暗きより暗き道にぞ入りぬべき はるかに照らせ山の端の月
(和泉式部『拾遺』)
平安朝、跡かたなく砕け散って消えた千年はるかかなた
一人のおんなの歌が山の端の月のように今を照らす
めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に雲隠れにし夜半の月影
(紫式部『新古今集』)
外にさがしても何もない
吹きさらしの風だけが吹いている
ふるさとは語ることなし (坂口安吾「碑文」)
ただ心に現象する泡立ちにみちびかれ
あの歌があって、この歌があり、未生の歌が懐胎していく
この連結の連鎖のいとなみに加わることだけができる
この憧憬は生の喪失の感情であって、失われたものを生として、
かつて生に親しみ深かったものとして認知するからである。
この認知はそれだけですでに生の享受である。
(ヘーゲル『キリスト教の精神とその運命』細谷・岡崎訳)
ほんとか?ああ、どんな資格も要件もない
この連結器の作動を全うすることが生きるということさ
(見逃して素通りするなよ)
このいとなみは通時的であると同時に共時的でもありうる
交わり、享受をわかちあう、それが現象する人間の地平がある