先日、
日経ビジネスイノベーションフォーラム 「ビジョナリーであるために」
~誰にもみえない未来をつくる~ 将棋から学ぶ次の一手 に行ってきました。
このような3部構成のメニューです。
1.講演 「情報技術の進化と企業経営」
梅田 望夫氏 ( リコー社外取締役)
2.対談 「次の一手を決断するための思考プロセス」
渡辺明竜王・棋王・王将× 矢内理絵子女流四段
3.特選対局
加藤桃子女流王座VS 矢内理絵子女流四段
《 解説:渡辺明竜王・棋王・王将 》
《 聞き手:上田初美女流三段 》
ちょっと遅れて行って案内され、一番後ろの席に座ったら、偶然すぐ隣が
遠山編集長と
okadaicさんでした。
ということで今日は第一部の
梅田望夫さんの話を簡単にまとめてみようと思います。
まず梅田さんが最初に象徴的に紹介してくれた、一般将棋ファンのこのtweet。
“リアルタイムで将棋が見られるようになって本当によかった。
棋譜を並べただけでは伝わらない感動が、棋力に関係なく多くの人たちと共有できるようになった。”
そうですね、ほんと、すっかりそういう時代になりましたね。
梅田さんの提唱した『将棋を観る楽しみ』というものが我々将棋ファンの間ですっかり定着して当たり前のようにリアルタイムに、カジュアルに、楽しめる状況になったわけです。
将棋連盟の方、棋士の方、遠山編集長を筆頭とする関係者の方々、数年前まではなかったこの幸せすぎる環境、本当に感謝しています。ありがとうございます。
そもそも、すべての始まりはここからでした。
梅田さんやokadaicさんと初めてお目にかかったあの時。思い出します。
『シリコンバレーから将棋を観る』サイン会
これ、2009年春のことなんですね。
まだ4年半前ですか。
なんだか隔世の感があります。
この本があまりにもインパクト大きかったのでずいぶんブログにも取り上げました。
本屋の売り場に関する話を1話から7話まで書いたりとか、僕の中でのこの本の影響力についてもいろいろ書かせてもらいました。
梅田さん、okadaicさんからも直接コメントをいただいた記事。
シリコンバレーと本屋の売り場・その2
書評のような記事。
シリコンバレーから将棋を観る
将棋を観る楽しみ
もうかなり忘れてましたけど、感慨深いです。
すっかり新しい時代になりましたね。
今ではタイトル戦などはニコ生も当たり前のようになり、皆、リアルタイムで将棋を観戦し、twitterであれこれ言い合ったり、その臨場感を共有しつつ楽しんでいます。
今までは将棋の強い人、上級者たちだけの場だった。
ほんの一部のマニアの人たちだけのニッチなコンテンツ、エンターテインメントだった。
それが、ここ数年で、イメージも含めすっかり将棋の見え方、位置づけが変貌した。
棋士たちの真剣勝負の醍醐味、それにまつわる興味深い情報などが広く世の中に伝えられるようになり、楽しみ方もいろいろ幅ができ、それとともに裾野も一気に拡大した。
若い人、そして女性、子供などがどんどん新たなファンとして流入してきて、もともとずっといて幅を利かせていたタバコ臭いオヤジたちはすっかり肩身が狭くなった。
プロの将棋を味わうのは、ずっと、何十年も、新聞の観戦記、そして、将棋世界と週刊将棋を中心にして歴史が刻まれてきた。
あと、NHK杯や名人戦竜王戦のBS放送のテレビ中継を加えたらそれが将棋を楽しむすべてのチャネルだった。
そこに登場したインターネット。
インターネットの発展のおかげで、将棋やスポーツなど、観戦する側の楽しみ方の深さ、充実度は急速に変化してきた。
しかし、その中でも将棋を観る楽しみは、インターネットの恩恵を受けてるものの最右翼かもしれないとマジに思えてくる。
楽しみ方が100倍返しになっていると言えるくらい、大きな影響を受けているのではないかと思う。
こんなイベントもありましたね。
羽生さんイベント@アップルストア
電王戦も含め、数々広いジャンルの将棋イベントも全国各地で頻繁に行われています。
タイトル戦の大盤解説会なども現地、ニコ生、連盟、主催者、など、ファンが自分の好みや利便性に応じて選べる選択肢もどんどん増えています。
インターネットがある程度普及しても、将棋コンテンツは大スポンサーの新聞の利権であり収益源たる独占情報だから、そう簡単にはネット上にOPENにしていくことは長い間困難であった。
それがある時から堰を切ったように、誰でも気軽に(それほどお金もかからず)享受できるような時代になった。
昔は情報を制限することで価値が生まれたけど、今は情報は公開することで全体としての価値が高まる。情報をOPENにしてしまうことが誰にも見えない未来を作ることになる、と梅田さんは言う。
この2006年に上梓したウェブ進化論でも書かれているが、
オープンソースということに注目している。
ネット上で公開することにより、金銭の授受も、指示や強制のメカニズムもなく、自発的に知恵が集まり自然に成長していく。
プロ棋士の世界、将棋の研究や進化はそんなオープンソースの世界と似ている。
将棋は「オープンソース的な営み」「オープンソース現象」と言えるのではないか。
異質な個性が思考を共有しそれぞれの持ち味を発揮し、自主的に全体として大きな達成を成し遂げる場。
足りない部分を補い、アイデアの連鎖反応を起こすこと大きなインパクトを与えること。
労働に見合った報酬とか関係なく、その対象が好きという一点で結ばれている。
こういうことが誰にも見えないこれからの世界を考える大きな指針になっていく。
現在のイノベーションにおける二つの流れ。
A.基盤事業やしくみ、カルチャーを破壊しない範囲で、ITを導入してイノベーションを起こす。
B.新しいITを前提に、何も拘らずに破壊型イノベーションを起こす。新しい可能性を追求していく、見定めていこうとする方向。
今回の電王戦は、明らかにB。
故米長会長の考えで、いいことか悪いことかわからないけど、時代の流れなのだから逃げずに取り組んでいこうと主張し始まったイノベーション。
梅田さんの締めの言葉は、
『ITの本質を見据えたイノベーションをしていくことが人間の役割。
それはまだ緒についたばかりなので、一緒に誰にも見えない未来を作っていきましょう。』とのこと。
ITの力。
梅田さんの指摘するオープンソース的な営みは未来の可能性を大きく広げていくことができそうな気がする。
とりあえず現代に生きる人間として、“将棋を楽しむ”ということを通してであれば、人間とITがどうリンクしていくのがいいのかを見守ったり考えたりすることはとても興味深い。
そういう意味で以前
何度も書いた電王戦に関しては、現状ではかなり批判的な見方になっているのだけど、人間の英知や見識を信じて、まだ誰にも見えない未来を積極的に創造して行こうとすることは恐れてはいけない、という勇気をもらいました。
梅田さん、ありがとうございました。