昨年11月22日、大王製紙井川 意高前会長が連結子会社から100億円以上を不正に借り入れ、カジノなどで豪遊したとして特別背任の容疑で逮捕されています。旧安宅産業本社に近い大阪倶楽部1924年(大正13年)完成
創業家の力が強く、創業家に服従する人だけが昇進→取締役会が機能しない→不正の隠蔽→不祥事拡大→倒産という図式は過去にいくつも例があるのですが、今回の大王製紙では倒産に至らなかったのが救いでした。今橋通と大阪倶楽部
1977年、伊藤忠に吸収合併された日本の総合商社10位(資本金117億円、最大売上高2兆6千億円)の安宅産業(1904年創業)は、この図式通りの経過をたどり実質的な倒産となったことが知られています。手前のビルは、高松伸氏設計の淀屋橋竹村ビル(1988完成)、その後ろが三井住友VISA大阪本社ビル(旧安宅産業本社跡地)
その11年前(1966年)、安宅産業たたき上げの猪崎社長は、住友商事との対等合併を進めますが、その寸前に創業者の長男、安宅英一社賓が反対したことで交渉は破談、猪崎氏は実権の無い会長に祭り上げられています。右が旧安宅産業本社の土地で、現在は三井住友VISA大阪本社ビル
持ち株比率たった2%の安宅英一社賓(社主ではない)は、人事権だけ握って社業に関心を持とうとせず、東洋陶磁器収集と、有名音楽家のパトロンという趣味に徹していたことが知られています。松本清張の小説「空の城」に詳しい。三井住友VISA大阪本社ビル
大王製紙の井川 意高氏(こちらは前会長)もギャンブルと有名テレビタレントのパトロンとして多忙だったという報道もありますので、この辺りは共通しているようです。旧安宅産業本社のすぐ西、横堀筋の北側
さて、猪崎社長の後を継いだ越田左多男社長は、人事権で安宅英一社賓と衝突して任期半ばで更迭されますが、本来社長にあるはずの人事権が、持ち株比率2%しかない社賓にあり、それを本来の姿に戻そうとしたら社長更迭とは、他の役員達は何をしていたのでしょうか。横堀筋の右が三井住友銀行本店(旧住友銀行本店)
歴代社長が重要人事を認めてもらう代わりに安宅社賓が高額な陶磁器を、会社の支払いで購入することを許すことが慣習となり、安宅コレクションの完成と会社の崩壊となったのです。
越田社長の後継者となった市川政夫社長は、売上高を急成長させることが人事権を社長に取り戻す道と考えて、レバノン系アメリカ人が主導するハイリスクのカナダの精油所プロジェクトにのめりこむのです。安宅倒産回避を指導した日銀の大阪支店
つづく
参考文献:空の城 松本清張、安宅壊滅 読売新聞社、ある総合商社の挫折 NHK