクも手間暇かけて作ってるので結構バカにできない。
主人公のフアンがブルース・リーのような構えで立ち向かうところなんて笑ってしまう。モブや荒廃とした街の様子がちゃんと見せ場になっているのがいい。少なくとも欧米のインディー・ゾンビ映画や、和製ゾンビには太刀打ち出来ないクオリティがある。あなどるなかれ、キューバ初のゾンビ映画は、すでに世界レベルに到達しているようですね。
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HK /変態仮面 ★★.5

2013年04月29日 | アクション映画ーア行
1992~93年にかけて「週刊少年ジャンプ」で連載された伝説的な人気漫画「究極!!変態仮面」を実写映画化。

ドMの刑事とSM女王を両親に持つ紅游高校拳法部員の色丞狂介(しきじょうきょうすけ)は、転校生の姫野愛子に一目ぼれしてしまう。そんなある日、愛子が銀行強盗に巻き込まれ、人質にとられる事件が発生。覆面を被って変装し、強盗を倒そうとした狂介は、間違って女性用パンティを被ってしまう。
しかしその瞬間、狂介の奥底に眠っていた変態の血が覚醒。人間の潜在能力を極限まで引き出した超人「変態仮面」に変身する。監督は「勇者ヨシヒコ」シリーズや「コドモ警察」など異色コメディを多数手がける福田雄一。原作の大ファンを公言する俳優の小栗旬が脚本協力として参加。主演は、小栗監督作の「シュアリー・サムデイ」などで知られる若手俳優の鈴木亮平。(作品資料より)

<感想>実写化不可能と言われていた漫画が、映画になってしまった。白いパンツを肩にかけたパンティ・マスクの高校生ヒーローが、「コドモ警察」の福田雄一監督と原作ファンを公言する小栗旬によって実写映画化された。主演は実写版「ガッチャマン」(8月24日公開)でみみずくの竜を演じる注目株、鈴木亮平。
186㎝の長身と1年間鍛えた肉体で、主人公色丞狂介に成りきる。原作と同じシーンや、「それは私のおいなりさんだ」なんて、お約束の決めゼリフが満載。敵の顔に股間を押し付ける必殺の“変態の奥義”にも注目ですよ。

物語は、学園の乗っ取りを画策する空手部の主将や、風紀を厳格に取り締まる真面目隊、さらには、ある目的を秘めて姫野愛子に接近する新任教師など、そんな敵に向かって姿こそパンツ一丁で、頭に女子のパンティを被って奮闘する色丞狂介に応援したくなる。それが、パンティを被らないと全然弱い男になってしまうのが惜しい。
初めは変態男が、女子のパンティかぶって黒い網タイツはいてと、卑猥で如何わしく考えていました。ところが、そんな変態ぶりも意外と清潔感(わき毛剃っている)があって、他の変態仮面(わき毛があるし、髭も)が出て来るんですが、そいつらは女の子のスカートめくったり、身体をさわったりと私らが考えている変態男そのもので、ヒーローの変態仮面はそういうやつらを懲らしめるいいやつなんです。普通だったら警察が取り締まるのに、警官は出て来ません。変だと思えばそれまでで、あまり細かく考えないで楽しんだ方が勝ちですね。

鈴木くんの従来のイメージを覆す強烈なビジュアルと、バカバカしい展開に衝撃をうけ、呆気にとられこれは笑うしかないですな。いやこれほどまでに真面目にふざけ倒すことができるのは、日本映画界こそだし、何よりも監督福田雄一という唯一無二の存在があったからこそです。
そして監督の熱量に、それを上回る熱気さで応え、文字通り体を張って役に挑んだ鈴木亮平くんを初めとしたキャスト陣の本気度。それに原作ファンという小栗旬も脚本協力という形で参加して、極めて特殊なヒーローを大マジに撮った本作。
これってお子様向きじゃないかもと、お思いの親御さんたち、もはや説明不要ですから。とにかく観て下さい。そのバカバカしいほど真面目なド変態で、ちょっとエロっぽい場面もありますが、ハリウッドのエロ・コメディより断然日本の方が健康的です。
まぁ、少しふざけたところが多いですが、演じている役者さんが真面目にやっているので、観ている方としてはその熱意に大いに笑わせられ、すごくかっこよく見えました。
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ジャッキー・コーガン ★★

2013年04月28日 | アクション映画ーサ行
ブラッド・ピットがクールな殺し屋ジャッキー・コーガンを演じるサスペンスドラマ。

監督は「ジェシー・ジェームズの暗殺」(2007)でもピットとタッグを組んだアンドリュー・ドミニク。「優しく、殺す」をモットーにする殺し屋ジャッキーは、「ドライバー」と呼ばれるエージェントから、賭博場強盗の黒幕を捜索する依頼を受ける。ジャッキーは前科のあるマーキーを探し出すが、実際に強盗を仕組んだのは別の悪党3人組であることが発覚。さまざまな思惑が交錯するなか、ジャッキーは事件にかかわった人間を皆殺しにすることを決める。共演にリチャード・ジェンキンス、ジェームズ・ガンドルフィーニ、レイ・リオッタ、サム・シェパードら。(作品資料より)

<感想>ブラット・ピットが自らプロデューサーとして名乗りを上げ、最も冷酷かつセクシーな殺し屋を演じている本作。だが、そんなキャッチコピーからは想像されるド派手な抗争劇とは一味違います。何故殺し屋のブラピの役名を邦題にしたのか、原題は「キリング・ゼム・ソフトリー」・・・直訳で「優しく殺せ」って、それってどうすんのよ。ブラピの殺し屋が言うには、「人を殺したことあるか?泣き叫んで、命乞いをして、小便漏らして大変な騒ぎだ。俺はそれが嫌だから優しく殺すことにしている」と、のた申すわけ。ブラピが久々の悪党役を演じているのだが、とにかく話の展開がダラダラして退屈極まりない。
殺し屋と言うと、ジェイソン・ステイサムのようなスカッと爽快なアクション立ち回りを思い浮かべるが、この映画ではそんなのない。
まずは、ヤクザが遊ぶための闇ポーカー場があって、レイ・リオッタが経営している。そこへある男がチンピラ二人を雇ってその店を強盗させる。そのチンピラの一人はベン・メンデルスゾーンで、「アニマル・キングダム」で法王と言うサイコキラーを演じていた俳優。今回は薬ちゅうの大ボケで、散弾銃の銃身を切り詰めろって言われて、短く切り過ぎて先っぽからショットガンの弾の頭が出ている。もうこれって銃じゃない。

二人は賭場を襲って、ポーカーをしていたマフィアたちの有り金をまき上げる。怒ったマフィアたちが雇ったのが、プロのブラピ扮するジャッキー・コーガンなのだ。なんか「アウトレイジ」系みたいですね。原作がジョージ・V・ヒギンズが70年代に書いた小説。「エディ・コイルの友人たち」という小説が、昔映画になっている。この小説は裏業界の人々の殺伐とした日常を描いているのだけど、まるで収集日にゴミを出すような感じで淡々と人を殺す。善人は一人も出てきません。
監督はアンドリュー・ドミニク。「ジェシー・ジェームズの暗殺」のあのもの凄く静かで長く、つまらなかった映画。退屈でしかたがなかったと言われて反省したのか、今回は少しは見せ場があることはある。ブラピがレオ・リオッタを殺すシーン。超ウルトラ・スローモーションで弾丸が拳銃から飛び出し、車の窓ガラスを割ってリオッタの顔にめりこんで反対側から出ていくのをじっくりと見せつける。そのシーンで流れる歌は、62年にキティ・レスターが歌った甘いラブバラードの「ラブ・レター」。まさに優しく殺せってことなのか。

リオッタは強盗された被害者なのに、彼を信じてギャンブルをしていたヤクザたちが、彼を許さない。この映画はブッシュとオバマが火花を散らす米国大統領選が白熱する2008年の、ニューオリンズが作品の舞台になっていて、映像の中で、テレビでブッシュ大統領が「リーマン・ショックで破綻した投資銀行を税金で救済する」と説明している。ここがドミニク監督のテーマともいえるのだろう。あのころ、アメリカ人は投資や不動産というギャンブルをしていた。その胴元である銀行も客の金をバブルに注ぎこんでパアにした。マフィアはギャンブルの胴元であるリオッタを許さなかったわけ。ブッシュは国民の金をパアにした銀行を国民の金で救った。それを比較して見せている。ギャング映画を通してアメリカ経済を風刺するというわけ。

話の展開でブラピは強盗たちを殺すのに、ミッキーという殺し屋に依頼するわけ。そのミッキーを演じているのが、「ザ・ソプラノス」の中年デブのジェームズ・ガントルフィーニ。ところがミッキーがもらった金を酒と女に使って、全然仕事をしない。これもブッシュ政権の財務官僚たちが金ばかり使ってまったくの役立たずだったのと似ている。

ブラピも殺し屋のくせに、アメリカ独立宣言を書いたトーマス・ジェファーソンを批判したりして、最後は大統領選挙に勝ったオバマの演説を聞いたブラピが、「テメェ、甘っちょろいこといってんじぇねえ」って、啖呵を切りながら「アメリカってのは、国じゃねえんだ、ビジネスなんだよ」って。これはブラピが大好きファンには不向きな映画ですよ。
その他にも連絡員のドライバーに、リチャード・ジェンキンスが演じて、冷静沈着な見た目とは違う切れ者を演じている。演技派なのにもったいない。
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藁の盾 わらのたて ★★★★

2013年04月27日 | アクション映画ーワ行
『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズで知られる漫画家の木内一裕の小説家としてのデビュー作品を、三池崇史監督が映画化したサスペンス・アクション。

凶悪な殺人犯に10億円の懸賞金がかかり、犯人を移送することになった刑事たちの緊迫した道程をスリリングに描く。正義とは何かと揺れる思いを抱きながら、命懸けで犯人を移送する警視庁警備部SPを演じるのは大沢たかおと松嶋菜々子。少女を惨殺した殺人犯には藤原竜也がふんする。常に油断できない展開であっといわせる三池監督の演出が、サスペンスで生かされることが期待できる。

あらすじ:政財界を牛耳る大物・蜷川の孫娘が惨殺された。容疑者は8年前にも少女への暴行殺人事件を起こし逮捕され、出所したばかりの清丸国秀だった。全国に指名手配され、警察による捜査が続くが、行方はわからない。事件の3ヶ月後、大手新聞3紙に「この男を殺してください。清丸国秀。御礼として10億円お支払いします。蜷川隆興」という前代未聞の全面広告が掲載された。「人間の屑を殺せば、10億円が手に入る…」日本中が俄かに殺気立つ。新聞広告が掲載された直後、身の危険を感じた清丸は福岡県警に自首してきた。彼の身柄を警視庁まで移送する為に、警察組織の威信を賭け、精鋭5人が派遣された。“人を殺して金を得る”そんな常軌を逸した行動を取る人間が出てこないことを祈るも、相次ぐリストラ、倒産により生活に困った人達が保険金を残すために首をつる世の中…。追い詰められた人間、そして全ての国民の殺意が清丸の命を狙い、執拗に追いかけてくる。いつ?誰が?何処から襲い掛かってくるか分からない緊張状態の中、5人の精鋭は清丸を警視庁まで移送出来るのか…?(作品資料より)

<感想>久々に無責任に楽しめる娯楽サスペンスである。主人公のSPたちが護らなくてはならないのは、極悪の犯罪者である。逮捕起訴されれば死刑は免れないだろう。言わば「死すべき者」なのだが、その犯罪者の暗殺を指示して、10億円の懸賞金をかけたのは、可愛い孫娘をその男に惨殺された余命いくばくもない大富豪。つまりこの暗殺ゲームは「死にゆく者」の遺言でもあるのだ。万死に値する死すべき者を生かし、同情の余地ある死にゆく者を裁かざるをえないという、司法の大義名分の下で物語は展開し、主人公たちは困惑し、憤慨し怒り、何度も何度も正義について自問自答を強いられていく。

目的地が近づくにつれて彼らが護っている者に、その価値がないことが加速度をつけて明らかになっていく、その過程がギリギリと歯を噛みしめるような焦燥感を見る者に与えていく。なぜなら大富豪によって彼の暗殺を扇動されたのは、1億5千万の全日本国民であり、この1億5千万の中には、もちろん私や観客も含まれているからなのだ。
同情の余地もない悪の化身を演じた藤原竜也の憎たらしい怪演のせいもあるだろうが、
アクションとしての一番の見せ場は、護送団を襲ったトラックがパトカーを蹴散らしてクラッシュ!、回転、大炎上。新幹線内でのヤクザと思われる男たちによる銃撃戦、ここで刑事の神箸が死亡。誰も知らないはずの移送ルートが、何故かネット上で筒抜けに。まさかチームの中に密告者が?・・・と疑い始め4人で身体検査を行い、捜査一課の奥村の腕にGPSのチップが埋め込められていた。結局人間10億という金に操られる。
主人公たちが傷つき追い詰められていく様を見ている者たちは、みな「いつしか、死ねばいいのに」と呟く自分に気づき、はっとするはず。必死に使命を全うしようともがく大沢たかおや、松嶋菜々子の姿は、見る者の希望であり理性なのだが、同時に不愉快で後ろめたく、どす黒い衝動の矛先でもあるのだから。
自動車を強奪して裏道を通って東京を目指すも、必死の彼らをあざ笑うかのように脱走を試みる。つまり松嶋演じる刑事(原作では男)が隙を見せた直後、地面のチェーンで松嶋を殴り拳銃を奪い撃つ。これは女刑事の甘さであり誤算でもある。それが、やっと東京へ辿り着いたのに、安心したのか清丸を放置。蜷川の爺さんの仕込み杖の刀で今度は主人公が盾となって清丸に刺されるのだ。この最後は原作とは違っていた。

要人護送というのは犯罪小説の重要なジャンル。ありそうもない設定が、走り出したらもう止まらない。更に危険度が加速され、まったく目が離せないのだ。護送車で福岡を出発するときの、大量の警察官や機動隊員、マスコミ、野次馬などに囲まれたものものしい映像など、こちらまで現場にいる気分になってしまう。SPたち5人が一人ずつ、しっかり見せ場をもらって命を落としていくのもいいですね。裏切り者はその動作で察しはついたが、タイムリミット映画としても最高の面白さで良かった。
ラストには一つの結論が下されるわけだが、その結論は満場一致の正義には成りえない。最期の最期まで焦り、痺れきって終わる。
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キャビン ★★★

2013年04月25日 | か行の映画
若者たちが人里離れた山小屋で戦慄の恐怖に見舞われるという従来のホラー映画のお約束を踏まえた、巧妙かつ予測不能のストーリー展開が映画ファンから絶賛された異色のホラー・サスペンス。

「クローバーフィールド/HAKAISHA」やTV「LOST」の脚本で知られる新鋭ドリュー・ゴダードが、TV「バフィー~恋する十字架~」などでタッグを組んだ「アベンジャーズ」のジョス・ウェドンと共同で脚本を執筆、自ら初メガフォンをとり映画化。出演は恐ろしい目に遭う若者たちに「マイティ・ソー」のクリス・ヘムズワースのほか、アンナ・ハッチソン、クリステン・コノリー、フラン・クランツ、ジェシー・ウィリアムズ、そしてベテランのリチャード・ジェンキンス、ブラッドリー・ウィットフォードが脇を固める。(作品資料より)

<感想>前から観たいと思っていた作品が、やっと地方でも上映されました。これはパターンを覆すホラーと人類滅亡の世界観を融合させた物語。内容は確かに「死霊のはらわた」そっくりの山小屋は出てくる。そこへ、バカンスを楽しみにバカそうな若者グループがやってくるところも同じである。山小屋に向かう途中、立ち寄ったガソリンスタンドには謎のジジイがいて、なにやら不吉なことをほのめかす。
「死霊のはらわた」ふうの山小屋についた若者たちは、とりあえず近くの湖で水遊び。ひとしきり楽しんで戻ってきた彼らは、小屋の中に、長年使われていなかった地下室を発見する。そこには不気味な日記やアルバム、蓄音機やオルゴール、フィルムにテープレコーダーがごろごろしていた。ここまでで観て、これはやりすぎだろうって、いくらホラーファンが定番ネタを好むからといって、ここまで何もかもいつも通りにしなくてもいいじゃないの、と思った。ところがですよ、ここからが違っていたんです。

実は若者たちの行動はすべて謎の組織に監視されており、“組織”で働く連中は、あの手この手を使って若者グループの行動を「いかにもありがちなホラー展開」にするべく奮闘していたのです。地下室に気付いているのか、よし、突然ガタンと地下室の扉が開くようにしろ!、・・・森の中でカップルがイイムードになったのに女が脱がない?、「森の中の気温を上げるんだ」ついでに地面からフェロモン霧を噴射しろ」なんて軽口を叩きあいながら、とある施設で働く男たち。なんとこの二人は、リチャード・ジェンキンスとブラッドリー・ウィットフォードではないか。

謎の組織はかなり大掛かりで、働いている人たちはみなスーツを着た公務員ふうで、地下の巨大な施設でせわしく働いている。随所に設置されたモニターには、山小屋の若者たちだけでなく、各国の映像も映し出されている。おかしなことに、それらの映像はすべて各国版の「ありがちなホラー映画」。例えば日本では「リング」の貞子のような女の子が登場します。
山小屋の若者たちが悲惨な目に遭うのを、観客は映像の中の“組織”の人間の視点からみることになるのだが、それだけだとドッキリカメラ番組と同じで「画面の中の人」の恐怖はこっち側とは関係のないものになってしまう。世界同時のホラー・ゲームを仕掛ける組織の描写があってのこと。これは誰のためのスペクタルか?、その組織の顧客が誰かという伏線がじわじわと効いてくる。

しかし、あらゆるものをごちゃ混ぜにしてしまい、映画を見ている間は観客を離すまいとする馬鹿力はたいしたものだ。生き残った若者の闘いがもう一つなのは、地下の構造とスケール感を描くことが困難なせいだからなのか。こんな作品でも、ヒーロー的な活躍を見せるはずの大学生のカートに扮した、クリス・ヘムズワースが、バイクでジャンプしたところそこには壁、つまりバリアが張られてありあっけなく最期を迎える。

だが、最後の最後まで引っ張るコミック・テイストなホラーの展開。意外に心地よい緊迫感はあるが、神経をすり減らすような恐怖は感じられない。学生たちや、組織の人間たちに襲い掛かるのは、心霊、ゾンビ、クリーチャーなど、まさに怪物のオンパレードに相応しいクライマックスで一気にヒートアップする。
とにかく最後に出てきた「エイリアン」のシガニーおばさんは何なの?・・・しかも、地下組織の人たちも自分たちが仕掛けた箱入りの怪物たちの餌食となり、怪物たちの上に君臨する巨大な存在を目撃した時は、もう笑うしかない。決して苦笑ではなく、あまりに痛快な快感を覚えた。オタッキー映画ながら、実に考えられた作風に知性さえ感じさせる。
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アルマジロ  ★★★★

2013年04月24日 | アクション映画ーア行
アフガニスタンの最前線アルマジロ基地に派遣された若きデンマーク兵たちの7カ月に密着し、若者たちが体験する恐ろしい戦争の現実を映し出していくドキュメンタリー。

2009年、アフガニスタン南部ヘルマンド州のアルマジロ基地に、デンマーク人の青年メス、ダニエル、ラスムス、キムらが派兵される。アフガニスタン駐留の国際治安支援部隊支援国として、デンマークはイギリスとともに最も危険なエリアを担当。タリバンの拠点までわずか1キロという死と隣り合わせの戦場で、若者たちは数回の戦闘で極度の興奮状態を経験し、敵味方の区別もつきにくい戦争中毒に陥っていく。2010年・第62回カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリ受賞。(作品資料より)

<感想>国際治安支援部隊という名のもとに、アフガン紛争へと派遣されたデンマーク軍の行軍を、特に数人に絞り生々しく記録していく。タイトルの「アルマジロ」とはアウガンの基地のこと。監督のヤヌス・メッツとカメラは銃撃戦の最前線にも飛び込んでいき、兵士のヘルメットに搭載されたカメラの映像は銃弾が横をかすめるのをとらえている。常時4台のカメラで撮影された圧倒的な映像。あまりに臨場感あふれる衝撃映像は、まるで「戦争映画」というエンターテイメントを体験しているようで、フィクションなのか現実なのかの区別もつかない。

なぜそんな危険なところへ行くの?・・・という家族からの問に、若い兵士はこう答える。「たくさんのことを学べるから、大きなチャレンジだし、冒険でもある」と。彼らはキャンプ内でいつもと変わらない日常を送る。食事をし、冗談を言い合い、バイクで遊び、川で泳ぎ、PCでポルノを見たり、戦争ゲームをする。
フィクションではない実際の戦場に身が凍りつく。兵士のヘルメットに装着されたカメラが、激しく揺れるばかりで何も映してないのがかえって恐ろしく感じた。戦闘の後の、兵士たちの気の高ぶりには狂気にさえ見える。そして何よりも恐ろしいのは、彼らが、かのフィクション映画「ハート・ロッカー」のように、実戦という麻薬を知って戦争中毒に陥る現実だろう。

やはり現実はフィクションほどドラマチックではない。脚本や伏線や物語の文脈に沿ってドラマを盛り上げるのではなく、いきなりぶっきらぼうに事実が挿入される。タリバンと住民の区別がつかないとあせる兵士たち。
戦場での兵士たちの、誤解を恐れずに言うなら、やや退屈な日常会話に慣れたころ、いかにも何気ない感じで彼らの“片付け”の模様が映される。思わず目をそむけたくなるが、観たものを認識した後で感情が時間差でやってくるのだ。この目をそむけたくなるような光景として映ってしまった、タリバン殺害と死体処理の映像、その後の隊員たちの昂奮や高揚感にも迫る。

この行為を隊員の誰かしらが家に帰って家族に話し、軍内部で問題になっていると、小隊長の困惑にまで迫る。これが、国際治安支援部隊として派遣された平和の国、デンマークの兵士たちの話であることを、日本にいて映画を見ているだけではいかないと思う。日本でも憲法9条の歯止めがなくなれば、この映画のような大切な人を戦地へと送り出すことになるのかもしれない。戦争とは人を殺すこととは、正義とは?・・・ゲームでもフィクションでもない「戦争」を突きつけるドキュメンタリー。
このような事実を知るということだけでも、私たちは深く肝に銘じておかなければ戦争はなくならないのだから。
2013年劇場鑑賞作品・・・84 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ


リンカーン ★★★★★

2013年04月23日 | ら行の映画
スティーブン・スピルバーグ監督が、名優ダニエル・デイ=ルイスを主演に迎え、アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンの人生を描いた伝記ドラマ。

貧しい家に生まれ育ち、ほとんど学校にも通えない少年時代を送ったリンカーンだが、努力と独学で身を立て大統領の座にまでのぼりつめる。しかし権力の座に安住することなく奴隷解放運動を推し進めたリンカーンは、一方でその運動が引き起こた南北戦争で国が2つに割れるという未曾有の危機にも直面していく。奴隷制度廃止を訴えた共和党議員タデウス・スティーブンスにトミー・リー・ジョーンズ、リンカーンの妻メアリー・トッドにサリー・フィールド、息子のロバート・トッドにジョセフ・ゴードン=レビット。脚本はスピルバーグ監督作「ミュンヘン」のトニー・クシュナー。第85回アカデミー賞では同年度最多12部門にノミネートされ、デイ=ルイスが史上初となる3度目の主演男優賞受賞となった。(作品資料より)

<感想>本年度のアカデミー賞で最多12部門にノミネートされながら、受賞は2部門のみ(主演男優賞と美術賞)という結果に終わったのは、このストイックな作風が原因だったのではないか?・・・だが、普通の伝記ものとは異なり、リンカーンの最晩年の4か月間に話を絞ったのが巧いと感じた。それを奴隷制廃止法案通過のための、議会工作に強い照明を当てていたのが心憎い。

これは奴隷制廃止のためにあらゆる策略を用い、自己犠牲を払った人物の脅威に迫る。大半の人は、第一印象でリンカーンの目に深い悲しみが浮かんでいることに気付いたはず。そこで十年は老け込み、その身を削り切ったリンカーン、ゆったりと描いていく余裕の演出で、夫として父としての人間性にも触れ、戦争の愚劣をうたう。
第16代大統領エイブラハム・リンカーンという、アメリカ合衆国最大のネタの一つに取り組みつつも、「たたき上げの達人」的な定型の伝記映画にすることを避けて、例の「人民が」が3回連呼される有名な演説すら出てこない。もったいない、・・・という声が聞こえてきそうだ。

映画が始まって間もなく、ダニエル・デイ=ルイス扮する大統領は、自分が猛烈な速さで進む小舟に乗っている夢を見る。いったいこれは何なのか、彼は妻に判断を仰ぐ。サリー・フィールド扮する妻のメアリーは、あなたが乗っている船は憲法修正第13条なのだといい、早くもこの作品の争点を明らかにするのである。
私は未見ですが、かのジョン・フォード監督の「若き日のリンカーン」(38年)が青年期のリンカーン、主に弁護士時代を描いている。それとは逆に、スピルバーグ版は、南北戦争が大詰めを迎えた1865年、晩年の最期の数か月で、メインとなるのは、憲法第13条の修正案を議会で可決させるための、パワーゲームである。ここでのリンカーンは、目的のためなら手段を選ばない、現実のグレーゾーンに生きる“戦略の達人”の顔が強調されている。

そして、雨夜の中駐留地で兵士たちを迎えるリンカーンが描かれるが、彼に向かって一人の白人兵士がやはりこの演説を暗唱する。だが、名高い最後の一節を思い出す前に、彼は出立を余儀なくされる。彼の言葉を引き継ぐのは黒人の兵士である。彼はそれを述べた当人を前にして、これが自分の演説であるかのように自信に満ちた口調で口ずさむと静かに闇の中へと消えていく。
ダニエル・デイ=ルイスの甲高い声は、この大統領が人前で話をする資格を欠いていると言っているかのようでもある。むしろ彼自身は、他者の言葉を口にする時にこそ溌剌として見えるのだ。会議室で弁護士時代の挿話を述べ、聖書からシェイクスピアまで自在に引用し、電信技師の若者に向かって、ユークリッド幾何学の原理を講釈する。これは徹底して言葉と声をめぐる映画なのだと思った。

奴隷解放を実現するためにの憲法改正を成立させるには、あと20票足りない。そこでリンカーンは国務長官らに「敵対する民主党議員を必要な人数分、こちらに寝返らせよう」と提示し、強引な議会工作を開始する。そもそも共和党から初の大統領となったリンカーン、つまり当時は民主党が保守だった。だが、再選の際には、党派を超えて支持をまとめるため、「全国統一党」として出馬していたのだ。
確かに投票前夜には、独裁者といわれても仕方のないような癇癪を爆発させもするのだが、ここで重要なのは彼が自らのエゴのためではなく、修正第13条という言葉のために逆上しているということだ。
有能な政治家は、理想主義者かつ現実主義者であれ、・・・というテーマは、クリント・イーストウッド監督が、ネルソン・マンデラを描いた「インビクタス/負けざる者たち」(09)と重なるが、本作のリンカーンを見つめる目はさらに冷静である。おそらくスピルバーグ監督は、実際には綺麗ごとばかりではないリンカーン、(ネイティブ・アメリカンへの徹底的な弾圧は有名)ゆえに美化することは避けたかったのだろう。
まずその風貌が異様だ。オールバックの広い額から、髭が突き出した顎までのライン、シルクハットをかぶるとさらに面長な顔が際立。正面よりも横顔をとらえたショットが目につく。リンカーンは歴代大統領の中でも、最も背が高く、デイ=ルイスも190㎝近い長身で、そのいでたちはもはや恐怖に近いものがある。成りきり演技というよりも、リンカーンの実物を知らない私には、ダニエル・デイ=ルイスが演じるリンカーンにその人物像を見たようで、彼のオスカー受賞にも納得がいった。

そして息子役のジョセフ・ゴードン=レビット、出番が少ないがいい勉強になったのでは。それにも増して、惜しくも助演男優賞を逃したトミ・リー・ジョーンズの鬘を取ったスキンへットもまたカツラのようで、それも渋いぐっとくる泣きの演技で素晴らしかった。
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バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!★★

2013年04月22日 | は行の映画
突然訪れた、高校時代の同級生の結婚というニュースに動揺する独身3人組の暴走を描く、コミカルなガールズムービー。

キルスティン・ダンストのほかに、テレビなどで活躍するリジー・キャプラン、サシャ・バロン・コーエンの妻として知られるアイラ・フィッシャーが、様々な悩みを抱える微妙な年頃の女性をリアルに演じる。
あらすじ:高校時代の同級生ベッキーから結婚が決まったことを聞かされたレーガン(キルステン・ダンスト)は、すぐに親友のジェナ(リジー・キャプラン)とケイティ(アイラ・フィッシャー)にその旨を報告。バチェロレッテ(独身女性)の3人は、お世辞にも美人とは言えないベッキーが自分たちより先に結婚することにショックを受ける。結婚式に出席するため、3人はニューヨークに集結。
結婚前夜パーティではしゃぎすぎて新婦のドレスを破ってしまう。結婚式まであと12時間。ドレスをなんとかするのに奔走する一方、結婚の気配がない彼氏との関係、昔との恋人の再会、行きずりの恋などそれぞれが抱える問題も絡んできて、彼女たちの大暴走はさらに加速する……。(作品資料より)

<感想>ウィル・フェレルとアダム・マッケイの「俺たち」コンビが発掘した劇作家、レスリー・ヘッドランド作のオフ・ブロードウェイ劇を映画化した作品で、監督も映画畑じゃない女流劇作家。それだけに女性版「ハングオーバー!」とまではいかない。セックス、ドラッグ、ゲロと何でもアリのギャグセンスと、軽いノリのウェディング・コメディに仕上がっている。

同窓会もののバリエーションだが、三人の女友達がデブでブサイクな花嫁への嫉妬で、前夜祭の日に花嫁のウェディングドレスを二人で着て破ってしまい、式までに修復可能はどうかという危機的状況に陥っても、女子同士のエゴや見栄で物語が進展しない前半がつまらない。後半では、3人の友達が一夜のトラブル(ドラッグや性行為)を通して自己を見つめ直す作品だと捉えて観たとしても、下品さもおバカぶりも呆れてしまって、お笑い度も印象度もまあまあと言った程度で残念。
それにしても、イケメン青年が出演していないのにはガッカリでした。

それでもそれぞれの女性が個性的で、活き活きとしているので、最後まで楽しく観られる。こいいう結婚式前夜のどんちゃか騒ぎは、日本女性にはないので冷めた目線で観てしまい、アメリカ女性がまだこんなに結婚に憧れを持っていることに驚きます。個人主義で自立好きの国民のはずなのにね。

中でも学園女王のレーガンとジェナ、ケイティを演じているのは、キルステン・ダンストに、リジー・キャプラン、そしてアイラ・フィッシャー。コメディセンス自体は、サシャ・バロン・コーエン夫人であるアイラが一番目立っているようだけど。つまりドラッグ吸い過ぎ中毒でハチャメチャな彼女。むしろ重要なのは他の二人の方。というのもキルステンがかつて学園映画の女王だったし、リジー・キャプランの出世作は、リンジー・ローハンの友人役を演じた学園映画「ミーン・ガールズ」だから。

そうなんです、本作はハッピーな学園映画のヒロインたちの“その夜”を描いたビターなコメディなのですから。キルステンが若くして成功した反動で、鬱病にかかっていた経験をフィードした「メランコリア」に続いて、本作のような暴走演技の汚れっぷりも見れたということは実に感慨深いですね。ちなみに、花嫁のデブ、ベッキーを演じているのは「ブライズメイズ」にも顔を出していたレベル・ウィルソン。彼女の好演にも注目ですよ。
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ブライズメイズ史上最悪のウェディングプラン★★

2013年04月22日 | DVD作品ーな行、は行
「40歳の童貞男」「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」のジャド・アパトー製作、「サタデー・ナイト・ライブ」などで活躍するコメディエンヌ、クリステン・ウィグの脚本・主演で贈る痛快ドタバタ・コメディ。
結婚する親友の花嫁介添人(ブライズメイド)を頼まれたヒロインたちが、その準備に悪戦苦闘する中で繰り広げる女の本音と熱き友情を下ネタお下劣ギャグもふんだんにコミカルに描く。アカデミー賞ではみごと脚本賞(アニー・マモロー&クリステン・ウィグ)と助演女優賞(メリッサ・マッカーシー)の2部門にノミネートされた。
あらすじ:ケーキ屋の経営に失敗した上に恋人に捨てられ、人生どん底のアニー(クリステン・ウィグ)。幼なじみの親友リリアン(マーヤ・ルドルフ)を心のよりどころにしていたが、彼女から婚約したと告げられ、花嫁介添人をまとめるメイド・オブ・オナーを頼まれる。喜びと寂しさを抱えながらまとめ役を務めるアニーだが、介添人の一人であるヘレン(ローズ・バーン)と事あるごとに衝突、さらには一行をブラジル料理で食中毒にさせてしまったり、パーティーへと向かう飛行機で泥酔して搭乗を拒否されたりと、トラブルばかりを引き起こしてしまう。(シネマトゥデイより)

<感想>幼馴染みの親友が結婚することになる、“プライズメイズ”花嫁の付き添い人達をまとめる「メイド・オブ・オナー」を託された30代独身女性のドタバタ劇である。サタデー・ナイト・ライヴ出身のクリステン・ウィグが、脚本を手掛け自ら出演している。
この映画は、アメリカではサプライズヒットし、アカデミー賞の脚本賞と助演女優賞にノミネートされていながらも、一部の評論家に「作品賞にノミネートしないからアカデミー賞はダメなんだ」とまで言わしめるほど。その人気もその評価も極めて高いコメディ作品になっている。
しかも、かなり強烈な下ネタ満載のため女版「ハングオーバー」と紹介されることも多いが、本作の勝因は、お下劣なコメディだけではなく、独身女性の痛々しいリアリティを、容赦なくえぐり取っているからである。これは日本の女性にはちょっとキツイかもです。あまり友達と、こんな性に対するキワドイ猥談なんてしないので、引いてしまった。

何しろ主人公のアニー、クリステン・ウィグは結婚という天敵に親友を奪われ、路頭に迷ったあげくに、自分に好意を持った男性にすら素直になれない、30代独身女なのであるから。しかも無職で、これは痛いよね。
でも、ウディ・アレンなどが、長年描いていることだが、痛い男こそ笑える男。その逆もちゃんと成立することを証明しているのが、「ブライズメイズ」。例えば「セックス・アンド・ザ・シティ」より、よっぽどリアルに男女平等を追求していると思う。
まぁ、日本の結婚式では花嫁の付添人という設定はほとんど無いと言っていい。それに結婚をする女性が、式の前に友達と独身最後のバチェラーパーティも、あまりしている人って無いでしょう。友達が集まってお茶くらいはするかもしれませんがね。
だからなのか、“プライズメイズ”に選ばれたアニーが、嫉妬や対抗心を燃やすなんてことも理解できないし、ただ女性版「ハングオーバー」として楽しむのには面白いかもしれませんね。
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千年の愉楽 ★★★★

2013年04月21日 | さ行の映画
『軽蔑』『十九歳の地図』など紀州を舞台にした名著を多く遺した中上健次の同名短編小説(河出書房新社・刊)を「キャタピラー」「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」の若松孝二監督が映画化。

三重県尾鷲市を舞台に、産婆の目を通して、路地に生まれた男たちが命の火を燃やす様を描く命の讃歌。若松監督の「キャタピラー」に出演し第60回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞した寺島しのぶが男たちの生き様を見つめ続ける産婆を演じる他、「マイウェイ 12,000キロの真実」の佐野史郎、「軽蔑」の高良健吾、「さんかく」の高岡蒼佑、「ヒミズ」の染谷将太らが出演。第69回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門正式招待作品。若松監督の遺作となった。
あらすじ:紀州のとある路地。ここで産婆をしてきたオリュウノオバ(寺島しのぶ)は最期の時を迎えている。オバの脳裏には、オバが誕生から死まで見つめ続けた男たちの姿が浮かんでいた。美貌を持ちながらもその美貌を呪うかのように女たちに身を沈めていった半蔵(高良健吾)。刹那に生き、自らの命を焼き尽くした三好(高岡蒼佑)。路地を離れ北の大地で一旗揚げようとするも夢破れた達男(染谷将太)。オバは自らの手で取り上げた彼らを見つめながら、あるがままに生きよと切に祈り続けた。オバの祈りは時空を超え、路地を流れていく……。

<感想>映画は霧が立ち昇る花の窟を見上げる象徴的なオープニングから、山に貼りつくように走る坂道を下駄を鳴らして女が駆け上がる路地へと舞台を移す。このちょっとだけの出演に故、原田芳雄の娘、麻由が演じている。中本彦之助の女房が産気づいたとの知らせを受け、飛び出していく寺島しのぶ演じるオリュウノオバは確かに若い。その肌も、つましい暮らしの中で海風にさらされた女のものとは違い、白く美しい。それも中本の血を恐れ、苦しむ女房トミを「しっかりせい」と叱咤して、その血にまみれてこの世に生まれこようとする赤ん坊に向かって、「お前が何を背負うていようと、私がこの世にとりあげちゃる。何も恐ろしいことはない」と広げた股の間を見て、瞳の奥に炎を燃やす女こそオリュウノオバだと確信する。この世に産まれ出てくる命を無条件に抱き留め、祈る路地の産婆だと。

この時のオリュウが取り上げた中本彦之助の息子、半蔵は高貴でけがれた血のもと、水も滴る色男に成長する。それが高良健吾演じる半蔵なのだが、オリュウに素行をとがめられ度、性的な戯れ言をいって彼女をからかう。しかし、彼がいう言葉はイケメン青年なので卑猥には聞こえないのだ。オリュウは一人息子を3歳で病で死なせた後、三十になるかならぬかで神仏に没頭するようになった礼如を夫に持つ。夫の役は佐野史郎。
半蔵は間男がバレて大阪へ奉公に出され、「オバはずっとここにおるさかい、いつでも戻ってこい」と見送ったその半蔵が、半年ぶりで路地に帰ってくるシーンでも、寺島は肝のすわった母性とともに、男っぷりを一層上げて帰ってきた半蔵を、溢れんばかりの笑顔で迎えながら女としての喜びを表す。だが、腹の出た嫁が一緒だと分かると上気した表情がふと消えるのだ。
ところが次の瞬間、中本の血に怯える半蔵に向かって「女の腹に宿った命は、仏様が下さったんじゃ、何が悪いことがある」と、また力強い産婆の顔に戻る。土着的な神話性に彩られた中上健次の原作は、オリュウノオバの回想を軸にした連作形式なので、脚本化は難しい。だが、中本一統の血を引く男たちを半蔵、三好、達男の三人に絞り込むことで、自滅する若者のキラメキが際立つ作品になったと思う。

本作は優れた原作を忠実に映像化することで、魅力的な面白さを湛えている。撮影場所もいまや路地にふさわしい土地は難しい中で、三重県尾鷲市という趣きのあるロケ地だし、高良健吾の妖しいほどの美貌や、三好役の高岡蒼佑の哀れな男前ぶりはふさわしかった。しかし、半蔵が間男した亭主に斬り付けられあっけなく死んでしまう。三好も泥棒稼業をして、悪さをしながら生きているが女には困らない。それでも、飯場へ仕事へいくも路地へ帰ってきて港で首をくくって死んでしまう。
短いやり取りの中にオリュウの女心を繊細に滲ませるシーンでは、半蔵、三好、そして達男と相手を変えながら、やがて達男(染谷将太)との性行為によって自らを解放していくシーンへと繋いでいく。寺島しのぶと言えば全裸でのセックスシーンが印象に残っているが、私的には半蔵と結ばれるとばかり思っていたのに、まさか年を取って若い染谷将太とそんな関係を持つとは意外でした。

若い身そらで産婆となったオリュウの生身の生と性を、鮮やかにスクリーンに焼き付けて見せる。「どんなことが待ち受けようと、命が湧いて溢れるように、子は、この世に産まれ来る。生きて、死んで、生きて、死んで・・・」寺島しのぶの声がいつまでも耳に残る。その優しい歌は、霧の立ち込める山に棲む、あの世とこの世を行き来するホトトギスの声ともなって「生きよ」と観る者に囁いているようである。
それでも、物語がオリュウの死によって、中途半端なところで終幕となり、中本の血筋の宿命が描き出し切れず惜しいですね。ここ数年の若松監督作品は、過激な思想に殉じて若死にをした男たちへのレクイエムだったような気がする。自分の死期を予感していたかのように、すべてを許し受け入れる死生観を、寺島しのぶ演じるオリュウノオバに託しているようにもとれた。
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シャドー・ダンサー ★★★

2013年04月20日 | アクション映画ーサ行
記録映画でオスカーに輝くジェームズ・マーシュ監督の政治サスペンス。原作がヨーロッパで大絶賛された「シャドー・ダンサー」=悲しみの密告者、著者はトム・ブラッドビー。

主演は「ウォリスとエドワード」のアンドレア・ライズバロー。ほかに「キラー・エリート」のクライヴ・オーウェン、「ジョニー・イングリッシュ/気休めの報酬」のジリアン・アンダースンらの共演。
あらすじ:70年代に自分のせいで弟がIRAと警察の銃撃戦に巻き込まれて死亡したコレット(アンドレア)は、90年代の今、シングルマザーとなり、兄弟たちと共にIRAの忠実な構成員となっていた。だが、ロンドンでの爆弾テロの容疑者となってMI5のマック(クライヴ)に尋問され、服役するかどうかの選択に迫られてやむなくスパイとしての活動を始める。
刑事暗殺の情報をマックに伝えたコレットだが、そのために実行犯の仲間が狙撃されて犠牲になった。IRAの上官ケビンはコレットを疑い始める。その頃マックは、自分に知らされずに組織の活動が行われていることに気づき、上司のケイト(ジリアン)が他にもスパイを使っており、もう一人のスパイ、シャドー・ダンサーの隠れ蓑に、コレットが使われているのではとの疑惑を持つ。マックはコレットを救うためシャドー・ダンサーの情報を追うが、・・・。

<感想>かつてIRA=アイルランド共和軍とMI5=英国情報局保安部の戦いは熾烈を極めていた。それは双方の和解が成立した今となっては、語り草となったのかもしれないが、人々の記憶から消え去ったわけではないのだ。そんな過酷な時代をさかのぼり、もう一度双方の争いを検証しようとする作品なのですが、細部の詰めの甘さが目立って重要な部分が描かれていないのが残念。

冒頭で女性が地下鉄に乗っているところを写し、とある駅で降り階段を足早に登り、階段の途中に爆弾の入ったバックを置いて、地下鉄の地下へと抜けて通りに出て逮捕されてしまう。これが主人公のコレットで、地下鉄の監視カメラに彼女が映っており、爆発は起きなかったがIRAの仲間だと分かる。
MI5情報局のマイクからMI5のスパイとなって情報を流すか、刑務所へ入るかの決断を迫られ、息子のためにもスパイになることを誓う。家に帰ったコレットは、兄弟もIRAの仲間であり、上官のケビンはどうやら息子の父親のようだ。これは一言でいえば二重スパイの悲劇なのだが、そこには双方の様々な思惑が入り乱れて一筋縄ではいかない。

さらに、シングルマザーであるコレットと、捜査官マックとの間に恋が芽生え、加えてもう一つの二重スパイ事件が絡んで、物語は複雑な展開を見せる。ただ、背景となる時代が1990年代とはいえ、どこか牧歌的なのんびりとした進み方で、細部の詰めが甘く、サスペンス劇というにはいささか締まりがないのにがっかりでした。肝心要の双方の暴力の応酬の真相がいまひとつ見えてこない。もう少し、IRAと英国警察との過激な襲撃戦とか、ロンドンでの爆発とか見せて欲しかった。

コレットがマイクとアイルランドの埠頭で密会して、二人がキスを交わし「君を守ってやる」なんて都合のいいことを。そんなことが出来るわけないのに、どうやら女の方が頭が切れる。ラストで、もう一人のスパイ“シャドー・ダンサー”が、自分の母親だとは、これも弟が銃弾で死んだ時、母親が付いていった後ろ姿が映る。これはもしかしてと感じたのだが、伏線だったのですね。

コレットがマイクの指示で息子を連れて逃げることになるが、それは弟に何もかも話ており、弟がマイクの車に爆弾を仕掛けていたのだ。意外な結末なのだが、これも初めから観ていた観客には分かっていたことなので驚かない。女のしたたかさに愛は芽生えるはずもないからだ。
MI5のクライヴ・オーウェンも久しぶりに観たが、上司のジリアン・アンダースンは「X―ファイル」のスカイリーで活躍した綺麗な女優さん、さすがに本作でも綺麗でしたね。
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天使の分け前 ★★★★

2013年04月19日 | た行の映画
『大地と自由』『麦の穂をゆらす風』などのイギリスの名匠、ケン・ローチ監督によるヒューマン・コメディー。

スコッチ・ウイスキーの故郷スコットランドを舞台に、もめ事ばかり起こしてきた若者がウイスキー作りを通じて師や仲間と出会い、自らの手で人生を再生していくさまを描く。社会奉仕活動で出会った行き場のない者たちが繰り広げる痛快な人生賛歌は、第65回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した。
あらすじ:いつもケンカばかりしている青年ロビー(ポール・ブラニガン)は、トラブルを起こして警察ざたに。しかし、恋人との間にできた子どもがそろそろ出産時期を迎えることに免じ、刑務所送りの代わりに社会奉仕活動をすることになる。まともな生活を送ろうと改心した過程で指導者のハリー(ジョン・ヘンショウ)に出会い、ウイスキーの奥深さを教えてもらったロビーはその魅力に目覚めていき……。

<感想>ケン・ローチ監督と言えば、自他ともに認める筋金入りの社会主義者。もともと、社会の底辺で生きる弱者を優しい眼差しと温かなユーモアで描く監督として敬愛されている人。だから、この映画はとても、ケン・ローチらしい作品なのである。
この作品の主人公ロビーは、ろくでなしの父親と兄を持ち、父の代からの宿敵一家といさかいが絶えない。少年刑務所から出たばかりで、仕事も家もない。真っ当な生活を送りたいと思っているが、暴力的な環境と社会がそれを許してくれない。環境に失業、暴力、刑務所・・・、いくつものキーワードが、ローチの最も好むキャラクターであることを示している。

いつもなら不幸な結末を迎えるのに、今回のロビーは幸運にも、彼を愛してくれる恋人と赤ん坊がいて、“尊敬できる大人”ハリーと出会う。そして人生大逆転のチャンスを掴むのだ。ハリーは、宿敵に絡まれて喧嘩沙汰を起こしたロビーが、裁判所から命じられた社会奉仕活動を行っている現場の指導者である。
仕事は壁にペンキ塗りとか、ゴミ拾いとか、お金にはならない。ウィスキーが大好きなハリーは、規則違反を犯して、休日にロビーや3人の作業仲間を蒸留所見学に連れて行く。それがきっかけで、ロビーはテイスティングの才能に目覚める。もちろん勉強もした。そして蒸留所で聞いた「天使の分け前」=樽で熟成中のウイスキーは、1年で2%ほど蒸発して失われるーーという言葉から、ある計画を思いつくんです。
実はこの計画、100万ポンドの高値で落札される樽入りの最高級ウィスキーを、樽の中から数本分だけ盗んで“コレクター”に売るという、れっきとした犯罪なんですから。しかし、その犯罪がコメディと言っても差支えのない面白さ。

仲間の3人とは、酩酊しておバカな迷惑行為で捕まったオトボケ男2人と、つい目の前にある者を失敬する万引き女。3人ともやはり失業中の身なので、彼らのズレたやりとりは、ローチにしては珍しい類のおかしさなんです。
4人はオークションが行われる蒸留所に入るために、架空のモルトクラブを作って申し込み、怪しい者だと思われないようにキルトを着て、つまりタータンチェックのスカート。ハイランドへとヒッチハイクを続ける。その道のりは、美しい風景と軽やかに流れる音楽、まるで明るい青春ロードムービーのよう。
やがて蒸留所に着くと、ロビーは「孫に自慢できるから」と言って、オーナー夫婦を感動させ、オークションに立ち会うことを許してもらう。
ところが、その夜、大きな錠前と監視カメラが1台だけ取り付けられ「バイキング襲来以降、窃盗は皆無」という倉庫から、実にシンプルな方法でウイスキーを盗みだそうとする。それは、オークションに立ち会う前の日に、ロビーがウイスキーの蒸留樽の影に隠れて夜まで潜んでいたんですね。夜中にロビーが、最高級ウィスキーの樽を木槌でたたいて開け、初めは小さなウイスキー瓶に詰め、次はビニールホースでジュース瓶に1本詰めて、3人の友達が蒸留所の外にスタンバイしており、穴からビニールホースを伸ばして、彼らにも1本づつ最高級ウイスキーを詰めさせる。

その後、もっとたくさん瓶詰しようとするも、密かにコレクターに売るには少量の方が高値が付くと考える。
ロビーたちの犯罪には、罪悪感など微塵も感じられない。誰も傷つかないし、気付かない。金を払う“コレクター”は、マフィアと関係している胡散臭いヤツだし、ロビーはハリーにも恩返しをするのだから。
それと、ウイスキーを4本分せっかく搾取したのに、次の日コレクターに売る前に警察に怪しい者だと見つかり、でもキルト着ているし、スカートをめくれと言われ素直に「はい」と見せる3人。手荷物検査もすんなりとOK!・・・これに気をよくしたおバカな男が瓶を女の瓶にぶっつけて壊してしまう。

ジュース瓶に詰めたウイスキーは、1本10万ポンドはする品物なのに。なんてことだ。でも、ロビーはコレクターに1本だけ10万ポンドで売りつける。そして残りの1本は、恩人のハリーにプレゼントしたわけ。
4人で2万五千ポンドづつ分けて、再出発するロビーの嬉しそうな顔がいい。
貧しさや悲しみ、絶望は、時として人の良心さえ奪ってしまう。悲惨な状況にいる労働者は、ある程度の犯罪行為をしなければ生きていけない。だからというわけではないが、彼らを安易に裁こうとはせず、犯罪の背景にあるものを提示する。ロビーたちのしたことは確かに犯罪だが、可愛いものだと思う。愛すべき悪党と、愛すべき犯罪、そんなケン・ローチの映画を愛さずにはいられない。
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ヘンリー・アンド・ザ・ファミリー★★★

2013年04月19日 | DVD作品ーな行、は行
ジョーン・アーヴィングの小説を、ジャン=ピエール・ジュネが映画化したような新人デニス・リー監督の作風は、将来が期待できそう。

物語:シカゴ、母親と祖父と一緒に暮らす10歳のヘンリーは、写真記憶を持つIQ310の超天才児童だった。ある日、彼は祖父から秘密を打ち明けられる。母親パトリシアは、精子バンクを利用した人口受精によって彼を産んでいたのだ。しかも精子ドナーである生物学上の父親は近くに住んでおり、娘、つまり腹違いの姉がいるという。早速ふたりに会いにいくヘンリー。父親であるスラヴキン博士は、高名な心理学者だったが、彼が書いた本の影響で姉のオードリーは、レズビアンだと周囲に誤解されて、学校でイジメにあっていて、家庭崩壊の危機にあった。そんな中、ヘンリーは、パトリシアを交えて“家族”を一堂に会させるのだが、・・・。
<感想>だいぶ前に借りてきたのだが、レビューすることもないとそのままにしていた。ところが先日ミニシアターで「人生、ブラボー!」という映画を見て、そういえば精子バンクのお話って前にも観たと思いだしたわけ。
2011年、アメリカ制作。監督・脚本デニス・リー。アカデミー賞学生短編賞を受賞したものを、長編に拡大したもの。プロデュースはジュリア・ロバーツで撮影監督がジュリアの夫である、ダニー・モダーが担当と、ジュリア・ロバーツが、デニス・リーの才能に相当惚れこんでいることが伺える。
確かに、ジョン・アーヴィングの小説をジャン=ピエール・ジュネが映画化したような彼の作風は個性的で、将来が期待できそうですね。リー監督が韓国系なのにオリエンタリズムを全く感じさせないところも面白いです。
物語は、超天才児のヘンリーが1歳になる前に言葉を話し、写真記憶(目にしたものをすべて記憶できる能力)があるIQ310の超天才小年であり、10歳で大学生となってしまう。そのヘンリーが精子バンクへ行き、父親探しを始めるわけですが、やはり母親にしてみれば父親は必要ないと思って育ててきたわけで。しかし、ヘンリーは父親よりも自分と同じDNAを持つ姉がいることを喜んでいて、是非会いたいと願うんです。
ところが、その姉12歳のオードリーは父親と住んでいるのですが、性格が躁鬱状態で、機嫌が良いときは普通の女の子で、時には狂ったように奇声を上げて別人のようにも見える。その性格は、心理学者ある父親のスラヴキン博士の著書「同性愛は先天性か、後天性か」の表紙に、娘のオードリーの写真を使ったせいで、周囲にレズビアンと誤解され、学校でイジメにあっているわけ。だから父親との関係も悪化しているのです。
そんなリーの演出が、上滑りしていないのは、俳優陣の演技がしっかりとしているからだろう。パトリシア役のトニ・コレットは、「シックスセンス」の母親役の印象が強いが、この作品では神経質なフェミニストの母親を好演している。それに、スラヴキン博士のマイケル・シーンは「トワイライト・サーガ」のヴァンパイア貴族と同一人物とはとても思えない、鬱々としたキャラに成りきっており、英国舞台俳優恐るべしと思わせる演技が小気味いいです。祖父役のフランク・ムーアは、あまり知られてないがテレビ出演が多いそうです。それと、精子ドナーの受付の白人の男性が、自分は黒人だと信じているし、パトリシアの双子の兄たちのおかしな死に方もあるしで、コメディ作品なんだけど、少しシリアス感もある。
そして何よりも主人公ヘンリーを演じるジェイソン・スペヴァック君である。ファレリー兄弟の「2番目のキス」でジミー・ファロンの子供時代を演じてた子役なのだけど、もの凄く演技は巧いのにクセがないのが最高。彼の透明な存在感があるからこそ、クセだらけの登場人物たちが、疑似家族として結びついていく姿を、イヤミなく観る事ができるのですね。でも、残念なことに18歳のなったヘンリー役の、青年の顔も似てませんし、演技も何だかなぁ~という感じでした。
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人生、ブラボー! ★★.5

2013年04月17日 | さ行の映画
過去に行った693回の精子提供を通して、ある日突然、533人の子どもの父親であることが発覚した男が巻き込まれる事態を、笑いと涙を交えて描くハートフルドラマ。

過去に「スターバック」という仮名で693回の精子提供を行い、その結果として生まれた533人の父親であることがわかった42歳の独身男ダビッド。ある日、弁護士を通じて533人のうち142人が、遺伝子上の父親の身元開示を求める訴訟を起こす予定だと知らされる。身元を明かすつもりは毛頭ないダビッドだったが、子どものうちの1人が、自分が応援するサッカーチームのスター選手であることを知ると、他の子どもたちにも興味がわきはじめ……。
多くの映画祭で高評価を得て、米国でのリメイクも進行中のヒューマン・ドラマ。監督はケン・スコット。出演:パトリック・ユアール、ジュエリー・ル・ブルトン、アントワーヌ・ベルトラン他。2011年、カナダの作品。

<感想>遺伝子上の子供が500人以上いるといっても、マスをかいて精子を700回近くも売った結果というのが、なんともおぞましい感じで、イマイチ素直に感動できなかった。甲斐性ゼロ、借金まみれ、それに恋人が妊娠しているという主人公だが、根はすんごくいいやつ。

脚本書いた人が保守的なのか、カナダって国が開けっぴろげな国なのかは分かりませんが、そんなふうにして勝手に子孫を増殖していいものなのか?・・・。提供した精子から生まれた142人の子供から、認知を求められる設定は面白いが、コメディならともかく、主人公が無造作に選んだ数人の子供に、ささやかな善行を施す天使気取りの物語。それを人生賛歌のごとく描いているのが不愉快です。

リストの中から抜き取った一人目が、イケメン青年でプロサッカー選手。我が息子でかしたと言わんばかりに、観戦にいき応援する束の間の父親気取り。次は俳優志望のこれもイケメン青年、アルバイトをしているバーに行き、オーディションの時間に遅れるというので留守番を引き受けるお人好し。その中にも、身体障害者の男の子の施設へ行き、食事の世話をする優しさも。
全員に均等の愛情を注げるわけもなく、自己満足の行動に過ぎない。精子を求めた母親たちの存在が不可欠のはずなのに、影もなく映さないし、子供たちの外見や仕草にも遺伝がほとんど感じられないのが不自然です。
それでも、誰も彼もが善人で、どこもかしこも慈愛満点なのだが、主人公の彼女の出産騒ぎに子供たちが駆け付けて、弟が出来たと喜ぶ顔が素敵です。
全人類的な問題を、一人の男に集約させた巧妙な作劇を、綺麗ごとで終わらせてしまったのも残念な気がしました。
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