──中井久夫「サリヴァンの統合失調論」1990年
統合失調者の言葉を使える治療者が稀にはあるものだが、
そういうフリ(引用注:わかったフリ)をすることは愚かしいことで、
患者とともに統合失調症の森の中をさまよってはならない。
一般に間接的接近法をとり、患者の安全感をそこないそうなものは
できるだけ断定せず、できるだけありふれたことばで話すのがよい。
患者の錯乱は、そういうことも世界の一部だという態度をとって
たじろがずにいると、自分のコミュニケーションを好ましく思っていないにしても、
幻想的だとしない奴がいるというくらいは気づくもので、
幻想的に救われては放り出される妄想世界のほかに、
現実的援助を与えてくれる人がいることを知るのが大切である。
これは、統合失調者の自己組織にそっと下支えを提供するという、彼の接近法の一つである。