田舎に住んでる映画ヲタク

「映画大好き」の女性です。一人で見ることも多いけれど、たくさんの映画ファンと意見交換できればいいなぁと思っています。

少年と自転車(le gamin au velo)

2012年05月08日 18時06分36秒 | 日記
 
 
よく、広告や宣伝で「以前日本で聞いた、”帰ってこない親を施設で待ち続ける子供の話”をもとに、この映画は生まれました。
 
                         ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督

と書いてあるのです。同じ日本人として、具体的にどんな話だろうと思っていました。実はこんな感じです。


 2003年9月。「息子のまなざし」の公開に先立って、「少年犯罪」をテーマに監督をまじえてパネルディスカッションが行われました。そこでの石井小夜子弁護士(著書「少年犯罪と向きあう」)の発言の要約をコピーします。

*以下、石井弁護士の発言の要約
今日の映画(『息子のまなざし』)に登場する少年フランシスがあまりにもか細く、わたしが担当したある少年を思い出していました。もちろんすべての少年が同じではありませんが、すべてが同じでない、ということをふまえてお話したいと思います。
わたしが担当した少年はずっと施設で育ち、ある重大な事件を起こして、現在は少年院にいます。その少年は暴走族の中で事件を起こしたのですが、彼は家がないということもあり、暴走族が自分の家だと思うと同時に「いつか裏切られるのではないか」「いつか見捨てられるんじゃないか」という思いがあったようです。親はいるのですが「育てられない」ということで、少年は赤ちゃんの時から施設にいました。施設の問題というより、むしろ親との距離の問題ではないかと思います。何カ月かに1度、親が施設に会いに行くということを約束したのですが、その約束が守られない。10歳頃までは、いつも施設の屋根に登って親が来るのを待っていたそうですが、ある時、施設の方から「もう降りてきなさい。中に入りましょう」と言われ、その日以来、もう親を待たなくなったといいます。その最後の思い出はとても強かったようで、以来、彼は人を信じることをやめ、信じないことで自分を守ろうとしました。施設を出てからも、自分が受けいれられると感じた暴走族のグループであっても、裏切られないためには自分の存在を示さなければいけない、そのためによりひどい暴力を振るうようになったのです。  (2003年9月12日、憲政記念館講堂にて)

そして、パネルディスカッションの後、監督から「よいお話をありがとう」と声をかけてもらったのだそうです。


これらのことが元となり、この映画が誕生したようです。


さて、映画です。
さすが、主役の少年はうまい。とても素人とは思えない。親に見捨てられた子供が持つ、気丈さ、我の強さ、斜に構えた態度。その頑強な意志と態度は、他のなにものをも寄せ付けません。

随分前に見た、フランス映画の「コーラス」を想起しました。あの映画にも、少年院から連れて来た(出て来た?)という設定の男の子がいて、そのあまりの強さに驚いたものですが、あとでパンフレットを読むと、本物だったとのことでした。残念ながら、撮影が終わったらまた少年院に戻ったと。

この映画では、主人公のシリルは父親に拒否され続けます。といっても、見ている方は、最初から父親にその気がないのがミエミエなのに、子供が「迎えに来る」「電話をくれる」と固く信じて疑わないところが、不思議にも憐れにも映ります。

そして、シリルはやがて大人の女性、サマンサに出会います。この辺は日本とフランスの文化の違いだと思うのですが、血のつながらない大人と子供がわりと簡単に「週末だけの里親」になったりするんですね。

もちろん、シリルは一筋縄ではいきません。頑固だし、しばらくは父親にも執着があります。また、同じホーム出身の悪人にもしっかり目をつけられ、利用された揚句に犯罪を犯してしまいます。

そして、もう11歳という子供の力ではどうにもこうにも行かなくなったところで、サマンサに本当の意味で助けてもらうのです。

その分、痛い目にもあわなければなりません。しかし、シリルは着実に父親から離れ、新たな人生に一歩踏み出してゆくのです。

映画ですから、やはり希望を描かなくてはいけません(そうでない場合もありますが)。そういう意味では、シリルがまだ11歳だったってことが幸いしているのかもしれません。

もっと大きくて、自分と言うものが形成されてしまっていたら、もっともっと立ち直りは困難だったような気がするのです。もちろん、人によるでしょうけれど。

シリルは、いい里親が見つかったからよかったけれど、そうでない子ももちろんいるんでしょうね、それはフランスに限らず日本でも。そう思うと、本当に親の存在の大きさを感じますし、どんなに苦しくても、子供の手を離してはいけないんだろうな、という気がします。もちろん、人それぞれ、事情はあるでしょうが。

サマンサを演ずるのはセシル・ド・フランス。私が彼女を始めてみたのは「80デイズ」。顔に皺は増えましたが(失礼!)、いい役者さんになりましたね、本当に。

息子を捨てる父親役は常連、ジェレミー・レニエ。うまい役者だけに、今回はくたびれていました(笑)。

なんか、「里親」になることを一瞬真剣に考えてしまう映画でした。
コメント
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