河出書房文庫版第2巻に収められている「トリエステの坂道」。
前作の「ヴェネツィアの宿」は著者自身の留学のこと、修学時代について、
また、父のこと、母のこと、祖母など、家族や周辺のことが中心でした。
最初の2年間の留学地・フランスの個人主義は須賀には、馴染めず拒絶的であった。
2度目の留学地・イタリアは第二の母国となるほどの、須賀にとって充実の地となっていく。
「トリエステの坂道」――、
表題作「トリエステの坂道」は夫・ペッピーノが亡くなって20年後、
夫と行くはずだったトリエステ、二人で読んだ詩人・サバの故郷への魂の旅から始まる。
永年にわたって、心を占めているの詩人の痕跡を求めて歩く
営んでいた古書店を訪れて、詩に読まれている道と街を歩く
そしてユリシーズの碧い海。
歩き続けて一日の最後にドアを押して入ったカッフェ。
「その店内に広がる光景に眼を瞠る。
………………………
…父がこれを見たら、どんなに喜ぶだろうと思った。」
表題作の他は、義父、しゅうとの義母、義弟夫婦たちの豊かではないが、
ミラノ郊外での暮らしを温かく描く。
夫が通勤に使っていた電車路線の思い出を綴る「電車道」、
傘を駅まで持っていったが、無視されて雨の中を走る夫など、イタリアの男たちが傘をささず雨の中を走る「雨のなかを走る男たち」、
そんな情景は、何かの映画でも見た記憶がありますね。
夫の実家と義母とのふれあい、義弟の若い妻を迎えることから「キッチンが変わった日」「セレネッラの咲く頃」、
鉄道員だった義父ルイージ氏への思いを込めた「ガードのむこうの側」など。
義理の弟アルドの家族との交流で、北イタリアの農村地帯の自然と、生活のなかで須賀自身が癒されていく。
夫を亡くしてから、実家と縁戚との交流の中で、著者らしい感性と知性が光る章が続く。
須賀の作品を読んでいて、いつも感じることですが、
最初に最後の1ページがあって、
そこに至る過程が丹念に知に満ちた文章で綴られていく。
そして、最後の数行が実に香気に満ちて、哀しく美しい。
表題作の「トリエステの坂道」に始まって/電車道/ヒヤシンスの記憶/雨の中を走る男たち/キッチンが変わった日/ガードの向こう側/セレネッラの咲く頃/息子の入隊/重い山仕事のあとみたいに/新しい家/ふるえる手――の12作品で構成されています。
殆どが「SPAZIO」という文化広報誌に、1990年代に連載されたものが中心です。
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