岡山市議会議員/おにきのぞみの虹色通信

〈いのち・みどり・平和〉を大切にする
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11月8日 記事紹介 「#我也是 メンドリは鳴く、朝を呼ぶため 吉岡桂子」

2018-11-08 | おにき日記

友人の記者・吉岡桂子さんが書かれたコラムです。

* * * * *
朝日新聞/連載:ザ・コラム
#我也是 メンドリは鳴く、朝を呼ぶため 
吉岡桂子
 黒いゆったりとした上着をひるがえして、彼女は待ち合わせ場所に現れた。中国南部・広東省の町。背中には金銀の手刺繍(ししゅう)で羽を広げたニワトリが描かれている。白い糸で縫い込まれた文字は「牝鶏司晨(ひんけいししん)」。
 メンドリが鳴くと、災いが生じて世の中が乱れる。朝を告げるのはオンドリの仕事。転じて、女性が権力を持つとろくでもないことになるという意味である。紀元前、周王朝の時代に由来する中国のことわざだ。「メンドリ」がぶつかる壁には、気の遠くなる歴史がある。
 鄭楚然(チョンチューラン)さん、28歳。2015年春、同世代の仲間と地下鉄やバスに痴漢防止のステッカーを貼る計画を立てていたところ、連行された。留置所に1カ月あまり捕らえられた、5人のうちのひとりだ。わざと騒動を起こす「騒動挑発」の容疑だった。それまでも女性の権利を主張する活動をしており、市民運動の広がりを強く警戒する習近平(シーチンピン)政権が問題視したとみられている。
 あえて「牝鶏司晨」を身にまとう鄭さんからは、声をあげ続ける覚悟が伝わる。中国の通販サイト・タオバオに仲間と店を開き、249元(約4千円)で売っている。「この服があなたに勇気を与えますように」。そう、書きそえてある。
 「#我也是(中国語で、私も)」
 女性が性暴力やセクハラを告発する#MeToo(私も)は今年、中国でものろしがあがった。

 米国に住む中国人女性が1月、中国版ツイッターへ自らの被害を実名で投稿した。北京の大学の博士課程にいた十数年前、指導教官に望まない性行為を迫られた、と。「ノーを言おう」と呼びかけた。「#我也是」のハッシュタグが付けられた。
 各地の大学から、NGO、放送局、仏教界などに広がった。処分された加害者もいる。「会社や工場にも深刻な性被害はある。世間の期待値が高く、声をあげやすい相手に集中しただけ」と鄭さん。
 当局は案の定、SNSで「#我也是」を使えなくした。それでも「#俺也一様(オレも同じ)」や「#米兎(中国語の発音がミートゥー)」と応戦。「米兎」は茶わんとウサギの絵文字にも化けた。連帯を断ちたい権力と市民のいたちごっこは続く。
 運動には「そんなものだ」と思ってきた女性自身が問題に気づき、自責を薄める効果があったという。広東省の有志は「職場の女性法律ホットライン」を作り、セクハラにかかわる電話相談をしている。パンフレットの表紙には、宴席で男性から酒を無理強いされて悩む女性が描かれている。
 「天の半分は女性が支える」。毛沢東(マオツォートン)が残した言葉を引いて、中国共産党は男女平等を強調する。だが、党トップ7人に女性はおらず、25人に広げてもひとりだけ。党総書記や国家主席に就いたこともない。少数民族や社会の底辺で働く労働者に対する抑圧を思えば、女性の権利は人権の一部であることを痛感する。

 いっぽう、日本は先進国のなかで女性の地位が低い国として、中国でも知られる。財務次官のセクハラ問題や東京医科大学での女性に不利な得点操作も報じられた。鄭さんは仲間と、中国の大学入試の定員や合格点での女性差別について政府に公開質問状を出したり、男性のみ応募できる大企業を告発したりしてきた。日本の事例や社会の対応、政策の方向性に強い関心を持つ。
 日系企業で働く中国人だけでなく、中国系企業で働く日本人も増える。互いの状況を知り、対処をともに語り合うことは、男女を問わず有用である。
 なにより、鄭さんとの会話に救われたのは私だ。男女雇用機会均等法が施行されて2年目に働き始めて、30年余り。こんな私でも働き、書き続けることで何かが変わればいいと思ってきた。だが、親子ほど違う世代まで続く、つらく悔しい経験を見聞きするたび、「私は何をしてきたのか」という問いが押し寄せる。ずっと苦しかった。
 「日本の状況をもっと知りたい」。共有できるものを探す言葉がうれしい。「これから何ができるか」を考えよう。
 「牝鶏司晨」。先を歩く彼女の背中が語る。それでも「メンドリ」は鳴き続ける。
 自らに朝を呼ぶために。
 (編集委員)

◎ 朝日新聞デジタル 連載:ザ・コラム(2018年11月8日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13759458.html



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