最新の治療法など、地元の医療情報を提供する「メディカルはこだて」の編集長雑記。

函館で地域限定の医療・介護雑誌を発刊している超零細出版社「メディカルはこだて」編集長の孤軍奮闘よれよれ・ときどき山便り。

水深1万メートルの深海でも電子回路を安定動作させる耐圧防水に優れた樹脂(ジェラフィン)を開発

2018年12月27日 12時06分43秒 | メディカルはこだて
第68号では、水深1万メートルの深海でも電子回路を安定動作させる耐圧防水に優れた樹脂(ジェラフィン)を取り上げた。

ソフトウエア設計・開発のエスイーシー(本社・函館市末広町、永井英夫社長)は、地元企業・団体向けのSIサービスや携帯電話交換機など情報通信系インフラの受託設計を行う道内大手のIT企業として成長を続けてきた。
新分野への事業展開に力を入れている同社は、2008年10月に自主研究開発チームである「水産海洋プロジェクト」を発足させ、海洋データ通信や海洋IoT(モノのインターネット)機器の開発を行っている。開発製品の中で最も注目を集めているのが、水深1万メートルの深海でも電子回路を安定動作させる耐圧防水に優れた合成樹脂「ジェラフィン」だ。
開発者で研究員の鉄村光太郎さんに話を聞いた。
愛知県出身の鉄村さんは北海道大学水産学部で漁業機械学を専攻。芝浦工業大学で電子工学を学んだ毛内也之さんと共に樹脂の研究・開発に携わってきた。
同プロジェクトでは海洋ブイやリアルタイム式水温計などを開発してきたが、ジェラフィン開発に至った経緯は「水温計などを海中で保護する防水素材を独自で作ろうとしたことがきっかけでした」と鉄村さんは語る。
精密機械を海で使うことは難しい。「海中では、水圧や波浪・衝撃、外力による電子部品の動作不良。信号・光・電波の導通における水圧影響など様々な阻害要因があります」。
従来の耐圧防水技術は億単位のコストをかけた耐圧容器に入れるのが一般的だった。「過重な装置大型化と高コスト化を回避する方法は無いかと考えたのが出発点です。既存のケース剛性で水圧を排除する方式ではなく、圧力バランスによる破壊を防止する油浸技術が該当するのではないかと判断しました」。保護剤としては液体オイルが適しているが、高コストな油密機構が必要だ。「世の中にある様々なシール剤、防止素材を調査して、液体オイルの替わりにゲル素材を候補にしました」。
昨年6月には特許を取得し、翌7月から販売を始めた。ジェラフィンの主な用途は海洋分野では、海中ロボットの防水や衝撃保護。海中カメラや海中LED照明、海底地震計、海洋観測センサーの防水処理。社会インフラ系分野では下水処理施設など腐食ガス環境での電子部品や金属部品保護、屋外LED照明の防水・防湿・防塵対策、特に硫化物イオン対策があげられる。
この他にも航空機LED翼灯や大型ドローンの防水対策などの航空・宇宙分野。そして、医療分野では再生医療素材や医療計測装置の防水・防湿・防塵処理に高い効果が期待される。
実際、医療分野に関しては関連企業などからの問い合わせもある。
11月28日から3日間東京ビッグサイトで開催された航空宇宙関連最新技術と製品を展示する「国際航空宇宙展2018東京」では、東北・北海道経済産業局の合同ブースに出展し大きな注目を集めた。
「今後は素材によるビジネスから応用製品へと需要はさらに広がっていくはず」と、鉄村さんは新素材の発展に手応えを感じている。


エスイーシー水産海洋プロジェクト研究員の鉄村光太郎さん。



電子基板を包んだ「ジェラフィン」。
この状態で1万mの深海でも水圧から防護することができる。


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市立函館病院は下肢救済へ多職種の「フットケアチーム」を発足

2018年12月27日 09時51分48秒 | メディカルはこだて
第68号のトピックス・リポートは、市立函館病院は下肢救済へ多職種の「フットケアチーム」を発足。

下肢動脈が動脈硬化によって狭窄したり閉塞することで血流不全になる病気がPAD(末梢動脈疾患)だ。
PADは悪化すると痛みで歩行も困難になり、最終的には下肢切断に至ることもあるが、切断された患者の予後(5年生存率)は大腸がんと同等と言われていて、下肢切断に至る前に適切な治療が必要となる。
市立函館病院(森下清文院長)心臓血管外科は、急増する大動脈瘤に対応するために全国に先駆けて大動脈瘤外来を開設したが、PAD(末梢動脈疾患)の治療にも力を入れてきた。
PADの患者は65歳以上の10〜15%と推定されているが、高齢化の進行や食生活の欧米化、糖尿病・透析患者の増加に伴い、患者数も増えることが予想されている。
同病院では2014年から院内の有志による下肢救済の取り組みをスタートさせたが、これまでの実績が評価され、今年4月スキンケア委員会の「フットケアチーム」として正式に認定された。
現在、チームのメンバーは医師、看護師、理学療法士、臨床検査技師、診療放射線技師など16人で構成されている。
心臓血管外科の柴田豪医師は「道南ではフットケア外来を設けている医療機関はありますが、その多くは看護師を中心とした組織であり、多職種でのチームを結成し、入院中の患者をケアするチームは全国的にも少ないはず」と話す。
同科では従来のバイパス手術に加えて、カテーテルによる血管内治療(EVT)、体外循環装置で血液中からLDLコレステロールを選択的に吸着除去するLDLアフェレーシス、高圧酸素療法など、心臓・血管疾患に最適な治療を実現するハイブリッド治療の実績に高い評価を得ている。


市立函館病院心臓血管外科の柴田豪医長




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がんゲノム医療の「連携病院」に道南の2病院が指定。「がん遺伝子検査」で効果の期待できる治療の検討も

2018年12月27日 06時19分52秒 | メディカルはこだて
第68号のピックアップニュースは、がんゲノム医療の「連携病院」に道南の2病院が指定。「がん遺伝子検査」で効果の期待できる治療の検討も。

がん細胞のゲノム情報を調べて、その結果をもとに、より効率的で効果的に診断や治療、予防を行う「がんゲノム医療」で、市立函館病院(森下清文院長)と函館五稜郭病院(中田智明病院長)は10月1日、全国に11カ所ある中核拠点病院の「連携病院」に指定された。
市立函館病院は北海道大学病院、函館五稜郭病院は慶応大学病院と、それぞれの中核拠点病院と連携する。道内では道南の2病院のほか、札幌医科大学附属病院、北海道がんセンター、旭川大学病院が北海道大学病院の連携病院として指定されている。
ゲノムとは生物の遺伝に関わるいろいろなDNA分子全体に対する総称だが、がんゲノム医療で行われる「がん遺伝子検査」とは、がんのもつ遺伝子の特徴を調べる検査で、この結果によって、効果の期待できる治療を検討できる場合がある。
生まれてから後に起こった、次の世代に引き継がれることのない遺伝子変異は「体細胞変異」と呼ばれているが、その変異を明らかにするのが「がん遺伝子検査」だ。


市立函館病院は来年度には、がんゲノム医療の専門外来を院内に開設し、患者の受け入れを開始する予定で、遺伝子パネル検査の導入も目指している。
同病院はこれまで北海道大学病院腫瘍内科と共同で分子標的薬や抗がん薬の臨床試験に取り組んできた。
消化器内科の成瀬宏仁副院長は「抗がん剤の効果や副作用を予測するコンパニオン診断は、肺がんなど一部の遺伝子検査を実施してきました」と話す。
コンパニオン診断をすることで、特定のがん治療薬が効く可能性の高い患者を特定することができることから、高い治療効果が期待され、無駄な治療を行う必要もなくなった。


市立函館病院副院長・消化器病センター・消化器内科の成瀬宏仁医師


今年7月に「がん遺伝子外来」を開設した函館五稜郭病院は、外部機関と協力して遺伝子パネル検査(網羅的がん遺伝子解析プレシジョン検査)を行っている。
同病院がんゲノム医療センターの池田健センター長(副院長)は「がんは様々な遺伝子の異常が積み重なることで発症し、その遺伝子の異常は個々の患者さんごとに異なることが分かってきました」と話す。
現在、その遺伝子の異常を標的とした治療薬(分子標的薬)が日常診療で使われているが、現在行われている一般的な遺伝子検査はそのごく一部しか調べることができない。
「当院が実施している網羅的がん遺伝子解析では、がんの診断や治療に役立つ情報を得るために、一度に160の遺伝子変化を調べる最新の解析技術を用いて、患者さんのがんの原因遺伝子が何かを知ることができます」。


函館五稜郭病院副院長・がんゲノム医療センターセンター長の池田健医師



 

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在宅や施設で予期せぬ死亡(急変)時の対応は。医師も戸惑う医師法20条と医師法21条の正しい理解

2018年12月27日 02時59分46秒 | メディカルはこだて
第68号のピックアップニュースは、「在宅や施設で予期せぬ死亡(急変)時の対応は。医師も戸惑う医師法20条と医師法21条の正しい理解」。

前回は、医師法第20条を、今も誤解している医療者が多いこと。そして医師法20条ただし書きの適切な運用とはどういうことなのかについて、函館おしま病院の福徳雅章院長に体験例なども交えて解説をしてもらった。
今回は医師法第21条の誤解や医師法20条と21条の正しい解釈、問題点などを取り上げる。
医師法第21条は「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」とある。
医師は死体を検案して異状があると認めたときには警察に届け出なければならないが、医師法21条は医師法20条と同じように誤解されてきたと福徳院長は話す。
その誤解となったのは、「死体検案書を交付した場合は全て警察に届けなければならない」「死因が確定できない場合は警察に届けなければならない」「病死・自然死以外は全て警察に届けなければならない」「診療関連死は警察に届けなければならない」という解釈にあって、福徳院長は「死体に異状がある(異状死体)」ということを「死にいたる過程での異状」を含むようになってしまったと教えてくれる。
医師法21条の解釈についての議論は1994年、日本法医学会が「異状死」に「診療関連死」を含める「異状死ガイドライン」を発表する。
翌95年には厚生省が「死亡診断書記入マニュアル」に、「異状とは、病理学的異状でなく、法医学的異状を指します。法医学的異状については、日本法医学会が定めている『異状死ガイドライン』等も参考にして下さい。」と記載、一学会のガイドラインであったものを事実上、厚生省の指導としてしまった。
「診療関連死」に警察介入の道が開かれたのは、99年に患者取り違えや消毒薬誤注射などの重大な医療事故・事件が相次いだことによる。
2000年厚生省は国立病院の「リスクマネージメントマニュアル作成指針」の「警察への届出」の項に、「医療過誤によって死亡又は傷害が発生した場合又はその疑いがある場合には、施設長は速やかに所轄警察署に届出を行う」と記載した。
「この記載によって、医療者は医師法21条の解釈変更と受け止めたのです。
その結果、在宅や施設における死亡、医療ミスによる死亡での警察への届け出が急増してしまいました」。


函館おしま病院の福徳雅章院長





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