パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

真夏の方程式  ★★★★

2013年06月30日 | ま行の映画
東野圭吾の小説が原作のテレビドラマ「ガリレオ」シリーズの劇場版第2弾。とある海辺の町を訪れた物理学者・湯川学が、そこで起きた殺人事件の悲しい真相に直面する姿を、一人の少年との出会いを絡めて描く。テレビ版と前作に続いて福山雅治が主演を努め、子どもが苦手なのにもかかわらず、少年のために事件に挑む湯川を体現する。『妖怪人間ベム』シリーズの杏、ベテラン風吹ジュンら実力派が共演。科学技術と自然の共存という、劇中に盛り込まれたテーマにも着目を。
あらすじ:きれいな海に面した玻璃ヶ浦で計画されている、海底鉱物資源の開発。その説明会に招待された物理学者・湯川学(福山雅治)は、緑岩荘という旅館を滞在先に選ぶ。そして、そこで夏休みを過ごす旅館を営む川畑夫婦(前田吟、風吹ジュン)のおい、恭平と知り合う。次の朝、堤防下の岩場で緑岩荘に宿泊していたもう一人の客・塚原の変死体が発見される。図らずも事件に直面した湯川は、旅館廃業を考えていたという川畑夫婦や、夫婦の娘で環境保護活動に奔走する成実(杏)らと塚原の思わぬ因縁を知る。

<感想>テレビの「ガリレオ」シリーズのファンです。もちろん原作も読んでいます。前作の「容疑者X献身」から5年、今回は自然と人間の共存をテーマにしているとのこと。それに、子供嫌いな湯川の、人生初となる少年との交流が観たいというのもありましたね。原作とほぼ同じ内容でしたが、成美に気のある男友達が殺人に関与してたのがカットされてました。その他にもありますが、小説とすべて同じように映像化しないところも納得です。
さらには、舞台となる“手つかずの海“となる海辺の町が何処なのか(伊豆下田)?・・・その自然の海を「守る」というキーワードと、親子の情愛、大切な宝物を「守る」という意味合いも込められています。
海底資源の開発計画に揺れる美しい海辺の町、玻璃ヶ浦を舞台にした映画は、湯川が奇しくも暴くことになる不可解な殺人事件の真相が、過去の殺人事件にまつわるある人物の“嘘”と切実な想いを浮き彫りにしていくというもの。
愛する者を守るために、別の人物がさらなる罪を犯す設定は、前作の「容疑者X献身」の構造にも似ているのだが、・・・。が、しかし、前回と違って犯人が湯川の親友でもライバルでもありません。今回は、玻璃ヶ浦の宿、緑岩荘の川畑家の人たちや、川畑家の甥っ子の恭平という少年とは、たまたま出会っただけで、彼らに友情や同情を感じたわけでもなく、興味があるわけでもない。ただ、科学者としての使命が事件に向き合わせたようだ。
だから今作での湯川のアプローチは、より物理学者らしく科学者の所為から生まれたものだと思いますね。それに環境問題というデリケートなテーマについても、この映画独自の視点で描かれている。ラストで湯川と成美が素潜りして、海の中へと、それは本当に綺麗です。

湯川は、決して子供に優しく接しようと思ったわけではなく、電車で一緒だった恭平が、「理科は嫌いなんだよね」って言われる。湯川は嫌いというのは主観の問題で、湯川にとって関係のないことなのだが、朝食の時に「理科が何の役に立つんだよ」って言われ、カチンと来る。それはもう科学自体を全否定されたようなもので、聞き捨てならないのだ。そこで「科学の素晴らしさを教えてやる」と大義名分を付けつつ、ムキになって実験に挑むんですね。

恭平が、玻璃ヶ浦には海の底に水晶が沈んでいて、晴れた日には200m地点で、太陽光線にキラキラと反射してそれは綺麗だと。でも自分は船酔いするので見れないと言う。それではと、湯川博士が、陸にいながら200m先の海の中を見るという実験をする。ペットボトルをロケットに見立てて、釣竿にロケットを取りつけ、ボンベの圧力で飛ばし、岸壁から200m先の海へと。ペットボトルにケータイ電話を入れ、恭平の携帯に接続するようにする。恭平の携帯の画面に映る色鮮やかな魚の群れ、それは美しかった。
結果、戦わずして諦めがちな少年の心に火をつけるのですが、自分のケータイは水につかってダメにしたけれど、それ以上に恭平よりも、実験に夢中になっている湯川の姿が、童心に帰ったように喜ぶ顔が素敵でしたね。

そうそう、肝心の岩場の変死体事件ですが、さびれた海辺の町の警察では単なる酔っ払いが散歩に出て、足を踏み外して落ちたのだろうと。ところが、遺体の塚原という人は元捜査一課の刑事だったということで、東京の県警本部の「ガリレオ」の刑事メンバーが出揃うということになるわけです。相変わらずハイテンションの吉高由里子に、北村一樹の刑事コンビとお偉方。緑岩荘の川畑夫妻に前田吟と風吹ジュン、その娘の成美に杏、容疑者の仙波に白竜。

父親のベテラン俳優前田吟の演技と、母親の風吹ジュンの演技が自然で上手かったです。それに子役の恭平を演じた山崎光くんも頑張ってましたね。
冒頭で、ホステス殺人事件が映され、犯人の息を切らせて走る姿が誰なのか、男にも見えたのだが、観ているうちにこれは中学生の女の子だとわかり、その娘の犯行をもみ消すために実の父親が名乗り出て逮捕ということに。その事件を担当していた刑事が、玻璃ヶ浦の岩場で変死体となって発見される。それも解剖すると睡眠薬を飲み、一酸化炭素中毒という。

その殺人が一酸化炭素中毒というのに興味がわき、湯川が旅館の屋上に上がり、煙突の部分と下に置いてあった段ボール。それにヒントを得て、旅館の部屋の壁の亀裂とかを見て、意外な真犯人と旅館の経営者川畑家が抱える秘密を知ってしまうのです。
後半は、何故川畑が元刑事を殺さなければいけなかったのか。東京での川畑家族の生活とか、両親のなれそめにホステス殺人事件が映されます。

それにしても、いろんな問題があったとは言え、殺人を犯した中学生の娘を自首させないのが変ですよね。この娘は、誰かが自分の罪を被ってくれた。一生その罪を背負って生きてゆかねばならないのに。東京から玻璃ヶ浦に移ってからは、その事件のことを忘れてしまったかのようなそぶりだ。しかし、彼女の実の父親が玻璃ヶ浦出身と言う事を知り、自分の罪を被ってくれた事を知り、この美しい玻璃ヶ浦の海を守っていこうと決心したのだろう。
父親が自分に娘が似てないけれど、愛情が湧き実の娘として育ててきた。だからその娘のしたことを、いやもしかしてホステス殺しを妻が殺したのだと。犯人が逮捕されたのに、今更ほじくり返しに来た刑事が許せなかったのか?・・・だから殺したのだろうか。皆が貝のように口を閉ざして本当のことを話さない。愛する者を守るために!
最初が狂ってしまうと、もう後戻り出来ないのだろうか、この娘はまたもや一生涯、自分が犯した昔の殺人を背負って生きていくのだろう。それに、湯川が言っていた恭平の罪は、足の悪い川畑の言いつけで、屋上の煙突を段ボールで塞いだ。それが殺人の手助けをした罪と言えるだろうか。
刑事や探偵とは異なる科学者の生理に基づく、湯川の言動が際立ちます。「少年に最後に何を伝えますか」という、ある容疑者に自分の仮説を唱えるクライマックスでは、相手の気持ちを探ろうとか、ましてや事件を解決しようということには全く興味がありません。刑事ではない、科学者としての湯川の本質が見られます。
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人生はノー・リターン ★★.5

2013年06月28日 | さ行の映画
ウザ~イ母親に、バーブラ・ストライサンド71歳!、子離れできない母親と息子の超変格ロマンス・コメディです。
タイトルの横に~僕とオカン、涙の3000マイル~
と付いているロードムービー。
あらすじ:5年の歳月と全財産を費やしてエコ洗剤を開発したアンディ。だが、取り扱ってくれる店は見つからず、破産の危機に直面していた。そんなある日、彼は洗剤を売り込む全米横断のセールス旅行に、母親ジョイスを誘うことにする。夫に早くに死なれて息子べったりの人生を送ってきたジョイスだは、結婚前には別の男と付き合った経験もあるらしい。
アンディはその男が、未だに独身で西海岸のサンフランシスコで健在なことをネットで調べていた。「子離れできない母親を男とくっつければ厄介ばらいできる」という思惑があり、母親を昔の恋人に引き合わせようと目論んでいたのだ。
だが、アメリカ大陸横断の道中で、久しぶりの息子との旅行に浮かれるジョイス。行く先々で騒動を巻き起こしてしまう。アンディは嫌気がさしてしまうが、やがて母親との思いがけない“共通点“に気付いてしまう。
出演:セス・ローゲン、バーブラ・ストライサンド、キャシー・ナジミー、ロバート・カーティス・ブラウン、ローズ・アブドゥ、ワース・ハウ、他
監督:アン・フレッチャー

<感想>劇場未公開作品。これは、自身の発明がビジネスの成功と、アメリカンドリームを夢見ているような、アメリカ人特有の絶対に幸福へと繋がるはずと信じて止まらない男たちのお話と、その彼、息子には絶対才能が有ると信じて止まない70代の母親を中心にした、愉快な物語なのです。
「あなたは私の婿になる」と「ラブ・アゲイン」といえば、いずれも大ヒットしたロマンティック・コメディですが、前者の監督アン・フレッチャーと、後者の脚本家ダン・フォーゲルマンが組んだ本作は、一見そうでないように思える。だが、よくよく見ていると果たしてそうだろうか?・・・息子アンディを演じているのが、セス・ローゲンなのだから。

セス・ローゲンの相手役を演じるのは、あのバーブラ・ストライサンド。敢えて言おう、本作は母親と息子の愛を描いた超変格ロマ・コメなのだから。
母親が一緒に息子のプレゼンに同行したり、元カノと仲直りさせようとしたり、バーブラがテキサスで、ステーキ大食いコンテストにチャレンジしたりするその姿は、メイキングでセスが「俺の母親とそっくりなんだよ」とこぼすとおりの“ウザイオカン”を体現したかのよう。
バーブラが映画出演したのは「ミート・ザ・ペアレンツ2」以来だそうだが、彼女はまだまだイケると確信しましたね。若いです、本当に。殆どすべての台詞に自由にアドリブを交えてという、そんな彼女に対し、セスはすべてのアドリブに対して、的確に打ち返してみせるという“あうん“の呼吸で、そのやり返しはまるで本当の親子みたいでした。
息子の発明した洗剤の売り込みもどこへいってもダメで、息子は大丈夫だと言ってはいるが、母親としては全然売れない息子の気持ちをくみとりアドバイスをするのだが、やはり、母親の入知恵を受け入れようとはしない。

ところがラスベガスで、母親が好きなカエルの絵が描いてあるスロットマシンで朝まで遊び、耳にピアスの穴まであけてルンルンの若返り。息子も洗剤を今度こそ売り込もうと、TVのスタジオへ。しかし難しい説明をするも誰も聴いてくれない。そこで、みんなを振り向かせようと、洗剤を飲んで見せるのだ。ヤシ油、パーム油、大豆(醤油)を並べ、オーガニック素材で子供にもペットにも誤って飲んでも平気だということを証明して見せたのだ。これには驚き、大いに受けて、契約成立!
そして、肝心な母親を昔の恋人に逢わせてやろうとサンフランシスコへと。しかし、その彼氏は5年前に亡くなっており、母親のことなんて全然話題にもしてなかったこと。
この作品では、40過ぎの独身の息子を今でもお子様扱いしていること。心配でたまらないのだ。息子にしても、自分は独身なのだが、母親に再婚してもらい人生を謳歌してもらいたいという思いがある。
ロードムービーですが、ちょっとだけ立ち寄った、グランドキャニオンの景色もステキだったし、途中で天候が雪になり車が動かなくなったりのアクシデント。車の中で聞かされる母親好みのCDの朗読。ガス・スタンドに立ち寄れば、スナック菓子を買い車の中でポリポリ、親子だからどうしても母親が親分で、何でも母親の言いなりでウンザリ気味の息子。
子離れできない母親と、親離れができない息子。どっちもどっちだが、全編に渡って笑いあり、喧嘩あり、仲直りをして、とにかく二人の丁々発止のやりとりが面白おかしくて、さすがにベテラン同士なので安心して観られた。途中で少しドギツイ言葉のやりとりもあるが、それもユーモアと解釈すれば、仲のいい親子のエピソードで終わってしまう。
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ウォリスとエドワード 王冠をかけた恋 ★★.5

2013年06月28日 | あ行の映画
ミュージシャンや女優として多方面で活躍するマドンナが監督を務めた壮大なラブロマンス。結婚生活に悩む現代女性と、かつて英国王に王位を捨てさせた悪女として非難を浴びたアメリカ人ウォリス・シンプソンの姿を通して愛の本質を浮き彫りにする。悩める人妻を『エンジェル ウォーズ』のアビー・コーニッシュが演じ、世紀のヒロインを『わたしを離さないで』のアンドレア・ライズブローが熱演。豪華な衣装や宝石に彩られた魅力的な物語におぼれる。
あらすじ:1998年、ウォリー(アビー・コーニッシュ)は著名な分析医の夫(リチャード・コイル)と結婚し、ニューヨークで何不自由ない生活を送っていた。だが、多忙な夫はなかなか家に寄り付かず、子どもを欲しがる彼女との溝は深まるばかりだった。ある日、ウォリーは以前務めていた職場で開かれるウィンザー公爵夫妻の遺品オークションに足を運ぶ。

<感想>英国王室最大のスキャンダル“王冠をかけた恋”と、同時に綴られる一組の現代の夫婦の姿を描いている。現代のウォリーと、シンプソン夫人のウォリスの時代を行ったり来たりするうちに、すっかり魔法にかけられた感じがする。すべてが美しいし豪華である。しかも大好きな過去への「バックトゥ・・・」テイストも味わえるのだから贅沢の極みだ。
「英国王のスピーチ」ではまったくの悪役にされた、エドワード8世と、彼を毒牙にかけたと言われる米国人女性シンプソン夫人の世紀の恋を、オスカー受賞作とは逆の視点から描いた作品で、監督はあのマドンナ。

だからストレートに道ならぬ恋を描くわけでなく、夫人に共感を持った現代人女性の“本当の幸せ探し”を交互に見せることで、テーマを深めようとしている。

現代のウォリーは毎日のように、ウィンザー公爵夫妻の遺品オークションに足を運ぶ。品物を見つめ、その時代にタイムスリップして妄想し、自分がシンプソン夫人になったような錯覚になる。ウォリーは2度目の結婚で、今度こそ子供を産みたいと望むも、医者の夫はそれを望まなく毎夜のごとく家には帰らない。またもや、夫婦の危機に陥るウォリーは、オークションで優しくしてくれる警備員と親しくなる。
シンプソン夫人の描写は、私にはあまりにも女としての、シンデレラを望んでしまったが故の、悲劇としか思えなかった。いくらエドワード皇太子のお気に入りでも、初めはシンプソン夫人の友達と愛し合っていたエドワードが、いつも間にかシンプソン夫人に目移りして、これぞとばかりに自分をアピール。ウブな皇太子は母性愛のあるシンプソン夫人の虜になってしまったのだろう。

何度も、いくつもの宝石をプレゼントするエドワード皇太子。女は宝石に弱いというから、自分がイギリスの王妃になることを夢見てしまったのだろう。
あの悲痛な白塗りの顔、眉間に皺を寄せたしかめ面が特に気に入らない。2度も結婚しておきながら、夫に申し訳ないと思わなかったのか、世間の冷たい視線を浴びながら、マスコミの中傷、あざけり、イギリス国民からの非難は当たり前のこと。ここに描かれる全てを手に入れたヒロインの苦悩は、マドンナ自身と重なるのだろうか
あまりに語られることのない人物の物語は面白いが、この語り方には問題があったかもしれない。最後に、現代のウォリーが、警備員の男の子共を妊娠して幸せになるという終わり方が良かったと思う。
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カルテット! 人生のオペラハウス ★★★.5

2013年06月26日 | か行の映画
名優ダスティン・ホフマンが初めてメガホンをとった監督作。引退した音楽家たちが暮らす「ビーチャム・ハウス」で穏やかに余生を送るレジー、シシー、ウィルフのもとに、昔のカルテットメンバーでありながら、野心とエゴで皆を傷つけ去っていったジーンがやってくる。近く開かれるコンサートが成功しなければハウス閉鎖という危機を迎え、誰もが伝説のカルテット復活に期待を寄せるが……。「戦場のピアニスト」「潜水服は蝶の夢を見る」などで知られる脚本家のロナルド・ハーウッドによる戯曲を映画化した。

<感想>稀代の名優が70代にしてかねてからの念願だった初監督を果たした、ダスティン・ホフマン。本作はイギリスの劇作家ロナルド・ハーウッドの同名劇を映画化した作品。リタイアした音楽家専用老人ホームが舞台となる作品だけに、登場人物たちの年齢層も高く、俳優陣はベテランぞろいだ。
同じく七十代の主要キャストたちは、いずれも名だたる映画・演劇賞の栄誉に輝いた大ベテランであり、むろん大英帝国勲章の受勲者であることは言うまでもない。そのめったに見られない揃い踏みとあって、この映画、「ヴェルディ生誕二百年記念」を謳わずとも、まるで歌舞伎の新春顔見世でも見たような気分でもある。
出演者の生かし方がうまいのは、ホフマン監督の俳優としての蓄積が生きているからに違いない。その眼差しは温かい。それにしても、彼らが余生を過ごすホームの何と立派なことか。わが日本の芸術家たちにも、このようなホームがあるといいのに、とつくづく思う。

主役の4人、トム・コートネイは気品のある紳士のように、ビリー・コノリーはスケベ親父としていい味わいを出している。それに、認知症が入ってきた役を演じるポーリーン・コリンズは、無邪気に笑顔を振り撒き始終笑いを取るのもいい。
一番の見ものは、マギー・スミスである。奔放な男性遍歴を重ねたあげくに、施設に辿り着いた元プリマドンナという役どころ。かつてのオペラ歌手という設定が貫録を見せつけるマギー・スミスの老い方がいい。自分はこんな所に入りたくなかったのに、とダダをこねているも、やっぱり年には勝てないわとばかりにポンポンと口から毒舌を吐く。

4人以外は本物の音楽家で固めた配役が見事である。それなりの体裁に整ってはいるが、しかし、これによって主役には歌わせられないというアクロバットを、映画は演じることになる。どうやってこの不自然さを悟られずに切り抜けられるのかが勝負というわけ。
それに、4人のリハーサルはサイレントだし。だが、施設の存続のためには、このメンバーでカルテットを組むことが必須なのだという。出演者には80歳代中盤以上の方々も多く、同世代にあてた応援メッセージとして作られている気配が濃厚なので、原則としてはコメディは遠慮がなければないほど笑えると言うことは言える。

体の不具合をネタにするウィルフ爺さんや、アルツハイマー進行中のシシーのギャグは、掛け値なしに笑えるが、カマトトぶったジーンの言い方はキツイですよね。
ですが、この映画における感動は、ひとえに美しいものへの奉仕の姿勢の中にある。彼らが音楽を聴く時、奏でるとき、歌う時の、謙虚で敬虔な表情にあるのだ。誰でも老いてゆく。声はかすれて伸びも悪く高音も出てこない。歌詞も忘れ、それでも誰もが、報われようと報われまいと、かくして幕は上がるのだ。
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箱入り息子の恋 ★★★.5

2013年06月25日 | は行の映画
俳優、音楽家、文筆家と幅広く活躍する星野 源が、映画初主演を果たした恋愛ドラマ。監督は市井昌秀。ヒロインは夏帆にその両親が黒木瞳と大杉漣。そして健太郎の両親には森山良子に平泉成、他脇役多数出演。
あらすじ:市役所勤務の星野 源扮する健太郎は、彼女いない歴=年齢のサエない主人公。起伏のない毎日を送っていたが、その人生を一変させる恋の相手が現れる。ある日、親同士が婚活する“代理見合い”を通じて出会った夏帆演じるところの今井奈穂子に、一気に心奪われてしまう。初めて恋を知った健太郎は周囲を巻き込み、滑稽な暴走を繰り広げる。その姿はぶざまだが、胸が熱くなる。

<感想>ヒロインの今井奈穂子は目のハンディを背負っているものの、市井監督はそれ自体をテーマにはしていない。あくまでメインは、恋によって覚醒した男女が未知の領域へと踏み込んでいく物語になっている。だからなのか、オクテの童貞男子と盲目の美少女(趣味はピアノ)の叶わぬ恋、っていうガチガチのメロドラマ設定にもかかわらず、脚本のディテールと主演2人の清純さで古さを感じさせない。
健太郎は大学生の時に話しかけてくれた同級生の女の子と仲良くなって告白しようとするも、相手の眼中になかった、という辛い過去がトラウマになっているんですね。以来、誰に対しても恋心など抱かないと決めつけている。

一方では、奈穂子は失恋すら経験してない分、初めて知ることに対する興味がすごく強いわけ。実際、奈穂子の心が先に動いて、健太郎にもう一度会いたいと思ったことから2人の恋模様が展開していく。
奈穂子は目にハンディを持つことを受け入れた上で、その先へ行こうとする行動力のある女性。病気によって視力を失っているという設定は、確かにデリケートな要素ですが、そのことを真摯に受け止めて、恋することで生まれた活力によって自分たちの殻を破っていく男女の物語ですね。
独身を貫く覚悟も準備もあり、運命の女性と出会えば相手の抱える障害など屁でもない主人公。そんな彼が対峙するのが、子離れ出来ていない双方の親というのも面白いし、今っぽいですね。で、七転八倒するわけだが、その際に流す汗の匂い、涙の塩味が何だかツンとこないのもまた今っぽいのだ。

特に二度も出て来る「吉野家」のシーンには、どちらもグッときてしまった。西日がガンガンな「吉野家」まさにつゆだくで、主人公カップルの想いが昇華し、愛の光が差し込む空間にしてしまうセンスは抜群でした。

といっても、ユーモアのある作品で核となる部分には、笑いのエッセンスが散りばめられている。全体的にシリアスな、どことなくユーモラスなシーンが幾つか出てきますし、基本的には登場人物たちの気持ちや感情の流れを途切れることなくシリアスに見せている。
健太郎が奈穂子をかばって交通事故に遭うシーンや、奈穂子に会いたくて仕事を早退してまで走って、走って会いに行く。そして2階の奈穂子の部屋へやっとたどり着きカエルの鳴き声で自分を気付かせて、やっと二人が結ばれたのに、奈穂子の父親に見つかりぶん殴られて2階のベランダから下へと落ちてしまう。2回もですよ、大怪我をするなんて。しかし、狙っているという感じはなく、そこはあくまでもさりげなく足すというニュアンスでしょうか。

さらには子を持つ親としての目線も加わって、物語をいっそう深みが増した印象を受ける。劇中では、健太郎と奈穂子の両親ともに自分の子供に対して甘い親として描いているが、それは子供の気持ちになって「経験をさせる」ということを分かってもらいたい、というメッセージの裏返しでもある。
あと、人間が感情を剥き出しにする姿、本当に理屈じゃない部分。文字では表現しきれないもどかしさを、要所要所で感じたりもしましたが、映像だからこそ見せられる理屈じゃないパワーを感じさせる。
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100回泣くこと  ★★.5

2013年06月25日 | は行の映画
記憶の一部を失った青年と病魔に侵された女性との切ない恋愛を描いた中村航原作のベストセラー小説を映画化したラブ・ストーリー。関ジャニ∞の大倉忠義が単独での映画初主演を務め、ヒロインを『荒川アンダー ザ ブリッジ』シリーズの桐谷美玲が演じる。監督は、『恋する日曜日 私。恋した』『きいろいゾウ』といった作品で、男女の関係を繊細に映し出すことに定評のある廣木隆一。また、脚本を『ソラニン』などの高橋泉が手掛け、原作とは異なる設定に組み変えている。次第に明かされる二人の過去、やがて訪れる悲しい運命に号泣すること必至。
あらすじ:4年前に起こしたバイク事故で記憶の一部を喪失した藤井(大倉忠義)は、友人の結婚式で出会った佳美(桐谷美玲)と交際をスタートさせる。交際間もなくプロポーズした藤井に、佳美は1年間は結婚の練習をしようと提案。そんな幸せ絶頂の最中、佳美を病魔が襲う。実は、佳美が練習期間と言い出したのには理由があり……。

<感想>この作品は、病を抱える大切な人を亡くすという、いわゆる「セカチュー」の系譜というか、・・・。難病とか余命ということに関して、あまり身近に触れる機会がないので、でも、それが当たり前に起こってもおかしくない、すごく身近にあることだっていうことを感じられます。
関ジャニ∞の大倉くん演じる主人公藤井と、桐谷美玲が演じる佳美の二人が、まるで“呼吸”するかのように穏やかで何気ない日常の中で、丁寧に紡いでいく幸せな時間と、それゆえにその悲しみを一層深くする別れを描いている本作。
4年前のバイク事故で記憶を失った恋人と、偶然というか友達が仕組んだ友達の結婚式での再会。彼の藤井くんはすっかり昔の恋人佳美のことなんか忘れてしまっている。そのことを誰も藤井に教えないし、彼女も自分から率先して近づこうとはしない。だから、友達の結婚式で出会い直ぐに意気投合してしまうふたり。それから、二人はデートを重ねて一緒に同棲することに。

でも、彼女、佳美の身体は癌に侵され余命1年というのだ。その佳美の病気だって、4年前のバイク事故の時、もうすでに二人は愛し合い結婚を考えていたに違いない。卵巣癌という、将来、佳美は子供を産むことができないのだ。そのことで彼と喧嘩をし、でも彼は結婚指輪を買って、その帰りに事故に遭ってしまう。その後も、二人で過ごした家に今でも一人で住んでいる佳美。
後でこのことを知り、その家を訪ねる藤井なんですが、家の中を見ても思い出しているのか、ダメなのかよく分かりません。彼にとって、4年前の佳美はもう過去の人となってしまっているのか。
佳美が藤井くんに、「1年間時間が欲しいという」もうすでに佳美の身体は癌の末期症状で、抗がん剤を投与するため入院するも、佳美の頭は抗がん剤で毛が全部抜けてスキンヘットに。そのことも藤井くんに隠している佳美。4年前に藤井くんに佳美は話しているのに、記憶がないから忘れてしまっているのだ。

原作は読んでいませんが、藤井くんと佳美の関係性や物語の展開というところで、原作と違う部分があるというのだが、映画だけみても藤井くんの佳美に対する優しさとか思いやりが凄く感じられて良かったと思います。
ただ、私としては佳美が、いくら藤井くんが事故に遭い記憶を失ったとしても、よく4年間も逢わないで待っていたなんて、出来ないだろうな。毎日のように藤井君のところへ押しかけて、「私を思い出してよ」って迫ってしまう。反対に嫌われたりして、やっぱ、佳美ちゃんのようにじっと待つべきなのかもしれませんね。
この作品は、二人の日常を淡々と描いていくのが印象的ですが、途中でダレてきます。でも、熱を出した佳美が寝る横で大倉が“解熱の舞”を踊る場面がほんわりとユニークで笑ってしまった。そして、二人で誰もいない教会で結婚式の台詞を言うシーンとか、ほんわかして良かった。

ただし、佳美の身体がだんだんと弱って来て、藤井くんが病院へ実家のワンコ、ブックを連れて行くところとか、「これって病院ではダメなのに」と思ってしまったり、佳美が余命幾ばくかと言う時に、藤井君とバイクに乗って河原へ行ったりするとこも、このシーンは“ヤバイ“というくらい泣けてきて、隣の人を気にしながら涙が止まらなかった。
ラストは、佳美ちゃんの葬式とかなくて、藤井くんが一人でハワイへ行き、佳美ちゃんが言っていた、幻の“ルナレインボー”を見るために浜辺で待っているところで終わる。脇役で佳美の父親に大杉漣さんが、佳美の友人夏子に、ともさかさんがいろいろと世話をやく子持ちのシングルマザーで出演している。
ただ悲しいという映画ではなく、相手をこんなにも純粋に思える気持ちって素敵ですよね。最近、こんなふうに若い人の「純愛映画」はあまり観てないので、素直に涙が出てきて、オバサンとしては感動しましたね。
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愛犬コロンの満3歳誕生日

2013年06月24日 | 愛犬コロンの日記
愛犬コロンの満3歳誕生日


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アフター・アース ★★★★

2013年06月22日 | アクション映画ーア行
『シックス・センス』『エアベンダー』の鬼才M・ナイト・シャマランが放つスペクタクル。人類が放棄して1,000年が経過した地球を舞台に、屈強な兵士とその息子が決死のサバイバルを展開する。『メン・イン・ブラック』シリーズのウィル・スミスと『ベスト・キッド』のジェイデン・スミスが、『幸せのちから』以来の共演を果たし、再び親子を快演。地球が人類を抹消する生態系を抱える惑星となったというユニークな設定、VFXで創造された未知の動物たち、冒険を通して揺らいでいた絆を固くする親子のドラマなど、見どころ満載だ。
***ネタバレで書いてますのでご注意ください。

<感想>タイトルの「After Earth」とは、「地球後暦」のこと。環境破壊によって人類が地球を脱出し、惑星ノヴァ・プライムに移住してから1000年後の物語である。ウイル・スミスが制作&原案を兼務し、息子ジェイデンとW主演を務める未来を舞台にしたサバイバル、SFアクション映画である。
人類にとって危険極まりない場所に変貌した未来の地球に、宇宙船にトラブルが発生して機体が破損、緊急シグナルを搭載した尾翼部が地球へと落下する。それを追って地球に宇宙船が不時着するが、父子を除くほかのクルーたちは全員死亡してしまう。国民的英雄であるユナイテッド・レンジャーの総司令官の父は、両脚を負傷し動けないため、救援を求めにいく役割は息子のキタイが担うことになる。
このシーンだって、墜落の時もの凄い勢いで飛ばされた父親なのに、両脚骨折程度ですんでるのが変ですから。まぁ、家庭では疎遠な二人が、サバイバルを通じて絆を深め、やがて息子は父親と同じ英雄へと成長するという、物語の展開には満足ですがね。

見せ場は、人類が捨て去ってから1000年後の地球は?・・・まず息を飲むのは生まれ変わった地球の様子。自然は枯れ果て、大気や水が汚染されたかつての面影はなく、大地を覆っているのは豊かな緑のジャングル。ところが、原始のジャングルに足を踏み入れると、この星は本性を剥き出しにする。天候は不安定で、気温は激しく上下、さらに進化した野生生物が弱肉強食の死闘を繰り広げているではないか。そんな地球で、親子は力を合わせて救援信号を発信する“ビーコン”を探し出さなければならなかった。
このジャングルのシーンは、北カリフォーニアのフンボルト・レッドウッズ州立公園と、中米のコスタリカで撮影。救援信号を発信するため、コスタリカのアレナル活火山の噴火口で実際撮影したというのだ。もう14か月も噴火してないから大丈夫というスタッフが太鼓判を押したらしいが、ジェイデンくん勇気のある撮影でしたね。

それに、ジャングルの野生動物、イノシシやウリ坊もいたけど、初めは猿やゴリラの群れに襲われ必死で逃げると、次は大きなワシでキタイが身に付けているライフスーツ。知能繊維を内蔵した戦闘用スーツで、平時は赤みを帯びた茶色で、敵が接近すると黒に変わり武装モードに。病気や怪我で瀕死の状態になると黄白色になる。しかしながら、ハイテクスーツなのに寒さに意外と弱い。だからジェイデンくん凍死しそうでしたね。それにムササビのように手足の皮膜広げて滑降することも。大きなワシに襲われ、滝のある断崖絶壁からムササビのように滑降するキタイの姿に惚れ惚れします。

そして、キタイが手に傷を負い父親の指導で血液に毒素が回る中、自分で治療するも夜になってしまい、寒くて気を失ってしまう。その時、ズルズルとキタイを引きずるシーンが、彼を連れて行ったのはワシの巣だった。そこには孵化寸前の雛鳥がたくさんあり、そこへも卵を狙って豹のような虎のような狂暴な生き物が巣籠に襲ってくる。キタイは武器で立ち向かい、巣籠から追い払う。その後の危険な時も、このワシが身をもって守ってくれるシーンがあります。

そしてもっとも恐ろしいのが、生物兵器アーサとの戦いである。父親いわく、恐怖心を察知して襲ってくるという最強の怪物。姉が弟を守るため一人で戦い死亡した。その時も父親が助けてくれなかったことを恨み、非難する。でも、アーサに襲われた時、キタイが入っていた感知を妨げる防護バブルみたいなもの。キタイだけが入るちいさな容器で、姉のセンシも一緒に入るくらいの大きなサイズだったら2人共助かったのにね。

そしてキタイが持っている武器です。心の弱さが弱点のキタイが、22種に変化する武器“カトラスC_40”(レンジャーの指の動きに従って、棒の両端から様々な強度の武器が形成され、短刀、槍、長刀、鎌、剣など数百パターンに変化する。)「ベスト・キッド」で高い身体能力を見せたジェイデンが、生身のアクションに果敢に挑戦。恐怖心に打ち勝ち、心を無心にするとアーサにはキタイが見えなくなるのだ。キタイが、棒を2つに分割して二刀流でアーサを仕留める場面は圧巻です。でもちょっと原始的な武器です。時代的には、進化した機関銃、宇宙銃とか、ライフルなんて装備してないのが不思議。それと、キタイが着ているスーツ、アーサに自分の存在を感知させないようにする防護的機能が付いているスーツだったらいいのになぁ。

そして、キタイの命を守る呼吸薬カプセル。地球の大気汚染で活動するためには酸素を効果的に取り込むカプセルが必要なんです。父親に6日分のカプセルを手渡されるも、2つが破損して命の危険にさらされます。それでも、100キロ離れた船尾部分まで辿り着き、予備のシグナルを見つけるも、ケータイと同じ電波が届かない。それには、火山の頂上まで登って発信しなければならない。
かつて「幸せのちから」で支え合う父子を演じたウイル&ジェイデンが、さらに一歩踏み込んだ家族関係を体現。

最後が良いですよね。父親が一人前の戦士になった息子が誇らしいとばかりに、息子に敬礼するシーンに意外なオチでひねりがあって良かった。このシーンを観て、まるで「新世紀エヴァンゲリヲン」のシンジみたいだと思った。キタイが途中までは、父親に指示されながら頼りない感じで障害をクリアしていくんだけど、連絡が途絶えてからは、急に頼もしくなって一人で頑張るという。努力すれば恐怖心は克服できるという。「可愛い子には旅をさせろ」と、いうことですかね。息子の自立の話であると同時に、実は普通の父親であるサイファにとっての子離れの物語でもあるのです。
音楽はシーンに合わせたピアノ旋律と、和楽器が鳴るシークエンスもあって印象的でした。
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ビル・カニンガム&ニューヨーク ★★★

2013年06月21日 | は行の映画
「The New York Times」の人気ファッション・コラムと社交コラムを担当する大御所写真家、ビル・カニンガムの実像に迫るドキュメンタリー。ファッションに魅了され、50年間ニューヨークでストリート・スナップを撮り続けてきたチャーミングな彼の知られざる素顔を描き出す。ビルをよく知るアメリカ版「VOGUE」編集長のアナ・ウィンターら有名人が続々登場。セレブも一般人も関係なく、ただひたすら魅力的なファッションだけをカメラに収めるプロ根性に舌を巻く。
あらすじ:1929年生まれのビル・カニンガムは、ハーバード大学を中退してニューヨークに移り住み、広告業界に足を踏み入れる。その後、帽子のブランドを立ち上げるものの一時兵役に就き、除隊後は再びニューヨークでファッション関連の記事を執筆するようになる。やがてカメラ片手に自転車で街に出て、精力的にストリート・ファッションの撮影を始める。

<感想>80歳を超えた今でも、ニューヨーク・タイムズの現役のカメラマンだ。マンハッタンの街に自転車を漕ぎ出して、颯爽と全身に目を光らせて、お洒落で楽しそうな人々の姿を撮っているのだ。どうすればこんなに自由に好き放題にやれるのかしら?・・・ビル爺さんの誕生日に、ニューヨーク・タイムズの編集者たちがビルを祝福仲間たちは、ビルの着ている青いシャツを着て、ビルの顔写真のお面を被り歌を歌う。

このドキュメンタリーの主人公ビル・カニンガムは、80代になってもニューヨークタイムズの人気ファッションコラムを担当する名カメラマン。仕事へのこだわりは半端じゃない。フイルムの現像だって自分ではやらない。街の写真店に依頼する。今流行りのデジカメなんて使わない。だからネガも編集者がPCに取り込む作業をする。
50年以上独り暮らししていた、カーネギーホールの上の小さな部屋。豪華な部屋ではなく、事務所といってもいい、ネガを収納する事務キャビネットに挟まれて眠り、バスとトイレは共同で、キッチンとクローゼットもない生活だが、マンハッタンが自宅だとばかりに青い作業ジャケットを着て自転車で駆け巡る。
そしてビルは、ファッションショーやセレブのパーティ、路地裏や交差点、街角ですれ違う人々に、いつもと変わらぬ態度で、気になった装いの人に向かってシャッターを切り続けるのだ。
映画の途中でビルの若きころ、兵隊に行った時の写真や、帽子屋をしていた時の写真と両親や兄弟の写真も挿入される。どうして結婚をしなかったのかと聞かれると、写真を撮るのが好きで、恋愛をしている暇がなかったと笑う。だからゲイではない。

ビルは言う、「自由より価値があるものなんてないよ。」誰もがそうだと、声を上げ、「ああ、私も好きな事だけを仕事にして、気楽に自由に人生を歩んでいけたら」と思うだろう。
しかしだ、ビルの生き様があくまでポジティブに捉えられている本作を観て、安易に「これぞ理想の老い方」などと言い切ってはいけませんぞ。ビルがニューヨークで孤独に陥らず、誰にもとがめられずに、ストリートで写真を取り続けられるのは、ある意味で奇跡的な事だと思う。
本作を観て、ビルが何故に老齢でも孤独に陥らず、疎外もされずに写真家として愛され続けてきたのだろう。もちろん最大の理由はそのセンスと腕前だろう。確かに彼の写真は誰にも撮れるものではなく斬新で、時代の流行を象徴している。そして決して人嫌いではなく、誰にでも屈託のない笑顔で話かける人柄の魅力も大きい。それに、なによりもビルのような存在を抱え込むニューヨークという街、のふところの深さも重要なのだ。

そんなビルも、花の都パリのファッションショーへ出かける。有名な女優さんも撮れば、一般人の女性も男性も被写体になる。パパラッチとは違うので、あまりというか女優とかモデルは撮らないのだ。それでもフランスで、勲章をもらった時のパリでの授賞式では、流暢なフランス語を交えたスピーチを披露する。その時のビルの満面の笑顔には、今までの人生の中で一番輝いているように見えた。

とはいえ、それだけではない。作品の終り頃に毎週教会へ行っていると言う。長い沈黙の後に「信仰は僕にはとても大切なもの」と答える。自由で気楽な生活の根底から支えているものは、もしかすると神への絶対的な信頼感なのだろう。神に祈るようにシャッターを切り、感謝とともに1日を終わる。
ニューヨークの交通地獄の中を自転車で走る爺さん。いつ交通事故に遭うかもしれない。こんな人生を送れるのは、ビルしかいない。それでも毎日元気に、雨の日は安い合羽を着て自転車を走らせる。
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ハード・ラッシュ ★★★

2013年06月20日 | アクション映画ーハ行
『ザ・ファイター』『テッド』などのマーク・ウォールバーグ主演によるアクション作品。愛する家族のため裏社会から足を洗った元運び屋が、家族を守るため再び危険な任務に挑む姿を追い掛けていく。メガホンを取るのは、『ザ・ディープ』を手掛けたアイスランド出身のバルタザール・コルマウクル。『アンダーワールド』シリーズのケイト・ベッキンセイルが、主人公の妻を好演する。共演は、ベン・フォスターやケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。予測不可能な展開に加え、緊張感あふれるシーンの連続に心をわしづかみにされる。

あらすじ:世界一の運び屋として裏社会で名をはせたものの、いまでは警報装置の施工業者となって妻ケイト(ケイト・ベッキンセイル)と2人の息子に囲まれた幸せな日々を送るクリス(マーク・ウォールバーグ)。しかし、義弟アンディ(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)が麻薬の密輸に関わっていた上に、その失敗が原因で命を狙われてしまいクリス一家にも危険が及んでしまう。クリスは運び屋へと戻り、忍び寄る危険から家族を守り抜くために、パナマでのニセ札密輸計画を進めることに。だが、その前に現地のマフィアや警察が立ちはだかる。

<感想>「テッド」でまたもや有名になったマーク・ウォールバーグが主演のアクション映画。まさに「テッド」さまさまな疾走感に満ちた犯罪アクション。原題が「密輸」とそのものズバリ。昔そのヤバイ仕事の裏社会で稼いでいたクリスが、妻のケイト・ベッキンセイルの弟のためにまたもや危ない仕事に逆戻りする。それも偽札を密輸するなんて、おまけに麻薬まで、そしてついでにといってはなんだけど、有名な画家の油絵まで泥棒してしまうなんて本当に命がけの仕事なんです。ちなみにマーク・ウォールバーグの映画では「ミニミニ大作戦」が好きですね。今回もそれと似ている部分があるような。

そして、クリスの無二の親友・セバスチャンを演じた ベン・フォスター。ジェイソン・ステイサムと共演してる「メカニック」もよかったけれど、「3時10分、決断のとき」の悪役が決まってて良かった。今回も御多分にもれず良い役かと思ってたら、何てことないやっぱり悪い役で、クリスの妻のケイト・ベッキンセイルに乱暴して後頭部を打ち気を失っているのに、ビニールに包んでコンクリート詰めにするあわやというシーンもあります。
もともとは、時事的に社会ネタを得意とするアイスランドを代表する監督が、本国で制作、主演した映画をリメイクしたものだそうです。ということで、本作も「密輸」を主題としたシリアスな作品だったのを、ハリウッド映画ふうにアクションとサスペンスを強調した物語に作り変えたわけ。

面白いのは、コンテナ船での出し抜き合いや、地上に降りて再出発するまでの合間に、どこまで盛るのかと言う怒涛の展開をし、グッタリするほど秒単位のスリルがラストまで続く。マークを眺めているとじんわりと幸福になるような気がする。ほんとこの人はどこで何をしてようともクヨクヨした悩みを知らないと言うか、今回もちょいと遊びにパナマまで行くかと言う風情。誓を破って久々に裏稼業に戻り、甥っ子に「本当は楽しんでるんでしょう」と聞かれ「バレバレだったか」と照れ笑いするマーク。
主人公のクリスが、卓抜な頭脳で仕掛けた技が鮮やかで、悪党たちも必死な事情を抱えた繊細さが物語に厚みを与えている。しかしだ、窮地を切り抜ける逆転のプロットが分かりづらく、敵方に魅力が皆無で、ロングショットが撮れないなど難はあるが、ラストはマークの人徳か爽快に終わっている。
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二流小説家 シリアリスト ★★★

2013年06月19日 | アクション映画ーナ行
俳優の上川隆也が映画初主演を果たし、デイヴィッド・ゴードン原作の小説「二流小説家」を映画化したミステリー。不遇の小説家が収監中の殺人犯と出会うことにより、再び悪夢のような殺人事件が繰り返される戦慄(せんりつ)の事のてん末を描き出す。片瀬那奈、平山あや、小池里奈、黒谷友香といった女優たちが豪華共演。野心家の主人公が巻き込まれる思わぬ事態や、謎が謎を呼ぶストーリー展開に翻弄(ほんろう)される。
あらすじ:ある日、小説家としてぱっとしない赤羽一兵(上川隆也)は、死刑が確定している連続殺人犯の呉井大悟から告白本の執筆を依頼される。彼はそのチャンスに飛び付き、呉井に面会に行くと、彼を主人公にした小説を書くという条件を提示される。赤羽は、ふに落ちないながらもOKし、3人の女性たちに取材をするのだが、行く先々で殺人事件が発生し……。

<感想>毎年、数多くの小説が世界中で映画化されている。その中には“ベストセラーの映画化”という看板を掲げるものも少なくないが、アメリカ人作家のデイヴィッド・ゴードンの処女小説を映画化した本作は、これまでの作品とはちょっと格が違う。これまで、どれだけ大ヒットを記録した作品でも成し遂げられなかった快挙を達成しているのである。
「このミステリーがすごい」ほか、日本におけるミステリーランキング海外編で史上初の三冠を成し遂げた傑作小説が映画化された。まさに、“二流小説家が一流の連続犯と出会ったら”というキャッチコピーがドンピシャの本作。
そんな本作の特徴は、そのユニークな世界観にある。売れない小説家が、ファンを自称する収監中の連続殺人犯から告白本を書いて欲しいという依頼を受ける。だが、そこには、自身の信者だという3人の女性との官能小説を書いて欲しいという変わった条件が付けられていた。

うだつの上がらない二流小説家。これまで出した本は、母親の名前と写真を借りて出版した「恋するバンパイア」1冊のみ。現在は官能小説を書いてどうにか生活している。
天才的な犯罪者に面会して翻弄されていく、と聞くと、あの「羊たちの沈黙」を連想して、本作で連続殺人犯を演じる武田真治も、レクター博士ほどじゃないが、悪魔のようなすべてを見透かすような薄ら笑いや、キレたと思えば目をパチクリと見開き可愛い表情をしたり、いとも簡単に人の感情をこねくり回して手玉に取る悪魔ぶり。12年前に4人の女性を殺害した罪で死刑判決を受ける。自称写真家で、花を添えた首なしの遺体を撮影し、警察に奥送りつけるなどの猟奇性で話題を振りまき、熱狂的な信者を持つ。
対して、これが映画初主演という上川隆也が、売れない小説家に扮してドンくささを見せているが、本当は舞台では巧いのだろうが、実にぶっきらぼうの演技でへたくそに見えた。

殺人犯と信者との愛、そして、しだいに明らかになる彼の過去。劇中劇のような形でいくつもの物語が交差する複雑な構成に、誰しもが想像力を掻き立てられ、否応なしにその世界観にぐいぐいと引き込まれていく。
中でも殺人犯、呉井の死刑執行を阻止しようと奮闘する弁護士に高橋恵子が、50歳を過ぎてから司法試験に受かった経歴を持つ有名人だが、この女弁護士がもしかして犯人の母親では?、という疑問が浮かび、犯人の幼少時代が映し出され、母親と放浪の旅をしながら売春の罪で警察に捕まった母親。その後は国から金を貰って犯人を育てた母親がいる。この産みの母親が、弁護士になるくらいの頭があるのなら、何故に売春で生計を立てるなどしたのか理解できない。

そして、赤羽は呉井に指定された女性たちに会い官能小説を書いていくが、呉井の犯行と酷似した手口で、彼女たちが次々と殺されていく、・・・。かつて呉井を逮捕した警視庁捜査一課の警部に伊武雅刀が扮して、呉井と接触する赤羽を相棒だと疑う。一体誰が、何の目的で?・・・過去の事件も本当に呉井が犯人なのか?、赤羽が翻弄されていく姿がリアルで、観る方も彼と共にドツボ感や、焦り、真実を知りたい欲望でジリジリと体温が上がります。
最後に殺人犯が見つかるのですが、やっぱり母親だったのかと、もちろん以前の被害者の頭蓋骨も見つかります。しかし、一人だけその場所に頭蓋骨がなかったんですね。被害者遺族の中の一人が怪しかったので、そいつが保険金欲しさに奥さんを殺したんです。しかしこれでは何だか面白くないんですよね。本当は連続殺人犯と二流小説家は同一人物で、裏と表の顔を表している物語なのかもしれませんよ。そんなふうに解釈すれば、実に面白い小説です。
最後妖しく笑う呉井の告白と、赤羽が辿り着く真実にジワリと鳥肌が立つ。いや、呉井を演じる武田真治の演技の幅の凄いこと、狂気と化した顔色と身体を使っての動き、全身白い服で絞首刑に向かう武田くんの清々しい顔。などなど、上川隆也の存在感が薄かった。
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奇跡のリンゴ ★★★★

2013年06月18日 | か行の映画
『ポテチ』の中村義洋がメガホンを取り、『舞妓 Haaaan!!!』の阿部サダヲと『ジーン・ワルツ』の菅野美穂が夫婦を演じた感動作。石川拓治原作のノンフィクションを基に、夢物語だといわれていたリンゴの無農薬栽培を成し遂げた農家の苦難の道のりを映し出す。笹野高史や伊武雅刀、原田美枝子や山崎努らベテラン俳優たちが豪華共演。実話をベースに描かれる、地道な研究から奇跡を成し遂げた家族の波瀾(はらん)万丈の生きざまに感極まる。
あらすじ:1975年、秋則(阿部サダヲ)は青森県弘前市で妻の美栄子(菅野美穂)と共にリンゴを栽培していた。彼は、年に十数回にわたり散布する農薬が原因で皮膚に異常をきたしてしまい、寝込むこともある妻の体を心配して無農薬でリンゴを育てることを心に誓う。だが、農薬を使わないリンゴ栽培はその当時「神の領域」ともいわれ、実現するのは絶対無理だと思われており……。

<感想>不可能と言われていたリンゴの無農薬栽培に家族で取組、苦難のすえに成し遂げた実在のリンゴ農家の姿を描いている。愚かなまでに夢に懸ける夫を阿部サダヲが演じて、いつも笑顔で支え続ける妻を菅野美穂が演じている。
阿部サダヲ演じる主人公は、幼いころから分析魔だった木村青年。何かと猪突猛進型の彼は、年に十数回も散布する農薬のせいで皮膚がかぶれ、散布薬品アレルギー体質の妻の身体を心配して、リンゴの無農薬栽培に取り組むも、周囲は不可能だと反対するが、義父に頭を下げ、リンゴ畑の一部で無農薬栽培をスタートさせる。

無農薬栽培は失敗続きで、その上、全ての畑を無農薬にしたため、借金は増える一方。家族にも極貧生活を強いる日々に限界を感じていた10年目。秋則は思わぬことから無農薬栽培の成功のヒントをつかむ。
彼にとっては人生初めての挫折だったんじゃないでしょうか。それまではおもちゃや、テレビ、時計、バイクを分解してでも、その仕組みを把握することができた。だけど、木村さんにとって、リンゴ作りは初めて分解できない存在だったんじゃないかと思うんですよね。想定外の事態が重なり、それが近隣の畑まで被害を及ぼし、次第に孤立していくのです。

それを機に、木村家の日々は一変するわけで、税金滞納で畑を2つ抵当に取られ、人と目が合えば逸らされるし、親友からも突き放される。だから人の目を避けるようにして彼は、朝の暗いうちに家を出て、また夕方暗くなってから家へ帰るようになる。子供たちとお祭り(夏のねぷた祭り)に出かけても、深くかぶった帽子のつばを彼は決して上げようとしない。極度の被害妄想というか、極限まで思い詰める主人公を支えるのは家族の絆なんです。

でも、冬に東京へ出稼ぎに行き、路上で新聞紙と段ボールに包まって寝ていると、若者3人組に襲われて稼いだ金が入っている鞄を強奪されてしまう。泣きながら、お金も入れないで電話ボックスで一人故郷の家族に電話をしている真似をする主人公。
追い詰められて、妻に離婚しようといい、自分は山の森の中へと消えてゆく。つまり首吊り自殺をしようと考えていたんですね。奥さんと3人の娘を置いて自分だけ死ぬなんてこと、これは自分勝手ですよ。でも、そんなことも自殺未遂に終わって、ふと見え上げると月に照らされている光っている木があり、その木はくるみの木だったのです。それに森の中なのに害虫が付いてなく、くるみの実が地面に落ちていたんですね。それからヒントを得て、土だったんですよ。それに自然と共有してリンゴの木を育てるという答えもね。
何十年という老木に話かけて、「ありがとう」と一本、一本お礼を言いながら木を我が子のように抱きしめるのには、感激しました。我が家の草花でも、肥料をやり虫がつけば薬を散布し、「綺麗に咲いてくれてありがとう」と、私も草花に話かけますもの。
極貧生活を強いられているはずの幼い娘からあるものを受け取って、父親は息を吹き返す。それは、長女の作文でした。無農薬栽培は、確かに丹精して作ったものに害虫がつき、あっという間にダメになってしまう。大変な苦労の末に、やっと実った小さな赤いリンゴ。家族で分けて食べる美味しさ、笑う笑顔が何よりものご褒美ですよね。
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俺はまだ本気出してないだけ ★★★

2013年06月17日 | あ行の映画
小学館「月刊IKKI」で連載されていた青野春秋の人気漫画を実写化したコメディー・ドラマ。何となく会社を辞めた42歳のバツイチ中年男が、漫画家になると宣言したことから巻き起こる騒動を追い掛ける。『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの堤真一が、ゲームに明け暮れ、娘に借金し、グズった果てに家出するという、父親にも大人にも成り切れていないダメな主人公を怪演。メガホンを取るのは、『コドモ警察』シリーズなどの福田雄一。共演には、『さよならドビュッシー』の橋本愛をはじめ、生瀬勝久、山田孝之らが名を連ねる。

<感想>予告で観て面白そうなので、それに主人公のダメ人間をあの真面目に見える堤真一が演じるのだから。この主人公は、バブリーな80年代に多感な時期を過ごし、遊ぶことがどこか人生のステータスになっている今の40代~50代は、ある意味もっとも世間を舐めている脆弱な世代といってもいいのかもしれない。60年代の高度経済成長期の男たちと比べれば、単身赴任とか会社のために残業も多くひたすら家族のために働いた。だから時代のひとつの追い風になっていたような気もするが、シズオの世代にはそれは無理というもの。
一方で周りを見渡せば、取り敢えず生きていくために必要なものは何でも手に入る。お金がなくてもインスタントやファーストフードで飯は食えるし、100円ショップで生活必需品も大方まかなえるのだ。都会に住んでいる限り中年でもバイトはあるし、本当にお金がない時は、それこそ飯も食わずにTVゲームでもしていれば、そのうち疲れ果てて寝てしまうだろうから。それはそれで経済的なのだ。
もちろんそこには将来性などは微塵もないわけで、だからこそシズオも「本当の自分探し」などといい加減なこと言って誤魔化して、ついには「俺はまだ本気出してないだけ」と強がっているものの、だからといって何か生産性のあることを始めるわけでもない。何よりも40過ぎて漫画家になろうという発想そのものが、実にオタッキーで世の中を舐めきっているのだ。

父親の石橋蓮司ならずとも「甘えるんじゃない!」などと、もはや映画評とは呼べない喝が飛ぶのは仕方がない。しかし、この大黒シズオって男は幸せな男だ。バツイチでも娘は一緒に住んでくれて、父親も一緒に住んでいる。この年で開き直って好きなことをしようとするには、かなりの決断がいる。それに父親にも娘にも見放されるのがオチというもの。
若いころはそこそこ不良で、それでも何とか大学まで進学して、ちょっとばかり音楽などもかじったりして、まだバブルが弾ける直前の就職戦線をくぐり抜け、とりあえずサラリーマンとしてやってきたものの、何故か突然会社を辞めて、朝からゲーム三昧の42歳、バツイチ子持ちの中年、大黒シズオ。

この設定だけで、同世代は何となく溜息をついてしまうところがあるのではないかと思う。しかも、この大黒シズオは、一念発起してめざすのが漫画家ときた日には、・・・女性からして見ると、もうこういう男はダメ人間で、奥さんに出て行かれても仕方ありませんね。「そういうことは独身時代にしろ」って言いたい。
それにしても、年頃の娘・鈴子の橋本愛ちゃん可愛いですよね。普通だったらこんなお父さん見捨てるか、母親の所へ行くかするのだろうが、優しいというか父親に対して好きなことしていいよ、なんて応援している。一家を支える大黒柱がこうでは、仕事だってファストフード店でバイトでは、安い賃金で生活も苦しいだろう。娘からお金を平気で2万円借りて、だらしない父親なのだ。だからなのか、それとも娘が外国に留学したいと資金稼ぎなのか、ヘルス嬢でバイトしているとは、これには参ってしまった。父親として落第ですから。それに、何度も漫画がボツになっているのに、諦めない精神力というか石頭なのか。自転車で階段から落ちて頭に大怪我したのに、どうってことないなんて信じられませんよね。

そして、また笑ってしまうのがシズオの周りにいる人間たち、例えば友人の真面目で気のいいサラリーマンの生瀬勝久、喧嘩は強いが無気力な人生からどう脱却すればいいのか、密かに悩んでいる茶髪の20代の青年山田孝之。無口なのか台詞がない役どころだ。そしてシズオの漫画の投稿を毎回チェックする、中学館出版社の編集者濱田岳などなど。彼らはいつしかシズオの何の根拠もない表向きの強がりに翻弄され、感化され、ついには己を見誤っていく。
いや、観る人によればあの人たちは前向きに自分の人生を歩み出したのだと思っている人たちもいるだろうが、世の中そんなに甘くはないのだ。現に生瀬と山田が立ち上げるパン屋さん。その店を出す物件がクワセモノだと、あの不動産屋ウサンクサイ予感したのだが、その先の不安を暗示しているようにも取れるのだ。

他人のことなんてどうでもいいと、脳天気な困った中年男シズオを堤真一が、意外なまでにハマリ具合で好演している。原作漫画は読んでないが、原作の主人公は、それこそ絵に描いたようなチビデブの中年男だという。それをイケメンの堤真一が演じると、「イケメンだけどダメダメな奴」って不思議なリアリティが面白おかしく醸し出されていくのだから。監督があの「HK/変態仮面」の福田雄一なのだから、こういう作品も難なく上手く演出できたのだろう。
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華麗なるギャツビー ★★★★

2013年06月16日 | か行の映画

数々の名作を世に送り出した作家F・スコット・フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」を実写化したドラマ。快楽的な生活を送る謎の富豪ギャツビーの意外な正体を、ある女性との恋を絡めながら映す。レオナルド・ディカプリオが、人並み外れた容姿と富を兼ね備えたギャツビーをクールに演じる。『マイ・ブラザー』のトビー・マグワイアやキャリー・マリガンらが共演。『ムーラン・ルージュ』などのバズ・ラーマン監督ならではの絢爛(けんらん)を極めたビジュアルも見ものだ。

あらすじ:ニック(トビー・マグワイア)が暮らす家の隣に建つ、ぜいを凝らした宮殿のような豪邸。ニックは、そこで毎晩のように盛大なパーティーを開く若き大富豪ジェイ・ギャツビー(レオナルド・ディカプリオ)と言葉を交わす仲になる。どこからやって来たのか、いかにしてばく大な富を得たのか、なぜパーティーを開催し続けるのか、日を追うごとに彼への疑問を大きく膨らませていくニック。やがて、名家の出身ながらも身寄りがないこと、戦争でさまざまな勲章を受けたことなどを明かされるが、ニックはこの話に疑念を持つ。

<感想>ディカプリオがこんなにもカッコいいとは思ってもみなかった。今回は禁じられた恋に翻弄される、謎の大富豪ジェイ・ギャツビーを演じているのだが、大人の色気がむんむんのディカプリオの美しさにうっとりするはずです。しかし、いつも眉間に皺を寄せているのが気になって、これは彼の癖なので仕方ありませんよね。
本格的なラブストーリーは避けてきたといわれる彼が「ロミオ&ジュリエット」以来となるバズ・ラーマン監督とのタッグで、しかも米作家F・スコット・フィッツジェラルドの代表作「グレート・ギャツビー」の5度目の映画化に挑むというのだから期待は高まる。“ジャズ・エイジ“と呼ばれる、アメリカが最も煌びやかに輝いた1920年代を舞台にした、ミステリアスなラブ・ストーリーである。

ギャツビーは夢見るロマンティストなのか、それとも幻想に取りつかれた男なのか、だが、一途に最愛の女性のことを思い苦悩するというストレートな二枚目役に真っ向から向き合っているのだ。年相応の渋さを身に付け、時にコミカルさを交えながら、ロマンチックな男を演じるレオ様。まさか対岸の向こうの屋敷に、一筋に思い焦がれている女性が住んでいるとは。
一方、宮殿のようなギャツビーの大邸宅と豪華絢爛な夜ごとのパーティ、ゴージャスで煌びやかな映像美は、巨大なプールやシャンデリアを備えたギャツビー邸でのパーティ・シーン。壮大なセットで撮られた花火が瞬きシャンパンが飛び散る場面では、夢幻的な空間に迷い込んだ錯覚すら覚える。
目くるめく映像の洪水と衝撃の展開。さらには美術と衣装をキャサリン・マーティンが担当し、贅の限りを尽くして1020年代の煌びやかなニューヨーク社交界を再現。ショーン“ジェイZ”カーター、ビヨンセらのアーチストが楽曲を提供し、ジョージ・ガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」なども20年代当時のNYの表現に効果的に使われている。

1974年にロバート・レッドフォード主演で映画化されたのだが、何度もDVDで観ている。若きレッドフォードの美形に惚れ惚れし、今回のレオ様も時おりそんなレッドフォードと同じ仕草をするので、ついだぶって見えてしまうくらいレオ様はカッコよかった。体も少し痩せたようでどのスーツも似合っている。
レオ様が華麗に着こなすスーツは、フィッツジェラルド作品で究極の紳士服店として言及されるブルックス・ブラザーズ製。

女優陣の衣装はプラダが提供。昔の恋人のデイジーを演じたキャリー・マリガンのドレスが素敵ですね。数々のジュエリーは“ティファニー”が特別デザインしたもの。カクテルドレスやイブニングドレスは、“プラダ”や“ミュウミュウ”が担当し、アイビーリーグと退廃的な欧州スタイルに二分化していた当時の流行を再現している。

マリガンは、デイジー役にぴったりで、結婚前にギャツビーと出会い、愛しあい、でも戦争で二人は引き離され、帰ってこないギャツビーに痺れを切らして大富豪のトム・ブキャナンと結婚してしまう。夫のトムが浮気をしていることに気付いていて、悩み苦しむ。そのこともあり、突然目の前に現れたギャツビーに驚き、前よりも洗練された彼に心が揺れる。
この映画のナレーターでもあり、ギャツビーの友人でもある隣人のニックに、トビー・マグワイアが演じていて、ギャツビーの恋心を知りデイジーとの逢瀬に手を貸すことに。デイジーの夫には、何となくリチャード・ギア似のジョエル・エドガートン。妻が成り上がりの金持ちギャツビーに惚れていることに気が付いたトムは、ヤキモチを焼きディジーを取られまいとする。

そんな時に、暑い夏の日をNYのホテルで過ごそうと皆で車に乗っていき、帰りはギャツビーとデイジーがトムの車に乗り、紺色のクーペにはトムとニックにジョーダンが乗り込む。悲劇はその帰り道で起こる。夫の愛人が道へ飛び出してきて、デイジーが運転していた車に轢かれる。しかし、それがギャツビーが運転していたことにして、トムはその死亡した愛人の夫にギャツビーの住所を教えるわけ。この辺も全部1974年にロバート・レッドフォードが演じた映画と同じで、違うと言えばトムは子煩悩だったこと。この作品の中では、夫のトムが娘を抱いて可愛がるシーンがなかった。しかし、原作通りだとしても、デイジーにしてみれば現在の裕福な暮らしを捨ててまで、ギャツビーと一緒に逃避行しようとは思わなかったのでしょう。ラブロマンスにしては、カーチェイス・シーンが観られ、大いに3D効果でスリル満点だったと思います。3Dでは鑑賞しませんでしたが、夜な夜な開かれる豪華絢爛なパーティ・シーンは、2Dでも満喫しました。
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ハッシュパピー バスタブ島の少女 ★★.5

2013年06月15日 | は行の映画
昨年のサンダンス映画祭で上映されて以来、新人ベン・ザイトリン監督によるこの低予算の映画は、数多くの賞賛を受けていた。サンダンスではグランプリと撮影賞を受賞。カンヌ国際映画祭にも招かれ、カメラドール、国際批評家連盟賞など四冠に輝き、もしかしてアカデミー賞でも波乱を起こすかも?・・・などと言われていたのだが。
しかもこれが演技初体験の少女クヮヴェンジャネ・ウォレスが、史上最年少の主演女優賞候補となり、一躍世界的に注目度がアップした。日本では、4月20日から公開が始まった本作はどんな映画なのか?・・・そしてクヮヴェンジャネのオスカー級の演技とは?・・・。

やっと地方でも上映されました。本日で終演というので鑑賞してきた。
舞台はこれがアメリカなの?・・・と疑ってしまうような南ルイジアナの架空の街で、“バスタブ島”と呼ばれる河川ぞいのコミュニティー。そこに住む人たちは誰もが貧しいけれど、生きる力に溢れている。6歳のハッシュパピーとその父親も二人きりで暮らしているが、父親は幼い娘に手を上げることもあるし、生活力はゼロ。その父親はサバイバル技術が異常に卓越した無職のホームレス。幼い娘に生きたカニを素手でちぎって食えと迫るは、酒を飲ませるわで、間違った生存スキルを戸塚ヨットスクール(だいぶ前に話題を呼んだ)並みに叩き込んでいく。

でもハッシュパピーは、過酷な環境をものともしないバイタリティーをもっている。モンスター級の強い魂を持った少女の不思議なサバイバルにして、スパイク・ジョーンズの「かいじゅうたちのいるところ」なんかより遥に好感が持てるモンスターをめぐる異形なる寓話にして、クライマックスにびっくりの巨大イノブタ軍団が突進してくる圧倒的なモンスター映画でもあった。

そんな彼女たちの“バスタブ島”が大嵐のために水没してしまう。家はなくなるし、動物は死んでしまう。一帯が強制避難区域にされてしまう。
しかも、ハッシュパピーの頑固な父親の具合がどうもよくない。だがこれだけの不運が続いても、ハッシュパピーは運命に流されるような、やわな子供ではなかった。

4000人もの候補者から奇跡的に見つかった撮影当時6歳のクヮヴェンジャネが、普通の子役と違うのは、彼女がこの映画で見せる個性が、あどけないとか可愛いとか、並みの大人以上にタフな姿勢とか、逆境を逆境とも思わないような根性といったものだから。これは演技経験ゼロの少女が演じたとは到底思えないほど自然に演じている。だからなのか、クヮヴェンジャネちゃんの奇跡的な輝きと存在感も相まって見るべき映画になっているようだ。

ただオリジナリティはまるで感じなかった、と言うよりは、少女の冒険と成長、洪水に代表される大自然の驚異、巨大生物(特にブタとイノシシ)へのこだわりなど、映像に込められたイメージのほとんどは、マジカル・リアリズムなんかではなく、「宮崎アニメ、もののけ姫」からの影響でしょう。これって、ほとんど宮崎アニメを描いてきたキーワード群を、アメリカン・ダーティに、そしてかなり表面的に描いた、悪意なき実写版パクリといってもいいと思う。
近未来シミレーション映画で、もちろんフィクション。しかし、それをドキュメンタリーのように撮る。それで見たこともないような映像ができあがる。
劇中で何度も現れる、バッファローまがいの長い角の野獣が、この映画のシンボルとなっているようだ。氷河期の動物オーロックスの造形が見事ですね。鼻息が聞こえてきそう。水と泥とのロケーションも、少女を中心にした配役もいいが、ひとつひっかると言えば、どこか寓話に逃げている部分があること。
映画自体も、生きることの厳しさを幻想と現実的なシーンを交えて描き、ファンタスティックでいて、リアルで厳格さもある不思議な味わいを感じさせる。
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