写真はリージェンツパークのインナーサークルの植栽。どれも植物園かとみまがうような美しさだった。
【リージェンツパークと野外劇場】
今回、ロンドンについて最初に行った場所はベイカー街のシャーロックホームズ博物館でした。それは、すぐ近くのリージェンツパークにも行っておきたかったからでもありました。
リージェンツパークは166ヘクタールの面積をもつ王立公園で、だれでも無料で散策できます。もともとヘンリー8世(1491年~1547年)が離婚問題に端を発して、修道院から接収し、以後、長らく王室のお狩場だったところ。1811年に摂政王太子だったころのジョージ4世(1762年~1830年)が当時貴族の土地だったこの地を買い戻して、お抱え建築家のジョージ・ナッシュによって周辺の都市計画も含めて設計し、1845年に公園として整備されました。
イギリス王室の歴史はクセがツヨめに感じるのですが、この公園の整備を命じたジョージ4世もなかなか独特な方。放蕩三昧で借金を重ねる人生を送った、スキャンダラスな人物らしい。
ただその教養と美意識はたしかで、今なおリージェンツパークはロンドンで最も美しい庭園との評判を獲得しているし、今も使われているウインザー城の再建や、バッキンガム宮殿の大幅な改装を命じたのも彼、スコットランド風タータンチェックの復活などファッション面でも大きな功績を遺しておられるのでした。また今回、調べるまで気にもとめなかったのですが、トラファルガー広場の中心など、目立つところに屹立する銅像の多くがジョージ4世なのだとか。当然、命じたのはご本人。芸術面に秀でた人物というのは、生活面ではいかに浮世離れしてしまうのかがよくわかる話です。
話がそれました。
さて、そこに野外劇場があり、夏になると、おもにシェイクスピアの演劇が上演されることで有名です。1932年創立以来、数々の演劇賞を受賞するほどレベルの高い作品が生み出されています。
家人はその有名な劇場の上演チケットをインターネットで購入していました。野外劇は夜。当日に場所が暗くてたどり着けないのでは、それに治安はどうなのだろうと不安になって、下見のために公園に行ったのでした。
ホームズ博物館側にほど近い入口から入ると、よく手入れされた花々が植栽された庭園があり、やがてインナーサークルと呼ばれる直径330メートルの手入れされた空間のなかにつたに絡まった野外劇場が見えました。入口はまだ昼間なので閉まっています。
なにより整った庭園という感じで、大木が生い茂るハイドパークとは違った雰囲気です。ザ・イングリッシュガーデンとでもいいたくなる園芸植物が丁寧に植えられた空間が続いていて、バラ園もありました。
とても落ち着いた空間なので、これなら夜でも大丈夫そう。
ちなみにリージェンツパークの北側にはかの有名なロンドン動物園があります。それは1826 年に設立された動物学会(ZoologicalSociety)にその土地がリースされ、その付属施設として1828年に動物園が設置されたことに由来します。
一方、公園の中心からやや南に位置するここインナーサークルは1841年、王立植物学会(Royal Botanic Society)に植物園設置の目的で貸与された場所でした。整った園芸空間はそういう歴史も反映されているのかもしれません。
その日は公園から続くリージェンツストリートをずんずん歩いて観光客でごったがえすピカデリーサーカスまで行きました。ロンドンの名所って、簡単に歩けるんだなとその時思ったのですが、まさにリージェンツパークとその道は最初から都市計画でまるごと作られた空間だったとわかると、納得の歩きやすさは偶然ではなかったわけです。
参考文献:芝奈穂「リージェンツ・パーク設計の政治学―王室エステート計画から一般開放へ―」『ヴィクトリア朝文化研究』15、2017.11
※災害級の暑さがやってきました。次週の更新はお休みします。みなさま、くれぐれも体調に気を付けてお過ごしください。
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