本作で長編デビューを果たす朝倉加葉子が監督と脚本を担当し、『息もできない』で大きな存在感を示したキム・コッピをヒロインに迎えて放つホラー。留学先のアメリカで、とんでもない悲劇に見舞われることになる留学生たちの身の毛もよだつ体験を活写。衝撃作『ムカデ人間』で注目を浴びた北村昭博や、元AV女優のしじみらが共演。日韓のアイデンティティーを交錯させつつ描かれる、血みどろの地獄絵に卒倒しそうになる。
<感想>仙台でもやっと上映された。今年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」でプレミア上映された朝倉加葉子監督作。女性監督による初の劇場映画がスラッシャー、しかも舞台はアメリカの荒野。ヒロインは「息もできない」のキム・コッピ。微妙に下品なタイトルの指し示す意味とは?・・・。
アメリカに留学しながら学びもせず、酒とドラッグにうつつを抜かす日本人留学生たちが、キャンプ先でホワイト・トラッシュの殺人鬼兄弟に襲われるお話。
アメリカの片田舎のキャンプ地で、次々に手足を切り落とされていく犠牲者が、日本人留学生たちというところに時局的な面白みがあると言えばあるんですよね。
親が金持ちで大学に多額の寄付をしているから、帰国して「留学」に一字を履歴書に書き加えることだけが目的で、英語などまるっきり喋れないまま、マリファナやセックスだけは一丁前に謳歌しているという。中には一人だけ、エリカ様だけは英語が喋れる。
でもね、猛烈に帰りたくなっても電車に乗って、みたいな場所ではない。最寄りのコンビニですらえんえん歩いても辿り着けない僻地の別荘なの。文明の利器たるiPhoneだって電波が届かなければ、ただのガラクタですから。
しかも、その兄弟とはコンビニですれ違っていたんですよね。一連の残虐殺人は、金銭目当てのホワイト・トラッシュ(クズ白人)の、レッドネックの兄弟の仕業で、父親不在の世界で、死んだ“ママ”への思い出への執着が、兄のヘンリーにあるらしいところが、かの有名なヒッチ・コックの「サイコ」みたいなシーンで見られます。殺人者がシャワーで血を洗うと排水口に鮮血が渦巻いて流れ込むシーンなんかは、もう「サイコ」のパロディであることは決定的である。
殺人鬼兄弟の弟ヴィクターが、殺人の後始末を「イエローの女」に目撃されたというところから、6人の東アジア系留学生に危険が迫るわけだが、どうやらこの弟と入れ替わって自ら新たな殺人者と化すエリカ様の方に「サイコ」じみた文字通りサイキックな秘密または謎があるんですね。この殺人鬼と化したエリカ様の、秋葉原メイド衣装が実にユニークでいい。
キャンプ行きの金づるに誘いこまれた韓国人留学生アジュン(キム・コッピ)は、日本語が全くダメだから頼りはエリカ様だけ。苦労して仕送りをしてくれる本国の母親への恩返しを口にして、努力努力で成績トップクラスというアジュンが、唯一生き残る人間として選ばれるのなら救いがあるのだが、物語の逆説からしても一番弱い人間が生き残る、そうなるしかないと思っていると。
果たしてその通りになった。地獄巡りの果てに何かを得る。これをしも一人一人の人間の成長物語。認識獲得の物語と呼べるとしても、荒涼たる風景の中をふらふら遠ざかっていくアジュンの姿が幕切れとは、これぞ救いなしとも読めるし、そこは観客の判断に任せているという終わり方っていうのもいいです。
映画のラストで、辛うじて興味を繋ぎ止めてくれるのが、この弟ヴィクターとエリカ様の、激しくもアンドロジーナスな入れ替わりがもたらす早い展開だが、結局は、一番深められそうなこの謎解きは、血なまぐさい活劇の中でウヤムヤになってしまう。
傑作の「悪魔のいけにえ」や凡作だった「13日の金曜日」、「飛び出す悪魔のいけにえ/レザーフェイス一家の逆襲」など、血を正当に受け継いで見せた、こうしたスラッシャー・ホラーの基本フオーマットは、どちらかというと日本の風土に馴染みがたいそれを、冒頭で雄大なアメリカの風景に置くことで、一気にリアリティを獲得していると思った。それに、ラストシーンでの雪が降るところ。偶然なのか知らないが効果的な雪のショットが素晴らしかった。
2013年劇場鑑賞作品・・・253 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
<感想>仙台でもやっと上映された。今年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」でプレミア上映された朝倉加葉子監督作。女性監督による初の劇場映画がスラッシャー、しかも舞台はアメリカの荒野。ヒロインは「息もできない」のキム・コッピ。微妙に下品なタイトルの指し示す意味とは?・・・。
アメリカに留学しながら学びもせず、酒とドラッグにうつつを抜かす日本人留学生たちが、キャンプ先でホワイト・トラッシュの殺人鬼兄弟に襲われるお話。
アメリカの片田舎のキャンプ地で、次々に手足を切り落とされていく犠牲者が、日本人留学生たちというところに時局的な面白みがあると言えばあるんですよね。
親が金持ちで大学に多額の寄付をしているから、帰国して「留学」に一字を履歴書に書き加えることだけが目的で、英語などまるっきり喋れないまま、マリファナやセックスだけは一丁前に謳歌しているという。中には一人だけ、エリカ様だけは英語が喋れる。
でもね、猛烈に帰りたくなっても電車に乗って、みたいな場所ではない。最寄りのコンビニですらえんえん歩いても辿り着けない僻地の別荘なの。文明の利器たるiPhoneだって電波が届かなければ、ただのガラクタですから。
しかも、その兄弟とはコンビニですれ違っていたんですよね。一連の残虐殺人は、金銭目当てのホワイト・トラッシュ(クズ白人)の、レッドネックの兄弟の仕業で、父親不在の世界で、死んだ“ママ”への思い出への執着が、兄のヘンリーにあるらしいところが、かの有名なヒッチ・コックの「サイコ」みたいなシーンで見られます。殺人者がシャワーで血を洗うと排水口に鮮血が渦巻いて流れ込むシーンなんかは、もう「サイコ」のパロディであることは決定的である。
殺人鬼兄弟の弟ヴィクターが、殺人の後始末を「イエローの女」に目撃されたというところから、6人の東アジア系留学生に危険が迫るわけだが、どうやらこの弟と入れ替わって自ら新たな殺人者と化すエリカ様の方に「サイコ」じみた文字通りサイキックな秘密または謎があるんですね。この殺人鬼と化したエリカ様の、秋葉原メイド衣装が実にユニークでいい。
キャンプ行きの金づるに誘いこまれた韓国人留学生アジュン(キム・コッピ)は、日本語が全くダメだから頼りはエリカ様だけ。苦労して仕送りをしてくれる本国の母親への恩返しを口にして、努力努力で成績トップクラスというアジュンが、唯一生き残る人間として選ばれるのなら救いがあるのだが、物語の逆説からしても一番弱い人間が生き残る、そうなるしかないと思っていると。
果たしてその通りになった。地獄巡りの果てに何かを得る。これをしも一人一人の人間の成長物語。認識獲得の物語と呼べるとしても、荒涼たる風景の中をふらふら遠ざかっていくアジュンの姿が幕切れとは、これぞ救いなしとも読めるし、そこは観客の判断に任せているという終わり方っていうのもいいです。
映画のラストで、辛うじて興味を繋ぎ止めてくれるのが、この弟ヴィクターとエリカ様の、激しくもアンドロジーナスな入れ替わりがもたらす早い展開だが、結局は、一番深められそうなこの謎解きは、血なまぐさい活劇の中でウヤムヤになってしまう。
傑作の「悪魔のいけにえ」や凡作だった「13日の金曜日」、「飛び出す悪魔のいけにえ/レザーフェイス一家の逆襲」など、血を正当に受け継いで見せた、こうしたスラッシャー・ホラーの基本フオーマットは、どちらかというと日本の風土に馴染みがたいそれを、冒頭で雄大なアメリカの風景に置くことで、一気にリアリティを獲得していると思った。それに、ラストシーンでの雪が降るところ。偶然なのか知らないが効果的な雪のショットが素晴らしかった。
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