旅路(ON A JOURNEY)

風に吹かれて此処彼処。
好奇心の赴く儘、
気の向く儘。
男はやとよ、
何処へ行く。

「ブッシュの戦争」

2007年08月29日 17時36分44秒 | Weblog
CIAによるあらゆる諜報結果の分析から、アラビア語で「基地」を意味するアルカイダの領袖ビン・ラディンをテロリストの頭目であると決め付けたブッシュ・ジュニアは、9.11の同時テロ以降、アフガニスタンに潜伏するテロリストたちの討伐を決断する。

アフガニスタンは、4千年以上の歴史を有する国家であり、その統治は多数の部族の長による合議を旨としていた。アメリカがとった戦略は、北部同盟という反タリバン勢力の部族に金と武器を与えて、地上から首都カブールを攻略する一方で、米軍による空爆によってアルカイダ寄りのタリバン勢力を威嚇して、そのタリバン勢力を首都から一掃することにあった。

難なくこの戦争を終結させたアメリカは、「テロリストたちとの戦争」を標榜しながら、「自由と民主主義」のための戦争を口実にして、アメリカにとって都合の悪い勢力を中近東から一掃する動きを始める。アフガン侵攻の後、イラクの独裁者フセインとの戦争は周到に準備されるのである。

「直感で動く」と自ら豪語するブッシュは、緻密な戦略、戦術で周到なシミュレーションと状況分析が得意な高官たちをたびたび戸惑わせる。目的達成のためなら手段を選ばないCIAの活動、そういえば、ブッシュはかってCIAの長官だった。戦慄を覚えそうなCIAの諜報活動や謀略に『直感』で対応するブッシュ大統領、という構図こそが、現在のアメリカの世界戦略を決定しいるのであろう。

湾岸戦争の英雄パウエルと副長官ラーミテージとの信頼関係は厚く、田中真紀子外務大臣が袖にしたアーミテージが、パウエルの大統領選出馬を踏みとどまらせたそのひとであることを初めて知った。「嘘がつけないあなたに、大統領が務まるのかな?」という主旨のアドバイスを熟慮したパウエルは出馬を断念したのだ。

現国務長官ライスの調整能力が優れていることが理解できるし、最近解任された国防長官ラムズフェルトは、かっては大統領を目指す野心家であった。「大統領の陰謀」を世に問うたボブ・ウッドワードは、地道な取材で9.11事件以降のアメリカの逡巡と決断を、権力者たちの個性を踏まえながら、見事なドキュメンタリータッチで描ききっている。


高橋和巳

2007年08月29日 10時56分58秒 | Weblog
当時、若き法学徒を気取っていた私は、中国古典文学の研究者であった高橋和巳の小説「非の器」を読んで、自分が法律の「ほ」の字すら理解していない浅薄な学生であることを思い知らされた。年齢差を考慮すると当然といえば当然なのであるが、法の何たるかについて、社会というおとなの世界について少なくとも彼の方が私以上に知っていた。当時風に言うならば、私は、なんとも言えない挫折感を味わった。

「邪宗門」という著作で、開祖の宗教心がどのような過程を経て社会に波及し、やがて、どのように国家権力と対立し弾圧され、教団組織が崩壊の憂き目にあうのか、私は小説の中で壮大な実験を見ているような錯覚を覚えた。現代風に言うと、感動した。

小田実、吉本隆明、高橋和巳は、われらが時代の矛盾を突いてやむことのない思想的な旗手たちであった。為すこと、書くこと、喋ることが悉くわれわれの議論の対象になった。久しぶりに高橋和巳と小田実の著作に出くわした。「高橋和巳作品集 エッセイ集 Ⅰ (思想編)」と小田実著「人間・ある個人的考察」である。さっそく買い求た。半年ほど前に、やはり吉本隆明の著作と出くわしている。理解できなかった「共同幻想論」であるが、この歳になってようやく抵抗なく読めたし腑に落ちた。