「それにしてもせつなくない?」
「いきなり?」
「いけない?」
「いいのよ。せつなくて」
「当然でしょ」
「そうかしら」
「しっかりしなよ、なんて言わない」
「わかるでしょ」
「せつなくて、苦しくて、バカバカしくて」
「楽しいこともなくはない」
「でもさ、泣きを入れたいときだってある」
「ある」
「そういう相手がいればね」
「いるよ。みつけな」
「いなくったっていい」
「ほんと?」
「それはそれでということでさ」
「そうかな」
「いるよ。がんばれ」
「どっかにね。目の前かもしれない」
「見逃してる?」
「かもしれない。わかんない」
「腐るほどいるかもよ?」
「なんてね」
「せつなさ、かなしさ、孤独」
「何?」
「人生の花、文学のふるさと、とか言った作家もいたな」
「しゃらくさい」
「いいじゃん」
「それ自体一つの享受である、ある哲学者はそう宣った」
「何が?」
「喪失の感情、だって」
「チョー上から目線だな」
「悪くないと思けどね」
「どうしたらいいのさ」
「どうにもならないさ」
「でもね。それだけじゃないでしょ」
「生きてる証拠、とか」
「かっこつけるからややこしくなる」
「わかる。いろんなことがね」」
「いろんなノイズが混じり合って見えなくなる」
「どう見えなくなんの?」
「感情が渦巻いて本当の願いがわからなくなる」
「仏教でいう煩悩の仕業ですか」
「ほんとの心は迷子になりやすい」
「そうね。ああ、ややこしい」
「ややこしや、ややこしや」
「ややこしさにくじけない心で行こう」
「うん、だいじょぶ。でもな」
「とりあえず迷ってる自分を大切しようか」
「自分を否定したり非難したりしちゃおしまいかも」
「そこが分かれ目かもしれないな」
「何の?」
「とっつぁんとして生きるか、レディとして生きるか」
「レディ?」
「おんなでも人間でもなんでもいいけど」
「とっつぁんは人間じゃないの?」
「悟りを開くととっつぁんになる」
「悪い意味で?」
「そう。とんでもなく悪い意味で」
「どう」
「すべてはイロとカネとチカラで決着がつく、とかなんとか」
「性別を問わず?」
「そう。性別を問わず」
「ごまんといるな」
「一国の方針を決める場所を占拠している」
「戦争したがる心が具現化した姿とも言えるな」
「言えてる」
「わかれ目ですか」
「本質は凡庸なニヒリストだよ」
「でもさ、嫌って遠ざかるだけじゃ芸がないかな」
「有象無象ごまんといるからよけて通れない」
「目の前にいたら面倒くさいね」
「こっちのワザを研くしかないかな」
「それ大事だと思う」
「あしらう、さばく、うまく通り過ぎる」」
「でもね。結局人生ナントカとか、結論出すボケは蹴とばしときたい」
「できればね」
「面倒だけどそんな作業もあるな、たしかに」
「でもさ、とっつぁんを捻り潰してもゲインはゼロだよ」
「わかる」
「そんなことと関係なく大事なことちゃんと考えとこうか」