万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国政府は司法解決の流れを推進すべき

2024年02月02日 11時50分32秒 | 国際政治
 昨年末における南アフリカ政府によるICJへの訴えは、平和的な紛争解決の手段としての国際司法機関の役割に改めて目を向ける大きな切っ掛けとなりました。この流れを変えず、国際社会にあって平和的紛争解決の手段を整えることこそ、日本国の人類に対する貢献といえるかもしれません。

 とは申しましても、昨年の2023年3月16日には、当事国であるウクライナの要請を受けて、ICJは、暫定措置命令としてロシアに対してウクライナ領域内における軍事行動の即時停止等を命じています。しかしながら、そもそもウクライナは内戦状態にありましたし、ロシアが軍事介入の根拠として主張したロシア系住民に対する弾圧行為も、アゾフ連隊が実在した以上、完全には否定できない状況にありました。また、ゼレンスキー大統領がユダヤ系であったため、国際機関におけるユダヤロビーの影響力から、ICJが下したロシアに対する厳しい措置も、司法機関としての政治的中立性が疑われたのです。もっとも、本訴ではありませんので、証拠に基づく事実確認の作業や審理については後日の法廷に委ね、一先ずは軍事行動=平和の破壊行為との立場からその即時停止を求めたとも考えられましょう(この点については、今般のイスラエルに対するジェノサイド防止措置等の命令の方が妥協的・・・)。

 何れにしましても、ウクライナ紛争に際してのICJの判決が国際社会に与えたインパクトは比較的弱かったのですが、今般の南アフリカ政府の要請を受けての暫定措置命令は、国際法秩序の維持における国家の権利と責任を明確にした点において極めて重要です。国際社会における紛争というものが、たとえそれが二国間、あるいは、多国間の対立に起因するものであっても、国際社会のメンバーとなる他の非当事国にも、同秩序を擁護する責任、並びに、訴訟を起こす権利を認めたからです。言い換えますと、国際法秩序の維持は、国際社会全体の問題であり、これを脅かす違法行為がある場合には、紛争当事国でなくとも関係国として責任と権利が生じるのです。確かに、国際法秩序が崩壊すれば、全ての国が無法地帯に放り込まれてしまいます。国連安保理を中心機関とする集団的安全保障システムとは別系統の紛争解決の仕組みとして、国際司法制度が表舞台に躍り出たこととなりましょう。

 実のところ、国際法秩序の維持を国際社会全体の問題として捉え、全てのメンバーが責務を負うとする立場は、それが政治的な方便であれ、日本国が、他国に先駆けて率先して実践してきたことでもありました。日本国による巨額のウクライナ支援は、この論理に基づいています。ロシアによるウクライナに対する特別軍事作戦は、国際法に違反する侵略行為であり、この行為を放置すると国際法秩序が崩壊するので、日本国は、ウクライナを支援する、というのが、日本国政府の基本的なスタンスであるからです。

 もっとも、ICJによる暫定措置命令は、いわば‘仮処分’に過ぎませんので、本来であれば、本訴によって判決が確定し、ウクライナ側とロシア側のどちらに非があるのかが判明してから、政策方針を決定すべきでした。否、何よりも、紛争の非当事国であるならば、そして、国際法秩序の問題として対応するならば、第一にすべきことは、南アフリカと同様に、ICJに対してロシアの違法性を訴因として提訴することであったはずなのです。

 ところが、日本国政府は、ICJによる判断を待つどころか、自ら事実を調査しようともせず、巨額の財政支援をウクライナに与えることを決定してしまうのです。こうした日本国政府のウクライナへの肩入れは、同盟国であり、ウクライナのゼレンスキー政権の後ろ盾でもあるアメリカからの要請、あるいは、圧力があったことは容易に推測されるのですが、ウクライナ支援に日本国民の多くが反発するのも、作業の順が本来あるべきものと違っているからなのでしょう。結局、停戦に寄与するどころか、火に油を注ぐかのようにウクライナに軍資金を貢ぐ結果となったのですから。ICJへの即時停戦命令の要請、あるいは、訴訟であれば、日本国の財政負担は殆どゼロに近かったはずですし、ICJによるロシアを侵略国とする判決が確定した後であれば、日本国一国で、1兆円を遥かに超える巨額の資金を負担しなくても済んだはずなのです。

 日本国政府は、国際法秩序の維持を国際社会全体の問題として捉え、かつ、法の支配の確立を目指すのであれば、ウクライナ紛争での対応の失敗を教訓として、今後は、ICJ等の国際司法機関への訴えを最初のステップとすべきように思えます。戦争の時代に幕を下ろすために日本国政府が今日なし得るのは、戦争から平和へと時代の流れが変わったことを自らの行動で示すことではないかと思うのです。

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