昼食を食べて喉を詰まらせた。左手にママヨさんが握った大きめ鮭入りの握り飯、右手にハンドル、ママヨさんのお母さん98歳の誕生祝いして帰る途中の異変。お茶を飲んでも収まらず、だんだん苦しくなり、全く知らない喉元の苦しさに襲われ高齢者死因筆頭の「誤嚥」の文字浮かぶ。路側帯に必死で車止めて歩道の端で腰曲げた。吐き出せば楽になれるはずだがお茶混じりの唾液出るだけで苦しくてたまらない。普段なら思わず笑顔浮かぶ黄色く実った稲穂の海も涙で滲んでくる。ママヨさんが必死に背中さすってくれた。
歩道を歩いていた若い人が近づき、「大丈夫ですか?」とママヨさんと一緒に背中をさすってくれ、「私がいると出すものも出せませんね」とすっと離れて小走りに去った。吐かずに何とか飲み込み落ち着くことができた。「病院に行かなくていいですか」とママヨさんが運転を代わってくれた。動き出してすぐの交差点で、先ほどの若い方が手をあげて車に合図している。止めると「大丈夫ですか、お大事に」と水の入ったペットボトルを渡してくれた。急いで買ってきてくれたのだ。信号が青に変わり後ろもつながっている繁華街だったので、頭を下げただけで先を急ぐことになってしまった。若い人が横断歩道を渡っているのが小さく見えた。
茶色いチェックの上着に、茶色いズボン、髪が軽くウェーブの若い人。大学生かなあ。車中で「なぜ、ちゃんとお礼を言わなかったんだろう」という後悔と、「見知らぬ人からこんなふうに親切にしてもらったことがない」と感嘆した。少し落ち着いた頭で、生命も意識した事態で親切を受けながらきちんとお礼できなかったことを恥じた。自分たちにあんな風にさりげなく咄嗟の所作が出来るだろうか。雨が降り出し、あの方は濡れているのではないか、車には傘があるし買ってきた土産もあるのにとぼそぼそと話ながら行き過ぎた。
困った人を見たら親切にしようと心の底から思った。帰ってから、夕食をしっかり噛んで食べた。