パピとママ映画のblog

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グレート・ビューティー/追憶のローマ★★★.5

2014年10月23日 | か行の映画
『イル・ディーヴォ -魔王と呼ばれた男-』などのパオロ・ソレンティーノが、ローマを舞台に60代の作家の派手な生活と心の喪失を描くヒューマン・ドラマ。優雅な生活を満喫してきた主人公が、忘れられない女性が亡くなったことをきっかけに、ローマの街をさまよいながら人生について考える様子をつづる。主演は、『ゴモラ』『眠れる美女』などのトニ・セルヴィッロ。2013年から2014年にかけて賞レースを駆け巡り、第71回ゴールデン・グローブ賞では外国語映画賞を受賞した。
あらすじ:作家兼ジャーナリストのジェップ・ガンバルデッラ(トニ・セルヴィッロ)は、65歳ではあるが若さに満ちあふれ、発想力豊かで、派手な生活を楽しむ一方、セレブの集いに言いようのないむなしさ感じていた。ある日、ジェップのもとに初恋の女性が死んだという知らせが届く。ジェップは喪失感を抱えながら、どこか暗い雰囲気が漂うローマの街をふらふらと歩く。

<感想>今年のアカデミー賞最優秀外国語映画賞に輝いた作品。毎日のように開かれるセレブとのパーティーに、虚しさを覚える初老のジャーナリストジェップが主人公で近年稀なゴージャスで豊潤な人生訓だった。
冒頭で、日本人のローマ観光客の薄っぺらな描写があったので、いかさま臭い映画だと思って観ていたが、なんとその観光客の一人のデブおじさんが、心筋梗塞かなんかで急に倒れて死んだらしいのだ。そのうち、フェリーニの「甘い生活」を射程にいれていることが分かり、興味がわいてくる。
主人公がダンディな初老の元作家で、今は有名人のインタビューをとって暮らしているのだが、毎夜のごとくパーティー三昧で時間をつぶしているところは、「甘い生活」のマストロヤンニの現代版のようだ。60歳を越せば感情移入ができるのだろうが、若い観客の反応はどうだろうか?・・・。

コロッセオを見下ろす丘に建つ、バルコニーつきペントハウスに住む独身貴族で、たった一冊書いた本の成功で著名人となり、財産もたっぷり手にしたような暮らしぶりだ。
しかし、二冊目の本は未だ書こうとはせず、セレブ階級とつるんで乱痴気パーティや、ゴージャスな食事会にサロンの会話を楽しんでいる。65歳の誕生日を迎えた熟年男だが、スレンダーな体つきと表情は、年相応の生活の垢を全く感じさせないのだ。

ファッションはすべて高級ブランド品で揃え、その着こなしがまたお見事というしかない。黄色や赤のジャケットをこれだけ品よく着こなせる男などそうはいない。かくもダンディな男を女たちは見逃すはずもなく、自由になる美女を何人も抱えて、お持ち帰りなんて当たり前。セックスライフも充実している羨ましい爺さん。しかし、一人の女にのめり込むこともなさそうで、何事にもクールそのものである。

仕事もせず、結婚もせず、人間関係も淡泊で、金銭欲も名誉欲もありそうには見えないジェップの生き方は、ギリシャ生まれの哲学者でローマ帝国時代にも大きく影響力を持ったエピクロスの唱える快楽主義を思わせる。
:エピクロスは快楽を二種類に分けている。一つは食欲や性欲のように欲しいものを手に入れられることで、得られる動的快楽。もう一つは、苦痛や不足がないという精神の充足感から得られる静的快楽ということ。
もちろんジェップがエピクロスの快楽主義を意識しているわけではないが、ローマ帝国の快楽主義というと、すぐに酒池肉林を思い浮かべてしまう。だから主人公のジェップの場合は、実に静かな快楽主義なので魅力を感じるのだ。
65歳の誕生日に、今までの独身生活を謳歌していた彼に立ちどませる瞬間がやってくる。そこに忍び込んでくる、若き日の甘酸っぱい恋の記憶。こういう俗っぽいエピソードを、映画のワサビとして効かせるところに、監督のしたたかさが感じられた。
中でも、野外劇場で壁に激突する全裸の女の前衛パフォーマンスに、豹柄の洋服を着たデブ中年女が、ナイフの的になる。これもパフォーマンスなのか。それに、イリュージョンのように、キリンを隠して見せるというマジッシャン。
迷宮のような元伯爵の宮殿の内装など、とうに没落したイタリア貴族と上流階級者たちは、フェリーニやヴィスコンティの映画で、最後の青い血をまっとうしたかに見えた。

何故、次回作を書かないのかと聞かれて、「大いなる美が見つからないから」と答えるジェップ。大いなる美などというものは観念上の幻想であって、そんなものはこの世に存在しないのだ。驚いたのが、老婆のシスターがそれを指摘する結末が面白いが、彼女は老いの醜さを露呈している。マザー・テレサでは決してないのだが、まるで奇跡を起こしたシスター、マザー・テレサのように見えた。大理石の階段を這いつくばって登る彼女は、神に向かって手を差し伸べてくれるよう願っているのだろうか。
若さはいつか過去のものとなり、生き続ければ老いと死が待ち受けている。だが、主人公のジェップは、「また小説を書く勇気が湧いてきた」などと胸をはるのだ。まこと、この男は現実的で理想的な快楽主義者であるようだ。
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