即席の足跡《CURIO DAYS》

毎日の不思議に思ったことを感じるままに。キーワードは、知的?好奇心、生活者発想。観る将棋ファン。線路内人立ち入り研究。

「まあ、縁だからな」

2007年12月12日 00時36分13秒 | 将棋
今週の週刊将棋の、弟子小林六段の追悼文。

真部八段の10月30日の最期の対局姿の写真もあり、読んでいるうちに自然と泣けてきました。

10歳違いの師弟。将棋界で最も年齢差の少ない師弟関係。
酒席もかなり一緒にし、思ったことをストレートに口にしてしまうという弟子。

10月30日、お互いに別々の対局。
対局中、弟子は一息入れに、大広間の師匠を覗いてみると、

対局姿勢が崩れ、目は将棋盤でなくはるかかなたを見つめている。

それが、豊島四段との最後の対局のこの投了図。


壮絶です。継続不能。
shogitygooさんの言う、「正真正銘の投了図」。
そこで、時間が止まった。
もうだめです・・・・、と絶叫しています。

真部八段は後日、「ここで△4二角なら勝ちだった。」、と語ったという。

数日後、お見舞いに行った時の師匠の言葉。
「俺も相変わらず粘りがないな。まあ、しかし、人間はいずれ死ぬわけだし、少し早いだけの話だ。」

何回目かの見舞いの時、弟子が意を決して、
「先生、今のうちに言っておきます。弟子にしていただきありがとうございました。お世話になりました。」
と涙声になりながら言った時、

師匠はただひとこと、
「まあ、縁だからな。」

なんとも言葉がないです。

この言葉、なんとも真部さんらしいと思います。


先日、ものぐさ将棋観戦ブログ《真部一男の絶局投了図》、絶賛しました。 こんな文章、なかなか書けないです。

それに続く《真部一男「升田将棋の世界」(日本将棋連盟)》の記事も素晴らしいです。

「このブログはじめて以来の多くの人に読まれてしまったらしい。しかも、いまだに検索で見に来る人が跡を絶たない。」

いかに見事な記事だとしても、それにしても真部ファンがいかに多いかという証ですね。

「どうも、真部自身のことを芹沢にたくして語っているような気がして仕方ないのは、私の悪い深読み癖なのだろう。」

これ、深読みなんかではなく、そう思う人多いのだと思います。

「真部の透明感のある文章を読み進めながら、無頼派風の生活は彼の本意だったのだろうか、また単に芹沢風を装っていただけなのではないだろうか、などという相変わらずの根拠なき憶測をいだいてしまった。
とにかく、真部の文章を読んでいると、心が澄んでいく感じがした。」

うーん、はっきり言って、無頼派風の生活は本意とは思えません。
shogitygooさんの言葉を借りれば、棋士の中でも飛びぬけて透明感のある生き方をしていたのでは、と思えます。

もうひとつ。
おおた 葉一郎のしょーと・しょーと・えっせいの記事、《美学破れたり》

真部八段の知らなかったことがたくさんありました。
部分的に引用させてもらいます。
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真部一男八段の逝去の報にふれる。平成19年11月24日享年55歳。同日贈九段となる。首を病み、胸を病み、最後は肝臓まで病魔に冒されていたようだ。私生活は崩壊感覚だったようだが、こと将棋については、誰も彼のことを悪くいうものはいないだろう。将棋に美学を追求していた。ここ10年余にわたって将棋世界誌に「将棋論考」を連載していた。2007年12月号が連載128回目。

将棋を指し始めるのが小学6年の頃。同級生に強い子がいて歯が立たなかった。しかし、6年の夏に一男少年は何らかの原因で体をこわす。そして10日ほど入院中に、母の買ってきた数冊の棋書を読み解いたところから将棋指しとしての一歩が踏み出される。つまり、彼の将棋人生は、病気に始まり、病気に終わるということになる。

その後、将棋連盟内の道場で腕を磨き、高校も中退し、奨励会で将棋一筋の青春を過ごす。自分の青写真では16歳でプロ四段だったそうだが、当時の制度はプロ四段になるためには、年2回の奨励会三段リーグの東西一位同士が決戦を行うことになっていた。最初のチャンスは昭和46年前期。森安三段に対して、中盤で投げてしまったそうだ。対局中、脈拍が120に達する異常興奮状態となり、対局困難になったということらしい。

そして、3期後の昭和47年後期。体調管理に気を配り、淡路三段を破りついにプロ四段となる。21歳。客観的に考えれば、21歳が遅いということでもないし、何しろ早くプロにならないと名人になれないかというと、それすらはっきりしない。その後、超特急ではないが、期待の星として急行電車で活躍を続けていく。

順位戦だけで言えば、C2組を3年で通過、C1組を1年、B2組を2年。そして、B1組で揉まれることになる。B1に在籍8年。A級昇級は昭和63年になる。36歳。そして1年で降級するも翌年A級復帰。しかし、先人の壁は厚く、再びB1組に降級。

一方、A級で苦闘している頃より、彼は首の奇病に悩まされ始めていく。本人は、ビリヤードもできなくなった、という。そして、あれだけ住み慣れていたB1組に留まることなく1年で降級。これからは、「上の景色をチラッとみて、また麓に戻る人生」と、本人は自笑的に書いている。

B2組を8年。さらにC1組5年。途中、降級点を取ったり消したりと盤上の戦いは続いていた。そして今年はC2組3年目であった。2005年11月号には、九段と通算600勝にあと数十勝と書かれている。通算598勝ということは、自力九段までにもあと数勝であったのだろう。

そして、彼の病気のことだが、将棋世界誌・2006年7月号「将棋論考111回」の中に、触れられている。これは、9年間続けているコーナーに、前月6月号で初めて穴を開けたことに対する、彼からの謝罪のことばの中だが、

・穴を開けたのが連載111回目という自分の棋士番号(111)であったこと
・2006年4月15日に呼吸が困難な状態に陥いり、28日間の入院をしたこと
・2005年末に肺のレントゲンで、タバコのみがよく罹る相当深刻な病状であったこと
・それ以来、体力的に困難な状況が続いていたこと
・急な入院で、不戦敗となり相手の阿久津四段に迷惑をかけたこと

などが記載されている。

さらに、才能にあふれる彼の筆は、その困難な時期であった2005年後半の自らの対局について書く。

呼吸は日を追うにつれ浅くなり、深く息を吸い込めない、欠伸すらできない状態となっていった。昨年の8月の対局時には日頃にも増して息苦しく、夕刻には余程おかしな呼吸をしていたらしく、対戦相手の先輩棋士が無意識であったろうが、「唸った病人助からぬ」と呟いた。
もちろん、その先輩は私の病状など何も知らないのだから、まあ、対局中の軽口のようなものである。だが、私にしてみれば傍目にもそう映るのだという現実を突きつけられた気がして心は沈んでいった。

そして、歴史には例外なく、「美学」敗れたり。
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同じく、おおた 葉一郎さんの《将棋棋士の平均的寿命について》、という記事。
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男性棋士の平均的寿命を計算すると、

67.51才である。短い!

享年の年代別分布を見ると、
  20台    1人
  30台    3人
  40台    9人
  50台   10人
  60台   18人
  70台前半 18人
  70台後半 13人
  80台   18人 となっている。

70台後半に至らない比率は(59/90)で65.6%である。

これでは、まずいのではないだろうか。まさか、不健康な人の方が将棋が強くなる、ということは考えられないから、将棋を指すと不健康になる、ということだろうと考えるわけだ。将棋連盟は、そういうところから検討しないと、将来的には、優秀な人材を確保できなくなるのではないだろうか。

原因はよくわからないが、不規則な生活、ストレス、セルフコントロールの難しさ、などが遠因かもしれない。真部九段も、親愛すべき升田幸三モデルで、タバコを極端に嗜んでいたようだ。自記によれば、肺の異変を指摘されるまで、平均的に1日40本タバコを吸い、対局時には100本と書いている。さらに升田流で、銘柄はハイライト。

将棋連盟は、現在、棋士の脳みその構造の研究に力を入れているようだが、健康管理、そして棋士の寿命の研究も重要ではないだろうか。
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もちろん彼のことなど、何もわからないのではあるが、
間違いなく、とても気になる存在ではあった。

将棋も、生き方も、強いメッセージを発していたし、存在感があった。
凛とした、品のある、高貴なたたずまいがあった。

ファン、などと一言でいうのとは、ちょっと違う気がする。

折に触れ、
古い将棋世界を探し出し、「将棋論考」を読む、とか、
いろいろな時代の彼の棋譜を辿ってみる、とか、

いろいろ思いを馳せてしまうだろう。

そのミステリアスな魅力に、ますます惹きつけられていく。

彼はどんな気持ちで、人生を送ったのか。
どんな風に将棋を見つめていたのか。

・・・・・・・・・・

合掌。
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2 コメント

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Unknown (おおた 葉一郎)
2007-12-12 17:29:07
こんにちは、おおた葉一郎です
平均寿命と書かれていますが、「平均的寿命」ということで書いていますので。
返信する
失礼しました。 (nanapon)
2007-12-14 00:33:00
おおた 葉一郎さん、こんばんは。
ご無沙汰です。

幅広いテーマを取り上げ、かつ、いつもすごい情報量と分析力、敬服しています。

今後ともよろしくお願いします。
返信する

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