兼好法師のように『日くらし、硯にむかいて』いるわけではない。わたしは職務上、『日くらし、クライエントに向かいて』いる。兼好法師は硯にむかいて自分の思いを書き留める。わたしの方はクライエントに寄り添う。ちなみに日くらしというのは一日中という意味だ。寄り添うといっても肩をやさしく抱きしめるなんてえ寄り添いかたじゃない。クライエントの心の動きに寄り添う、または寄り添っているということだ。
生れ落ちてからこのかた自己主張が強い方だからクライエントに寄り添うのではなくて言い聞かせたくなることが多い。先人河合隼雄さんは、『言い聞かせるのは容易な技だ。言い聞かせるつもりでクライエントに対応するのなら、辛抱しているクライエントに我慢料を払え。』と言い切っている。至言だ。わたしはまだ修業が足りないと思う。