点滴を受けながら昨日は『マタイによる福音書』を今日は『老人と海』を読んだ。この一週間は頭を空っぽにして療養に専念してきたから活字が新鮮だった。それでも福音書では湖の水面を歩くキリストや予言通りに復活したキリストに戸惑った。
アンソニー・クイーン主演「老人と海」
馴染みの『老人と海』の最後の場面は「少年がかたわらに座って、その寝姿をじっと見守っている。老人はライオンの夢を見ていた。」で終わる。そのライオンは老人の生命力を象徴していると思ってきた。ところが、ライオンはこの物語に数度登場することが今日になって分った。書き出しの数ページあとに「お前(少年)くらいの年ごろには、俺はもうアフリカ通いの横帆を張った船の水夫になっていたっけ。夕暮れになると砂浜を歩くライオンが見えたものさ。」という老人の回想がある。注意深く読み進むほどに、最終場面で老人が見た夢に登場するライオンは生命力の象徴ではなくて、老人が若い頃にアフリカで「見た」否「見えた」ライオンを夢の中で追憶していただけじゃないのかと想像し始めた。「標高5895メートル、雪に覆われたキリマンジャロはアフリカ最高峰の山である。西の頂上付近に干からび凍った豹の死体がある。豹が何を求めてこの高さまで来たのかは謎のままだ。」。ヘミングウェイが短編「キリマンジャロの雪」で「凍った豹」に象徴させたそれとは、どうも意味合いが違うようだ。