パピとママ映画のblog

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或る終焉 ★★★・5

2016年09月03日 | アクション映画ーア行
第68回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したドラマ。終末期患者のケアにあたる看護師の男が、ある患者から安楽死の手助けをしてほしいと言われたことから苦悩する姿を追う。メガホンを取るのは、『父の秘密』で注目を浴びたメキシコのミシェル・フランコ。『ロブ・ロイ/ロマンに生きた男』などのティム・ロスが主演と製作総指揮を務め、キーファー・サザーランドの娘サラ・サザーランド、『恋におちて』などの脚本を担当したマイケル・クリストファーらが共演。死を深く見つめた物語と衝撃的な結末に引き込まれる。
あらすじ:息子ダンの死を機に、別れた妻と娘とも顔を合わせなくなったデヴィッド(ティム・ロス)。終末期の患者をケアする看護師として働く彼は、患者の在宅看護とエクササイズに没頭するだけの日々を送っていた。患者たちに必要とされ、デヴィッド自身も彼らとの濃密な関係を率先して育む中、末期ガンに苦しむマーサ(ロビン・バートレット)から、頼みを聞いてほしいといわれる。それは彼に安楽死を手伝ってもらいたいというものだった。デヴィッドは、ある秘めた自身の過去と患者への思いの間で激しく葛藤する。

<感想>看護師版の「おくりびと」のような話で、終末期を迎えた人間がどう安らかに生きられるか、そこに心配りをした看護師のケアぶりが淡々と綴れている。ですが、彼には自分の息子の死が影を落としているようだ。その償いというか、自己に罰を与えるために、死を目前にした患者と向き合っているような感じが見受けられるのだ。いわば死に囚われた男、それゆえの献身ぶりが切ない。

ほとんどと言ってくらいに、ティム・ロスの独り芝居といっていい。終末期医療の現場を支える看護師というのが彼の役どころだからか。と言ってもこれは役というより「今そこにいる」看護師そのものといった風情で、本物の看護師の魂が乗り移ったような彼の演技に見惚れた。

ちょっと猫背気味の小柄なティム・ロスは、役作りをしなくとも病室に馴染んでいる。終末期の患者と彼らの世話をする看護師。その一対一の緊張関係は最後まで崩れないのだ。
看護する患者は、エイズ末期の女性に、まるで自分の妻のように接してのケアをしていたので、彼女の葬式の後にはバーで自分の妻が死んだと酒を飲みながら嘆くのだ。脳卒中で半身不随となった高齢の男性、彼が建築家と知れば自分も建築について勉強してみたりと、徹底したプロ意識が感じられるし、その仕事ぶりには度を越しているようだ。
さらには、末期癌に冒された中年女性と代わろうとも、彼は黙々と看護を務める。まるで修行僧が毎日のお勤めに励むように。

ここで描かれるのは看護師と患者の関係性である。まったく赤の他人同士が出会い、家族同然に、いや家族以上に関わり合い、約半年間の触れ合いの後に、死という別れがやってくる。互いの心の内を覗き込むように、毎日を送る看護師と患者の絆は、他人には伺いしれない頑なものにならざるを得ない。

その辺りを時には淡々と、そして時には熱を込めて描き上げたのはメキシコ出身の「父の秘密」新鋭ミシェル・フランコである。自分の祖母の体験談を基にした脚本が、カンヌ映画祭で脚本賞に輝いたというが、衝撃のラストに至るまで続く緊張感は、並々ならぬものが感じられます。
が、それより何より深い孤独と絶望感にさいなまれるティム・ロスの演技に圧倒されます。俳優のキャリアに残る渾身の演技といってもいいでしょう。ラストにデヴィッドが事故で亡くなるという幕引きに茫然としてしまいました。
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