戸惑い八景

見たり聞いたりしたモノを独自に味つけしました。
飛騨の高山から発信しています。

あの灰皿はどこへ飛んでいったのでしょう

2016年05月12日 | 想うこと

蜷川幸雄さんが亡くなられました。

享年80歳ということです。

演劇を囓ったことのある者だったら、何かしらの感慨をうけるでしょう。

日本を代表する、演出家でした。

若い頃は、” 奇を衒う ”、演出をする人だなという印象が強かったです。

しかも稽古場には怒号が飛び、灰皿まで飛んで来るという、エピソードも聴きました。

ある意味、スキャンダラスな演出家、というイメージがありました。

それで、世に知られた、ということもあるのかもしれませんが。

まあ、それほど舞台を観ていませんから、えらそうなことは言えないのですが。

テレビで放映された、野田秀樹さん作の、題名を忘れてしまいましたが、蝶々夫人を題材にした作品を観たとき、奇を衒う、と思っていたけれど、実は、台本に忠実に作られる方なのだと、知りました。

オーソドックスと言ってもいいくらいに。

徹底的に読み込んで、作っているのだと知ったのです。

自分勝手な解釈はしないということです。

かつて仰っていたことに、「台本を読める人が少なくなった」、というのがあります。

シロートながら、私もそう思います。

すべては本に書かれているのですから。

演出をするということは、どれだけ台本を読み込めるかということから始まると思います。

ある意味、書かれた作家との闘いであろうと。

というのは、作家は色々なテイストを作品の中に埋め込みます。

ですから、演出家はそれをすべて掘り起こしてこなければなりません。

作品を通して、作家を丸裸にしてしまうのです。

それは、命がけのようなものだと考えます。

大げさな表現かもしれませんが、演出をうけるときは、作品と心中するくらいのつもりでお受けなさったのではないでしょうか。

となるならば、蜷川さんに演出される本を書いた作家は、作家冥利に尽きたと思います。

偉大な演出家が亡くなられました。

ご冥福をお祈りします。