尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

都立高校(普通科学年制)の男女別定員制をどう考えるか

2021年06月13日 22時55分54秒 |  〃 (東京・大阪の教育)
 東京の都立高校で実施されている「男女別定員」を廃止すべきだという書名運動が行われている。6月9日に記者会見が行われて報道された。この問題をどう考えるべきだろうか。僕はいつもなら大体都教委を批判する記事を書くことが多いが、実はこの問題に関しては都立高校(普通科学年制)の男女別定員制はやむを得ないのではないかと思う。以下でその事を説明するが、まず東京の高校入試制制度から始めることになる。
(記者会見のようす)
 新聞では「都立高校の男女別定員廃止を」と見出しを付けるが、実はもともと商業、工業などの専門学科の定員は性別に関係ない。普通科でも単位制高校は男女別ではない。だから「普通科高校単位制やコース制以外の学年制高校)」だけが男女別定員なのである。どこかの高校では「男女別の合格最低点の違い」が270点以上もあったと報道された。1000点満点での話だが、100点満点の5教科のテストと中学の調査書を換算して1000点満点にしているのである。

 過去には様々な方法があったが、現在は基本的には「テスト700点」+「調査書300点」になっている。つまり、500点のテストを700点に換算する(1.4倍する)のである。一方、調査書は、テストをしない教科の評定を2倍して合計する。つまり、「オール5」の生徒は、5教科×5+4教科×5×2=65になり、それを300点満点に換算する。その合計点を上から順位付けする。だから、実際のテスト点で200点も離れているわけではない。テストのケアレスミスや実技教科の成績が換算の結果、大きな違いになるのである。
(書名サイト)
 東京の高校入試には全国のどことも違う特殊な要因がある。私立高校が多いのである。だから、都立高校は自分の都合だけで定員を決められない。毎年東京都と「一般財団法人東京私立中学高等学校協会」との間で、「公私連絡協議会」を開いている。今年度に関しては「令和3年度高等学校就学計画について」という文書が発表されている。それによると、都内公立中卒業予定者7万3062人、高校進学率を95%、国立・他県私立・高専等進学者を3600人とする。残りの6万5900人の内、2万6700人を私立が、3万9200人が都立が受け入れるとしている。

 何でそこまでするのか。高等教育である大学なら浪人するのは珍しくないし、地方から来て下宿して大学に通ったりする。しかし、高校の場合(離島などの特別な場合を除き)、大部分の中学生は自宅から通えるどこかの高校に進学したいと考えている。浪人して過年度で高校へ進学する人は非常に少ないだろう。だから、「どこの高校にも入れない」という生徒を出さないようにする必要がある。少子化で都立高校には空き教室があるだろうから、都立でもっと受け入れることも可能だろう。だがその場合、私立高校の経営に大きな影響を与えるので、公私間で細かく受け入れ生徒数を決めるわけである。

 私立高校は21世紀になって、中高一貫化共学化して名前も変えた学校が多い。(例えば、日本橋女学館は2018年度より開智日本橋学園という共学の中高一貫校になった。)それでも男子校、女子校は数多い。進学実績が高い難関校として知られる「御三家」(開成、麻布、武蔵)、「女子御三家」(桜蔭学園・女子学院・雙葉学園)はどれも別学校である。名前に「女」が入っている神田女学園、江戸川女子、滝野川女子学園、藤村女子、潤徳女子、蒲田女子などは当然女子校。私立高校の男女別定員は出ていないが、全体として女子校の方が多いのは間違いない。

 都立高校には「男女別定員制の緩和」という不思議な仕組みがある。「男女別の募集人員の各9割に相当する人員までを男女別の総合成績の順により決定した後、募集人員の1割に相当する人員を、男女合同の総合成績の順により決定」するというのである。男女別定員といいながら、合格線上の生徒は性別に関係なく決めるというのである。区部32校、多摩地区10校が採用している。都立高だって、出来れば成績の良い生徒を合格させたいのである。「男女別定員」とは大乗的見地に立って私学のために枠を空けているのである。
(男女別合格点には差がある)
 これはつまり「女子の成績の方が良い」ということだろう。戦後直後はまだ女子の高校進学率が高くなかった。その時代には「女子枠」を確保する意味もあったらしいが、70年頃にはもう男女とも概ね高校までは行く時代になった。現在は「絶対評価」や「観点別評価」を行っているから、中学の評定も提出物をちゃんと出したりする女子が良くなりがち。発達段階的に第二次性徴は女子の方が早いのは常識で、中学段階までは国語や英語などの成績も良いことが多いと思う。だから、男女別で合格判定を行うと、割を食うのは女子のことが多いと思われる。
 
 そこだけを見れば「女性差別」にも見えるが、一部の医学部入試問題と違って秘かに減点しているわけではない。合格判定方式はすべてインターネットで公開されている。子どもが生まれる時には性別を選べないから、「男子の親」と「女子の親」は同数である。女子の親からすれば「男女別定員」で割を食うのは納得できないかもしれないが、男子の親からすれば「必ず多数の男子生徒が都立高校に落ちる」のはもっと納得できないだろう。中学段階では「出来るだけ行き場のない生徒を出さない」が優先してもやむを得ないと思う。

 ただ、僕はこのままの制度で何の問題もないとは思っていない。まずは「男女別定員」とはいいながら、日比谷、西、立川等の進学指導重点校は大体「男子が10人多い」定員となっている。これは「合理的範囲」を越えるのではないか。多くても「各クラス1名の差」ぐらいだと思うが、特に進学指導重点校で女子合格者が少ないと大学進学でも差が出てしまうわけで、「男女別定員」は許されないと考える余地はある。

 また「推薦」でも男女別定員がある。推薦合格者は「定員の20%以内」なので、男女別定員数が自動的に波及するんだろう。しかし、これは本来おかしいと思う。もっとも普通科高校に推薦入学制度があること自体がおかしいが。「推薦入学」は「どうしてもその高校で学びたい」という強い意欲を持つ生徒を取りたいわけである。そういうタテマエからすれば、定員に性別が入ってくるのは間違っている。推薦選抜では性別に関係ないように変更する必要がある。

 ところで、実際には都立を落ちた女子は、もともと冒険と言われていて「私立の押さえ」を用意していただろう。「都立を落ちたら入ります」と内約を得ているわけである。そうやって都立、私立で相互依存しながら、高校受験が成立している。性別ではなく、すべてを成績で判断すべきという考えも判らないではないが、今度はそれは「成績第一主義」になる。成績が悪くて都立も私立も落ちてしまう中学生(特に男子)を「差別」してしまわないか。両者の兼ね合いの問題だと思っている。
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