尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

教科「情報」の大学入学共通テストに反対する

2021年06月08日 23時21分14秒 |  〃 (教育行政)
 高校に「情報」という教科がある。そんな教科は知らないという人も多いだろう。21世紀になって始まった科目なのである。1998年告示の学習指導要領で初めて導入され、2003年から実施された。その時は2単位科目の「情報A」「情報B」「情報C」から1科目必修だった。(つまり普通科高校の場合、教科数は11になる。国語、地理歴史、公民、数学、理科、保健体育、芸術、外国語、家庭、情報。)2008年告示の学習指導要領では「社会と情報」「情報の科学」から1科目必修、2017年告示、2022年実施の学習指導要領で「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」から「情報Ⅰ」が必修とされた。
(情報Ⅰの教科書)
 何だか面倒くさいことを書いたが、「情報」という教科が始まって20年ぐらい経つが、今回初めて高校生全員が「情報Ⅰ」という同じ科目を勉強することになったのである。今までも「情報」を履修しないと高校を卒業出来なかったわけだが、「情報」の中でどの科目を勉強するかは決まってなかった。(自分で選択できるわけではなく、恐らく学校ごとに決められたどちらかの科目を勉強したはずである。)ところで、この「情報Ⅰ」必修化を機に、大学入学共通テストに「情報Ⅰ」のテストを新設して受験を義務づけるという議論が起こっている。
(大学入学共通テスト変更案)
 そもそも「情報Ⅰ」とは何を学ぶのだろうか。学習指導要領を見てみると、目標は面倒なことが書いてある。次の「内容」を見ると4点が書かれている。まず(1)情報社会の問題解決、(2)コミュニケーションと情報デザイン、(3)コンピュータとプログラミング、(4)情報通信ネットワークとデータの活用となっている。(3)をさらに詳しく見てみると、「コンピュータや外部装置の仕組みや特徴,コンピュータでの情報の内部表現と計算に関する限界について理解すること」「アルゴリズムを表現する手段,プログラミングによってコンピュータや情報通信ネットワークを活用する方法について理解し技能を身に付けること」などと書いてある。

 要するにコンピュータやプログラミングの勉強であるが、こうなると僕にはもう内容を解説できない。でもまあ、これからの大学生には必須なんだろう。それは判るけれども、この「情報Ⅰ」のテストには反対しないといけないと思う。何故かというと、これは英語の民間技能審査導入と同じことになるからだ。英語は大事→4技能が大切→「話す力」は当日のテストで測定することが困難→事前に民間の検定等の結果を活用すればいい、という発想でやってきて最後の最後になって、地方や貧困家庭の志望者が不利になる、公平性は保たれるのかという反対論が噴出した。

 コンピュータ、プログラミングは重要と言われると、それ自体は反対しにくい。しかし、英語は(あるいは記述式導入が議論された国語や数学は)、どんな小さな高校、各学年1クラスの夜間定時制高校だって必ず専任の教師がいる。だから学校で質問したり、受験対策をすることが出来る。実際問題としては、定時制課程や専門高校から大学入学共通テストを受ける人はほとんどいないだろう。(大学へ進学する人はたくさんいるが、ほとんどは推薦入試だろう。)また生徒だって、大学入試を受ける生徒なら予備校や塾に通うもんだろう。

 それはそうだけれど、それでも「情報科」には専任の教師がいない高校が非常に多いという事実がある。しかし、もちろん「情報」を教えないわけにはいかない。じゃあ、どうしているのか。それは他教科の教員が教えたり、臨時免許の教員が教えているのである。難関大学進学を目指す高校だったら、情報科の免許を持つ専任教師がいると思う。でも、そういう高校の方が少ないかもしれない。ちょっと古い資料だが、他教科の教員が教えている数を見ると、下のグラフのように「情報」が圧倒的に多いことが一目瞭然だ。

 さらに下のグラフを見ると、上の円グラフは上と同じだが、下の円グラフでどの教科の教師が免許外で教えているかが判る。それは数学、理科、商業が圧倒的に多い。また他教科や臨時免許の教員が多い県として、2つ目の棒グラフを見ると、長野県、群馬県、栃木県などとなっている。この現実を解消するのが先であって、このまま大学入学共通テストで「情報Ⅰ」を導入すれば、再び不公平ではないのかという声が上がるのは確実だ。
 
 何でこんなに他教科の教員が「情報」を教えているんだろうか。それは「後から作られた教科であること」と「履修時数が少ないこと」があるだろう。「情報」は3年間の中で2単位をやればいい。選択科目でもっとやってもいいけれど、要するに「芸術」と同じ時数である。芸術の先生が音楽、美術、書道などすべている学校はいない。「情報」は1学年全員が同じ授業を受けるから「芸術」より専任教員が必要だ。しかし、それでも二人以上いるはずがない。学校規模が小さければ、非常勤講師などで対応せざるを得ない。

 そもそも最初に「情報」が始まった時はどうしたんだろう。その時は大学で免許を取得した人は誰もいないわけだから、数学、理科、商業、工業などの教員を対象に講習が行われ合格者に免許が付与されたのである。商業、工業などにはそれ以前から、情報処理、プログラミングなどの科目が置かれていた。情報処理科などが設置された高校も多かった。数学や理科の教員は専門から関連性が強く、各学校の成績処理を数学や理科の教師が担当していたことも多い。だから、これらの教科の教員に頼ったわけである。しかし全員の教員が情報免許を取得したわけではない。

 免許取得者が少ない以上、情報免許を取ってしまうと「情報」を教えないといけなくなる。本当は数学や理科を教えたいという人は情報科を敬遠することになる。異動や退職で情報免許を持っている教師がいなくなったりすれば、他教科や臨時免許の教師が教えるしかなくなる。大学で免許を取る人もそんなに多くないのかもしれない。数学や理科専攻の学生がさらに情報免許を取るのは大変だ。一方、コンピュータ、プログラミングの知識が半端ないという学生は、民間で働く方がずっと有利。わざわざ10年期限の教員免許を取る人は少ないだろう。

 ということで、今の段階で「情報Ⅰ」のテストを始めるのは無理があると思う。そもそも推薦入学がこれほど増えている中で、大学入学共通テスト科目を増やすということがどうなんだろう。テストがそんなに重要なら、全員受けさせるべきだろう。あるいは逆に全員を推薦入学にするとか。なお、最後に書いておけば、情報教育を進めるのは大事だろう。「オンライン授業」、卒業しても「テレワーク」、これは今後も進むだろう。その態勢を整えるためにも、情報教育は大切だ。そのために「情報教育環境整備担当教員」などを設置して、民間人の臨時免許も大胆に増やし各校に専任教員を複数配置出来るよう配慮するべきだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする